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アレクの勘違い

ちょっと短めかな

 第一回目のカドス子爵の町への物資の搬入と、それに加えてカドス子爵との話し合いは、何の問題もなく順調に済ますことが出来た。


 僕としては物資の搬入に関しては心配してはいなかった。 ラミアによる夜間の行動だから、まず降格元貴族たちにその行動が発見されることはないと思っていたし、もし発見されたとしても、夜間、森の中という条件で、人間の兵がラミアに敵うはずがない。 もし降格元貴族たちの騎士や兵が僕らに近付いて来たとしても、互いの発見は空からモエギシュウメが警戒していて、ディフィーもいる僕らの方が発見が遅れる可能性は限りなく低いから、それこそ人間の兵たちは、レンスやセカンなんかに音もなく次々とその人数を減らされることになっただろう。 そうエーレアたちも、そういった夜間戦闘の経験者でもあるのだ。 連れて来ているアーブとサーラの世代が危険に晒されることなんて考えられないことだ。


 そこは心配していなかったけど、カドス子爵との話し合いがどんな雰囲気になるかは判らなかった。

 カドス子爵からヴェスター辺境伯家に助けを求めてきたのだから、ぞんざいな扱いは受けないだろうとは思っていたが、カドス子爵自身がどう考えていたかは別なのだろうが、つい最近まではヴェスター家、それから軍務卿とは敵対する派閥に属していて、その上の意向で動いていた家だ。 助けを求められての行為だとしても、僕たちに警戒心が無いと言っては嘘になる。

 確率はもうゼロに近いとは思うが、ヴェスター家の重要人物を誘き寄せる罠である可能性は残されている。 その対象になったのが僕らであるのは、単なる偶然だった。


 結論としては、確率通り、カドス子爵との話し合いは、とても友好的に終わり、僕はこの騒動は当初考えたよりも、ずっと簡単に済んでしまうのではないかと、感じてしまったくらいだ。

 現実的には、ヴェスター家、トルセン家、ライマー家が受ける影響は予想よりずっと少なくなったが、代わりにカドス家が苦境に立たされた状態は、まだまだ続いている。


 「ま、エーレアたちも、あれから少しは心を入れ替えたみたいで、アーブとサーラの世代に醜態は晒さなくて済んだみたいね」


 「エレオとエレドは、ブマーと共にまだ直属騎士団と兵を率いてもらうから、こっちにいてもらうけど、エーレア・エーレファ・エーレルの3人は戻ってもらっても大丈夫かな」


 「ねぇ、セカン、アンとハキが大変そうだから、その仕事を3人には手伝わせたら良いんじゃない」


 「いや、それは良くないよ。 3人は戻してあげようよ」


 セカンとディフィーの軽い話し合いを聞いていた僕は、ちょっと横槍を入れた。 だって、兵を率いるのは本来はクラッドさんなのだが、クラッドさんが来なくて、ブマーが騎士だけで無く兵も一緒に率いている形になっているのは、事務仕事が忙し過ぎて、領主の町を離れられないからだ。 アルフさんとクラッドさんが過労で倒れないうちに、せめて3人は戻してあげようよ。


 「まあ、そうね。 このままだと、クラッドさん死んじゃうかも知れない」


 いやセカン、それ洒落にならない。


 「仕方ないわね。 アンとハキには、アーブとサーラの世代を『こき使って』と言っておくことにするわ。 ま、良い経験になると思うわ。 戦いというと、戦場での働きばかりに目が行くけど、それより前の準備期間の大切さ、大変さを学ぶ良い機会になるわ」


 作戦を考えている2人に、僕が口を挟めるのは、2人が今回の件に関して危機感を持っていなくて、余裕があるからだ。

 2人が危機感を持って真剣に作戦について話している時には、そもそも会話が一言二言の単語が飛び交うだけの、超高速会話になるので、誰も2人の間に入り込むことが出来ない。 ミーリア様でさえ、そんな時は、2人が一応の結論を出して超高速会話が途切れるまで待つのだ。


 「夜間戦闘の可能性があったから、経験者のエーレアたちを呼んで使ったけど、ちゃんと出来て良かったわ。

  一応体型は確認したけど、エレオとエレド以外は信用できないから。 ディフィーも、そう思っていたでしょ」


 「そりゃそうよ、エーレルなんて酷かった」


 「エーレファだってそうよ。 そもそもリーダーのエーレアが駄目で、『体力が自慢の私たち姉妹が、なんというざまだ』って、サーブが凄い勢いで怒っていたのだから、もう本当にしょうがない」


 どうやら2人の話は、最初の雑談に戻ったみたいだ。 ま、事態は今切迫した状況にないし、雑談が出来るのは良いことだ。 それに少し加わるか。


 「それって、源泉の露天風呂に、子どもたちも連れてエーレアたちと一緒に行った時の話かな」


 「そうなのよ、その3人は酷かったのよ。 源泉の露天風呂までの道をなかなか登れなくて、シルヴィさんと最後尾でヒイヒイ言っていたんだから。

  アニーさんは、あまりに遅いので子どもたちの世話のために先に空を飛んで行ってしまったのだけど、ダフネさん、エレンさんよりも遅いのだから呆れちゃたわ」


 「アレクも来てたら、あの3人の体型を見たらびっくりしたはず。 単純に事務仕事ばかりしていて体力が落ちただけじゃなくて、太ってしまって、見るも無惨な体付きになっていた」


 ま、僕が一緒に行っても、もうシルヴィさん、アニーさん、ダフネさん、エレンさんもラミアの習慣に慣れて、混浴の方の露天風呂に入っているから気にしないだろうけど、僕はエーレアたちは構わないが、シルヴィさんたちだと、ちょっと遠慮したい気持ちになる。 これは僕だけじゃなくて、友たちも同じだ。 なんでかな、ラミアの里で暮らしていた友たちの妻は、誰も気にならないのだけど。


 「あれは、事務仕事に追われての運動不足だけが原因ではないわね。 どう考えてもアニーの作るケーキなんかのせいもあると思うわ。

  美味しいけど、あの量は問題よ。 あんなお菓子を毎日のように出されたら、太るのも仕方ない気が、ちょっとしちゃったもの」


 2人の話によると、アニーさんは2人前の量を一人前と勘違いしていて、いつも2人前のお菓子を一人分として用意していたらしい。 そしてそのケーキなんかは美味しくて、残すのが不可能だとか。 いや、不可能なのはラミアたちであって、人間は一度にはそんなに食べないらしいけど。

 あれっ、何だかおかしな気がする。 決してシャレではない。


 「どうしてケーキを食べると太るの?」


 「アレク、何を言っているの? 運動もろくにしていないのに、あれだけ甘いものを毎日のように、あの量を食べていたら誰でも太るわよ」


 「いやいや、そうじゃない。

  甘い物をたくさん食べて、それに見合った運動をしなければ太るというのは理解しているよ。 でも、それは人間やハーピーなんかのことだよね。 ラミアは関係ないでしょ」


 「えっ、どういうこと。 ラミアだって太るに決まっているじゃない」


 ディフィーに思いっきり不審な顔をされてしまった。 何言ってんの、こいつ、という様な顔だ。


 「いや、だって、ケーキを食べてもラミアにとってはエネルギーにならないでしょ」


 「あ、そういうことか、理解できた。

  ラミアは、精や、卵や、種なんかはエネルギーになるけど、他はほとんどエネルギーにならないとすぐに言うから、アレクは勘違いしちゃっているのよ。

  ラミアだって、普通の食物は栄養になるのよ。 ただ、体を動かすためのエネルギーなどになる効率が、普通の食べ物とは違い過ぎるから、そういう表現になってしまっているだけ。

  ラミアだって、他の種族と同じように、食物を消化吸収はしているのよ。 酒を飲んで酔って醜態を晒すラミアもたくさんいるでしょ。 吸収してなかったら、酔うこともないはずでしょ。 それに尾籠な話だけど、消化吸収しないなら、排泄物もあんな風にならないでしょ。 ラミアの排泄物が、人間やハーピーとはまったく違うなんて聞いたことないでしょ」


 確かに言われてみれば、その通りだ。

 ラミアは人間の男の精や、卵、それに火を通していない種子などはエネルギーになると言うけど、普通の食べ物が全く栄養にならないとは言ってはいなかった。

 エネルギーを得られる効率が大きく違っていたり、火を使えない環境にあったせいで、普通の食べ物が忘れられていたというか、軽視されてしまっていたのだろう。

 考えてみれば、大火の前までは普通に人間と一緒に暮らしていたのだから、きっと今の色々と食べるようになったラミアと同じように、何でも食べていたのだろう。


 「何か、まだ誤解されている気がする。

  アレク、そもそもラミアは木ノ実だとか、豆だとかを主食にしていたけど、それしか食べてなかった訳じゃない。 蜂蜜なんかは、とても好まれていたし、それ以外にも蜜の多い花なんかも季節に合わせて食べていた。

  木の実も種子の部分が主だけど、甘い蜜を持ったのは周りもそのまま全部食べてたし、卵はご馳走だった。

  ただ火を使わなかったから、肉類は食べれなかったし、草の類の物も無理だった。 それだから、エネルギー効率の問題もあるけど、他の物も食べるのが目立たなかっただけだと思う」


 僕はラミアの食生活、違うな食性と言う方が正しい気がするのだけど、今までとても誤解していた。

 でもさ、色々な食べ物について、「エネルギーにならないけど」って言われ続けてきたんだよなぁ。 ディフィーには良く言われた気がする、あ、でも一番多く言われたのはラーリア様かもしれない。

 普通の食べ物はラミアにはエネルギーにならない、って勘違いしちゃっても仕方がなかった気がする。


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