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名付けは難しいけど

本編の方だと少し時間を遡った、ワーリアたちが子どもを産んだ頃の話です。

 ラミアは個々の名前を持つという習慣が絶えてしまっていて、僕たちがラミアの里で暮らすようになってから、個々がそれぞれ別々の名前を持つようになった。

 それまで個々の名がない状態から、急に個々が名を持つことになった混乱を軽減する為、ナーリア世代を含めた上位ラミアは名前に法則を作り、元のグループ名から名付けられた。

 そういった訳で、ラミアが自由に名前を付けるようになったのは、前には若い子世代、今ではアーブとサーラの世代と言われる以降の世代からとなる。 その世代と次のメリー世代は自分で自分の名前を考えたのだけど、アーブとサーラの例からもわかると思うが、僕らの名前を参考としたような名前が多いのは、他の例をほとんど知らなかったのだから仕方がないことだ。


 で、その次の世代が、僕たちの子どもたちとなる。

 その母親が人間とハーピーだと少しは別なのだけど、ラミアが母親の子たちの名付けはほぼ確実に父親である僕たちに任されることになる。


 「ラミアは個々の名を持たないという時を何世代か過ごしてしまっているからな。 私たちは個々の名という経験がない時間を過ごし過ぎていて、名付けの名なんて頭に浮かぶ訳が無い。

  父親である男たちに、それを頼むのは仕方ないことだ。 それに父親に名前を付けられたという方が、ラミアにとっては嬉しいしな」


 ラーリア様からしてそんな事を言うのだから、僕たちはみんな生まれた子どもたちの名前を考えるのに苦労することになる。 特にラミアは女性型しか生まれない種族なので、女の子の名前をたくさん考えるのはなかなか大変なのだ。



 「クラウス、もうすぐワーリアたちが出産になるのだけど、もう生まれた子どもたちの名前は考えているか?

  僕ももう2度経験しているけど、一度に何人もの名前を考えるのは結構大変だからな。 早めに色々と考えておいた方が良い。

  男親が出来ることなんて、最初のうちはそれくらいしかないし。 それにラミアはそれをとても喜んでくれるからな」


 「アレク様、お気遣いありがとうございます。

  でも、僕の場合はその辺は大丈夫なんですよ。 ウチは代々、祖父に当たる人が、つまり今回の場合父なんですけど、孫の名前は考えることになっているんです。 だから僕が頭を悩ませる必要はないんです。

  ラミアは生まれる子の父親が名前を付けるのを喜ぶという話は知っていたので、僕じゃなくて父が名前を考えるという事をどう思うか心配だったのですけど、ワーリアたちは僕の家の慣例を尊重してくれて、父が名前を考えるので構わないと。 ストーム家の慣例に従って名前を付けるのも、血の繋がりが感じられて嬉しいと言ってくれて」


 「そうなのか、ストーム師匠が名前を考えるのか。

  それは楽になったような気もするが、残念な気もするのかな?」


 「いえ、ウチはそれが普通なので、こう言ってはなんですが、頭を悩ますことが一つ親父に任せられて楽になったという気持ちだけです。

  ただ、親父も一度に5人の名前を考えるのは大変らしくて、エーデルの親父さんにも名前を考える相談をしているようで、そっちに迷惑を掛けているようです」


 そうか、おじさんもワーリアたちの子どもの名前を考えているのか。 そうか、その手もあったんだな。 僕もおじさんやおばさんに、もっと相談して考えてもらえば良かった。 次の時には。


 そろそろワーリアたちの出産が始まるという時になると、ストーム師匠だけでなく、おじさんとおばさんの夫婦も僕らの町にやって来た。


 「アレクの妻たちであるナーリアたちはもちろんだけど、エーデルと同じクラウスさんの妻であるワーリアたちも、私たち夫婦にとっては娘みたいなものさ。

  その娘たちが初めて子どもを産むというなら、亭主がストーム様と一緒にその子どもたちの名付け親になるということはともかく、やって来るに決まっているだろう」


 前におばさんたちが夫婦でこの町にやって来たのは、ナーリアたちがそれぞれに二人目を産んだ時だった。 ワーリアたちも、その時と同じ扱いなんだな、と僕はなんとなく嬉しく感じてしまった。 ワーリアたちは初めての出産で、それぞれがそれで一杯一杯という感じだったのだけど、おばさん夫婦が来てくれたことが嬉しかったみたいだ。 ナーリアたちも喜んでいた。

 僕は、この前の時はティッタやそれぞれの一人目の時とは違って、おじさんとおばさんも居たし、ストラトさんやミナお母さんも居たのだから、一緒に名前を考えてもらえば良かったのだと、あらためて思っていた。 失敗した、一人で四苦八苦して考えることはなかったのに。


 ワーリアたちの出産は、何の心配も苦労も無く、予定通りに子どもたちは生まれた。

 この町には、セカン、アン、そしてミーレナさんと、ラミアの出産に今まで主力で関わってきた人が3人も居るのだ。 問題が出る訳が無い。

 この町以外のラミアたちは、出産となるとラミアの里に戻っている。 この町以外だと、ラミアの町に戻らないとその3人の世話になるのが難しいからだ。 その3人以外にもラミアの里にいることの多い、ハキとギュートの妻のミーレベ様とミーレト様もラミアのお産の手伝いをすることが多い。 ミーレナさんと同期なので、経験が多くなっているから。


 ちょっと脱線してしまったが、ワーリアたちが次々と子どもを産むと、ストーム師匠が嬉しそうに生まれた子の名前を発表していった。

 どうやら5人のうち3人の名前はストーム師匠が考えて、2人はおじさんが考えた名前らしいのだけど、その発表はおじさんが遠慮したのか、ストーム師匠が一人で行った。 ま、ストーム家の伝統に従っての命名だから。


 「私は今回の命名で、一番に思いついた名前があったのだけど、それは今回は提案しなかったんだ」


 子どもたちの名前を発表していた時、僕に近づいて来たおじさんは、そんな事を少し小さな声で言ってきた。

 僕がちょっとどうしてだろうという顔をしたら、おじさんは言葉を続けた。


 「一番に思いついた名前は、ストーム様の亡くなられている奥様のお名前だ。

  亡くなられた奥様の名を誰かに継がせたらと思ったのだが、すぐにちょっと考えを変えた。 その名前はエーデルが娘を産んだ時に取っておこう、と。

  アレクもそう思うだろ」


 あ、成る程、と僕は即座に思った。

 ストーム師匠の奥さん、つまりクラウスの母は、クラウスがまだ子どもの頃に亡くなっている。 それもあるのだろう、クラウスはストーム師匠の唯一の子だ。

 ストーム師匠も奥さんを愛していたのだろう、亡くされてからカーライルさんなんかは次の妻を娶れと勧めたらしいが、新たに妻を迎えることは無かった。


 「次の妻を作れと言った次の瞬間には、面倒な仕事を押し付けて来たんだ。

  忙しくて、全くそれどころじゃ無かったんだから、アイツは言葉だけだ」


 なんてストーム師匠は言うけど、きっとその気が無かったのだろう。


 そんな奥さんの名前は、そうだなエーデルが娘を産んだ時に名付けるのが確かに相応しい気がする。

 おじさんも色々と考えて名付けをしているのだな。 やっぱり名前を決めるのは難しいと改めて思ってしまった。


 僕はそこで一つ気が付いてしまった。

 ストーム師匠の奥さんの名前を継ぐ子がいるなら、おばさんの名前を継ぐ子もいないといけないな、と。

 おじさんの名前は、僕の長男が継いでいて、次にアンが男の子を産んだらアンの父の名前と決まっている。 それなら女の子だったら、今度はおばさんの名前を継がせようか。 アンの2番目は女の子でアンの母親の名前を継いでいるからね。


 「アレク、何か変な事を考えているんじゃないかい?」


 僕とおじさんは小声で話していた筈なのに、おばさんはどうやら聞いていたようだ。


 「アレク、あんたの子には私の名前じゃなく、あんたの母親、姉さんの名をつけてやりな。

  ウォルフがおじさんの名を継いだんだ。 もうそれで充分以上さ。 今度は死んだ本当の両親の名を優先してつけてやりな。

  それに女の子の方がずっとたくさん生まれるんだ、これからも。 お前の方に私の名前を優先させてやる余裕はないよ」


 僕とおじさんは小声で話していたのに、おばさんはそんなこと関係なしに、その場にいた人みんなに聞こえる音量で、そんな事を言った。

 ワーリルが、そのおばさんの言葉を聞いて一つのことに気がついた。


 「お母さん、もしかしてお母さんの名前を継ぐのは、エーデルが産んだ子でなくても良いのですか?」


 「もちろんさ。

  あんたたちワーリアの5人も、ナーリアの5人と同じ様に、私たちにとってはエーデルと同じ娘みたいなものだ。 私の名前なんて、誰が産んだ子が継いでくれても構わないと言うか、実の娘であるエーデルの子以外が継いでくれたら、より一層絆が深まった気がして嬉しいかもしれないね」


 「お母さん、何よ、それ」


 エーデルがちょっと文句を言ったけど、そんなに本気で言った訳じゃない。 なんとなく自分がないがしらにされた気分だったのだろう。 その膨れっ面を見て、おじさんが笑っている。


 「それじゃあ、あれね。

  次の子どもは、今度はエーデルも一緒に産むことが決まっているから、エーデルが女の子を産んだら諦めるけど、男の子だったら別の誰かの子が継ぐことにすれば良いわ。

  次の時の子の名前が一人、もう決まったわ」


 ワーリアが勝手にそんな事を言ったが、それにストーム師匠が乗っかった。


 「俺はそれで全然構わないが、エーデルに、『ストーム家の後継の男の子を頼むぞ』とは言いにくくなったな」


 もちろん冗談だ。


 クラウス一家の方は、そんな調子で、子どもが生まれたばかりでもあるし、和気あいあいな感じだったのだけど、こっちは何だか真剣な話し合いになっている。


 「そういう名前の付け方というのもあったのね、誰かの名を継ぐという。

  ウォルフはおじさんと同じ名前だけど、男の子だからちょっと特別なのかなと思っていて、誰かの名前を継いでいるというのが解ってなかった」


 「うん、ラミアは個々の名前自体がなかったから、先祖にあたる人の名前を継ぐという考え方なんて、初めから考えもつかない。 でも、それって凄いと思う」


 「おばさんの言葉だと、私たちの子がアレクの亡くなった本当のお母さんの名前を継いでも良いみたい」


 「アレクのお母さんだけじゃない、少なくともおばさんに聞けば、アレクのお婆さんの名前も分かる。 そうすれば継げる名前が2人に増える」


 「そうすると7分の2か」


 「アンは男の子を産めるのだから、アレクの父親の名前で我慢するべきだと思う」


 「しまったな。 2人目は男だったのだから、アレクの父親の名前にすれば良かった」


 「モエギシュウメはハーピーの伝統の方に乗らないとダメでしょ。 それにレイストという名前はモエじいのお父さんの名前、つまりレイストのお爺さんの名前を継いでいるのでしょ」


 「5分の2ね。

  次の時に、誰の子にその名前を継がせるかは、しっかりと決めておかないとね」


 ナーリアたちの、あまりに真剣な口調の話し合いに僕は口を挟めなかったのだけど、お祝いの席ということで来ていたモエじいことストラトさんも、少し複雑な顔をして娘も加わっている話し合いを聞いているだけのようだ。

 イクス様が困っている。


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