表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/71

搦め手

最近の私はラーリア様とイクス様と3人で話をすることが多い。

以前から私はイクス様の立場を知っていたのだが、それは一応次期ラーリアの筆頭、ミーリアのリーダーという立場だったからだ。

私自身はイクス様がラーリアで活躍していた時期のことは知らない。

私が今の若い子たちと同じ歳の頃にイクス様はラーリアとして活躍していたはずなのだが、私にはおぼろげに1人だけ若いラーリア様が居たとしか覚えていない。

その頃は遥か雲の上の存在だったから、そんなものだし、そもそも接点が全くない。

それにしてもイクス様はラーリア様と歳が3歳しか違わないという。

ということは、今の私よりずっと若く、ナーリアたちとあまり変わらない年齢でラーリアだった事になる。

そんなに早くにラーリアに抜擢されるだけの実力を持っていた訳で、自分がこの今の立場になってみて、改めて畏怖の念しか覚えない。

ラーリア様がいつも気さくにイクス様と話しているが、私も親しく2人でいる所に接しさせていただいていると、ラーリア様がどれほどイクス様を尊敬しているかが透けて見えてくる。

私は今までも立場上ラーリア様と接する機会は多く、接するほど尊敬の念を深めていたので、ラーリア様がそれ程までの尊敬の念を抱いているのは、最初は過去の立場の違いから来ているのかと思っていた。

しかし、最近はその気持ちがとても理解できる様になり、目標としている先の山の向こうに、もっと巨大な山を見た思いになっている。


私はとんでもなく不器用で、自分で言うのも嫌なのだが、私以上に不器用なラミアを見たことがない。

その不器用さは何も手先のことだけに限らない。

物事の考え方も、正面からしっかりと進めるという考え方しか出来ない。

努力して、一歩一歩着実に進めていくというやり方しか私には出来ない。

それが私の強みでもあり、弱点であることは認識している。

着実さを求めるから、緩みや甘え、遊びを許すことが出来ないから、下の者は私の前に来ると緊張して固くなってしまう。

それでは、実力も発揮出来ない訳で、指揮する方としては困るのだが、今のところ如何ともし難いのが現状だ。


組織を指揮する立場の者として、人材をしっかり把握したいと誰しも思うのだが、私はその時にテストをして、その結果を見ることしか出来ない。

しかしイクス様とラーリア様は、それだけでは人材の把握は出来ない、表面に出ない部分まで知る努力をしなければ駄目だと言う。

私はそんなものかも知れない、とは思っていたが、そこに実感はなかった。

私がそれを実感したのは、ナーリアたちがアレクを捕まえて来た時だ。


ナーリアの世代のグループ5つを、それぞれに上のグループが探索に連れて行ったり、狩に連れて行ったり、荒天時の警戒に連れて行ったり、という風にテストしていた。

そのそれぞれのテストに、イクス様は秘密裏に護衛兼監視役兼採点役として付いて行かれた。

まあ、この採点はナーリアの姉妹たちに限らず、連れて行った上位グループに対してのモノもあるのだが。

イクス様の隠密能力はズバ抜けていて、誰にも気づかれることなく、この仕事をこなしていらっしゃった。

でも、だからといって大した成果もなかった。

上位グループの方の問題点が出てきたのは成果だったが、ナーリアの姉妹の評価は上位グループが報告した評価とイクス様の報告に違いが出ることはなかった。

一番最後に問題児グループだと思っていたナーリアたちの番になり、今の人間たちが森に入り込むという突発事態が起こった。

アーレアたちの観察で、然程危険はないだろうと、ナーリアたちのテストに使うことにした。

ただ一つ違ったのは、人間の捕獲となるので、ラーリアとミーリアの最上位2隊で出ていったことくらいだろうか。

人間の人数はあらかじめ分かっていたので、最初から1人足りないことが分かっていたので、探し始めたところ、ナーリアたちが捕まえて来たのには驚いた。

ラーリア様は怪しいと思われていたみたいだが、人間を牢に入れている間にイクス様に聞いた報告には、座っていた場所から後ろに仰け反るほど驚いた。

「私も焦ったわよ。 まさかあの子達と鉢合わせするとは思ってなかったわ。

 そしたらいきなり話始めて、結局双方で手を引いて、噛みつきもせずに連れて来ちゃうのだもの。

 全くナーリアたちのすることも想定外だけど、あの人間も想定外だわ。」

イクス様はアレクがもし戦意を見せたら、その瞬間に仕方がないから殺すつもりだったらしい。

アレクの後ろすぐそばに潜んでいたから、さすがにナーリアたちにバレるかと思ったけど、アレクに意識が集中していたみたいでバレなかったそうだ。


ラーリア様はその話を聞いて面白がり、アレクを自分の手元に置こうかと迷ったみたいだが、アレクが恐怖からか勃たなかったので、ナーリアたちに渡した。

この時点では、まだ多分に面白がっていたのだと思う。

今から思えば、ちょっと残念な気もする。

あの時、アレクがラーリア様に触られて勃っていれば、今頃は私もアレクを可愛がっていただろうと思う、ボブも可愛いのだけど。

それからは、分かっている私たちから見ていると、ナーリアたちの仕出かしてくれること、くれること。

私はアレクも含め本当に困った問題児たちだと思っていたのだが、イクス様とラーリア様の評価は違っていたみたいだ。

2人はラミアの里に変革をもたらす存在の芽を確実に意識していたのだと思う。


私がナーリアたちに関わりを持ち始めたのは、立場を意識しての偶然なのだが、関係が少しずつでも深まってきたら、私にも彼女たちの特異さ、アレクの特異さが徐々に分かってきた。

人間であるアレクをどう評価すれば良いのか私には分からないが、近くで接してみて、ナーリアのメンバーたちそれぞれがとにかく図抜けて優秀なのが分かってきた。

それと共に、ナーリアたちの若い子たちの間での人気の高さには、これは私たち3人も全く予想していたことではないので、驚いたし、貴重なものだと思った。


そしてゴブの騒ぎが起こった。

この騒ぎの冒頭で、私には、いや誰も分かっていなかったであろうナーリアの才能が分かったのは、今から思えばとても良かった。

その後のナーリアたちの活躍は皆の知るところとなったが、私たち3人と、後数名で密かに決まっていたことがあった。

戦いの序盤の主役を務めたナーリアたちだが、どんなことがあろうと後の世代のためにナーリアたちだけは命の危険のない所に逃がそうと決めていた。

だから私はナーリアたちに「下がれ。」と命令した時に、それを無視しても戦ったナーリアたちに感動もしたのだが、内心は困ってもいた。

そして他のミーリアが突撃して行った時、それに呼応したかの様にナーリアたちが私の護衛の様に振る舞ったのは、私にとっては嬉しくもあり、困った事態でもあったのだ。

ナーリアたちは知らないが、私にとってナーリアたちは何としても守らねばならない存在だったのだから。

こんなことなら自分も命令を無視して、他のミーリアたちと突撃してしまうべきだったかと考えた。

そしてサーブが刺されるという事態になってしまった。

私は指揮官としての混乱をどうすればいいのか、という思いと、しまったという思いとに挟まれ、頭が全く動かなくなった。

イクス様が焦って狼狽えた姿を見せたのも初めてだ。

イクス様に、どうしたら良いのか、という顔を向けてしまったが、イクス様でさえ咄嗟に頭が回っていなかった様だ。

イクス様がナーリアに尋ねたのは、本当にイクス様もどうして良いか判断できなかったからだったと私は思っている。

そして、サーブが刺されて、取り乱すほどだったのに、ナーリアは少しの迷いも見せず執るべき指揮を献策してきた。

私は心底驚愕した、こいつは天才だと。


今ではナーリアたちの家は私の最もリラックスできる居場所になっている。

ナーリアたちに私が慣れただけでなく、ナーリアたちも私に慣れて、私の立場上のことは最大限に考慮して立ててくれるが、普段のことではちっとも遠慮がなくなった。

最初私を畏れて小さくなっていたサーブでさえも

「ミーリア様と一緒すると、不器用なのは私だけではないんだと安心します。」

なんて、さらっと言う様になった。

ま、本当の事だから反論のしようもない。

私も遠慮なく、ナーリアたちの家を使い、要求する。

ま、時々、私の権限で助け舟を出してあげることもあるけど。


私はイクス様とラーリア様が、ナーリアたちを使って悪企みするのが、最初はちょっと可哀想に思っていた。

また、見事なくらい、予定した通りに動いてくれたりもする。

実は最近、その企みに積極的に関わっている自分に気がついた。

正攻法しかできなかった私だが、最近やっと搦手を攻めるということも覚えてきた気がする。

単純に親しくなったナーリアたちをからかうのが楽しいだけかも知れないけど。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ