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ラミアだって

 「ナーリア、何だって?」

 「あっちは、今日から8日後の日なら大丈夫だそうだ」

 「それじゃあ、早く伝えましょ。 無理矢理でも、その日の仕事はなしにさせるわよ」


 私は大急ぎで伝えなければと思い、部屋を出かけたところ、シルヴィさんに声を掛けられて止められた。


 「エーレファさん、何をそんなに慌てているのですか?」

 「うん、エレオにエレド、そしてエーレルにも、急いでこの日程を伝えないといけないと思って。

  ナーリア会の開催日が決まったから」

 「ナーリア会って何ですか?」


 そうだよね、シルヴィさんには何も解らないよね。


 「エーレファ、3人には私が伝えて来よう。

  シルヴィさんも一緒に行くのだから、その間に説明をしっかりとしてあげてくれ」


 エーレア、説明するのが面倒で私に押し付けて逃げたな。 私が返答する前にもう部屋を出て行ってしまった。

 今では人を使ったり、物事の指示をしたりということにも慣れて、昔みたいに頭を使うことは避けるということは無くなったエーレアだけど、家族というか仲間内みたいな時は、その癖が未だに直らないのよね。

 ま、確かに、私が説明する方が速い気はするのだけど。


 「シルヴィさん、私たちが元々はナーリアに属しているのは知っているかしら?」

 「ナーリアって、ラミウィン子爵のところのナーリア指揮官ですか?」


 あ、そこからか。


 「うん、確かにそうだけど、今、言っているのは、ナーリア個人ではなくて、グループとしてのナーリアね。

  ラミアは元は数人単位でグループに分けられていて、そのグループのリーダーがそのグループの名前を自分の名前にもしたの。 私たちはエーレアというグループで、そのリーダーがエーレアだった訳。

  でもそれは私たち5人だけで1グループだったのは下位のグループだった時の話で、上位になった時にナーリアがリーダーをしているナーリア・グループに所属することになったのね。

  ナーリア・グループというのは、ラミウィン子爵の妻たちのグループね。

  ちなみに、シルヴィさんの貴族の常識だと、礼儀から子爵呼びするのが普通なのだと思うけど、アレクは子爵と呼ばれるのは好きではないみたいだから、普通にアレクと呼んでやった方が良いよ。 アルフさんも公式の場以外はアレクと呼んでいるし、アレクもアルフさんと呼んでいるでしょ」

 「ああ、そうでした。 アルフレッド様にも、そう注意されているのですけど、つい昔の癖みたいなもので」

 「ほら、アルフレッド様もダメだって。

  私たちはアルフさんと呼ぶけど、正妻のシルヴィさんは公式の場以外はアルフと呼び捨てにするようにって言われているじゃん」

 「正妻って、私なんかそんな立場じゃ」

 「良いのよ、別に。

  人間のシルヴィさんが正妻ってことにしておいた方が、私とエーレアは動きやすいんだから」


 シルヴィさんは自分が正妻扱いされるのを申し訳なく思っているみたいだ。

 実家が元伯爵家とはいえ既に無く、何のバックアップも受けられず、普通なら捨てられたり、酷ければ殺されてもおかしくない立場だった自分が、正妻として扱われるのは、何だか居た堪れない気分になるらしい。

 私たちの間では、全く同じアルフさんの妻の1人で、アルフさんもそのように私たち3人を扱ってくれるから何の問題もないのだけど。

 シルヴィさんは、アレクのところではナーリアが、そしてボブのところでは当然ラーリア様が正妻とされているので、エーレアの方が相応しいと思っているみたいだ。

 でもさ、正妻の振る舞いとかって、王都に行った時くらいしか関係ないし、それをエーレアがするのは、ちょっと考えられない。

 ラーリア様は正妻の振る舞いどころか、元々伯爵待遇のラミア卿だから問題ないけど、ナーリアは大変そうだもの。 ましてやエーレアじゃ、無理無理。

 私たちがシルヴィさんを頼っている立場なんだけどな。


 「えーと、話を戻すんだけど。

  元々はナーリアもラミアの5人と、そこに特別に加わったアレクの6人のグループだったのね。 それに私たエーレアの5人が合流したの。

  そこにアレクを同じ夫とするアンとモエギシュウメも加わったから、シルヴィさん、ここからが本題よ」

 「はい」

 「夫を同じにする妻は、広義ではそのグループの一員なのよ」

 「はい?」


 シルヴィさんは、私が何を言い出したのか理解できないという顔をしている。


 「つまりね、シルヴィさんやアニーさんたちも、ナーリアの一員ということなのよ」

 「えっ、私たちもナーリア指揮官をリーダーとするナーリアというグループの一員だったのですか?」

 「そうなのよ」


 良し、押し通したぞ。


 「はあ、私たちもナーリアグループの一員だというのは了解しましたけど、そのグループとしての活動、ラミウィン子爵、いえアレクさんの妻の方々と一緒の活動って、何かしたことがありましたか?

  最近は、クラッドさんやブマーさんの妻たちとでさえ、みんな一緒に何かするという機会も忙し過ぎてほとんどないのですけど」

 「そう、問題はそこなのよ。

  それで今回は、ナーリア会と称して、ナーリア全員が集まる機会を作ったのよ。 もちろんシルヴィさんも参加するのよ」

 「分かりました。

  ところで、どこに集まって、何をするのですか?」

 「うん、山の上に近い、源泉の方の湯船に行こうという計画になっている。

  私たちもそこには行ったことが無いのよ。 何だか機会を逃しちゃって。

  そこは湯船に浸かるだけじゃなくて、地面が暖かいから、そこに寝込んで楽しむことも出来るそうよ。

  子どもたちも連れて行くから、そこなら楽しく遊ばせられるだろうし」

 「あの、エーレファさん。

  もしかして、子どもたちも連れて、遊びに行くのが目的ですか?」


 あ、バレた。

 だって、忙しくて、まともな休日が全然取れて無いのだもの。

 一日くらい羽を伸ばす時があっても構わないと思うの。



 アレクとナーリアたちの元の家、今はイクス様とメリーはいつも居て、ナーリアたちの上の子の半数くらいが大体交代でこちらに来ているらしい家に、私たちは馬車でやって来た。

 私たちは勝手知ったる場所だけど、人間の妻たちは初めてなのかも知れない。


 馬車が着くと、子どもたちは外で遊んでいたナーリアの上の子たちを見つけて、あっという間に馬車から駆け出して行ってしまった。

 メリーは学校に行っているようで居ないけど、もうティッタが仕切っているから放っておいても大丈夫だろう。 私たちラミアの妻が、子どもが飛び出して行っても制止せずに慌ててもいないので、人間の妻も大丈夫なのだろうと判断したようだ。

 私たちの到着に気がついたのか、ナーリアたちが家から外に出て来た。

 私たちは当然だけど、一番最初にイクス様に挨拶し、たぶん実際に会ったことはないと思うので、人間の妻たちを紹介しようとした。


 「エーレア、忘れたの? 私はあなたたちの結婚式にも出席したし、あなたたちが出産した時の手伝いにも行ったじゃない。

  みんな知っているに決まっているでしょ」


 言われてみるとそのとおりだった。

 どちらもバタバタしている真っ最中だったから、抜け落ちていた。

 人間の妻たちは、それらの時にはまだイクス様の立場というか、人をあまり知らなかったから普通に接していたようなのだけど、今はイクス様のことも色々知って、とても丁寧な挨拶をして、イクス様が逆に何だか困っている。


 「それじゃあ、みんな楽しんできてね」

 「イクス母様は行かないの?」

 「ティッタ、私まで行ってしまったら、メリーお姉ちゃんが学校から帰って来た時、誰もいなくて寂しがるでしょ」


 イクス様は私たちと一緒には行かないと言うと、ティッタがちょっと残念がった。


 「ティッタ姉、馬鹿だな。

  もしイクス母様まで居なかったら、メリーお姉、学校から帰って来た後、絶対怒るよ」


 ウォルフ、確かに。


 いざ上の源泉に向けて出発となったら、ナーリアたちの上の子たちはハナシュの「競争よ」の言葉で、先に駆け出して行ってしまった。

 私たちの子たちは、まだそれについて行くのは無理だし、知らない場所だから、一緒に駆け出そうとするのを引き止めた。


 「ほら、ちっちゃい子は抱っこされているでしょ。

  あなたたちはお母さんと手を繋いでいきましょう」


 「ティッタ、危ないことさせないのよ」

 「わかってる」


 私が自分たちの子たちを止めていると、ナーリアがティッタに注意の声をかけていた。 もうティッタに任せちゃって大丈夫なんだ。


 途中でそれでも心配だからと、アンがモエギシュウメと飛んで行った。

 普通なら放っておいても大丈夫らしいのだけど、私たちの歩みが遅くて、普段よりも放っておく時間が長くなりそうだからだ。

 それも普通ならモエギシュウメだけが行けば用が済むのだけど、今回は私たちの子どもたちも途中から空を行くことにしたからだ。 私たちの歩みが遅く、早く一緒に遊びたい子どもらが焦れて、勝手に先に行こうとするのを止め切れなくなりそうだったからだ。

 モエギシュウメは子どもたちを入れる袋を取ってくると、3人づつ袋に入れて、あっという間に上の温泉まで子どもたちを運んでくれた。

 さすがにアンだけに任せるのは気がひけるので、急遽、アニーも飛んで行くことになった。 アニーは大荷物を背負っていたからである。

 アンが空を飛んで行くのを見ても、自分が飛ぶことになるとは考えていなかったアニーは、自分では訳が判らないまま空中へと連れて行かれた。 大きな悲鳴が響いたのは仕方のないことだろう。


 「ま、初めてだと、あんなものさ」

 「悲鳴が上げられるだけ、大したものよ」


 サーブとレンスがそんなことを話していたら、ディフィーが言った。


 「ラミアは、今はモエギシュウメしかいないから空を行くことはできないけど、人間は飛べるから、何ならモエギシュウメに頼んだら」


 シルヴィさんを筆頭に、私たちの仲間の人間の妻たちは、とても真剣な顔をして即座に首を振った。



 温泉も、寝転ぶのも気持ち良かったのだけど。


 「ところでエーレファ、あなた、私のスピードに追い付くんじゃ、なかったの?

  何なのよ、この登る遅さは」

 「エーレア、お前も何だ。 体力自慢の私たち姉妹が、このくらいの坂道上りでヒーヒー言っているのは」

 「エーレル、あなたもよ。 私の姉妹は元々体力には欠けているのだけど、それにしても酷すぎるわ」


 私とエーレアとエーレルは、寝転べは気持ちの良い床に、セカンとサーブとディフィーに正座させられて怒られる羽目になってしまった。

 同じペースで歩けたのはエレオとエレドの2人だけだったのだ。

 クラッドさんの人間の妻のダフネさんとブマーの人間の妻のケリーは少し遅れ気味ではあったが付いて行けていた。

 全く付いて行けなかったのが、私たち3人とシルヴィさんだったのだ。


 怒られたりしている私たちに我関せずの形だったレンスが、空を飛んでその後遺症で動けずにいて、やっと復活してきたアニーに言った。


 「それでその大荷物は何を持って来たの?」

 「そうでした。 これ、子どもたちと一緒にみんなで食べようと思って、ケーキを焼いて来たんです」


 その言葉を聞いて、怒られている私たちを助けるつもりもあるのか、シルヴィさんが、

 「アニーのケーキは美味しいのよね。 早く食べましょう」

と言って、みんなを集めだした。


 「でもアニーのケーキは一人分が大きいのよね」

 「えっ、でも、シルヴィ様、昔、シルヴィ様のおやつとして出ていた大きさですよ」

 「アニー、シルヴィ様じゃなくて、シルヴィ姉さんでしょ。

  あれは、お祖父様のメイドが気を利かせて、2人分を一緒にして持って来ていたからよ」

 「えっ、あれって最初から私の分も入れての2人分だったんですか?」

 「当たり前じゃない」

 「ま、私はアニーの出してくれるこの大きさが好きだぞ」


 シルヴィさんとアニーの会話にエーレアがそう口を挟んだ時、サーブ、セカン、ディフィーの怒りの針が、またプラスに大きく振れた気がした。

 だって、仕方ないじゃない。

 エレオとエレドは、今は直属騎士団の訓練を毎日のように行なっているから運動不足にはなってないけど、私とエーレア、エーレファ、そしてシルヴィさんは、家事仕事や、時には子どもの世話まで他の人に任せて、机に座り続けて書類仕事をしているのだもの。

 そんな1日の大きな癒しが、アニーが作って持って来てくれる甘いモノだって、許されると思うの。

 ラミアだって、太ってしまうのは仕方ないと思うのよね。


 3人とも、アニーの一人分のケーキはしっかりと確保していた。

 怒っていた3人も、それはそれ、自分の分はもちろん同じだけ確保していた。


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