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自問

「ミーレア、あなた、時間が減ってがっかりしているんじゃない。

 それで暗い顔をしているのでしょ。」

「ミーリアさん、なんで私が少しでも大人しくしていると、そういう方向に話を持っていくんですか。

 私だって、考え事をする時くらいあるんです。」

「それはもちろんよ。 あなたはミーレアのリーダーな訳だから、いろいろな考え事があることはわかっているわ。」

「分かっているなら、くだらないチャチャ入れないでください。」


アーリア、アーレア、アーロアは同格だと規定されているが、ミーリアと私のミーレアは同格ではない。

同じようにラーリア様たちの次で、頭文字に「ミ」をいだいているけれど、ミーレアはミーリアより下と位置付けられている。

ミーリアのリーダーのミーリアさんは、下の者からはとても恐れられている人だけど、実際はとても気さくで、親しみやすい人だ。

ラーリア様たちに対する態度や言葉使いはとても丁寧だけど、私たちに対する態度は、全く分け隔てがなく、自分の序列の方が上だなどという不遜なところは全くない。

そこは良いのだけど、不器用で、融通が利かなかったりして、時々ミーリアの中でからかいの対象になっていたりもする。

今回の大きなゴブとの戦いの前、私は愚かにも、もしかしたらミーリアさんよりも私の方が指揮官としての器があるのではないかと、密かに自惚れていた。


ところがいざ戦いが始まってみたら、正直器が違う、とても太刀打ちできないと心の底から思ってしまった。

あの、その場に居た者すべてを凍り付かせるような威圧感。

誰もミーリアさんの命令に逆らうことなどできないだろう。

一言で全軍を動かすことができるだろう。

あんな威圧感、私には到底無理な話だ。

そしてアーレアを右翼に急遽派遣していた戦術眼、その前の3番太鼓のタイミングもラーリア様たちが絶賛していた。

そんな冷静な判断力が私にはあるだろうか。

私は袋の口を閉じる合図さえ、ラーリド様をちらっと見て、確認を求めなければ出す事が出来なかった。


私が考え込んでしまうのはミーリア様との差だけではない。

今回の戦いでは、太鼓と鉦の合図が使われた。

私は指揮官というものは、実際の戦いの場で目の前に見えている部下に、時に声を掛け、時に自ら率先して事にあたり、部下を率いていくモノだと考えていた。

しかし、今回、太鼓と鉦の合図で、私たちは動き、状況を把握していた。

つまり本陣からの指揮で動いていた。

本陣からは見えない兵を意のままに動かしていただけでなく、今現在の状況を見えない者にも知らせていたのだ。

私の指揮官の概念、指揮をするという概念が完全に壊されたと言える。

しかもこれを提案したのは、まだ上位にもなっていなかったナーリアだという。

私たちは全員、ナーリアの考えの下に動いていたのだ。

そして戦いの一番の混乱時に、その収拾策をとっさに献策したのもナーリアだったという。

指揮官としての器は、私は到底ナーリアにも及ばないだろうと感じる。


ナーリアといえば、今回の戦いの作戦は、そのナーリアグループのセカンとディフィーの発案だという。

戦場の選定、包囲陣の作り方、弓矢を主武器に使う戦術、どれも独創的だ。

みんな大勝して、勝ったことばかりに目がいっているけど、この作戦案は天才的で、勝つにはこれしか無い、というモノだった。

私は袋の口を閉めたから、その事が理解できる。

ゴブたちは完全に2人の掌の上で思った通りに動かされたのだ。

彼女たちが想像したそのままの動きをしたのだろうと確信を持って言える。

こんな作戦、私には絶対に考え出すことは出来ない、無理だ。


戦いが終わった後、アーレアが1人も欠けていなかったことには驚愕した。

逃げてくるのを目の前で見たとき、確実に半数以上殺られる、と思った。

この結果は一人一人は勿論だが、指揮の賜物だろう。

アレアが卓越した指揮をしたからこそ、全員が生き延びたのは間違いないと私は思う。

私にそれだけのことができるだろうか。


アーロアも、対面のアーリアは潰走したのに、不意打ちで死んだアーロク1人を除き、ほぼ無傷の様な状態で、戦いを終えた。

これもアーロアの優れた指揮と考えねばならない。


周りにこれだけ優れた指揮官がいる中で、私はミーレアのリーダーとして、指揮官としてやっていけるのだろうか、と考えてしまう。

確かに私は今回の戦いではミスはしなかった。

でもそれは作戦に則り動いたに過ぎず、それ以外の部分はミーリアさんの指揮の下に動いているのだ。

3番太鼓の時、私はミーリアさんと共に今後の指揮をするために、ゴブへの突入を禁じられた。

私は自分が先頭で突入できないことに、忸怩たる思いも感じたが、それ以上に後のために私は残されたのだという自負を感じた。

でも今は、サーブには悪いが、刺されたのがミーリアさんでなくて良かったと思ってしまう。

私にはあの場で、あの騒ぎの後などとても全軍を指揮するなんて出来なかった。


私は今現在の自分のポジションに居て良いのだろうか、と自分に問いかけてみない訳にはいかなかった。


「ミーリアさん、くだらないこと聞きますけど、ミーリアさんは今回の戦いで全軍の指揮をするの怖くなかったですか。」

「そんなの怖かったに決まっているじゃ無い。

 逃げれるモノなら逃げ出したかったわよ。」

「そうですよねぇ。 でも、ミーリアさんは自分ならできるという自信があったんですよね。」

「ある訳ないでしょ、そんなもん。

 戦いが始まる寸前にもラーリア様に聞いたわよ、『私にできるでしょうか?』って。

 そしたらラーリア様ったら『知らん』て一言よ。

 同じ者でも出来る時もあれば、出来ない時もあるかもしれないだって。

 真剣に悩んでいるのに酷くない。」

「そうですよね、その答えはちょっと酷いかも。

 なんか元気付けみたいなこと、言ってほしいですよね。」

「それで、本当に困ったらどうしたら良いんですか、って聞いたら、『ナーリアにでも頼れ』って言うのよ。

 私が沽券に関わりますって言ったら、『そんなの関係ないだろ』でお終いよ。

 ま、実際の場でも、ナーリアに頼ったんだけどね。」

「そんなにナーリアは凄いのですか?」

「指揮に関してだけは天才ね、彼女は。

 でもね、実際にやってみて、ラーリア様が言うこともなんとなく分かったの。

 指揮なんて誰でも出来るか出来ないかなんて分からない。

 出来る様に自分で考えて考えて、それでもダメな時は恥も外聞もなく誰かを頼って、そうしてボロボロになってでもやらねばならないのだと。

 出来るか出来ないかじゃないのよ、やるのよ、指揮官なら。

 その指揮によって、もしかしたらラミアの里が滅びるのかもしれないのだもの、そこまでいかなくても、誰かが死ぬかもしれない。

 そういう重みがあるのだから、自分がボロボロになろうが蔑まれようが、そんなのは構わない。

 指揮官にはそれだけの覚悟が必要よ。」


これが指揮官、これがミーリアさん、

これが里のみんなに「氷のミーリア」と恐れられる誰も逆らえない最強の指揮官。


私はこんな覚悟ができるだろうか。

また私は自問する。


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