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私たちも特例でお願いします

とても久しぶりの更新です。


今回の話は、本編の時の流れの中で、終了時から少しだけ後の話です。

 「あっ、ワーリオ、ワーリド、おかえり」

 「うん、ただいま」

 「どう、みんなちゃんとこなせてる?」

 「ああ、サーブの計画した訓練はしっかり出来ていて、『もっと何をしたら良いか』と聞かれたよ」

 「あの子たち、私たちが同じ歳の時よりも、もう全然強いよ」


 ラミアの里での若い子たちの訓練の指導教官の役を終えてきたワーリオとワーリドは、私の軽い言葉にちょっと困ったように答えた。

 若い子たちと呼んでいるけど、もう彼女たちも15歳で、考えてみればアレクたち人間の男たちがラミアの里にやって来るほんの少しだけ前の私たちの年齢になっている。

 あの頃の私たちは、今の若い子たちと比べると何も出来なかった。 日常のあれこれも、もちろん戦闘技能も。


 「ワーリオ、それで何て答えたんだ。

  体力や筋力を付けることも、色々な技能を身に付けることも、あまり急ぎ過ぎるのは良くない。 私はその辺も考慮して訓練計画は作っているんだ」


 「サーブ、それは解っている。 だからちゃんと、急ぎ過ぎてもいけない、一歩一歩確実に積み上げるんだ、と言っておいた」


 サーブはワーリオの言葉を聞いて安心したようだ。 焦りは禁物だ。


 「確かに昔の私たちより今の若い子たちはずっと強いし、色々なことができる。

  でもそれは当時の私たちと比べての話。 まだ少なくとも2回は脱皮して身体が大きくならないと話にならない。 脱皮して鍛えて、やっと近接戦闘の実戦の場に立てる。

  今、焦っても仕方ない」

 レンスが冷静な意見を言う。


 若い子たちは、自分たちを逃すためにアーリア様・アーリル様が亡くなったのをはじめ、アーリア・アーレア・アーロアがボロボロになって戦ったことを常に忘れない。

 それだからか、厳しい訓練であるはずのサーブが決めた訓練内容を超えて、自分たちに訓練を強いてしまう。 私たちは若い子たちに関しては、訓練をさせることに困るのではなく、もっと続けようとするのを止めることの方が役目になってしまっている。


 「でもさ、なんで私たちが訓練の教官をしなくちゃいけないのよ。

  指導教官はサーブの役でしょ」


 「ワーリア、そんなこと言ったって仕方ないだろ。

  見れば分かるとおり、今、私たちはここから離れる訳にはいかないのだから」


 それはもちろん一目で理解できる。

 でも、それもが一面、私たちをちょっと、いや凄く腹立たしい気分にさせるのだ。 何しろサーブとレンスの2人とも、胸に2人目の子どもを抱いているのだから。

 ナーリアの7人は今みんな2人目の子どもを育てている。

 それなのに私たちワーリアは、子どもはおろか、相手となる人間の男も誰も決まっていないのだ。


 「だいたいねぇ、ナーリアのみんなは何でもう2人目なのよ。 この忙しいのに。

  1人目からまだ間が空いてないじゃん」


 ワリファが何だかいちゃもんをつけ出した。 つまりはまあ、それくらい私たちはナーリアのみんなを羨ましく思っているということなんだけど。


 「うん、私も大きな声では言えないけど、年齢に問題のあるラーリア様たちはともかくとして、私たちは前みたいに間に2年を置くのだと思っていた。

  でも、ゴブの巣侵攻戦が終わったら、アンが妊娠していることが判った。 それで私たちも2人目と言うことになった」


 レンスが答えると、ワーリルが少しだけ呆れた様な調子で言った。


 「つまり、アンはあのゴブの巣侵攻戦をしていた時には、もうお腹に子どもが居たってことよね。 良く大丈夫だったわね」


 「アンも自分のことながら、妊娠していることが確定した時には驚いていた。 色々と忙しくて少し遅れているだけだと、その最中は思っていたみたい」


 レンスはここでため息をついた。


 「大型ゴブとの決戦の前に、最後にアレクが家で過ごした時に、お母さんがアンに機会を譲ったらしいのね。 そしてその時に出来たみたい。

  『私の計算は正しかった。 そのお陰であなたたちはこんなに早く2人目を作れたのよ』と感謝を強制されて、鬱陶しいったらないわ」


 あの時は大型ゴブとの激戦が予想されていて、命の危険を誰もがひしひしと感じていた時だった。 事実、大激戦になったのだから、アンが妊娠する可能性が高い時期だったのなら、それを優先しようとしたイクス様の考えは分からなくはない。

 その戦いはミーリア様が総指揮官だったように、ラミアも一方の主戦力になっていたけど、人間の女は戦いから遠ざけられていた。 でもそれに続く戦いは時期の問題なんかもあって、逆にラミアはその戦闘計画からは外されていて、人間の女は作戦の重要な戦力だった。 アンはその人間の女のリーダー兼ハーピーの女との調整役の様な感じで大忙しで、作戦が始まってからも主力として飛び回っていた。

 忙し過ぎて、自分の体調を気にしている余裕もなかったんだろうなぁ。


 「まぁ確かにそれはちょっと何ていうか、うん、あれだな」


 レンスとイクス様の親子喧嘩はいつもの事なのだけど、賢明にも沈黙しているけどサーブも渋い顔をしているから、イクス様もかなり恩着せがましくしているのだろう。 まあサーブたちはとばっちりだ。 ワリファが同情調で言葉を濁した。


 こんな風にナーリアが動けないことを補完する意味もあって、私たちワーリアは生活の拠点をアレクが統治しているこの地にナーリアと共に移しているのだ。



 「で、どうよ、どんな調子?」


 「ワーリア姉、そんなに急かさないでよ。

  大体私なんて、単にお兄の妹としか認識されてないんだから」


 私たちは自分たちの男を見つける為に、最近大きな助力者を見つけた。 それはアレクの妹のエーデルだ。

 私たちワーリアは、やっと自分たちの眼鏡にかなう人間の男を見つけた。

 誰かというとアレクの副官となり、最近騎士になったばかりのクラウス、正確にはクラウス・ストームといって、ストーム師匠の息子だ。


 クラウスがここにやって来たのは、アレクが正式に子爵になり、ここに砦にもなる町の再建を大々的に始めた時だった。

 アレクにはナーリアたちという有能過ぎる妻たちがいるので、副官なんて必要がないと思われていたのだけど、子爵の立場になって町の再建などを始めると、主に他の旧伯爵領を分割した子爵たちだけど、ヴェスター辺境伯家以外の貴族とも自分で外交というか社交というか、付き合いを持たねばならなくなった。

 それらの人々はヴェスター辺境伯領の人間とは違って、ラミアやハーピーには慣れていないので、ナーリアたちが応対しようとすると、普通に接すれば良いのに何故か固まってしまい、話にならない事態が続出し、人間の副官が必要になり、クラウスに白羽の矢が立ったのだ。

 クラウスは、父のストーム師匠が、自らの失敗からそれまでの全ての地位や待遇を返上したので、いや結局はストーム師匠とカーライルさんに罪はないとアルフさんが断定してその社会的な地位は変わらなかったのだけど、そのとばっちりで一般兵から始めることになったのだが、それでも自らの優秀さでここに来た時にはもう騎士見習いの身分になっていた。

 そしてつい最近、正式に騎士に任命されたのだ。


 「私は他領から来た人の応対なんて、アン姉がすれば用が済むと思うのだけど、アン姉は『とても忙しくて、そっちには手が回りません』と断っちゃうんだよ。

  クラウスさんにしてみたら良い迷惑だと思うけど、まあそのお陰でお兄の副官になったので、私も知り合えたのだけど」


 アンはハキと共に領内の経済政策を担っている。

 ヴェスター家の養女となって、アルフさんとデイヴの義理妹でもあるという立場もあるのだろうけど、ハキと共に領内の経済政策を丸投げみたいな感じで任されているのは、やはり優秀だからだろう。

 ラミアはつい最近まで自給自足でなんでも共有の世界だったから、経済とか金融政策とか、そういう物のことが良く分からない。 それでもラリべ様以下のハキの妻たちは、ハキの仕事を手伝うために色々と覚えて理解出来る様になったみたいだけど、やはりそういったことはハキとアン、そしてハキの妻であるミリーが詳しい。


 「そんなことないよ。 私なんて、単なる小さな一商人の娘だもの。

  ハキの話が理解出来るように、そういったことに関連する図書館の本を片っ端から読み漁って、なんとか話について行っているだけだよ。

  でももう忙し過ぎて無理だから、元々私と同じような立場のカリンも巻き込むつもり。 カリンならすぐに理解出来るでしょうから」


 カリンの実家も小間物屋をしていたというから、アンのところと大差ないのかもしれない。

 でも本当にすぐにアンのようにハキと対等に議論出来るようになるだろうか。 ミリーでさえ「それは無理」と言っているのだが。


 そんな感じだから、アンが忙しいのは確かだとも思う。

 だからといって時々やって来る他領の者の対応が出来ない程ではない気が私はする。 予定が被ればハキと都合をつければ済むことなのだから。

 やっぱり私もエーデルと同じで、アンは他領からの客に対して、貴族としての対応をしたりするのが面倒なだけな気がする。


 話を戻すが、でもそのお陰で、クラウスはアレクの副官として、ここで生活する様になり、エーデルだけでなく私たちも彼と知り合うことになったのだ。

 クラウスはアレクよりも2歳、つまり私たちより1歳若いのだけど、そんなことは全く構わない。

 クラウスはアレクが他領からやって来る者との交渉のほとんどを任せてしまうくらい有能だし、私たちにとっては重要なのだが、何より強い。


 「僕は自惚れていました。

  僕は父が剣術指南役だったこともあり、幼い頃から剣の修行はしてきました。 ですから僕よりも近接戦闘で強いのは、父を除けば領内にせいぜい2-3人くらいのものだろうと思っていました。

  ところが実際には、父が子どもの頃から教えていたデイヴィッド様やキースリング様は当然として、そのお仲間であったアレク様をはじめとする皆さんには全く歯が立ちませんし、アレク様の奥方であるナーリアの皆さんもラミアの方々はナーリア様とディフィー様の2人とならばやっと立ち会える程度。 その2人は、指揮官と参謀ですから、本来は近接戦闘をする立場では無いのですから、ちっともその2人となら立ち会えると言っても誇ることは出来ません。 何よりもう1人の参謀であるセカン様となると、参謀の立場にあるのに、私では全く相手にもなりません。

  そしてサーブ様、レンス様の話によると、お二人より強い方がまだまだ他にもいるとか。

  全く過去の自分が恥ずかしい限りです」


 サーブやレンスが想定しているのは、ミーレナさんやアリファ様、それにラーリア様たちなどなのだろうが、それは相手が悪過ぎる。

 ナーリアたちが戦場で敵として出会ったら「逃げる」と公言している化け物たちだ。

 クラウス、君の父親に劣らないレベルの強者だよ、その人たちは。


 クラウスは自分で思っていたとおり弱くない。 少なくとも私たちより強い。

 ただまあラミアの上位では、アーリア・アーレア・アーロアの皆さんと互角というレベルにはならないと思う。

 訓練の場なら互角にやれるかもしれないと思うけど、実戦となるとあの方たちには敵わないだろう。

 大型ゴブとの決戦の後、あの方たちの実戦の技量は、なんと表現して良いのか分からないが、壁を突き抜けて凄みを増してしまった。

 私たちは一時追いつけるかと思ったのだが、今では大きな差があると感じている。

 まあ私たちは実戦では長槍に特化しているということもあるけれど。


 「それでワーリア姉たちは大丈夫なんですか?

  エーレア姉たちから、本来の人間の妻1人にラミアの妻2人の形に戻すんじゃ無いのですか?

  ワーリア姉たちはワーリアみんなでクラウスさんの妻になろうと思っているのでしょ」


 「うん、エーデル、それは大丈夫。

  私たち、ちゃんともうラーリア様に直談判して、例外としての許可はもらっているから。

  ラーリア様はちょっと渋ったけど、『姉妹のナーリアがみんなアレクの妻となっているのだから、まあ仕方ないか』と許可してくれたわ」

 ワリファがエーデルに答えた。


 「それで、エーデルが人間の妻になる。

  エーデルはまだ若過ぎて、すぐに子どもを作る訳にはいかないから、特例としてエーデルに子どもが出来る前に私たちが子どもを作る許可ももらったわ。

  エーデルはデイヴの妻になったルリちゃんなんかと同じ扱いだけど、それは構わないよね?」

 ワーリルがちょっと心配そうにエーデルに聞いた。


 「うん、それは構わない。 ワーリアのお姉たちの姉妹である、うちのお兄の妻のナーリアのお姉たちはアン姉とモエ姉も含めて、もう2人づつも子どもがいるんだもの。 ワーリアのお姉たちが焦る気持ちは分かるよ。

  私はともかくルリちゃんなんて、デイヴ兄の子どもを自分でもかまっているから、早く自分も子どもが産めるようになりたいって、いつも言ってるもの」



 私たちワーリアは、こうしてエーデルとも協力して、クラウスの外堀をどんどん埋めて行って、クラウスを夫にすることが出来た。


 「あなたたちがクラウスを狙うだろうなとは思っていたし、妻を持つことなんて全く考えていなかったクラウスを、上手く外堀から埋めて落としたと思うわ」


 ディフィーがクラウスの妻に納まった私たちに向かって、憎まれ口なのか賞賛なのか分からない言葉をかけてきたのだが、アレクはどうやらそれどころではないようだ。


 「ワーリアがクラウスの妻になったことは、良かったなと単純に思えるけれど、その人間の妻がエーデルというのは、どうしてそうなった。

  大丈夫なのか、おじさん・おばさんになんて言ったら良いんだ」


 「アレク、落ち着いて。

  おじさん・おばさんは知っているに決まっているでしょ。

  おばさんはクラウスのことを聞いて、あのストーム師匠の息子であることに驚いていたけど、喜んでもいたから大丈夫よ」


 「ナーリア、そうなのか?

  もしかして、僕だけ知らなかった?」


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