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見ていた人だから

ラミアではなくて、奥方様の侍女の1人の独り言です。

 「あの、ちょっといいですか?

  もしかして、女兵士として砦に行きませんでしたか?」


 私が後に夫になるアライムと、いやアライムだけでなくハーピーたちやラミアたちなどと、親しく接するようになったのは、そんな一言からだった。

 アライムたちハーピーの3人組は、人間とラミアとハーピーとの間の連絡係として、領主館に頻繁に訪れていた。

 問題なのはその入ってくる場所だった。


 ハーピーたちは当然ながら、いや今となってはその言い方は間違っていると知ってはいるのだけど、当時の私はハーピーは翼があり空を飛ぶ種族だと思っていたから、空を飛んできて降りやすい、領主様の私的な執務室に隣接したバルコニーから館を訪れるのだが、私は何故きちんと玄関を通って来ないのか、と思っていた。

 少し面倒になるのは分かるけど、ハーピーだって普通に足で歩けるのだから、玄関を通って正規のルートで領主様と面会した方が良いと思ったのだ。

 領主館には当然のことだけど、使者が来た時の待機室というか、使者の為の休憩室もあり、普通はそこにまずは通され、一息ついてから領主様との会談となるのだ。


 ところがハーピーたちは直接領主様の私的な執務室にやって来る。

 すると私的な方だから、彼らが急にやって来たと、慌ててお茶の用意などをしなければならないのは、私たち限られた人数でしかないのだ。

 そして私たちが、彼らがやって来たからと、慌ててお茶の用意をして持っていくと、その時にはもう伝言を終えて、飛び去った後だったりすることも度々だ。

 彼らのそんな忙しさには同情はしていたけど、本音としては慌てさせられるこっちの身にもなってほしいと考えてしまう。

 ちゃんと正規のというか、玄関を通って来てくれたら、奥メイドである私たちは、そんな面倒なことには関わらずに済むのだ。


 最初のうち、彼らは領主様やカーライル様、ストーム様などが執務室に居る時ばかり、バルコニーに降りて来て、話をして行ったのだが、そのうちに慣れたのか、

領主様たちが執務室に入る前に先にやって来て、領主様たちを待っているなんてこともあるようになった。

 後から私は、ハーピーたちは最初は領主様たちが執務室に入るまで、上空で待機していたのだと知ったけど。

 そんな風に少し慣れて、領主様たちより先に執務室でアライムが待っていた時に、私は声を掛けられたのだ。

 お茶のお代わりを注いであげながら、私は声をかけられると思っていなかったのでちょっと驚いたけど、その動揺を態度には出さないように気をつけて答えた。


 「はい、確かに武装メイドの1人として、私も砦での戦いに参加していましたが、どちらでお知りになったのですか?」


 「やっぱりそうか。

  前からそうではないかと思っていたのだけど、なかなか確かめるために話しかける機会がなくて。

  どちらで知ったかということだけど、僕も砦の戦いの場にいたから、君のことは見ていたんだよ。

  ラミアは全員が女性だから、女性が戦いに出るのは当然だと思っていたけど、人間も女性も戦いに出ることを、あの時初めて知ったから、つい君たちのことは注目して見ていたんだ。

  それだから君に見覚えがあったんだよ」


 私はちょっと砦での戦いを思い返してみた。

 そういえば確かにあの戦いの中で、ハーピーが砦の弓兵を1人討ち取ったと聞いたから、ハーピーも確かにあの時の戦いに参加していたのだろう。

 正直に言えば、私はあの戦いの時にハーピーを見かけた記憶がない。


 「あ、そういえばハーピーの方も1人討ち取って手柄を上げていましたね。

  あなたが手柄を上げたのですか?」


 「いや、それはエレオンだよ、僕は上から監視していただけさ」


 ここで領主様たちが部屋に入って来たので、私たちの会話は終わってしまったのだけど、私がアライムと会話したのがきっかけとなって、ハーピーの3人は私たちと会話するようになり、それ以前よりも長い時間、館に滞在するようになったし、領主様の執務室の隣の部屋で体を休めたりもするようになった。

 そうなると、その世話をする私たちは自然と彼らと親しくなった。


 彼らハーピーとの関係は、最初は珍しさというか好奇心が勝っていたのは確かだと思う。

 ラミアもだけど、ハーピーも、それまでに知り合ったことは当然だけどなくて、私たちはちょっと怖いような、でも興味がある、そんな感じだった。

 ラミアはそれでも同性ということもあって、植え付けられていた偏見がフロードによる故意の嘘だったと知ってからは、最初の時を過ぎればすぐに違和感なく関係を作ることが出来た。

 それは、この館によく来るラミアがミーリア様は年上だけど、アレアさん、ロアさんが私たちと同年代で、他はラミアじゃないけど領主様の養女となったアンさんも含めて年下で、なおかつ彼女たちは身分の違いというものを全く意識しないで話をする人たちだからかもしれない。

 でも流石にハーピーの3人とは、種族も違えば性別も違うので、そこまでの親しみを感じるまでにはいかなかった。


 そんな感じに少し彼らに慣れた私たちは、それまでのメイドとして外から見ているのではなく、少し友人たちを見ているような風に視点が変わったからだろうか、彼らが種族としての違いを全く意識していないかのように見えるようになった。

 ラミアの里の男たちが、彼ら3人と仲が良さげなのは、それでもまだ同性ということもあり、種族の違いを乗り越えての友情もあるのだと思ったのだけど、彼らのラミアとの仲の良さにまず驚いた。

 そしてそれ以上に驚いたのが、養女のアンさんとメリーちゃんの、彼らとの親しさだ。

 彼らがハーピーであるということを、2人は全く意識していないかのように、友人としてごく普通に、他のラミアの里の男たちと同じように接しているのだ。

 種族の違いに身構えてしまっていた自分が、何だか馬鹿馬鹿しく感じてしまった。


 ゴブとの戦いでは、人間の女は参戦しても逆に足手まといになると、私たち武装メイド隊は参集されなかった。

 ゴブの侵攻の目的の一つは人間の女の捕獲であることは、よく知られているから、ゴブから人間の女は遠ざけられるのだ。

 私ももちろんゴブに捉われて、ゴブに孕まされるのは絶対に嫌だし、また人間の女がゴブの子を産めば、それは大型ゴブになり、ゴブの脅威を増すことになってしまうという知識もあるから、ゴブとの戦いに参加しないのは当然のことだと思っていた。

 それだから、王国によるゴブの巣の掃討戦の時に、アルフレッド様をはじめとする騎士たちが大きな被害を受けたのに驚いたし、バンタイン様も酷く落ち込んでしまったことにも驚いた。


 その時には、一時的に彼らハーピーも館を訪れることがなくなったりもした。

 私はそれらのことの生じた理由がわからなかったのだけど、それはラミアのロアさんから齎された情報で、その理由を知ることが出来た。

 衝撃的だった。

 その後で、私たちはその戦いに参加した兵たちからの情報にも接することが出来て、内緒ではあるけれど、事件の全貌をほぼ知ることが出来た。


 私たちはそれまでは彼らをハーピーとして意識していて、男性として意識していなかったと思う。

 でも、その話を聞いて以降、私たちは彼らをハーピーとしてというより、異性として意識するようになった。

 頼りになる、強い男と、私たちの目に映るようになったのだ。


 その後、フロード残党の痛ましい事件が起こり、その時に私たちは彼らに、

 「大丈夫。 君たちのことは僕らが命をかけても、少なくともラミアの里までは逃してあげるから、奥方様のお世話をお願いするよ。

  ただ、先に奥方様をラミアの里に連れて行くので、君たちを連れて飛ぶのは真夜中になってしまう。

  僕たちハーピーは、夜はほとんど見えないんだ。

  人間の君たちの方が見えると思うから、出来たら飛んでいる時に気を失ったりしないで、方向や高度などの指示をしてくれると嬉しいな。

  ラミアの里まで行けば、きっとガンガンに篝火とかを焚いていてくれると思うから、たぶん問題なく君たちを下ろせると思うから、ま、安心してほしい。

  最悪の場合でも決して君たちだけを死なすようなことはないから」

と言われた。


 その時にはもうハーピーのことに大分詳しくなっていた私たちは、少し冗談めかしているけど、彼らが命の危険を顧みずに私たちを助けてくれようとしていることが、はっきりと理解できるようになっていた。

 私はその時に決意した。

 もしこの時間を乗り越えられたら、アライムの妻になろう、と。

 ラミアの里の男たちは、多妻だというから、アライムの妻の1人にならなれるんじゃないかと私は思ったのだ。

 そうして、私はアライムの妻になった。


 奥方様と共にラミアの里に移り、アライムと新居に住むようになって、私はそれまでよりもより一層、アライムたちとラミアの里の騎士たち、そしてラミアたちとの絆の強さを知るようになった。

 そうして、もういつまたゴブが来襲してもおかしくないという時になると、アライムは私に、ちょっと長い話をしてくれた。

 初めてデイヴィッド様、アレクさん、キースさんと会った時から始まっての、自分たちとラミアの里の騎士たち、そしてラミアたちとの今までの話した。

 その中でアライムは言った。


 「僕たち3人のミスで、アンの父親はフロードの息子たちの化けた盗賊たちに殺されてしまったんだ。

  でも、アンだけじゃなく、誰も僕たちのことを責めないし、僕らには責任がないと言う。

  それ以降も、僕たちハーピーは上空からの監視と連絡だけが仕事で、砦のフロードとの戦いの時に、ナーリアを狙おうとしていた弓兵をエレオンが倒したのと、フロード残党との戦いの時に、遠い方の敵兵たちの弓の弦を切ったのを例外にして、僕たちは直接戦いに加わってはいないんだ。

  あのゴブの巣の掃討戦の時も、結局僕らは上から見ていただけさ。

  あいつらや、アルフさんたちが自分の精神が壊れてしまいそうな戦いをしている時に、僕らはただ上からそれを眺めていたんだよ。

  あの思いは、もう2度としたくない。

  今度の戦いはあの時の思いはしないだろうけど、それでも戦いは何が起こるか分からない。

  今度の戦いも、セカンやディフィーは確実に僕たちに戦場の監視と連絡の役だけを振ってくるだろうと思う。

  でも僕たちは今度の戦いでは、何かしらの危機があれば、その時には今度は躊躇いなくその場に身を投じるつもりだ。

  そうでなければ、僕たちはあいつらと一緒に戦いに臨んだとは言えない。

  ラミアたちにも、そしてアルフさんたち人間たちにも、ハーピーもこの地の一員として肩を並べて戦場に出て、この地を守ったと言えないと思うんだ」


 私はアライムが何を言いたいのか、すぐに理解した。

 アライムは私に、ハーピーは戦わないから戦場に行っても危ないことはない、なんていう先入観を持たないで欲しいと、そして自分は何かあれば即座に命懸けの戦いに身を投じるから、妻としてその覚悟をしておいて欲しい、と言いたいのだ。


 私自身も武装メイド隊として、戦いの場に出る時には、何があってもおかしくはないと覚悟していた。

 しかし現実的には私たちの隊は命の危険を感じさせられるような場に出たことはない。

 今度の、たぶん大型ゴブとの戦いで、もしアライムたちが上空から戦いに参加することになるとしたら、それは一番危険な激戦となっている場に自分の命を賭けて突入することになるのだろう。

 きっとアライムたちは、そういう覚悟をしているのだろう。


 私は今回の戦いでは、人間の女は戦いの場から遠ざけられているし、それ以前に今のこのお腹が大きくなり始めた身体では、そもそも戦いの場には出れない。

 何か私でも役に立つことはないのかと考えて、私は以前にちょっと笑い話のような感じで聞いた話を思い出した。

 確か、ハーピーの防具はその見た目がとても悪くて、不恰好で使いにくい物だという話で、アレクさんならもう少し良いものが作れるという話だった。

 自分でもし作れる物ならば、なんとしても自分で作りたいけど、私にはハーピーの防具なんてどんな風に作れば良いのか、全く見当もつかない。

 私たちはアレクさんに無理矢理頼み込んで、アライムたちの防具を作ってもらった。

 役に立たないことが一番良いのだけど、もしもの時はしっかり役に立ってほしい。


 新しい防具が出来てから、私は昔の防具をアライムに見せてもらった。

 アライムはそれまで頑なにハーピーの防具を私に見せることを嫌がって見せてくれなかったのだけど、新しい防具が出来て、古いのを捨てると言うので、参考までに無理矢理見せてもらったのだ。

 私は、ラミアたちがハーピーの防具をつけた格好を笑い話にしていた理由が、良く解ったし、アライムが頑なにその防具を着けた姿を私に見せてくれなかったのも理解出来た。

 私は戦いの前に、アレクさんにアライムの防具を作ってもらって、その見た目だけでも、本当に良かったと安心してしまったのだ。

 うん、昔の防具は酷過ぎる。


 それでも安全の為なら、その無様な防具でも良いと私は思ったのだけど、防具としての性能も、アレクさんが作った新しい防具の方が上なのだという。

 私に出来ることなんて、今はこれくらいしかない。

 あとは何があろうと、お腹の子を守るのだ。


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