ハーピーの子どもも働かなくちゃ_1
卵が詰まってしまって、その治療のためにモエお姉さんに連れて行ってもらったのが、私がアレク様じゃなかった、アレクさんたちの家に良く行くようになったきっかけだった。
一番最初は、治療していただいたお礼を言いに、お父さんとお母さんと一緒に行って、ついでに追加の治療もしてもらった。
それからあとはもう一回、お母さんと一緒に治療してもらいに行って、その後は1人で治療してもらいに何度か行った。
アレクさんの家には、モエお姉さんだけでなくて、何人ものアレクさんの奥さんのお姉さんがいて、その中のセンお姉さんとアンお姉さんに私は治療してもらった。
センお姉さんはラミアで、アンお姉さんは人間で、他もラミアのお姉さんたちだ。
別にラミアや人間だからといって、もう私たちにとっては珍しくも無くなっていたから、どうということもないのだけど、私自身はあまり親しくラミアや人間と話したりしたことが無かったので、最初だけちょっと緊張した。
私はちょっと緊張したのだけど、お姉さんたちはモエお姉さんやベニお姉さんたちでハーピーには慣れているのか、ちっとも私がハーピーだからといって、特別視することがなく普通だった。
それで私は、すぐにアレクさんの家の人に慣れてしまった。
私がアレクさんの家にすぐに慣れたのは、もう1人、メリーちゃんがいたからというのもある。
メリーちゃんは人間だけど、私より小さいし、けどしっかりしていて、私とはすぐに親しい友達になった。
私には同い年の女の子の友達が2人いるけど、他には親しい友達がいなかったので、新しい友達が出来たのは嬉しかった。
私のお姉さんたちの呼び方なんかは、メリーちゃんの影響だ。
さすがにアレクさんだけは、メリーちゃんのように「お兄ちゃん」とは呼べなくて、「アレク様」ではなくて「アレクさん」と呼ぶので精一杯だけど。
お母さんなんて、「様付けはやめてください」とアレクさんに言われているのだけど、今でも直ってないし。
メリーちゃんはアレクさんの子どもたちの世話なんかに結構忙しい。
私はそれを手伝ったりするのだが、その時には他にもメリーちゃんの同年齢のラミアの子たちも手伝いに来ていたりするので、その子たちとも私は私は親しくなった。
私が治療のためにアレクさんの家を訪れていたのは、鳥型ハーピーでは私の治療がなかなか上手く出来なかったからだ。
ラミアや人間は、羽根が邪魔にならないから、鳥型ハーピーよりもずっと器用に手や指を使えるのだけど、そんな中でもセンお姉さんとアンお姉さんはとても器用でなんでも出来るのだという。
それで私が卵が詰まってしまった時に、アレクさんの家にモエお姉さんが連れて来てくれたらしい。
卵を出すことが出来た後も、私は薬を塗ってもらうために、アレクさんの家を訪れていたのだ。
私はもう単純にメリーちゃんと遊びにアレクさんの家に来ていた時に、なんとなくあらためて、センお姉さんとアンお姉さんにお礼を言った。
「本当に、あの時はありがとうございました。
でも、私、一つだけ良く分からないことがあって」
雑談の中でそう言うと、すぐにアンお姉さんが応えてくれた。
「何が分からないの、私に解れば教えてあげるわよ」
「私の詰まった卵を取り出して、助けてくれたのは、センお姉さんとアンお姉さんだと思うのですけど。
どうしてお父さんは、他の人にすぐ私のことを『英雄のアレク様に助けていただいた娘です』って言うのかしら?」
「それはアレクはハーピーの間では英雄になっちゃっているから、アレクとの間に何かしらの繋がりがあるというのを、喜んでいるんじゃないかしら」
モエお姉さんが、そう答えてくれた。
「でも、助けてくれたのはアンお姉さんとセンお姉さんでしょ。
アレクさんに助けられたと言うのは違うんじゃないかと思って、なんだか嘘を宣伝されているような気になっちゃって」
「嘘じゃないよ。
私たちでもどうしようもなくて、アレクの方が指が長いからアレクなら出来るかと思って、アレクにも手伝ってもらったけど、やっぱり上手くいかなくて。
それでアレクが咄嗟に道具を作って、それで私が卵を取り出したのだから、あの時は。
だから、ルリちゃんのお父さんが言う『アレクに助けてもらった』という言葉は少しも嘘じゃないよ」
「こらっ、セカン。
ルリちゃんはラミアじゃなくて、ハーピーなんだから、もうちょっと気を使って」
アンお姉さんが、センお姉さんを怒って、モエお姉さんがちょっと苦笑していた。
私はその時の自分の状況を想像してしまって、顔が真っ赤になっているのを自覚した。
その私の顔を見て、センお姉さんが言った。
「いけない。 最近はウスベニメも全然気にしないから、つい忘れてた。
ハーピーは普通は裸を見せないんだっけ」
「ハーピーだけじゃないわよ。
ここはラミアの習慣に染まってしまっていて、誰も気にしないけど、人間も普通は裸は見せないよ。
ルリちゃん、でも怪我や病気の治療の時は、人間もハーピーも裸も何も気にしないし、関係ないからね。
治療だったのだから気にしなくて大丈夫だからね」
私が動揺しているのが見え見えだったからだろう、アンお姉さんがそう言って、私を落ち着かせようとしてくれた。
「はい、別に大丈夫です。
ちょっとその時の、自分では覚えていないことを、なんとなく想像できちゃったら、ちょっと恥ずかしくなっちゃっただけですから。
それに、お父さんが嘘をついている訳ではないことが解ったら、そっちは気分的に楽になったような気もしますから」
私は、アンお姉さんに「治療のためだったのだから」と言われて納得したし、それにアレクさんの私に対する態度も普通だったから、アレクさんにとっては治療以外の何物でも無かったのだと解っているのだけど、それでもやっぱりちょっとアレクさんを意識してしまった。
意識してしまうと、やっぱり気になってしまって、私がアレクさんの家を訪ねる理由に、アレクさんに会うということも加わることになってしまった。
私がそれに自分で気がついたのは、アレクさんの家に行って、家にアレクさんが居ないと、なんだかがっかりしている自分に気がついたからだ。
最近になって、私たちも前とは少し生活が変わった。
アレクさんの家に行くようになったという大きな変化とは別に、学校に通うということもある。
ただ、私と私の生まれた時からの親友のクリスズメとアイクイメは、ラミアたちの若い子たちと呼ばれる世代よりは下で、かといってメリーちゃんたちの世代よりは上という、ちょっと中途半端な年齢で、学校の授業内容の選択が難しいことになってしまっている。
そこでという訳でもないのだろうけど、私たちはそれぞれのお母さんが、新たにハーピーの女性の役目として任されることになった、人間の小さな村に行っての青空教室の教師の役の手伝いをすることになった。
私たちは、その教室の簡単な手伝いというか、お母さんの手伝いをして、そこに集まった人間の人たちと一緒に、お母さんのする授業に参加して、学習することにもなったのだ。
まあ、ちょっと苦肉の策らしい。
私のお母さんの受け持った村が、アレクさんの実家のある家だったのは偶然だ。
いやもしかしたら、私とお母さんがアレクさんの実家の村に行き始めるのとほぼ同時に、ハーピーが鶏の卵を色々なところに運ぶという仕事が始まったから、私の知らないところで、何かしらの意図的な話があるのかもしれない。
でも、少なくとも私とエーデルちゃんは全くそんなことは知らない。
最近は人間の人たちも、私たちハーピーもちょくちょく見るようになって、私たちと接しても驚かれるようなことはないのだけど、それでも矢張り、私とお母さんに積極的に近づいてきて話をしたりする人はほとんどいない。
まあ、それはそうだろうなあと思っていたのだけど、私のお母さんの担当した村の、村の方の世話役というか担当者の女性は、私たちがハーピーであることを不思議にも全く気にしない人で、種族の違いを意識しないで話をする人だった。
その人の娘さんがエーデルちゃんだった。
お母さんが村の方の世話役と打ち合わせの話をしていて、そこから単なるおしゃべりに流れて、話が長くなっていくので、私が暇そうにしていると、エーデルちゃんが私に話しかけてきてくれたのだ。
「私は、エーデルっていうのだけど、あなたはスミレセミメ先生の娘さんなの?」
「うん、そうだよ。 私はルリセミメっていうの」
「そっか、じゃ、ルリちゃんだね。
ウチのお母さんが、あんな風に喋り出すと長いよ」
「あ、ウチのお母さんも、そう。
最近はラミアの人たちともお喋りするようになったら、余計にそうなってきちゃって」
「ふうん、そうなんだ」
エーデルちゃんは、そう言って笑ったのだけど、私はそこまで普通に話して、急にあれっと思った。
エーデルちゃんは、私がハーピーであること、と言うか、ハーピーとか、ラミアとか、大体の人間なら興味を示したり、ちょっと身構えたりするようなところに、全く無頓着で興味を示さないのだ。
「えーと、エーデルちゃん、で良いのかな」
「うん、それで全然構わないよ」
「エーデルちゃんは、私がハーピーなのに、ちっともハーピーについて聞いてきたりしないけど、何で?
それにラミアのことも口に出したのに、そっちにもちっとも興味がないみたいだし」
「あ、そうか。 ま、普通はそうなのかもね。
でも私、お姉ちゃんにハーピーもいるし、ラミアもたくさんいるから。
ウチにはハーピーの人も来るし、ラミアのお姉ちゃんたちも遊びに来たりもするから、この村の人はラミアとハーピーを見ても別に驚かないよ。
あ、お姉ちゃんと言っても、お兄ちゃんの奥さんたちのことなんだけど」
「えっ、もしかして、エーデルちゃんのお兄さんて、ラミアの里で暮らしているの?」
「うん、そうだよ。 ルリちゃんも知っているかな? アレクっていうの、お兄ちゃん」
「えっ、エーデルちゃんて、アレクさんの妹だったの?!」
「うん、そうだよ。
だから、私はモエお姉ちゃんで鳥型ハーピーのことは良く知っているし、センお姉ちゃんやナーお姉ちゃんたちラミアも良く知ってるよ。
ウチのお母さんは、お兄ちゃんのところに行くと、イクス母様やシロシュウメ様とのおしゃべりが長いんだよ。
そこにデイヴお兄さんのお母さんの奥方様やばあやさんなんかが加わったりしたら、それこそ凄いんだから。
イクス母様は、お兄ちゃんの奥さんの1人なんだけど、レンお姉ちゃんのお母さんでもあるから、私もやっぱりメリーちゃんに倣って、イクス母様って言っちゃうんだよね。
ルリちゃん、モエお姉ちゃんは知ってるでしょ」
「知ってるも何も、私、モエお姉さんはもちろんだけど、センお姉さんも、ナーお姉さんも、レンお姉さんも、ディーお姉さんも、サーお姉さんも、メリーちゃんもメリーちゃんのお姉さんのアンお姉さんも、もちろんアレクさんもみんな知ってるよ。
イクス様も、それに子どもたちだって、全員知ってるよ」
びっくりしたけど、私とエーデルちゃんは、あっという間にとても仲良くなった。