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怖いお付きのラミアって私のこと?

 ロアの策略に負けて、ミーリア様の王都行きに、私が一緒に行くことになってしまった。

 こんな風に少し長くラミアの里から離れるのは初めてのことだ。

 今までは離れるといっても精々2-3日のことなのに、今回は往復だけでも4日かかるから、最低でも7日間、たぶん10日くらい離れることになるだろう。


 ミーリア様のお供で出掛けるのは、私とロアと2人とも一緒に行くことも多いのだが、泊まりがけだったりすると、どちらか1人になってしまう。

 私たちボブの妻は人数が少ないので、泊まりがけで3人が出かけてしまうと、残されたラーリア様、ハンナの負担が大きくなり過ぎてしまうからだ。

 その上、今回は一番最近ボブの妻になったハーピーのウスキハイメさんの産卵が近いから尚のことだ。

 だから私とロアのどちらかだけがお供するということになるのは納得しているのだけど、今回はどっちがお供となっても良かったのだが、私がジャンケンの勝負に負けたのだ。


 「だいたい、ロアは私がジャンケンが弱いのを知っていて、それなのに私が断れないように、ラーリア様とミーリア様の前でジャンケン勝負に持ち込むのが狡いのよ」


 何日も空けることになるので、私の順番はハンナとウスキハイメさんに譲ると伝えたけど、きっとなかなかそうはいかないのだろうなぁ。

 ウスキハイメさんは産卵して抱卵にかかり切りになるだろうし、それを代われるのはハンナだけだから、そう多くボブを構っている余裕はないだろう。

 ということで、ロアは漁夫の利を獲ることが出来ると、悔しいけどとても上機嫌だったのだ。


 私たちに、デイヴとキースも同行していて、2人には人間の妻のエリとマリも同行している。

 エリとマリも単純に自分の夫に同行して来た訳ではなく、王都での社交はラミアの私たちには分からないので、それを補助するために同行して来たのだ。

 2人がその仕事に選ばれた理由は、デイヴとキースの妻であるというだけでなく、もう一つ重要な理由あって、それは馬に乗れることである。


 今回の私たちの王都訪問は強行軍で、馬車で3日かかる距離を2日で行こうという日程となっている。

 それだから普通の馬車は使わず、同行者はそれぞれ騎乗して向かうことになったのだ。 ラミアの私とミーリア様は軽馬車だけど。

 普通なら隣の領地で一泊、そして隣の領地と王都の間でもう一泊して、王都に向かうらしいのだが、隣の領地での宿泊を飛ばして王都に向かうことにしたのである。

 それは時間もないのもあるけれど、隣の領地が今は安全が確実に確保しにくいということもある。

 そして、それ以上の速度での移動は、馬が保たないので無理なのだ。


 それでも相当な強行軍となるので、エリとマリの2人は自分で馬を操るのに疲れたら、それぞれの夫の馬に乗せてもらうことになっている。

 馬には人が乗るだけでなく、荷物も載せているから、それを移動しなくてはならなくなるので、出来ればその面倒を避けたいのだが、どうにも仕方ない。

 もちろん私とミーリア様の馬車にも荷物は載せられている。

 ミーリア様は2輪の軽馬車だから、荷物を載せる場所は元からあったのだけど、私のは1輪なのでそのままでは荷物を載せられない。

 そのため急遽、荷物を括り付けるための棒を取り付けたりした。


 エリもマリも馬に乗れるとはいっても、普段馬に長距離乗るようなことはしていない。

 頑張ってはいたけど、先にエリが、そしてマリも自分で馬に乗っているのは無理になり、途中で乗せてもらうことになった。

 それでもマリはキースの後ろに乗って、自分でキースに掴まって体を支えることが出来たが、エリは疲れ切ってそれも危うくなって、落ちないようにデイヴに前に乗せられることになった。

 それほどの強行軍だったのだ。

 砦から選ばれた5人の騎士たちは、訓練の一環だったのだけど、本当に必死の形相だった。

 私はミーリア様を心配したのだけど、割とミーリア様は平然としていて、大丈夫そうだった。

 2輪だから私よりも楽なのかな。


 途中の宿での一泊は、もちろんアルフさんの領主権限で予約がなされた宿だから、私たちラミアの宿泊もきちんと話が通っていて、食事も私たちに合わせた物も出て来たのだが、やはりラミアが珍しいのか、周りからはちょっと好奇の目で見られた。

 私としては何だか領主の町に行き始めた頃のような、ちょっと懐かしさを感じるような雰囲気だ。

 好奇の目というのは、浴びる方にしてみると気持ちの良いものではないが、私はそれが単なる慣れの問題であることを知っている。

 今では、領主の町や砦だけでなく、多くの場所で、私たちラミアもハーピーもごく普通に人間と接しているのだから。


 王都の館に入ってしまうと、どうやら王都の館の人たちは、ラミアは初めてだがハーピーには慣れているらしく、それでラミアの話も聞いていたらしくて、ほんのちょっとだけ私とミーリア様を珍しく感じたみたいだけど、すぐにそんな感じはなくなってしまい、これは一緒に行ったデイヴたちがミーリア様だけでなく、私も様呼びするからだと思うのだが、ミーリア様だけでなく私までとても上位の人物のように扱ってきて、そっちの方が閉口した。

 もう私もミーレナ様のように、デイヴたち人間の男たちや、ナーリアたちの世代までは、「さん」付けに変えてもらおうと思う。

 重要人物扱いは私の趣味ではない。


 王都に行ってみて、私はミーリア様が王都の上位貴族の間でも重要視されていることに驚いた。

 私の付け焼き刃的な知識でも、王都の軍務卿などという人は、王国のかなりというか頂点に近いような高位の官職の人だと理解しているのだが、そんな軍務卿がミーリア様が面会を求めていると知ると、他の予定をキャンセルして、即座にミーリア様に会ったのだ。

 これには私だけでなく、デイヴたちも驚いていたので、私の知識が間違っていた訳ではないのだろう。


 それと驚いたのが、ミーリア様は王都での人間の作法をきちんとこなされていたことだ。

 私も一応、エリとマリにその辺のことを急いで教えてもらったのだが、正直きちんと出来ているとは到底思えない。

 そこは流石にデイヴとキースはきちんとしていたらしいが、ミーリア様は2人も驚く優雅な所作で正式な作法をこなしていたらしい。


 「ミーリア殿、貴婦人の鏡のような美しい所作ですが、私の前では不要です。

  私も作法を気にしないで動きますので、ミーリア殿も気遣いなく自由に話したり動いたりしてください。

  ミーリア殿がわざわざこの王都までお越しになったということは、それだけの事態なのだと、私も認識していますから」


 ミーリア様が挨拶を始めると、軍務卿はそう言って、ミーリア様をはじめとする私たちと自由な意見交換をすることを提案してきた。

 一体、ミーリア様は軍務卿にどのように思われているのだろうかと私は思った。


 軍務卿との会談は、軍務卿の側近たちも加わって、とても実際的な有益なものとなった。

 そこでの話し合いの中でも、軍務卿たちがミーリア様の発言はもちろんだが、私たちの発言を、疑問点を質したりはするが、基本的には全て信用しているのが私にも理解できた。

 ミーリア様はどうやってこういった関係を築いていたのだろうか。

 確かに以前のゴブの巣の王国による掃討戦の時には、王国軍の本部にミーリア様は行っていたけど、それだけとは思えない。


 ミーリア様が王国の作法をちゃんとこなせることは、後でエリとマリから種明かしを聞いた。

 ミーリア様はかなり前から、こういった機会がきっとあるだろうと、エリとマリに王国の作法を教わっていたのだ。

 それなら一緒に行くであろう私やロアも、その練習に参加させてくれれば良かったのにと思うのだが、エリによると、

 「なかなかちゃんと動けなくて恥ずかしいから、アレアとロアには内緒にしてね」

と私たちには口止めされていたらしい。

 まあミーリア様らしいといえば、らしいと思う。

 そしてミーリア様は必要だと思うことは、全く手を抜かない人なのだ。

 こういう所だけを見てる人からしたら、ミーリア様は本当に完璧な人に見えるのだろうけどなあ、なんて私は思いはするのだけど、他のポンコツの部分も良く知っているけど、こんなミーリア様を私はとても尊敬している。


 王都での私たちの、軍務卿と話し合う以外の、もう一つの使命は、私たちの領の存在感を王都の貴族社会の中、いや王国の中で大きくすることだ。

 私たちの領が、こんな言い方をすると、つい最近まで狭いラミアの森だけしか世界を知らなくて、伯爵領内という意識さえなかった私には何だかこそばゆい気持ちになるのだけど、王国の多くの人たちには私たちもゴブと戦っているということがあまり伝わっていないのだ。

 王都に近い位置の方でゴブと戦う者のことは、王国の人にも伝わっている。

 最近では新たな3人の子爵のことだったりは知られているし、古くはアルフさんの奥方となったシルヴィさんの祖父や曽祖父のことなどは知られている。

 しかし、こっちの領の戦いなどは、軍務卿などの一部を除けば、ほとんど知る人がいない。

 ゴブの巣を挟んだその先の地のことだから、一面は仕方ないのだろうが、知られていないと、こちらから何かを求めても無視される可能性が高くなってしまうので、それを低くするためにも、王都で存在感を出しておきたいというのが、デイヴの考え、もしかしたらアルフさんの考えだった。


 それにうってつけの状況があった。

 どこでどうしてそうなったか私には皆目見当がつかないのだけど、ミーリア様は「美しのミーリア」という異名で、王都の貴族だけでなく一般庶民にまで知られていて人気があるのだった。

 この状況を利用しない手はないだろう、というのがデイヴの意見だった。

 デイヴとキースは、王都の館の人たちの協力を得て、ミーリア様をさまざまな場所に出来る限り連れ出すことにしたようだ。

 ミーリア様が姿を見せることが、私たちの地、ヴェスター伯爵領の存在を知らしめることになる、と。


 「ミーリア様、とにかくミーリア様はただ静かに微笑んでいてください。

  やって来る者たちの対処は基本的には俺たちがしますから」

 デイヴはミーリア様にそう言ったのだが、その「俺たち」には私も含まれていたようで、色々なところで私はミーリア様に代わり、ヴェスター領で暮らすラミアを代表して挨拶をするような、慣れない苦手なことをさせられることになった。

 なんでもデイヴに言わせると、それをミーリア様にしてもらうと、気に入らないことを言う者がいて怒って冷気を叩きつけたら、ミーリア様のイメージが崩れてしまうから、ということだ。

 私としては残念ではあるのだけど、デイヴの言うことは一理あると思ってしまったので、仕方なく私は自分の役をこなしたのだ。

 本当はこういうのはロアの方が適役で私じゃないと思ったのだけど。


 今回持ってきた衣装などは、ラミアの里で作られる最高級の物で、私もそれをエリとマリに着せられるのだけど、ミーリア様は確かにそんな高級な衣装を着たりすると美しいと思う。

 ただまあ、私たちにしてみれば何を着ようとミーリア様はミーリア様でしかないのだけど、デイヴの策略が当たったのか、短い滞在ではあったが、王都でのミーリア様の人気は、何だかすごく大きくなったようだった。

 するとそれに伴って、私たちの領が多くの人に認識されることになったのだ。


 まあ多くの人に知られて、人気があるということは、逆にそれを妬む者も出て来る。

 私たちが戻る前夜に、軍務卿が主催して晩餐会が開かれた。

 事はその時に起こった。


 一緒に王都に行ったストラトさんが、アレクの話を近くにいた王都の貴族に話していた。

 アレクはハーピーの間では英雄だし、ストラトさんにすれば娘婿でもあるので、ちょっと自慢げに話していたのは確かだと私も思う。

 しかし、何故か私たちのことを、特にミーリア様のことを良く思っていないらしい貴族が、ストラトさんのアレクの話に、訳が分からないといちゃもんをつけた。


 「ストラト殿は、そのアレクという者を英雄のように話をするが、私には何故そのように話すのか理解できない。

  単にストラト殿たちハーピーに話をしに行ったり、ラミアの指揮する部隊で戦ったり、ゴブとの戦いに出たというだけではないか。

  そこに特別な武勲が何かあったと私には思えない。

  上手くラミアたちに乗っかっただけの人物ではないのか?」


 ストラトさんが怒りの表情を抑えられないのが即座に分かったが、次の瞬間、冷気が押し寄せて来た。

 確認するまでもなく、私はミーリア様が激怒していることが分かった。

 一瞬で、その場が凍りつき、時が止まったかのように動きが止まった。

 私は、これは不味いと思って、素早くその発言をした貴族に近寄り後ろに周り、首に手刀を突きつけて、その凍った空気を破るように言った。


 「どこのお方か名を知らず失礼なのですが、私たちにも許せない無礼はあるのです。

  今回は警告ですので、手をかざしただけですが、次にこのような無礼な言葉を吐けば、その時はナイフで首が切られると覚悟してくださいね」


 周りにいた貴族たちは、ミーリア様の冷気に当てられていて、私がその無礼な貴族の背後に回ったことに全く気がついていなかったらしい、私がそう言葉を発すると仰反るように驚いている。

 その発言をした本人は、私が手をおろし背後から立ち去ると、その場に尻餅をついて、ズボンを濡らしてしまった。

 そこまでの恐怖感を与えたつもりはないのだけど。


 状況に少し離れた場所にいた軍務卿も気がついていたようだ、すぐに近づいてきて、その尻餅をついている貴族の従者に向かって言った。 その貴族はとても言葉を発することが出来ないような状態だったからだ。

 「その者、名を聞こうか」


 「はい、ボンバルトル男爵です」


 「どうやらボンバルトル男爵は、ゴブとの戦の厳しさは知らないとみえるな。

  私はストラト卿の話されていたアレクという御仁を知らないが、今いくらか聞いただけでも、とても優れた人なのだろうと思った。

  きっと戦いの厳しさも、命をかけての行いの意味も、男爵は理解できないのであろう。

  次のゴブとの戦いには、ぜひ参加して肌身で感じてもらうことにしよう」


 そしてミーリア様に向かって言った。

 「ミーリア殿たちにも大変な失礼をした。

  嘆かわしいことだが、こうも物事がわからない者も王都にはいるのだ。

  最低限の礼儀だけでも身につけていれば、あれ程の無礼をしでかずに済むものを、その礼儀さえ持ち合わせていない」


 「いえ、私どももつい過激に反応してしまいました。

  自分たち自身が貶されるのは笑って許しますが、この場にいない者の名誉が汚されては、つい我慢が出来ずに失礼しました」


 その後は晩餐会は何事もなく和やかに進んだ。



 帰り道の宿で、私はデイヴがキースと話しているのを聞いていた。


 「なあキース、俺は思うのだけど、ラミアで最も隠密の技が上手いのは、やっぱりアレア様じゃないか。

  そりゃ、気配を消すことにかけてはレンスが一番だと思うけど、次はアレア様かセカンだろ。

  そして人の集まりの中で自分の気配を消してしまうことが一番上手いのはディフィーだけど、アレア様はその技もしっかり掴んでいて、俺たちでも気をつけないとどこにいるのか分からなくなってしまう。

  総合すると、アレア様が一番じゃないか」


 「確かにそうかもしれないな。

  どちらも一番じゃないけど、どっちも遜色なく出来るから、総合すると一番はアレア様かもしれないな。

  それにしても、確かに怖かったな」


 「ああ、俺もミーリア様の冷気に一瞬固まっていたから、アレア様に驚いた」


 「周りの貴族たちはみんな腰を抜かしそうだった。

  美しのミーリア様の怖いお付きのラミアっていうのは、うん、確かに間違っていないな」


 「あ、えーと、うん、キース、デイヴ」

 ミーリア様が2人に呼びかけて、チラッと私の方に視線を走らせた。


 「げっ、アレア様いらっしゃったのですか?」

 デイヴとキースが椅子から転げ落ちそうになった。


 私は静かに2人に訊ねた

 「怖いお付きのラミアって、誰のことかしら?

  誰がそんなことを言っているの?」


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