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ボブの凄さは分かりにくい

さて、今回は誰の視点で書かれているのでしょうか?


 デイヴがハーピーのルリちゃんと婚約したことが大きな話題になると、ハーピーの若い女の子の中には激震が走った。


 ルリちゃんが、デイヴのハーピー枠が空いていたからそこに入り込んだ、という話になって、それまでラミアの里にいる男たちに、ハーピーの娘たちは自分たちがモエギシュウメとウスベニメのように嫁の1人になるという道があるとは思っていなかったのだ。

 モエギシュウメとウスベニメは特別な事情があったから、アレクとキースの妻になれたのだと考えられていたのだ。


 そこに急に、自分たちも同じようになれる可能性があることがルリちゃんによって示されたことになったのだ。

 それからの動きは速かった。

 デイヴの婚約が知られて、1ヶ月もしないうちに、エレクとハキにもハーピーの婚約者が出来た。


 とは言っても、ハーピーの婚約者はとりあえずそこまでだった。

 何故かというと、ラミアの里の人間の男と婚約できる対象となるハーピーの女の子は、ルリちゃんの幼馴染のその2人しか、今のハーピーにはいなかったからだ。

 そう激震が走ったのは、その幼馴染の2人にだけだったのだ。


 エレクとハキが選ばれたのは、エレクとハキが人間の男の中では、アレク、デイヴ、キースの次にハーピーとの関わりが深かったからだろう。

 エレクは教師として各地に飛ぶハーピーとの関わりが深かったし、ハキは商売関係でハーピーに連絡を頼るだけでなく、共同の仕事もしている。


 そしてもう1人、こちらは婚約ではなく、正式に妻の1人になった人がいた。

 ボブの妻となったウスキハイメさんだ。



 「ウスキハイメさんは、急にボブの妻になることが決まって嫌じゃなかったんですか?」


 「こらっ、ワーリア、ウスキハイメさんに失礼だろう、その言い方は」

 「ワーリア、私も今のは見過ごせないよ」

アレア様とロア様がワーリアを怒った。


 「アレアさん、ロアさん、別に構いません。

  そういう疑問はあってもおかしくないですから。

  で、答えなんですけど、嫌ではありませんでした。

  ボブさんが尊敬出来る方なのは、兄の話を聞いて分かっていましたから」


 ウスキハイメさんは、なんと今のハーピーの長のエルシム様の妹さんなのだ。

 といっても、年齢はかなり違う。

 シロシュウメ様とモエギシュウメのお母さんほどは違わないけど、かなりの年齢差がある。

 ハーピーにはどうもそういう年齢の開いた兄弟姉妹というのが多いらしい。

 それはハーピー同士、いやもしかすると鳥型ハーピー同士なのかもしれないけど今は分からないらしいが、とにかく現状で言えるのは、ハーピー同士だと受精する可能性がとても低いので、子どもの歳が開きがちになっているのだという。

 それから、同じ歳の幼馴染が多いのは、ハーピーの場合は別に故意にそうしている訳ではないらしい。


 「それに兄がボブさんに私をもらってくれないかと申し込んだのは、純粋な意味で兄が私を心配しての気持ちでもあるのを、私はよく分かっていましたから」


 そう、ウスキハイメさんはエルシム様がボブに話を持ち込んで、ボブの妻の1人になることが決まったのだ。

 ラミアたちは、いやそこまで範囲を広げてはいけないかもしれない、私たち姉妹の間では、エルシム様が持ち込んだ話であるので、何だかそこに政治的な意図を嗅ぎ取ってしまったのだ。

 アルフさんとシルヴィさんのことがあるので、なんとなくそういう気配に私たち姉妹は敏感になってしまっているのかもしれない。


 私たちの、なんていうかそんな心配に気がついたようで、ウスキハイメさんは話を続けて言った。


 「確かに、兄に全く政治的な意図がないという訳ではないと思います。

  私がボブさんに嫁ぐということは、ラーリア様、ミーリア様、そしてここに今一緒にいるアレアさん、ロアさん、そして人間のハンナさんと同じ立場になるということで、ハーピー、ラミア、人間の同盟のより堅固な証明になるからです。

  何しろ、ラミアの現代表と次期代表が確実な人、そしてラミアの里の人間の男のリーダーのいる家庭に、ハーピーの現代表の妹が入るのですから。

  何だか、こう言うと凄いですね」


 ウスキハイメさんがそう言って笑うとロア様が言った。

 「そんな家庭に、同じ妻の1人でいる私もすごくない?」


 「はい、凄いです」

 冗談にしっかり乗ってあげて、ターリオがそう応えた。


 「私、ボブの妻であることは、なんとも思わないのですけど、そう言われちゃうと、私だけ凄く場違いな気がしてしまうのですけど」


 「いや、ハンナ、お前は場違いではないぞ、ボブ家を本当に守っているのは間違いなくハンナだからな。

  お前に、『場違いな気がする』なんて言われると、頼りきっている私たちが困る」

 「そうそう、ハンナは家では一番威張っていていいよ」


 ハンナの言葉にアレア様とロア様がそう即座に言ったけど、それは確かにそうだろうなと思う。

 ラーリア様もミーリア様も当然だけど、家のことをしている余裕なんてほとんどない。

 アレア様、ロア様もミーリア様の副官という感じで、そこら中を駆け回っている。

 ミーリア様がラミアの外交を担当していることもあり、各地に出向くことも多いのだけど、その時には護衛も兼ねての一緒の行動も多い。

 それにボブが普段している仕事である鍛冶のことが一番分かっているのもハンナだし、弟子たちの世話もハンナが責任を負っている。

 子どもたちのことも含め、今のボブの家はハンナにおんぶに抱っこの状態と言えるだろう。


 「まあ、確かにそういう面が全くない訳ではないのですけど、兄は私にこの話を言い出した時にこう言ったのですよ。

   『私の知る限り、お前が対象になる中で、最高の男だ。

    一度会ってみないか、会って嫌なら、それだけでいい』って。

  だから私、全くこのことは強制されるということではなかったんですよ。

  でもまあ、私は兄にこう言われた時、ボブさんの妻になろうと決意しましたけど」


 「ええっ、ボブに会う前に決めちゃったんですか?」

 ヤーレファが、ちょっと驚いたように尋ねた。


 「はい、決めちゃいました。

  だって、あの兄が『最高の男だ』って言うのですもの、その男を嫌がるなんて、逃すなんて出来ないと思いませんか?」


 うん、その気持ちは分からなくはない。

 私だってボブの妻になれるチャンスがあれば、それがなんであれ即座に飛びつく。

 良い男の精を欲しいと思うのはラミアの本能というよりは、私は女の本能なのだと思う。

 今、ラミアは種族滅亡の危機をまだ脱していないから、その本能が強く全体に出てしまっているのではないかと私は思うのだが、きっとラミア以上に滅亡の危機になっているハーピーも同様なのだと思う。


 「ただ、私のような年上がボブさんの妻になって良いのかと思いましたが」

 「いや、ウスキハイメさん、それを言ったら、私たちだってボブより年上だし、ミーリア様もだけど、ラーリア様なんてずっと年上だからね。

  それは禁句だよ」


 「はい、ロアさん、それは理解しているのですけど、私、自分でも妻になるということを諦めていたので、良いのかなと思ってしまうのですよ。

  私が元々漠然とこの人の妻になるのかなぁ、と思っていた人は、戦死してしまい、ハーピーの中には私の対象となる男性はいなくなってしまいました。

  それから年が経って、この歳になって、ハーピーだけでなく人間の男なんかも見る機会があるようになったのですけど、なかなかこれはという人はいなくて」


 ウスキハイメさんはミーレナさんと同い年だということだから、ハーピーも話に聞くラミアとハーピーの最後の戦いの時には、戦力が枯渇していてミーレナさんの世代と同様に若い世代まできっと戦いに動員されていたのだろう。

 ハーピーも人数が少なくなっていたから、生まれた時からもう結婚相手は決まっているような状態だったのだろう。


 「あの、こんなこと言うと引かれてしまうかも知れませんが、私、なんていうか、理想が高くなっていたというか、私が幾らかでも見かけたり、話に聞いたりするのは兄に関係する男性しかいなかったからか、兄も含めて、男性とはこういうものだという観念みたいなモノが出来ていて、どうにも出会う男性が、それらの人と比較してしまうと、なんて言うか情けなく感じてしまって、自分の対象としては見れなくなっていたんです。

  だからもう諦めていたというか」


 「ああ、その気持ち、すごく解ります。

  私たちも男の基準が、この里にいる男になっちゃってて、他の男を見ても少しもときめく事がなくて」

 ターリアがしみじみとした声でそう応えた。


 「はい、それもここに来て、よく理解できるようになりました。

  ここの男性はアレクさん、私はまだアレクさんと呼ぶのにも慣れないのです。

  アレクさんはハーピーの間では英雄ですからアレク様と呼んでいましたから。

  そのアレクさんを筆頭にして、皆さん話に聞いていた以上に優れた男性たちでしたから」


 私はラミアの里の男たちが、ハーピーの目から見てもすごく優れた男性に見えるのだと聞いて、何だか嬉しかった。

 いや、ウスベニメやモエギシュウメもそう言うのだけど、彼女たち2人はもうハーピーという枠には入らないのよね。

 アンもそうだけど、もう自分たち姉妹と同じ感覚になっている。


 「そういう男たちを見ている兄が、選んでくれたのですから、私はもうその言葉を信じるのみだったのです、当然。

  そしてこちらに来て、ボブさんの妻の1人にしてもらって、優しく平等に扱ってもらって、兄の言葉にしたがって良かったって心から思っているのです。

  私、本当に誰かの妻になる未来なんて見えていませんでしたし、それがこんなに優しく心満たされる事だと思っていませんでしたから」


 「おっ、惚気が入ってきたな」

 アレア様も最近は時々こういう冗談口を、挟むようになった。

 前はそういうことはなかったのだけど、私たちみんなにも慣れて接するようになったからかな。


 「でも、いまだに理解できないこともあるのです。

  兄は私の相手として、最高の男としてボブさんを選んでくれて、それには全く文句はないのですけど、なんでボブさんだったのかな、と。

  私はそこに政治的な意味はなかったと確信していますから、その理由はなんだったんだろうと、ちょっと思ってしまったんです。

  もちろんアレクさんたちハーピー枠が埋まっていた人が除かれたのは分かりますが、残りの人も同様に魅力的な人なのに、なぜボブさんだったのかなって。

  それに、ボブさんがここの男たちのリーダーだと聞きますが、なんでボブさんがリーダーなのか、私にはその理由がよく分からないのです」


 「ちょっと待って、ウスキハイメさん。

  今の言葉はちょっと聞き流す訳にはいかない」


 「はいはい、アレア、落ち着いて。

  ウスキハイメさんは別にボブのことを馬鹿にした訳じゃないよ。

  私たちはみんな、もう付き合いが長いから、ボブがどれほど凄い頼りになる男かわかっている。

  だからボブが男たちのリーダーであることを全く疑問に感じない。

  でもさ、確かにボブの凄さや、頼り甲斐があるところとかは、なかなか伝わりにくいところではあるよ。

  それにきっと、エルシム様は妹のウスキハイメさんには、悲惨な話とかは話してないと思うよ。

  そういうのも話さないと、ボブの本当の男としての凄さなんてのは分からないよ。

  ウスキハイメさんが、その意味でボブの事が分からないのは当然なんだよ」


 「私もそう思います。

  幼馴染だった私も、なんでボブがこんな凄い男たちの中でリーダーなんだろうって疑問に思いましたもん。

  ウスキハイメさんが疑問に思うのは当然だと思います」


 ウスキハイメさんの言葉に、アレア様がちょっと怒ったみたいだけど、ロア様とハンナが軽くそれを宥めた。

 まあ、確かにボブの凄さは、あまり表面的には見えなくて分かりにくいからなぁと私は思って、ちょっと周りを見回したら、私たち姉妹はみんなそう思っている事が分かった。


 でもまあ、時にはこういう普段はない組み合わせも面白いよね。

 今、この源泉の露天風呂にいるのは、私の姉妹のターリア・ワーリア・ヤーレアたちと、ラーリア様とミーリア様を除いたボブの妻たちだ。

 あ、ボブの子どもたちは、みんな一緒に連れて来ている。

 流石に人数が多過ぎて、一度に湯船には入れないけど、ここは地面が暖かくなっているので、最近は筵が用意されていて、それを地面に敷いて寝転がるのが流行っている。

 前は温泉が噴出すると危ないので、とても出来ない事だったらしいけど、この源泉のことなんて露天風呂が出来るまで興味もなかったからよく知らない。

 ま、でもそんな訳でこの人数でも、子ども連れて来ていても、ゆっくりおしゃべりをみんなで楽しめる。


 アレア様、ロア様たちと私たちは、随分と仲良くなっていたから、その延長でウスキハイメさんとも知り合うことになった。

 それで、みんなでウスキハイメさんと話してみようということになったのだけど、ちょっとウスキハイメさんにボブの凄さを話してあげたいな、と思ってしまった。


 でもさ、ウスキハイメさんはハーピー枠が空いていたから良かったのだけど、私たちに空いているラミア枠っていうのはとうの昔にないんだよね。

 私たちの方がやっぱり絶対に相手選びに苦労するよ、うん、本当に絶対。


ターリア・ワーリア・ヤーレアの中の1人の視点で書いたつもりですが、具体的にはヤーレル視点で書いたつもりです。

わざとその名前をぼかしたので、他の誰かの視点でも変わらないかな。

きっと、ターリア・ワーリア・ヤーレアたちは大同小異で同じように考えていると思うのです。


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