なるようになる
アルフレッドの独り言です。
またまたラミアではないです。
エーレアたちがラミアの里から戻って来て、私たち3人はやれやれと安心した。
エーレアたち自身もだが、私たちもエーレアが戻るまでに2週間もかかるとは思
っていなかった。
考えてみれば、騎乗用の馬を軽馬車とはいえ曳き馬に調教しなおし、尚且つ戦場でも動けるまでにしようというのだから、本来ならその程度の時間では終わらないのは自明のことだ。
私たちは、自分たちの仕事に追われ、そんなことも考えられないほど、忙しいのだ。
何はともあれ、私たちの副官であるエーレアたちが戻って来てくれた事は嬉しい。
もちろんエーレアたちは私たちの妻でもあるのだから、その意味でも嬉しいのだけど、それより何より今は副官としてのエーレアたちが戻って来てくれたことが嬉しい。
今回の不在で嫌が上でも自覚させられたのだが、エーレアたちがいないともうどうにもこうにも仕事が回らないのだ。
私が地味にショックだったのは、私がエーレアたちが戻ったのを喜んだ以上に、部下たちが何だかエーレアたちの帰還を喜んだ気がすることである。
「これでやっと仕事が回るぞ」
「やっと書類の山を低くすることが出来る」
「たまには普通に家に帰れる」
そんな希望に溢れた声、まあ本音なのかも知れないけど、部下のそんな声を聞くと、自分の不甲斐なさを感じたりもする。
しかし、私がもうエーレアたちが居ないでどうやって仕事をしていたかを思い出せないのと同様に、部下たちもエーレアたちがいないで仕事をするのは考えられなくなっているようだ。
エーレアたちがラミアの里から持ち帰って来てくれたことは、何も軽馬車だけではない。
軽馬車は確かにこれからのことを考えると、とても有用であるだろう。
私の場合は、それでもシルヴィが一緒する時は馬車なので、半分くらいは時間は変わらないだろうが、クラッドリングとブマーは人間の妻も騎士の娘なので馬に乗れたので、エーレル、エレオ、エレドが軽馬車で移動するようになれば、移動にかかる時間はかなり減るだろう。
軽馬車以外にエーレアたちが今回持ち帰って来てくれた大きなことは、情報だ。
ちょうどエーレアたちがラミアの里にいる時に、デイヴィッドに男の子が誕生したとのことだった。
「アルフレッド様、おめでとうございます」
クラッドリングがそう言ってきた。
「ああ、ありがとう。 本当に良かった。
久々に心から喜べる知らせだな」
「奥方様も喜んでおられる事でしょう」
「ああ、どうやら、初の男の孫にべったりになっているらしい」
デイヴィッドに男の子どもが生まれてから、エーレアたちが戻るまでに数日あるのだが、この件はハーピーからは知らされていなかった。
どうやらあいつらは気を遣って、エーレアたちから伝えさせようと、自分たちはこの砦にその話を持ち込まなかったようだ。
「あいつらも変な気の遣い方するわね」
と、エレドが私たちが知らなかった事にちょっと驚いて、そう評したが、何だか少し嬉しそうだった。
私たちがその報告を始めて聞いたと知った彼女たちは、生まれてまだたった少しの時間しか経っていないのに、随分といろいろなデイヴィッドの息子のエピソードを次々と話してくれた。
妻たちと離れて、私とクラッドリング、そしてブマーの3人の時に、
「デイヴィッド様に息子が生まれたのは、本当に喜ばしい事なのですけど・・・」
「なんだブマー、その言い方は」
「クラッドリング、最後まで聞いてやれ。
ブマーの言い始めた言葉だけで怒っては、ブマーも何も話せなかろう」
「はい、しかし、本当にこんな吉事に否定的な物言いは許せないと思いまして」
「いえ、違いますって、喜んでいますよ、もちろん。
ただ、これで余計にエレオたちが、自分たちも子どもが欲しいという、まあ立場から声には出してこないでしょうけど、なんとなくわかるんですよね」
ブマーがちょっと深刻そうな雰囲気でそう言うと、クラッドリングも少し怒っていた顔が渋い顔に変わった。
どうやらクラッドリング自身も思い当たるのだろう、エーレルもそんな感じなのだろうと思った。
「ま、それは仕方ないな。 私だって、それは感じている。
それは何もラミアだけじゃないだろ、私はシルヴィからも感じている」
「確かにそれはそうですね、私もエーレルだけではないです」
「それにほら、今回はナーリアたちも産んでいるじゃないですか。
エレオたちは実の姉妹だから、私たちもって思っちゃうから余計なんですよ」
私たち3人は、みんな妻たちの子どもが欲しいという攻撃にさらされているようだ。
「しかし、今はまだな。
親父やバンダインが死にさえしてなければ、ここまでの忙しさではなかっただろうから、ラミアの里の者たちのように、今このちょっとした猶予の時間に子どもを作るというのも有りだったと思うのだが、これではな。
そのラミアの里も、ミーリア様の話によると、来春もう1人づつラーリア様たちが子どもを作ったら、ゴブの騒動が終わるまではもう子どもを作らない方針だそうだ。
子どもを宿していたら、戦力が不足してしまうからという配慮だろう」
「ゴブとの戦闘に、人間の女は出ませんが、ラミアは出ますからな。
ラミアの現在の人数では仕方がない事でしょう」
「とは言っても人間の妻が妊娠したら、エレオたちも子どもを作ることを止める訳にはいかないですよね」
「ま、そういうことだな。
今、人間の妻たちが妊娠すると、子どもが生まれる時期はラーリア様たちと変わらなくなってしまう。
ミーリア様が私にラミアの子作りの予定を話してくれたのは、次にラーリア様たちが子どもを産んだ後は、積極的には戦闘に加わらず、里の守りに回るからだそうだ。
子どもを産んで、一年くらいでは、まだ子も小さいし、激しい戦闘をこなすだけの体に戻らないだろうから、とのことだ。
だとすると、同じ頃に子どもを産んでしまうとエーレアたちも戦闘に出れないということだ。
今回のエーレアたちの不在で、仕事が滞ってしまったことからも分かる通り、現状ではそれはまずいので、今は子どもを作っている暇はないということだ」
私の言葉に、クラッドリングとブマーも異議を唱えない。
つまり自分たちも子どもを持つのを今は控えるということだ。
「すまないな、私が子どもを持つのを遅らせるのに、お前たちも付き合わせる形になってしまって」
「いえ、それはアルフレッド様のせいではありません。
ラミアの妻を持った者、皆がしなければならないことです。
ラーリア様たちが次の冬に第二子を作るというのは、ラミアの人数が少ないことと、失礼ですが年齢のこともあってのことと考えます。
子を産んだ後、一年後以降に起こるであろうゴブとの戦闘に、主力としては出さないとミーリア様がおっしゃっているのも、やはり年齢的なこともきっと関係しているのでしょう。
ラミアは妊娠を自分たちの意思で決めることが出来るとは言いますが、その予定をミーリア様がアルフレッド様に早々に伝えてこられたのは、重要なことであるとともに、我々に気を遣われたのでしょう」
「ま、一年後に戦闘に出れるかどうかは別として、ここでエーレアたちに子を作るのはやはり避けた方が良いであろう。
エーレアたちになら、当然シルヴィたちもだな。
そんなことも考えて、私はデイヴィッドに息子が生まれたことは、とても嬉しく感じている。
これで私やデイヴィッドに何かあっても、伯爵家を絶やさずに済むからな。
さすがにラミアの夫を代々伯爵家の当主にする訳にもいかないだろうからなぁ。
私はそれでも良いとも思うのだけど、王宮はなかなか認めはしないだろうから」
「いえいえアルフレッド様、そんなことを考える必要はないでしょう。
このゴブの騒ぎが終わった後でも、子どもを得る時間はたくさんあるのですから」
「何を言っている、お前だって同じ立場ではないか」
「私のところは、キースは人間の子は女の子でしたから。
でも私のところはキースの子のハーピーが家を継いでくれても、全く構いません。
そこはアルフレッド様とは立場が違います」
「とすると、次のゴブとの戦いで、一番生き残らなければならないのは、ブマーだな。
お前は1人で自分の家と嫁の家を背負っているからな。
私としては、お前には頑張ってもらって、最低2人は息子を得て、自分の家と嫁の家を継がせてもらいたいからな」
「私はアルフレッド様を守るのが使命です。
私だけが生き残る未来はあり得ませんから、そう言われても困ります」
私とクラッドリングの話は、半ば冗談、半ば本気という話だったのだが、ブマーは真剣に困った顔をした。
今はそんなことがないように、懸命に準備するのみだ。
そんな風に男同士で話をして、私たちはゴブの騒動が終わるまで、自分たちの子どもを持たないようにしようと決心していたのだ。
それに対する妻たちは、私たちは勝手にプレッシャーを感じていたのだが、実際には誰も「子どもが欲しい」と口にすることはなかった。
ラミアの5人は、今はとても子どもを作って良い状況ではないと自覚していたみたいだし、結婚式をした直後は人間の妻たちに「早く子どもを作って」と言っていたラミアの妻たちが、ぱったりとその言葉を言わなくなったからだろうか、それとも自分たちでも、状況的に今は駄目だと考えたのだろうか、人間の妻も「子どもを作りたい」とは言わなかったし、気をつけている様子だった。
私たち3人は安心したような、ちょっと拍子抜けしたような気分を少し味わったのだが、忙しさに紛れてしまい、そんなことはすぐに忘れてしまった。
それから私は、子作りに関して全く意識から外してしまっていたのだが、2ヶ月ほど過ぎたある日、シルヴィから話があると言われた。
私とシルヴィは、一対一で話をすることはほとんどないので、わざわざあらためて、そのような機会を設けて欲しいということだった。
一対一で、とのことだったのだが、話をしようとした場にはシルヴィは侍女のアニーも連れていた。
「アルフレッド様、すみません、わざわざ時間をとっていただいて」
シルヴィはとても話し辛そうな感じで話を始めたのだが、わざわざ時間を作ってまで言いたいことは、ほんの一言だけだった。
「どうも妊娠してしまったみたいなのです」
遡って考えると、シルヴィはどうやらエーレアたちがラミアの里に行っている間に、妊娠してしまったらしい。
そう言われて、もちろん私にもそういう可能性は十分に確かにあっただろうと思った。 覚えはありすぎるほどある。
エーレアたちを妻にして以来、ほとんど毎晩順番に妻を抱いていて、それが生活習慣になっていて、エーレアとエーレファがいない間は、シルヴィ1人をほぼ毎日抱いていたのだ。
子どもが出来ても、全くおかしいことはない。
アニーを連れていたのは、自分の生理があまり狂うことがなく、妊娠の可能性が高いことを証言してもらうためだった。
「申し訳ありません。
私も、あの頃、兄からの手紙でいろいろ考えてしまったりしていた直後で、子どもが出来るかもしれないということを忘れていました。
いえ、それは偽りの言葉です。
子どもが出来たら、このまま妻としてアルフレッド様と共に居ても良いと思ってもらえるかもしれない、などと考えてしまっていたのです」
「シルヴィ、はっきり言うが、子どもが出来ていようといまいと、お前は私の妻で、離れる気はないぞ」
「はい、今では分かっております」
そう私はシルヴィに声をかけたのだが、私は内心では子どもが出来た嬉しさよりも、やってしまったという思いが強かった。
結局私は、クラッドリングとブマーにも、子どもを作ることを解禁することにした。
でも一つだけ注文をつけた。
「ラミアの習慣では、人間の妻が子どもを産む時期に合わせて、ラミアの妻も子どもを産むことになっている、と聞いた。
でも今は、もしそうすると、エーレアたちが次のゴブとの戦いの時に戦場に立つのに間に合わないかもしれない。
だから特別に今回の子どもだけは、ラミアが先に産むことになっても構わない、ということにしてもらいたい。
エーレアたちには、ラーリア様たちの第一子の時のように、緊急時として考えてもらいたいし、シルヴィたちにもそれで了承してもらいたい」
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