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私たちの近接戦闘能力は

 私は同世代との交わりが少なかった。

 いや正確には同世代に限らないから、他人との付き合いが少なかったというべきなのだろう。


 元々小さい時から、引っ込み思案で、自分から積極的に他人と交わろうとしなかった性格だったからなのだが、上位に上がりアーリアになってから余計にその傾向が強くなってしまった感じがする。


 アーリアは本当に最初から問題だらけのグループだった。

 今になって考えると、私たち5人ももっと積極的にアーリルに協力して、グループとしてちゃんと行動できるようにしておくべきだったと、深く後悔している。

 グループのリーダーとしてのアーリアに一番問題があったのは、私は今でもそれが一番の問題だったと確信しているのだけど、アレアに指摘されるまで、私たちにも問題があることを考えなかったことも、本当に問題だったと思っている。


 少し話が逸れてしまったのだが、アーリアとなって、アーリアに反発していたのに、私たちはアーリアの考え方に引き摺られて、自分たちアーリアが自分たちの代の他のグループより一段上の存在と思ってしまって、アーレア・アーロアに所属する同世代と、何だか話が合わなくなってしまっていたのだ。

 それでいてもちろんアーリアと、幼い時から一緒だったアリオ、アーリドの3人とは反発から話すことはなく、アーリル、アリファの2人とも自分たちをアーリアグループとしてどうにかしようとするのが煩わしく感じて、話をしなかった。

 一面では、私たち5人のリーダーとして、またアーリルと同室となっていたこともあって、アーリベがアーリルとアリファと親しくなったことに、軽い嫉妬心を覚えていたのかもしれない。

 そんな訳で、私は幼い頃から一緒のアーリベ、アーリク、アリト、アーリナの4人以外とはほとんど交流を持っていなかった。


 そんな私だが、上位になると必然的にもう一つのグループに属することになった。

 それはラーリン様を頂点とするラーリングループに属することになるからである。

 こっちはなんて言うか、本来は上位としての色々を、自分が上の人の補佐として一緒にすることによって身に付けていく為なのだが、実質的には私とアーレン、アーロンが、主にラーリン様、それからミーリン様とミーレン様の下働きと言うか小間使いをするという感じのことだった。

 それだから偶に、アーレン、アーロンと、ラーリン様、ミーリン様、ミーレン様に仕えることの愚痴を言い合ったりすることはあったのだけど、それでもそのグループで親しくなるという感じには、そんなにならなかった。


 ラーリングループがグループ内で急速に親しくなったのは、ゴブとの最初の戦いが終わった後くらいからだった気がする。

 その頃から、ラーリン様を頂点とするラーリングループではなく、キースを夫とする妻たちのグループに、グループが変化した気がする。

 それは一つには、その頃からキースから精を得る順番が、妻たちの中で完全に平等になったからかもしれない。


 そしてもう一つにはその後、アーリアとアーリルがラミアの里を出て行く事件を引き起こした直後、キースがハーピーの里をアレク、デイヴと共に訪ねるという行動を起こしたからだ。


 正直に言って、それまで私はキースから精を得られることは嬉しかったけど、そんなにキースのことを特別に思っていた訳ではなく、キースがラミアの里を離れてハーピーの里に向かったことも知らなかった。

 その頃の私は、まだ自分たちが最初のゴブとの戦闘でしでかしてしまったことの、精神的な処理が終わってなくて、ラミアの里全体の問題なんて全く頭の中で考えてもいなかった。

 それだから、そのキースたち人間の行為が、どんな意味を持ち、どれ程自分の命を賭けた行為であったのか、咄嗟に思い起こすことが出来ず、ナーリアたち、イクス様、ラーリア様らがどれほど3人を心配したかも、全く思い至らなかった。


 その件をラーリン様は知ると、それまでもラーリン様はキースを大事にしている雰囲気があったのだが、それ以前よりももっとキースを大事に思うようになったのが私の目には見え見えだった。

 そしてその詳細は公式には冬籠り前は隠されていたのだけど、私たちはみんな知っていた。

 それはその時の人間の行為に感動したナーリアたちが、自分たちの中だけで秘密にしておくことがどうしても出来なくて、自分たちの姉妹たちに話してしまい、その話に感動した姉妹たちが、やはりそれを自分たちの中だけで留めて置けず、公式にはナーリアたちとイクス様、そしてラーリアグループとミーリア様だけしか知らないことになっていたのだけど、上位全員とナーリアの姉妹たちは詳しく知る事となってしまっていたからだった。


 それ以前から、そうゴブとの最初の戦闘の時からは特に、人間たちに対してみんな好意的ではあったのだけど、それ以来は上位ラミアは雰囲気が変わった気がする。

 みんな自分が担当する人間を、精を得る対象として考えるのではなく、一緒に子を生す対象、つまり夫として考えるようになった気がする。

 そして早く彼らの子を得たいという思いを強く感じるようになった。


 私も、キースの行いの詳細を聞いた時には衝撃が走った。

 人間たちがラミアの行く末を気にかけ、そちらをどうにかしようと自分たちの命を賭けて行動をしてくれたことに、涙が止まらなかった。

 それとともに強烈に自分が恥ずかしかった。

 先の戦いでのことを反省していたのに、やはり自分はまだ何も変わっていなかった、と。

 そして私も、他の上位の人と変わらず、なんとしてもキースの子供が欲しいと思ってしまった。


 そう、キースの子供が欲しいと思ってしまったのは、他のラーリングループの人と全く変わらなかったのだ。

 そしてそれは同時に、キースのことがとても大事で、キースの役に立ちたいと思う気持ちも一緒だった。

 私たちはキースの妻としてどうしたら良いかという共通の意識を持つことになったということだった。

 キースの妻として何が出来るかというのは、とても難しい問題だった。

 というのは、キースは元々がデイヴの護衛の騎士見習いだったこともあり、デイヴと行動を共にすることも多い上、キースとデイヴ以外、アレクもちょっと違うけど、他の人間の男のように特定の任される仕事を持たなかったからだ。

 人間との交渉のために里を離れることも多いのだが、私たちはそれに付いていくということも出来なかったし、ラーリン様の産んだラメリーの世話もマリが来てからは、マリが担って、ナーリアたちの家に連れて行って、メリーを中心とした子供たちに任せることが多くなってしまい、私たちが妻として担うことがほとんどなくなってしまい、どうしようかと迷うこともあった。

 幸いにもキースのお母さんがラミアの里に来てくれてからは、キースのお母さんが呼ばれた理由である人間のお産の助けになる前に、若い子や子供たちの食事作りをするようになり、私たちはそれを手伝う形で、私たちキースの妻たちがラミアとしては主に手伝う仕事を持つことが出来た。



 今回のフロード残党の騒ぎは、痛ましい犠牲を生んでしまい、今後に大きな問題を残したことは、私にも容易に理解することが出来る。

 その問題の大きさももちろん問題なのだが、私は自分たちのこととしては、もっと切実に問題と思うことがあった。


 私たちは都合上、町の防衛戦ではなく、砦の救援戦の方に若い子たちを率いて参加することになった。

 その救援戦自体はセカンとディフィーの策が当たり、結果としては完勝することとなった。

 しかし、私自身を鑑みると、はっきり言って完敗だったと感じている。


 私たちの近接戦闘は、人間の騎士たちと比べると力でどうしても劣り、それを技でいなして、互角に持ち込まなければならないと分かっている。

 訓練もそこに重点が置かれていて、その技量を磨いてきたつもりだった。

 そして訓練では、ラミアの里にいる人間の男たち、つまりキースたちには敵わないけど、砦から訓練に来た男たちとは互角にやりあえるまでになっていたつもりだった。

 ところが今回の実戦では私たちは完全に押し負けていた。


 今回の戦いで、主に近接戦闘を担ったのは、たまたまラミアの里に来ていた砦の男たちで、私たちラミアは若い子たちを守るために、男たちを無視してこちらに向かって来る敵だけを受け持つことだった。

 ミーリオ様、ミーリン様、ミーレオ様、ミーレン様は私たちより敵に近い位置に身を置き、それぞれに向かって来た敵に立ち向かい互角に渡り合い、討ち取ってもいた。

 それは今回の敵の武器がほとんどが剣だった有利さもあると思うが、きっともしそうでなくとも4人は十分戦えていたと思う。

 特にミーリオ様は4人の中でも頭抜けていて、苦戦するような雰囲気は全くなかった。


 私とアーレン、アーロンは、その4人の後ろで守っていた。

 アレオ、ロー、そして今回特別に助太刀を頼んだアーリア、アーリルは今回が初の実戦の若い子たちに最後の守りとして付いていて、私たちのように敵の方に移動はしていなかった。

 私たちラミアの方に向かって来る敵は、私たちの前を行く4人に止められて、私たちまで少しの間来なかった。

 それでもその4人を2人の敵が抜けて来て、私たち3人と敵2人の戦闘となった。

 その時私たち3人はその敵2人に押されてしまったのだ。


 正直に言って、私は生きた心地がしなかった。

 私たちがここで抜かれてしまえば、近接戦闘能力の全くないと言ってよい若い子たちの所まで敵が達してしまうのだ。

 若い子たちのところには、アレオ、ロー、アーリア、アーリルが居るといっても、私は自分の槍の技量はアレオ、ローとそんなに変わらないと思っていた。

 槍を持たないアーリア、アーリルの剣の技量は元同じアーリアだから、仲が悪かったとはいえ良く知っていて、私よりは上だ。

 だが、その剣の腕が私たちが槍を使う有利を上回るほどのモノではないと私は感じていたのだ。


 私は3対2なのにギリギリという感じで戦っている中で、視界の片隅に焦って応援に駆けつけようと走っているアレオとローの姿を見た。

 そしてアーリアとアーリルは若い子たちを少しでも戦場から遠ざけようと誘導しているのを見た。

 きっとアレオたちも自分たちの近接戦闘能力を、私たちと変わらないと判断しての行動だろう。


 私たちの危うい戦闘は、その場にアルフさんを先頭にした砦の騎兵が駆けつけてくれたので、事なきを得た。

 私は後から、私たちの戦いを上から見ていたモエギシュウメが、私たちの危機を助けるためにアルフさんを誘導したのだと気がついた。


 戦いが終わってラミアの里に戻ったが、アレオ、ローを含む私たちはとてもショックを受けていた。

 もちろんミーリア、ミーレアは私たちより上位の存在で私たちより強いことは分かっていた。

 でも私たちより上位の4人は人間の男と互角に立ち合っていたのに、私たちは3対2でも押されていたのだ。

 特に私がショックに感じたのはミーレオ様の強さだ。

 ミーリアの上5人が他のミーリア・ミーレアより強いのは訓練の時に見ていて分かってはいた。

 そしてそのミーリアの上5人にナーリアたちとアレア、そしてロアは互角なのだ。

 それだけじゃない、その5人よりミーレナさん、そしてアリファは強いのだ。


 アリファの近接戦闘能力が、去年私たちが冬籠りする前は、私たちとほとんど変わらなかったことは分かっている。

 というより怪我をして片手が使えなくなったから、戦闘が出来ないと上位を引退したのだったのに、私たちが起こされた時にはアリファは鉄壁とか不死身という二つ名を持つ様な、1対1の戦いではイクス様さえ、どう攻撃したら良いのか考えてしまうような、近接戦闘能力を持つようになっていた。


 「アリファだけじゃなくて、アレアにロア、ナーリアたち、人間の男たちだって、私たちが冬籠りする前は絶対に今みたいに強くはなかったと思うわ。

  ミーレナさんは、英雄になるだけの強さが元々あったのだから別かもしれないけど、それでも片手が使えなくなってもあの強さは異常に感じちゃうわ」

 「つまり、サーブが常々言う様に、昨冬冬籠りしなかった者は、みんな今の私たちよりずっと厳しい訓練をして、それぞれに強くなったということだな。

  私たちも今のままではダメだということだ。

  もっと厳しい訓練をしなければ絶対駄目だ」


 今回の戦いに出た私たちの同世代5人は、集まって色々と話し合ったのだが、アレオとローが、何だか2人してそんな風に纏めた。

 アレオとローの方が実際に敵の人間と戦った私たち3人より、ちょっとだけ軽い感じがしてしまったのは私だけだろうか。

 私はなんだかそれだけでは駄目な気がしてしまうのだ。

 確かにミーリオ様は互角以上の戦いをしていたけど、あとの3人は互角の戦いだったのだ。

 私たちは、まずはその3人のレベルを目指さねばならない。

 でも今回は、主な戦闘は人間の男たちが担っていて、そこから溢れた敵が向かってきただけだった。


 「それにさあ、今回は騎兵に助けられたのだけど、もし騎兵が敵として向かってきたらと考えると、私にはどうして良いか想像もつかないわ」

 「これから後の敵は、組織された人間というのはないわ。

  対処しなければならない敵は大型のゴブだから、その点だけは大丈夫よ」

 アーレンの言葉にアーロンが答えていた。

 まあ騎兵は実際に駆け込んで来るのを間近に見た時には、本当に味方で良かったと思ったし、敵が騎兵を運用していなくて助かったと思ったけど、今後に関しては私もアーロンと同意見だ。


 でもとにかく私たちはもっとどうにかしなければならない。

 だけど、それは子供を産んでからのことだなぁ。

 そっちはもっと重要だ。


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