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みそっかす

私の姉妹は人数が少ない。

ナーリアとサーブの姉妹は7人ずつ、セカンも6人姉妹なのだけど、私は4人姉妹だ。

少し大きくなってレンスが加わった時、レンスは一人っ子で姉妹がいないと聞き、『姉妹がいないラミアなんているんだ。』と幼心に驚いたことを覚えている。


私の姉妹はみんな体が小さく力がない。

サーブの姉妹はサーブをはじめ、小さい時からみんな力強く、小さい時は一番強かった。

ラミアとして一番最初に覚えさせられる穴掘りも、サーブの姉妹はどんどん力任せに掘っていって、終わらせていった。


セカンの姉妹は、その次の壁を白く塗ることは上手だった。

白い柔らかい石を砕いて細かくして、ある草の茎をしごいて粘りのある汁を出し、それと混ぜて壁を塗る塗料を作るのだが、彼女たちはその仕事も早いが、出来上がりも他の姉妹が作るものとは一味違った。

もちろん壁に塗った仕上がりも違う。

彼女たちが塗った壁は一面ムラ無く白く輝くのだ。


ナーリアたちは、サーブたちほどではないが、力もあり、セカンたちほどではないが、器用でもあった。

とにかくなんでも出来るのだ。

それに比べて私たち姉妹というと、まずとにかく力がない。

穴掘りは一生懸命するのだが、掘れる速度はサーブたちの半分にもならない。

塗料作りもセカンたちを見て真似ることは出来るのだけど、何故かうまくできない。

4人とも真面目に仕事に取り組むのだけど、どこも他と比べて良いところがない。


もう少し大きくなり、剣や弓を教わる時になったら、もっと他の姉妹との差を感じることになった。

木刀を振ればフラフラしてまともに振れないし、弓は子供用の柔らかい弓なのに、まともに引くことも出来ない。

ラミアとして何一つとして、他の姉妹と比べるとできることがない。

私たちの母親は、みんなラーリアだったというのだが、私たち姉妹のこの非力さは母親からの遺伝だと言われたのだが、どうしてこんな非力な体質で私の母親はラーリアだったのだろうかと思った。


そんな私たち姉妹の中でも、私はずば抜けて力がなかった。

体も小さくて、力もなくて、姉妹の中でも落ちこぼれで、他の同世代と比べられると、とても同世代には見えないと大人のラミアに言われる程だった。

それだから私は同世代の中で、出来なくて当たり前、何も出来なくても仕方ないと思われている存在だった。

それに4人姉妹の中で、唯一父親似のところが何もなかった。

髪の色も母親似、瞳の色も母親似、肌の色も母親似。

他の姉妹は、他のラミアとのおしゃべりの中、「力は母親に似てないけど、髪の色は父親由来なの。」などと自慢できるが、私にはそれもなかった。


私たちの世代がグループ分けされる時、私は何故自分がこのグループになったのか全く理解できなかった。

サーブはサーブの姉妹の中で一番力が強く、剣も弓も一番上手だった。

だけど、剣の修行も、弓の修行も1人で熱中し、他の姉妹と歩調を合わせるなんてことは全くない。

ナーリアはナーリアの姉妹ではちょっと浮いた存在だった。

普段はちょっとぼんやりした感じなのだが、何かをする時は、自分の姉妹にズバッと指示をする。

指示された方は頭にくるだろうと思うのだが、その指示に従う限り、物事がとても上手く進むから、始末が悪い。

ムカつくけど、従わない訳にもいかなくて、結局ナーリアとは姉妹なのに微妙な距離ができていた。

セカンはもっと酷かった。

セカンの姉妹の中でも、セカンの器用さというか優秀さは群を抜いていて、セカンは1人だけ何の苦労も無く何でも出来てしまう。

出来ないセカンの姉妹が、セカンにコツを尋ねるとセカンは「え、何でこんな事が出来ないの?」と心底不思議そうに逆に尋ねる始末。

それが悪気は全くないのだから、余計にコツを尋ねた方にしてみれば堪える。

父親似の部分がないことも、遺伝なんて自分で選べる訳じゃないのだから気にしても仕方ないと、全く話に関心を示さない。

完全に姉妹の中から浮いていた。

そんな中に私も入れられた。

確かに私も姉妹の中で能力が最悪で浮いた存在と言えたかもしれないが、他の3人とは立場が違う。

言えば他の3人は、姉妹の中で優秀だから浮いていたのだが、私は逆に不出来だから浮いていたのだ。

そして私たちのグループだけ、4人だった。


正直私はこのグループに馴染めなかった。

グループの中で、どういう訳か私はそれまでのようにぞんざいに扱われることはなかったし、何かと話かけられ、意見を求められた。

私が気づいたこと、感じたことを言うと、このグループの中では私の言葉をとても重要なもののように扱われ、私の言葉で行動が決まることもしばしばだった。

私はそれが不思議でしょうがなかった。

それまで私の言葉は姉妹の中で最も軽く、意見を求められることさえ、ほとんどなかったから。

セカンが、「他の人はそんなこと気付かない。 私も全く気づけなかった。 あなたは凄い。」と言ってくれたことがあるが、何を言っているのか私にはさっぱり理解できない。


4人だった私たちに、後からレンスが加わった。

その時私は「ああ、この子が後から加わるから、私はこのグループに加えられていたのだ。」と早合点してしまった。

レンスはぱっと見、私とそんなに体格差もないので、後からこの子が来るから、先に小さい私で、他のグループメンバーを慣らしていたのだと思ったのだ。

でもそれは大きな誤解だった。

私たちはすぐにレンスの途轍もない才能を目の当たりにした。

とにかく速い、音を立てない、気配を消せる。

どれ一つとして、とてもじゃないけど真似のしようがないと私は思った。

セカンとナーリアが興味を示して、レンスに教わっているが、とてもレンスの域には近づけない。

私には、セカンがレンスほどではないが、その技能を身につけたことが本当に驚きだった、自分には考えられない。

でもここまで自分とかけ離れていると、劣等感を感じるまでもなくて、私は何となくレンスとは仲が良くなった。

レンスにしてみれば、他のメンバーと同じように仲良くなったのかもしれないけど。


そんな私たちにアレクが加わってきた。

人間が自分たちのグループに加わるなんて、私たちからしてみればありえない話で、最初はどうしたら良いのかわからなくて狼狽えたけど。

何故か割と簡単に馴染んでしまった。

私はどちらかというと、アレクに接するのは最初から好きだった。

アレクは人間だから、私が他のラミアに感じる劣等感とは全く無縁の存在だからである。

それにアレクは人間だからかもしれないが、とても注意深く周りを観察していてくれて、私たちが普通過ぎて気付かないことも指摘してくれたりする。


私はアレクにピンクの髪や、紅い瞳を綺麗だと褒められた。

嬉しかった。

私にとってピンクの髪や、紅い瞳や、赤みがかかった肌の色は母親からの遺伝で、誇るどころかどちらかというと劣等感をもたらすことでしかなかった。

その私の髪と瞳を、アレクは綺麗で好きだと言ってくれた。

私の髪と瞳が、綺麗だという評価の対象になるというのが、私にとっては全く考えたことのない価値観で、心臓がひっくり返りそうに驚いたし、嬉しかった。

そしてそれからしばらくして、髪がパサついてしまう私に、アレクはその対処法も教えてくれて、私たちにブラシも作ってくれた。

私は嬉しくて、髪の手入れを一生懸命にした。

自分でも自分の髪がどんどん美しくなるのが分かるようだったら、周りのラミアに呼び止められる様になった。

「何であなたの髪は、そんなに綺麗なの?」

私の髪は、劣等感をもたらすものではなく、私の自慢になった。

でも、そのおかげでブラシ騒動が起こるとは思わなかったけど。


アレクはそれ以外でも私を高く評価してくれる。

アレクと一緒に初めて鹿を獲った時も、実際に鹿を仕留めたサーブよりも、その作戦を考えた私のことを1番の手柄だと褒めてくれた。

私にはそういう考え方もあるのかと、またアレクに驚かされた。

そして、他のメンバーがそれに対して何も文句を言わず、当然のこととしてそれを認めてくれたことも嬉しかった。

私もメンバーが認めてくれるのだと。


だけど、力が弱いことだけはどうにもならない。

新しい弓を作ったけど、私の力ではしっかり引けず、私の放つ矢は獲物にやっと傷をつけただけだった。

みんなは前と同じに私の作戦で獲物を獲っているのだから、私はしっかりと役を果たしている、矢が弱くても何の問題もないというスタンスだが、そう思ってもらえるのは嬉しいけど、私の心は晴れない。

私もみんなと同じ様に役に立ちたいのだ。

アレクは私の願いを一生懸命考えてくれて、私専用の弓を作ってくれた。

作ったアレクも驚いていたが、使った私が一番驚いた。

私でもサーブと同じ強さ、距離が出る矢が放てるのだ。

その代わり流石に射るのに時間がとてもかかってしまうが、それは仕方ない。

私の矢がみんなと同じ様に狩の役に立つのが嬉しかった。

ナーリアが「サーブとディフィーが射てば、他はいらないんじゃない。」と言った時には、何だかこそばゆくて、顔がニヤけるのを我慢するのが大変だった。


こうして考えてみると、私はアレクに助けてもらったり、救ってもらったり、してもらうばっかりだ。

私も少しはみんなと並べる様になったのかなと思うけど、それよりも今は少しでも逆にアレクの役に立ってあげたい。

何をすればアレクの役に立てるのか、まだ私にはわからないけど、きっといつかはアレクの役に立ちたいと私は思っている。


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