私が見つけた
私たち姉妹は身体が、母親の遺伝だとのことだけど、他の同世代と比べて小さい。 そして力がない。
小さな子供にとって、身体が小さい、力がないというのは、もう致命的な欠点という感じで、私たち姉妹は人数が少なかったこともあり、常に他の同世代の仲間の顔色を伺う癖がついてしまった。 だって子供の時にする他と比較されるような事柄は、全て私たち姉妹は上手く出来なかったり、時間が掛かったりで、気を使っていないと周りの同世代から馬鹿にされるのだ。
そういった被害者意識というか、常に気をつけていないと、という危機感はつい最近まで私たち姉妹は持ち続けていた感覚なのだ。
私は同世代の中で、その中の意識とか、意見とかを上手くバランスを取り持ったり、仲裁することで、自分たちのひ弱さが問題にされないように、常に意識して行動してきた。 それは私たち姉妹の生きる知恵だった。
私はそんなふうに、ひっそりと目立たないように、波風を立てないようにして、ずっと生きていくのだろうと思っていた。
私たちはそうして今まで生きてきたのだが、ディフィーだけはもっと酷くて、私たち以上に姉妹の中で、小さく力がなかったからか、ひたすら自分の存在を消すという手段で、子供の頃から過ごしてきた。 私たち姉妹の中でもそれが普通となり、その存在が忘れられる時があるくらいだったから、同世代の中ではいる事を認識されていないのではないかと思うくらいだった。
それだから私たち姉妹の中では、ディフィーがナーリアグループになったのには、驚いた。 ディフィー以外はみんな姉妹の中で目立つ、異質な存在なのに、何で目立たないディフィーがそこに、と思って、ああ、異質という共通点はあるのか、と考え直した。
私はそれでもグループが決められたその時は、ディフィーは大変だろうなぁ、と同情を感じたのだけど、自分が姉妹以外と上手くやらねばならないことに気を取られて、ディフィーのことなど全く目に入ることのない日々を過ごしていた。
それは人間たちがラミアの里にやってきて、アレクがナーリアたちと一緒に暮らすこととなって、ナーリアグループだけが同世代のグルーブの中で特異なグループとなっても変わることはなかった。
私のエーレアグループというのは、リーダーはサーブの姉妹のエーレアだが、それはナーリアの姉妹がエレオ、エレドと2人いるからだ。 2人のどっちかがリーダーになると、揉めそうだったのだ。 エーレファはセカンほどではないが、我関せずという雰囲気があってリーダーになるという感じではないので、エーレアがリーダーになるしかなかったのだ。
エーレアはサーブの姉妹だから、体力があるのだが、サーブほど体力馬鹿という感じではなく、何というか、サーブの姉妹としては普通な感じだから、リーダーとなっても安心して見ていられる。
エレオとエレドは、ナーリアの姉妹だが、ナーリアの様に普段ぼーっとしていることもなく、何でもそつなくこなす、優等生という感じだ。 姉妹だから2人で仲が良いのだが、時々変に2人で張り合うのだ。 本当にそれさえなければと思う。
エーレファは流石にセカンの姉妹で手先が器用なのだが、私たちの世代はセカンの姉妹はセカンを基準で考えてしまう雰囲気があり、客観的には十分に器用だし力もあるし、みんなより素早く何でもこなすのに、セカンに比べられてしまうから、ちっとも評価されない。 まあそこはエーレアもサーブと比較されて評価されない部分があるからか、その辺通じ合う物があるのか2人は仲が良いのだ。
で、私はというと、その4人の中で浮かないように、ずっと四苦八苦していたのだ。
仲の良いエーレアとエーレファ、実の姉妹のエレオとエレド、それに私という組み合わせの中で、別に無視されている訳でもないし、意地悪されている訳でもないから、私自身が過剰に意識しているだけなのだと思ってはいても、それでもグループの中での立ち位置に困って、私は常に気を使う状態だった。
そんな中、ゴブとの戦いがあった。
私たちは、その中で予期せず実戦をすることになってしまった。 逃げてくる人を守るために、追ってくるゴブに弓で矢を射たのだが、身体が小さく力の弱い私の矢は何の役にもたたなかった。 みんなは迫ってくる恐ろしいゴブに向けて矢を射ることに夢中で気付きもしなかったが、私の矢はそもそもゴブにまで届きもしていなかったのだ。
「ごめんなさい。 私、何の役にも立っていなかった」
私は事が終わった後、そう言ってみんなに謝った。
「えっ、何言ってるの。 エーレルがアーリアの人たちが捨てていった矢を自分たちで使おうって言ってくれなかったら、私たちはアーレアの人たちが来てくれる前に全滅だったわ。 私たちが今生きているのは、エーレルのお陰よ」
エレドがそう言って、みんなが逆に私に礼を言ってくれたが、私の心は晴れなかった。
でも、私に対するグループのみんなの見る目は、その時を機に少し変わった。
それは私個人の事柄よりも、ディフィーのお陰である事が大きい。
その時の戦いの作戦が上位の方々に天才的な作戦だったと称賛されたのだが、それを考え出したのがディフィーとセカンだったからだ。
私たち姉妹の中で、最も目立たなかったディフィーが、ラミア全体の中で天才的軍師という名声を獲得したので、その姉妹である私の言葉もグループの中で今までよりも何となく重くみられるようになったのだ。
それでも私自身のグループ内での功績は、実際にはほとんどなかったし、戦いの後、全く考えていなかった上位に昇格したのはとても嬉しかったのだが、いざなってみたら、その訓練にさえついていけずに落ち込んだ。
私たちは上位の訓練についていけないので、ミーリア様の命令でナーリアたちのところで見習いみたいな事をすることになった。
私にとって、いや私だけでなくエーレアグループにとって、これが転機になった。
まず私にとってはエーレアが脱皮が遅れたことにより、身体が小さいというハンデをエーレアが自分の実感として感じて、私の身体が小さいというハンデを自分の事として理解してくれたことだ。 それまでも私の身体が小さいというハンデはみんな考えていてくれたと思うが、エーレアをはじめとしてみんなが実感を持って、そのハンデを感じたのはやはり大きかった。
次に私たちは、ナーリアに身近に接することで、どれほど自分たちが甘かったか、周りを見ていなかったかを感じた。
確かにナーリアたちは私たちがそれまで知らなかったことを、アレクがいることと、禁足地に住むことになったことで、たくさん知っていた。 でもそれ以上に、ナーリアたちは知らない事を知ろうとし、知った事を自分たちも出来るように、使えるように常に努力していて、また工夫していた。 もうそれが日常で無意識のレベルなのだ。
これでは同じ姉妹たちとはいえ、どんどん差がついていくのは当然だと私たちは感じたのだ。
私たちが脱皮し、体格的にはナーリアたちに追いついても、私たちは可能な限りナーリアたちについて回る決心をしていた。 なるべくナーリアたちと一緒にいて、その知識や技術を覚えるのが、自分たちの成長へ一番近づくと感じたからだ。
しかし、身体の大きさはほとんど変わらなくなっても、弓の腕一つとっても私たちとナーリアたちとは大きな差があった。
その中、私もディフィーと同じ弓を作り、みんなと同じか、それ以上の強さの矢を放てるようになったのは、私の中ではとても大きな出来事だった。
そんな中、エーレアが大ポカをして、熊に襲われるという事件を起こしてしまった。 その時に見たアレクの姿は、私たちに本当の男はこういったモノなのだという深い印象を与えたのだが、よりショックだったのは、アレクを助けに熊に向かって行こうとしたナーリアたちの姿だった。
それまで私たちは、ナーリアたちは出来ることは増えてはいるけど、以前と変わるところはないと思っていたのだが、アレクを助けるために熊に向かってとっさに動いたその姿は、私たちが知っている彼女たちとは全く別の姿だった。
それから私たちはナーリアたちだけでなく、他の上位の人たちに対する目も変わった。
一枚鱗の落ちた私たちの目には、人間の男たちが急にそれぞれ魅力を持っているように見え、その精を受けている上位の人たちが、常に彼らをとても注意深く、常に意識していることがわかった。
少しして、ミーレア様の事件が起こった後、アレクとデイヴとキースがいなくなるという事件が起こった。
事件はナーリアが、「秘密だから、何も聞かないで」と言うので、私たちに真相は告げられないことになっていたのだが、私はディフィー、レンス、セカンから、その真相を聞いた。 3人は人間たちのした行動の感動を、自分たちの中だけで抑えることができずに、私に話してくれたのだ。 私も話を聞いて、それをみんなに伝えずには済ますことが出来なかった。
結局私たちだけでなく、姉妹たち全員に秘密のはずのこの話は伝わってしまったのだけど、私は上位の方々が人間たちを大事にするのは、やはり当然のことだったのだと妙に納得した。
私たちは冬籠りから随分と早く起こされた。
上位になってから初めての冬籠りだったので、まだ目が覚めきっていない私は当番として起こされたのかと思ったのだが、そんな生やさしいことではなく、上位はみんな起こされたのだ。
起きてみれば、それまでの冬籠りより余程早く起きて、長くは寝ていなかったはずなのに、ラミアの里は大きく様変わりしていた。
馬がいたり、人間の女がいたりにも驚いたが、それ以上に、ナーリアたちの姿が変わり、人間の男までが姿が変わっていたことには驚いた。
そして予想していたことではあるが、またしてもナーリアたちは私たちを置き去りにして大きく成長していた。 身体が変わっただけではない。 近接戦闘はミーレアの人たちよりも強く、任されている仕事の重要度も以前の比ではなくなっていた。
それに加え、私はミーレナさんとアリファ様にもショックを受けた。 特にアリファ様だ。
ゴブに追われ逃げる途中で利き腕を斬られて片腕が使えなくなり、上位を引退したはずのアリファ様は、不死身や鉄壁と呼ばれるような、最強という感じのラミアに変わっていた。 そして、ナーリアたちや男たちのアリファ様に対する尊敬心が凄い。 どれほどの努力をアリファ様はしたのだろうか。 私たちはまだまだ甘い。
そして私たちは、この里の変化がまだきちんと理解する間もなく、2度目の戦いに出ることになった。 とは言っても、私たちはただ追いかけるフリをするだけだったのだが、ナーリアたちは人間の騎士と、ラミアの里の男たちと一緒に砦に突入。 アリファ様、アレア様、ロア様が次に突入。 さらにミーリア様たちも突入したが、私たちは撤退という、私たちには何の危険もない任務だった。
ナーリアたちは、ナーリアは人間を含めた砦攻略の全軍の指揮をとり、その作戦はまたしても全てディフィーとセカンが考えたモノだったという。
私たちは、この戦の合間に、ラミアの里で暮らす男以外の男を、それはデイヴの兄たち騎士なのだが、少し知ることが出来た。 でも私には、里にいる男ほどの魅力は感じられなかった。
イクス様の次にラリオ様に子どもが生まれ、それから次々とラーリア様たちに子どもが生まれて、デイヴの兄がラミアの里にまたやって来た。 その護衛となったブマーもやって来て、2人と私たちは近接戦闘訓練をしてみた。
本音を言えば、起きているラミアの中で、精を得る男がいないのは私たちエーレアだけだったし、アルフさんはデイヴの兄だし、ブマーはキースの幼馴染みということだから、私たちは2人に期待する気持ちが大きかった。
だが期待は大きく外れてしまった。
里の人間たちは近接戦闘訓練ではミーリア様たちと互角に戦う。 もしかすると本当はミーリア様たちよりも強いかもしれないレベルだ。 それなのにこの2人ときたら、訓練最後の試合では、私たちに勝てないレベルだったのだ。
流石にそれでは私たちも、アレクたちの凄さを知っているので、彼ら2人を自分たちが精を貰う相手にするのは嫌だ。
そしてまた私たちはゴブとの戦いに出た。 今度は私たちの姉妹がナーリアの指揮の下、人間たちと共同でゴブと戦うことになった。 ただし、今回はこの共同戦線全体の指揮はアルフさんだった。
「今回の一番上の指揮官はアルフさんだというけど、何なの、あれは。 これからゴブとの真剣な戦いだというのに、ヘラヘラしてて、もっとピリッと出来ないのかしら」
エーレアが戦いの前のアルフさんを見て、そうイライラした感じで怒っていたのだが、何だかその戦いは初めから変だった。
アルフさんはデイヴの兄で、この地方の人間の領主の長男ということだから、とてもじゃないけどゴブとの戦いを前にしてヘラヘラ軽い調子でいられる立場ではないはずだし、里の男たちも私たちだけでなくナーリアたちとさえ、あまり話そうともしていなかった。
戦闘が始まると、ナーリアの指揮で私たち姉妹は、とても鮮やかにゴブに矢で打撃を与えていたのだが、いくら姉妹たちのクロスボウを使った戦法が有効だったとしても、私たちとナーリアを除いた姉妹は初の実戦に興奮して単純に自分たちの戦果を喜んでいたが、あまりに温い戦闘だった。
「こんなに楽な戦いがあるはずがない。 ナーリアたちの雰囲気もまだずっとピリピリしている。 きっとまだ何かある」
林の中で私たちラミアが隠れて休んでいる時に、私たちはそう思って、ナーリアたちから目を離さないようにしていた。 案の定、いつの間にかレンスとセカンがいなくなり、少しして戻って来たかと思ったら、ハライトが自分が傷つくのを無視して林に飛び込んで来るという事態になった。
「「「「「やっぱり」」」」」
私たちは、驚いて動きの止まった他の姉妹たちを急かして、ナーリアの命令に従って、即座に動くように促した。
それから後は、私たちも全く予期していなかった、パニック状態が起こっていた。 私たちもナーリアの指示に従うのが精一杯で、人間に毒を注入するのが初めての体験だったことに後から気がついたほどだった。
私たちはラミアの里に一度戻ってから、毒を注入した砦の人間たちのことが心配になった。 それは私たちが、精を貰う相手としては不合格にはしたけど、アルフさんとブマーという知り合いがいたからなのは確かだと思う。 ナーリアたちはそれぞれに役目を抱え、ターリア、ワーリア、ヤーレアは砦の人間に知り合いがいる訳ではない現状に、私たちが気にしなければならないという気持ちにもなったのだ。
そして私たちは砦に向かう途中、アレア様、ロア様と行き合い、人間たちが異常な状態になった理由を聞いた。 衝撃だった。
「戦いの前の日、彼らはそんな事をしなければならないという決心をして過ごしていたのか。 それも私たちに気付かれないように隠して。
ちっともヘラヘラなんてしてないじゃないか。 私は一体何を見ているんだ。 彼らの本当に薄い表面だけ見て、実像をまるで見ていなかった。 私の方こそ、戦いのことは指揮官のナーリアや、作戦担当のセカンやディフィーに全て任せてしまって、ヘラヘラしていたんじゃないか。
私は物事を色々な面から見なくてはいけない事を、先のゴブとの戦いの後で学んだはずなのに、また何も見ていなかった。 彼らが気楽に見せている顔の下で、どれほどの辛い決心をしていたかなんて、まるで気付こうとしていなかった」
エーレアがそう言ったが、それは私たちみんなの気持ちだった。
とにかく砦に行って、彼らを見ると、砦でもやはり酷い状況だった。 その中で、アルフさんとブマーだけは、世話をする女性がいないことに気がついた。
こんな時、絶対に異性が必要だと私たちは考えた。
それは本能的にそう思った、という訳ではない。 アンからアンが助けられた後のナーリアたちの話や、その後アンが人間の領主の館に行った時の話を聞いたり、ミーリア様たちから、アンを助けた後の初の実戦を経験した男たちの事を、惚気話で聞いていたからだ。
アルフさんに一目散に近づいていったエーレアとエーレファの気持ちは、私にも十分理解できるモノだった。
私がエレオとエレドに「ブマーの方をみてあげて」と言うと、2人も即座にそれに従った。 きっと私が言うまでもなく、そうする気だったのだろう。
私がアルフさんとブマーに食べさせる粥を、アンが言っていた通りになんとか作り、2人のところに届けると、私はふと自分だけ手持ち無沙汰になったことに気がついた。
たぶん、いやきっと確実に、エーレアとエーレファのところに行っても、エレオとエレドのところに行っても、受け入れてくれるだろうな、と私は考えた。
さて、どっちにしようかと私は考えていたのだが、ふと1人茫然としている人物がいることに気がついた。 キースの兄のグラッドさんだ。
グラッドさんは、この砦や今回の人間の部隊では、アルフさんの次に地位が高く、アルフさんが正常な状態でない今は、全ての責任をその肩に背負っている。 でも今はそれ以上に、アルフさんとブマーにどう対処して良いかわからなかった現状が、私たちが砦に来たことにより、とりあえずなんとかなり、思わず気が抜けたのだろう。
そう思って、グラッドさんに声を掛けようとして顔を見た時、私はグラッドさんの目を見て気がついた。
グラッドさんも、今回の件でとても心が傷ついているのだ。 2人の世話をしなければならなかったから、その傷ついた心を表に表さないようにしていただけで、やはり同じように深く傷ついていたのだ。
私は、こんな事を思ってしまったらいけないと思うのだが、そのグラッドさんを見て思ってしまったのだ、見つけたと。
私だけが気がついたのだ。 私だけが助けてあげられる心優しき強き男。
私はグラッドさんに近づき、頭を抱きしめてあげた。
グラッドさんは私に縋り付くように、強く抱きついてきた。
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