私も(温泉でのおしゃべり)_2
「でも、こんなこと聞いて良いのか分からないけど、イクス様ってレンスのお母さんなんでしょ。
アレクって、本来はナーリアたちの夫だったんだよね。
娘の夫の子供を作るのって、ラミアだと普通なの。」
なんだかエリの知りたがりというか、疑問を質したいという気持ちが、他のことを凌駕してしまったみたいだ。
私もだけど、みんな良くそんな微妙な事を口に出せるな、という顔をした。
「あのね、イクス様がアレクの子供を作ることが決まった時は、ナーリアたちは今とは違い他の姉妹たちと同じように体が小さくて、まだ子供が作れない体だったのよ。
実際の事を言えば、ナーリアたちはまだ体が変化したばかりだから、変化した後でもこの春にはアレクの子供が産めなかったから、来春まで我慢ということになったということよ。
それで子供を作れる体の大きさの他の上位の人たちは、みなそれぞれに他の人間が夫になっていたから、イクス様の他にアレクとの間に子供を作れるラミアがいなかったから、ということみたい。
もちろん、イクス様がアレクを気に入っていたということもあるけど。」
「うん、何ていうか、アンが説明してくれたこ
とは理解できるけど、やっぱりなんとなく違和感を感じはするわ。」
マリがそう言った。
「ナーリアたちは、自分たちが作れないなら、イクス様がアレクの子供を作ってくれるのは、悪い選択肢ではないと受け入れたみたいよ。
アレクにだけ子供がいないという事態は絶対に避けたかったみたい。」
「その辺が私たちには違和感を感じる部分かな。
自分が相手の子供を欲しいと思う気持ちは一緒だと思うけど、それが出来ないならたとえ選択肢が他にないと言っても、自分たちの仲間の母親というのはちょっと私は嫌かな。」
エリがマリの言葉に重ねるように言った。
「それは人間が種族絶滅の恐れを感じていないからだよ。
私たちハーピーはラミア以上に今現在種族絶滅に対する危機感があるから、私はナーリアたちがアレクの血筋をなんとしても残す事を最優先に考えた気持ちは良く分かるよ。
エリとマリは実感として分からないのかもしれないけど、アレクだよ。
亡くなったハルオン様が歴史を動かしたとまで称する男だよ。
種族のためにその血筋を自分たちの中に取り込んで絶やしたくないと考えるのは当然だよ。」
モエギシュウメのちょっと強い言葉に、2人はびっくりしたようだったが、2人よりアレクにもラミアたちとも長く一緒にいる私は、その言葉に深く同意してしまう気持ちがあった。
ラミアの里にいる男たちは、最初からそうだったのかどうかは分からないけど、自分が知る限りは、みんな素敵などこに出ても尊敬されるだろうと思うような男たちだと思う。
その中でも、一番近くにいるから少し贔屓目もあるかもしれないけど、アレクは周りから一目置かれている存在なのだ。
周りから一目置かれている存在という事ではラミアの中で、ラーリア様、イクス様、ミーリア様にミーレナさんはもちろんなのだが、ナーリアたちもそれぞれ一目置かれている存在だ。
そんな人たちから始まり、若い子に至るまで、みんなアレクのことは一目おいているのが分かる。
正直私は、若い子たちの視線がみんなアレクを気付かれないように追っていることに驚愕した。
もちろん私も含めたナーリアは全員常に何気にアレクの姿を追っているのだが、アレクに対するそういう視線は、常にそこいら中のラミアから感じるのだ。
どれほどラミアにとってアレクの存在が大きい意味を持つか、私は感じざる得ないのだ。
エリが気にするのはデイヴだし、マリはキースだ。
だからアレクに対するラミアの視線にはきっと鈍感なのだろう。
「ウスベニメもモエギシュウメと同じように思うの?」
エリがなんとなくウスベニメを疑った感じで聞いた。
「えーと、私が個人的にアレクをどう思っているか、というかどう思っていたかは別として考えれば、モエギシュウメの言うことに全面同意よ。
あと、私のアレクに対する個人的感情は私の一方的な誤解から始まっていることで、今では全くアレクが悪かった訳ではないことが分かっているのだけど、理性で分かっていて、誤解が溶けても、ちょっと苦手に思うところは残ってしまうのよ。」
「ふうん、でもモエギシュウメの言ったことは全面的に同意するんだ。」
「それはそうよ。 あれだけ優秀な男だもの、種族としてはぜひとも取り込みたいと思うのは当然だもの。
モエギシュウメが言うように、そこはハーピーもラミアと変わりはないわ。」
これだけ聞いても2人は実感としては分からないだろうなぁ、と私は思った。
私も実際には分かっているかどうか怪しいのだけど、私はハルオン様が、ラミアを種として絶やさないために父祖様がどれ程苦労されたかの話を、たまたま実際に聞くことが出来た。
それから、その後のラミアの苦難も、領主様たちとの交渉の場などに近くにいたせいで、色々と耳に入った。
だから、なんとなくその苦難も、ハーピーにも同様の苦難があることが想像はできる。
きっとその違いだろう。
「でも、ウスベニメはなんでそんなにアレクに対する個人的な感情は別にしてって強調しているの?」
エリの興味はちょっと移ったみたいだ。
ウスベニメが言葉に詰まった。
それを見てとても嬉しそうに揶揄う調子でモエギシュウメが暴露した。
「ウスベニメはアレクの事を誤解から嫌っていたのよ。」
「えっ、どういうこと。
アレクって、見るからに良い人じゃん、キースからも誰からも、最初人付き合いが悪かったという話以外、何も悪い話聞かないよ。」
マリがそう言うと、モエギシュウメは一層楽しそうに、
「ウスベニメはね、アレクに自分たちが入っていた温泉に、近寄ってこいと言われたと、嫌っていたのよ。
アレクはただ、ラミアの習慣に馴染んでいたので、裸という事を気にするのをつい忘れてしまっただけなのだけどね。
ウスベニメは変にそこら辺が潔癖だから、それで一気にアレクを嫌っていたという訳。」
「あ、それ、なんとなく分かる。
私もラミアが裸を全く気にしないのは、まだ違和感あるもの。」
マリはモエギシュウメがウスベニメを揶揄う調子で話しているので、ウスベニメに同情する感じで言った。
「私も、違和感があるというのは分かるのだけど、そんなに目くじら立てることでもないとも思うのよね。
だから、私はラミア派かな。
だって、ハーピーは目が良いから、実際のこと言えば、見ようと思えば結構人間の男の裸も見えちゃうんだよね。
それはやっぱりマナーとして、見ないようにするけどさ。
でも、それもなんだか一々気にしている自分たちの方が、実は気にしすぎで、意識がそっちに囚われているんじゃないかとも思ったりもするんだ。」
「そうか、ハーピーだと遠くから見えちゃうのね。」
「でもラミアが、裸を気にしなかったり、男の精を栄養としていたりすると言っても、倫理観が低い訳ではないよ。」
私はなんとなく弁護の口調になって2人に向かって言った。
「私もそれはラミアと付き合ってみて、認めるわ。
ラミアは決して道徳的に劣っている種族ではないわ。
種族特性として、女性型だけの種族ということと、エネルギーの得方がちょっと違うから、私たちから見ると一見では不道徳に見えやすいというだけだわ。」
「あら、うるさいウスベニメでもそれは認めるのね。」
「それはそうよ。 そんなのすぐに認めるに決まっているじゃん。
もう、モエギシュウメは私を揶揄いたいだけでしょ。」
「でもやっぱりびっくりするよね。
私もみんな裸で一緒に寝たりするんで、ちょっとびっくりしたわ。」
エリの言葉に私はつい、びっくり自慢みたいに言ってしまった。
「私なんて、初めてのここの夜、ナーリアたちがみんなアレクとし始めちゃうんだもの、本当にびっくりしたわよ。」
「え、何それ、私も知らない話だわ。」
モエギシュウメまで興味津々という感じになってしまったのに気がついて、私はしまったと思った。
「あ、変なことではないの。
私が初めてここに来た日って、私が助けられた日だから、アレクやナーリアたちも命懸けで私たちを襲って来た連中と戦ってくれた日なの。
その上、ナーリアは初めて自分で指揮をして戦いの場に赴いた日だったから、神経が昂っていて、収まりがつかなかったの。」
みんな理解出来ていない顔をしている。
「私もその時には分からなかったのだけど、初めて領主様の館に行った時、自分たちが襲われた証言をしたのだけど、その時本当に極限まで緊張したの。
そうしたら、その晩は神経が昂ってどうにもならず、アレクに抱きしめてもらってやっと収まったの。
ああ、あの晩のナーリアたちはこういう状態だったんだって、その時になって分かったの。」
ハーピーの2人はなんとなく理解したという顔をしたが、人間の2人は私のその説明でも分からないようだった。
ま、そういう極限状態になったことがないと分からないのかも。
おっと、そろそろ若い子たちが来たみたいだ、温泉から出なくちゃ。
「でもまあ、来春には私もデイヴの子供を産みたいと思っているから、それを考えるとラミアの人たちと変わらない気がするわ。」
エリがそう言うと、マリも
「私ももちろんキースの子を産むわ。」
とすかさず言うので、
「私だって」
と私が言い始めたのと一緒に、ウスベニメとモエギシュウメも
「私も。」
と言ったので、私は2人は誰の子を産もうと思っているのだろうと考えてしまって、言葉が中途半端になってしまった。