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指揮をするということ

私は初めて、自分が指揮して、戦闘をした。

正確には二度目なのだけど、最初の時はゴブに対して矢を射つだけで、それが上手くいかなかったら即座に逃げるつもりだったから、指揮したうちには入らない。

ただ単に矢を放てと号令しただけのようなものだ。


指揮をするということは、ただただ怖かった。

自分の命令で、友人たちが怪我をしてしまう、下手をしたら死んでしまうという状況に、否応なく追い込むのだ。 怖くない訳が無い。

私が指揮官として命令したことで、怪我をしたとしても、いや最悪死んでしまったとしても、誰も私のことを責めたりはしないんじゃないかと思う。

いや、そんなことはないか、アーリア様はさんざ指揮したことで責められているのだから。

ま、でも、今回の指揮では、何があっても私は責められはしなかっただろうけど、怖いことに変わりはない。

もし怪我したり、死んじゃったりしたら、誰が責めなくても、私自身が私を責め苛むのはわかっている。

指揮官て、こういうのをみんな覚悟して、やっているんだ。

今回だって、私は前衛の指揮をしただけで、全体の指揮はミーリア様で責任はミーリア様が負っている。

それでも私は全身ビッショリになるほど、緊張で汗をかいたのだ。


正直な話、私は何故自分が指揮官なんてことをやらされているのか、訳がわからない。

もっと言えば、私は何故私がナーリアのリーダーになったのかも解らない。

私たちの姉妹たちがグループ分けされた時、私はなぜ自分が4人だけの他とは違うグループに入れられたのかが分からなかった。

他の3人はなんとなく、集められた理由が分かる気がした。

セカンは何でも出来る、私たちの年代で一番優秀だ。

優秀過ぎて、他の人が何故自分と同じ様に出来ないのかを不思議がるのが、玉にきずなだけで、別格的存在だ。

サーブは力が一番あり、不器用だが、一度やると決めたことは愚直に繰り返し完全に自分のモノにしてしまう粘りがある。

そして一度自分でできる様になったことは、セカンにさえ負けない得意にしてしまう。

言えば努力の天才だ。

ディフィーは、また全然他の人とは違う。

私たちの姉妹の中で最も体が小さく力が弱いが、とにかく感覚が鋭い。

目が良かったり、耳が良かったりももちろんなのだが、とにかく人の感情の流れ、次に何をしようとしているのかを的確に読んで先回りするのだ。

ディフィーは常にいつの間にかそこにいるという感じで、自分が目立たない様に行動するのだが、一度それに気がついて気をつけて見ていると、常に目立たないポジションにいるのが意図的なのが分かる。

とても普通の人とは思えない。


実は私はディフィーのそんな特徴に気づいたのが、少し自慢だったのだ。

私の姉妹に、「あの子、凄いね。 いつでも気づかれないところにいる。」と指摘したら、誰もまともに取り合ってくれなかった。

「そういえば、居た様な、居なかった様な。 印象に全く残っていないわ。」

と言う。

かえって私はディフィーの凄さを実感した。


私がそんな風にディフィーに気が付いたり、セカンやサーブのことも注意して見ていたのは、私が空想が好きだからだ。

私は暇さえあれば頭の中で色々な空想をしている。

誰かが何かをすると、そのしたことを別の人がしたらどういう結果になっただろうか、なんて空想するのが私は楽しくて仕方ないのだ。

時にその空想した相手が、実際にその行動をすることがあると、その時ほどワクワクすることはない。

自分の空想と同じ行動をするのか、それとも違う行動をするのか、それが検証できるのだ。

だんだん私はその空想が緻密になってきたのが分かった。

一人の人を対象にして空想しても、いくつかのパターンを考える。

そのいくつかのパターンが、人によって大体決まってきてしまうと、その人がそれ以外の行動をとる様なシチュエーションてどんなことだろうとまた空想してしまう。

キリがないのだが、楽しくてやめられない。


そんな私なのだが、セカン、サーブ、ディフィーの3人は空想できないのだ。

セカンが何かする時のことを考えると、誰か手本になる人のことをセカンは見て、そのすぐ後に、その手本になってくれた人以上のことをする姿しか思い浮かばない。

サーブは手本の人を真似するが全く出来ないのだが、愚直にひたすら練習して、最終的には手本の人を負かしてしまうか、さもなければ徹頭徹尾全く出来ないかのどちらかだ。

そしてディフィーだが、ディフィーの場合、ディフィーがそういうことを見せるという場面が想像できないのだ。

気がつけば、そういう見せなければならない場所から離れていて、一人で出来ること出来ないことの確認をしている姿しか思い浮かばない。

そしてそれもきっと人知れずしているのだ。

他の人は私の空想の中で、様々な場面に様々なことをして私を楽しませてくれるのだけど、この3人だけはそうはいかない。

私の空想の中で動いてはくれないのだ。


私はグループで何かをする時は、空想の中で、どうするのが一番上手くいくのかを考える。

私は空想している時間が欲しいから、なるべく早くやらねばならないことは終わってしまいたい。

だから一緒にしなければならない人がいる場合は、空想の中で一番上手くいった状況に現実を近づける努力をするのだ。

そうすれば、まあ何とか上手くいくのだ。

そうしてぼけっと空想できる時間を作り出すのだ。


だから私はきっと周りの人から見たら、とてもぼけっとした人間に見えていると思う。 ま、それは確かにその通りだから、反論のしようもない。

私は、現実の世界と空想の世界と両方を行き来して生きているのだ。

そんな私が、何で私にとっては特別な存在である3人と同じグループになったのかが私には分からなかった。

それに私は本当のことを言うと、この3人と一緒のグループは嫌だった。

私は見ていると、私の空想の中で色々と自分の好きに動いてくれる人が良かった。

そういう人と一緒なら、他の人にはどう見えるか分からないが、私は見ていて楽しいから一緒にいて楽しいだろうと思っていた。

でもこの3人は違う。 いくら見ていても、私の空想の中では動き出してくれない。

現実において、私が驚く、考えもしないことをすることはあるけれど、それでいて私の空想の中で動いてはくれないのだ。

そして、私がリーダーだと決まった。

何で私がリーダーなのか、訳がわからない。

私は何でもできるセカンがリーダーをやれば良いと思ったのだが、そう思ったセカンが私を推し、ディフィーまで賛成してしまったのだ。

サーブは自分でなければ誰でも良かったみたい。

そして少ししてレンスが加わった。

私はレンスは空想の中で動いてくれるかと期待したのだが、レンスは能力があまりに周りと隔絶していて、全く空想の対象外だった。

セカンが真似できない能力なんて、私が空想できるはずがない。

あまりにその能力が突拍子もなかったので、私はセカンと一緒にレンスにその気配を消す方法やら、音を立てずに素早く移動する方法やらを教わった。

セカンと違い、私にはやっぱりあまり出来なかったけど、何でも出来ると思っていたセカンに出来ないことを、セカンと一緒に教わるのは何だかとても楽しかった。

それととともに今更ながら、ディフィーのとんでもない感覚の鋭さにびっくりもした。


そんな私なのだが、ほんのたまになのだが、現実と空想が重なって、頭の中を凄い勢いで駆け回る時がある。

そんな時には、頭の中で予知夢の様に、次々と場面が動いて行き、それを現実が後から追っていくのだ。

そんな一時がアレクと初めて遭遇した時だ。

あの時は様々な未来が頭の中に溢れていったが、そのほとんどで私は死に、アレクも死んで行くという物だった。

とにかく何とか自分が死なない様に、幾らかでも出来る選択肢を選んでいかないといけなかった訳だが、自分では選べなくて、アレクに委ねられる選択肢も多かった。

その選択肢の一つでも間違えたら、予知夢の様な私の空想の中では、私もアレクも死んでいた。

私の空想の中では、私以外の誰かが死ぬとか怪我するとかの違いはあったが、私とアレクの死はほとんど確定事項だった。

私は今でもよくあの時点で死ななかったモノだと思う。

私はともかく、アレクだって選択肢を一つでも間違えれば、私もアレクも死んでいたと思う。

私はアレクとは、何というか、もう切っても切れない繋がりが絶対にあるのだと思った。 だからこそ私たちは生きている。

その後、私が感じた通り、アレクは私に繋がって、私たちのグループにやって来て、私はより一層確信した。

私とアレクは確実に繋がっていると。


私がアレクに対して繋がっていると思う特別な気持ちは、最近はみんなも同じ様に持っているのかもしれない。

熊に襲われた時、熊に立ち向かったアレクが跳ね飛ばされ、私は命を捨ててもアレクを助けなければならないと思ったけど、それは私だけではなく、私たち全員だった様だ。

矢を放ったのは私だけでなく、ディフィーも一緒だったし、熊とアレクの間には剣を抜いたサーブが構えていた。

そして弓を捨てて剣を抜こうとしていた私と同様に、セカンとレンスが剣を抜いて熊に飛びかかる寸前だった。

誰も自分の命なんて考えていなくて、アレクを救うことしか考えていない。

薄々分かっていたことだけど、私たちの気持ちは一緒だった。


私にとってショックだったのは、いや、私たちにとってと言う方が良いのかもしれないけど、ハーピーの里にアレクが行った時のことだった。

アレクの生死に自分が関われずに、待たねばならないのはたまらなく不安だった。

私は空想することが大好きだったのだが、この時ははっきりと空想することが嫌でたまらなかった。

何も出来ないと分かっていると、悪い空想が次々と頭の中に浮かんで消えていく。

その時間がとてもとても長かった。

今の私はアレクとの繋がりが切れてしまったら、もうどうして良いかも分からない。


近接戦闘の訓練をして、アレクがどんどん強くなっているのが見ていて分かった。

私は嬉しかった。

アレクが強くなればなるほど、アレクが死んで繋がりが切れてしまう心配が減ると思うからだ。

アレクたち人間は、自分が強くなっていることが分からないみたいだったが、私たちから見ていると、とても強くなっている。

もうきっとアレクは熊に不覚をとって、跳ね飛ばされることはないだろう。

熊くらい余裕で対処できてしまうだろうと私は感じていた。


でも私はその訓練の場で、とても豪華な槍を持たされてしまった。

その豪華さばかりが気になって、その意味までは考えられなかったのだけど、少し後になって、槍の豪華さよりも、その槍を持たされることの意味の方が、槍の豪華さよりずっと問題だと気がついた。

豪華な槍は指揮官の証だという。

つまり私に指揮官をやれと命令された訳で、ミーリア様は私に指揮官としてのあれこれを、それこそ手取り足取り、スパルタで教えてくる。

ミーリア様がスパルタでも、私はミーリア様が私たちにはとても好意的で言っては何だが愛情深く接してくれているのが分かっているから、他の人なら思うかもしれないけど怖くはない。

ま、逃げ出したいほど、大変ではあるのだけど。

でもその訓練は耐えられる。

問題は指揮をしなければならないことだ。

指揮をするということは、私は自分で命令して、死ぬかもしれない場所に友人を突っ込ませなければならないのだ。

私が死ぬかも知れない場所に突っ込んで行くこと、または友人たちと一緒に突っ込んで行くのは、行かねばならない理由があれば納得してすることができる気がする。

だけど私に求められるのは、それを命令して、自分は突っ込まないということなのだ。

ミーリア様を見ていて、それがどれほど大変なことであるかは良く理解していた。私はそんな境遇は正直に言えば真っ平御免なのだ。


でも、すぐにそれをしなければならない時がやって来てしまった。

半分覚悟していたのだが、私は愚かにもその時になって、自分が突っ込ませなければならない友人に、アレクも含まれていることに気がついた。

それに気がついた時、私は緊張で汗が出るのではなく、恐怖で全身から冷や汗が流れた。

自分の命を捨てても守りたいアレクを、自分の命令で死ぬかも知れない場所に突っ込ませなければならないのは、恐怖以外の何物でもない。

私は指揮官は命令した後、その場に残らねばならないことを十分に理解していたし、その場に留まって、次の命令をする準備をするべきだと決心していた。

でもそんなのは、とても薄っぺらなモノで、アレクが突っ込んで行ったのを見た後は何も考えられなかった。

頭が真っ白になり、自分もアレクの後ろに続くことしか考えられなかった。

セカンに止められたが、その場に留まっているセカン、ディフィー、サーブが留まれているのが私には不思議だった。

3人ともアレクを追いたくて仕方ないのが見え見えだった。

だから、アレクを追っていくのを許されたサーブが私は羨ましかった。


これからも私には指揮官の勉強をさせるとラーリア様とミーリア様は言う。

ミーリア様は私のことを、自分以上に指揮官の素質があるなんて言う。

そんなの絶対に無理だ。

私はミーリア様のように、指揮しながら氷のように冷静になるなんて出来ない。

私はアレクが戦闘に向かえば、その事のみが気になって、他のことなど考えられないのだ。

こんな私が指揮官としてやっていけるはずがない。

指揮官なんて絶対無理。


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