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不満

イクス様にナーリアたちに負けない様に、人間たちに色々なことを学びなさいと言われた時、私たちは何の考えも無しに最初ケンが森に行くのに付いて行った。

私たちは訳も分からずケンの後ろを付いて行ったのだが、ケンは何をするということもなく、森の中をあっちをウロウロ、こっちをウロウロと歩き回るばかり。

何をしているのかと思ったのだが、顔は真剣そのものだから別に遊んでいたり、仕事をサボっている訳ではないことは、何も聞かなくても分かった。

「ケン、さっきからウロウロと何をしているの?」

とうとうターリファがしびれをきらして、訊ねた。

「うん、この木がどこにどのくらいあるかを大体の数を数えていたんだ。

 それによって今後のやる事が大きく変わって来るからね。」

「あなた一人で、ラミアの森を見て回る気なの?」

ターリオが「何を考えているの。」という顔をして、ケンに言った。

「ま、俺が自分から請け負った仕事だからな。 そのくらいの苦労は仕方ない。」

「違うわよ。 私たちも居るのだから私たちも使いなさい、ってこと。

 分担して調べればずっと速いでしょ。」

「おっ、手伝ってくれるのか?」

「あなた、私たちが何のために付いて来たと思っているのよ。」

「いや、何しに付いて来たのかな、って思ってた。」


正直に言おう、もう本当にこの男は何なんだと思った。

イクス様は人間に色々なことを教われと言われたけど、この人間に何か教わる事があるのだろうかと、私は疑問を感じた。

ま、とにかく今日はもう仕方ない、この人間の男のやることに付き合おう。

私たちは地面に簡単な地図を書いて、担当する場所を分担して、ケンに教わった木がどのくらいあるかを調べることにした。

勝手知ったる森の中だ、大した時間もかからずに私たちは調べて来て、その後の集合場所に戻った。

私はそれまで森にある木は、実のなるものの場所は覚えていたが、それ以外の木なんてあまり気にして見た事がなかった。

ケンが教えてくれた木が、森の中にかなりたくさんあることに、私はびっくりしたのだが、エーレルは結構たくさんあることは知っていた様だ。

「この木って、ドングリが出来る木じゃない。 そろそろドングリが落ちてくるんじゃないかしら。」

そう言われてみればそんな気もする。

私たちはそれぞれの場所の数をケンに報告するとケンは

「思っていたよりもずっと本数があるな。 これなら十分に必要なだけ伐って大丈夫だな。 十分に回転させられるぜ。

 ターリアたち、明日からはどんどん木を伐るぞ。 忙しくなるぞ。 伐って良いのは今の時期だけだからな。」

あれっ、いつの間にか、明日も私たちが手伝う事が決まっていた。

みんな、「えっ。」ていう顔をしたが、ケンはもう次のことを考えているみたいで、何か言うきっかけがなく、なし崩し的に次の日も手伝う事が決まってしまった。


次の日、木を伐るという事で、ケンはイクス様に頼んで、私たちの分まで道具を用意していた。

ラミアだって木は至る所で利用している訳で、沢山伐っている。

でもそのほとんどは成長が早いけど柔らかい木だ。

私たちもその木なら何度も伐った事があるけど、他の木を、ましてやドングリが出来る木を伐って、得られる食料を減らす必要はないと考えて、ドングリの木は伐ったことがない。

それがちょっと不安な様な、楽しみの様な気分だ。

ケンは私たちに伐る木を指定する。

私たちは指定された木をいつもの様に根元から伐り倒そうとすると、ケンに止められた。

「この木を伐る時は、もっと上から、腰のあたりで伐るんだ。 いつもと勝手が違うと思うから、怪我しない様に気をつけて伐ってね。」

私たちはケンに言われた木を次々と伐っていくことになった。

そしてケンは、伐った木はそのまま何もせずに倒したままにしている。

「枝を切ったりはしないの?」

ターリドがケンに訊ねると、

「そのままにしておいた方が、木の中の水分がより素早く減るんだよ。

 だからとりあえずこのままにしておいて、木を切り倒す事が全部終わってから、枝を切ったり、幹を割ったりするんだ。」

私たちはその言葉を聞いて、半日か一日、木を伐って、それからは枝を切ったりするのかと思った。

甘かった。 それから毎日毎日、十日以上も私たちはケンに木を伐らされた。

何でも、この木は今のこの時期にしか伐る事が出来ないからだそうだ。


私たちは手の平がボロボロになってしまい、それに気づいたディフィーがアレクに言って、薬とクリームを貰うことになり、セカンが私たちのために革手袋を作ってくれた。 大分楽になった。

ケンがアレクに叱られていた。

「ケン、お前、どこを見ているんだよ。

 ターリアたちは女の子だぞ。 女の子の手がボロボロになっているのに気が付かないなんて、ないだろう。」

ナーリアにも怒られている。

「本当に考えられないよ。 ターリアたちが可哀想でしょ。」

「すまない。 木を伐る事ばかりに気をとられていて、そういう問題があるなんて全く考えていなかった。」

「謝るのは私たちにではなく、ターリアたちにだろ。」

サーブの言い方も声音が冷たくて、ケンは肩身が狭そうだ。

「ターリアたち、本当にごめんよ、全く気が付かなくて。」

ケンは身を縮める様にして私たちに謝ってきた。

私たちも自分たちの手がそんな問題を起こしていることを、ケンが木を伐ることにとても一生懸命になっているのが見てて分かったから、言い出しにくくて言わなかったこともある。 何だかケンが責められて可哀想になってきた。

私はケンに言った。

「気にしなくていい。 私たちも自分から伝えれば良かったのに伝えなかったから、お互い様だから。」

「何かあったら、何でも俺にも相談してくれ。

 そうでないと、俺、鈍いから気がつけないから。」

私たちはそのケンの言葉にちょっと笑ってしまった。

「また、何か問題があったら、私たちに言って。」

レンスがそう言ってくれたが、今回もケンが責められる問題じゃなかったのよね、と私は思った。


ケンと私たちの作業の結果、森の一角に腰までで切られた木が沢山ある場所が出来てしまった。

私はケンに訊いてみた。

「今更だけど、何で、こんな位置で木を伐るの?

 どういう基準で伐る木を選んでいるの?」

「この木は、今の時期に伐ると、春になると伐ったところから新しい枝が出てきて、また大きな木になるのさ。

 ターリアたちに木を伐るのを頑張ってもらった理由は、そこなんだ。

 時期を外しちゃうと、新しい枝が出ないで本当に枯れちゃう事があるんだ。

 それで伐ったところなどから枝が出るんだけど、何本もワサワサと出ちゃったりするんだ。

 それを適当に数を減らしたりする作業が必要になるんだけど、その時に下から伐ってあると作業がしづらいし、下の方で伐っちゃうと、どこに木があるか分かり難くて、せっかく出た芽を踏んだりしてダメにしちゃう可能性もある。

 そういった訳で、腰のあたりでこの木は伐るんだ。

 伐る木を選んでいる基準だけど、基本は場所を20に分けて、毎年その内の1カ所を伐る様に考えている。 そうすれば木は減ることはないからね。

 今のところ、その範囲のこの木全部をとてもじゃないけど伐れないから、その中で大きくなり過ぎているいるモノや、後から運ぶ時の利便を考えて伐る木を決めていたんだ。」

「大きくなり過ぎているってどういうこと?」

「木が大きくなって葉が茂り過ぎると、日の光が地面まで届かなくなっちゃうだろ。 そうすると地面に草が生えなくなっちゃうんだ。

 草が生えなくなっちゃうと、土地が痩せたり、雨で土が流れてしまったりすることになる。

 それだから、適度に光が入る様に、森の木は隙間があった方が良いんだ。

 だから大き過ぎる木は伐った方が良いし、光が差し込むことを考慮して伐る木を決めてもいるんだ。

 それに大きくなり過ぎた木は、伐った後、春に新しい芽が出難い事もある。

 そういった木は早めに伐って、無くしたいというのもある。」

私たちには、伐った木からまた芽が出て、新しい枝になり、大きな木になるというのは想像できなかったけど、確かに切り株のすぐ脇から新しい木が生えているのは見ている気がする。

もしかすると、こういう事だったのかとも思ったが、それよりもケンが木を伐るのを急いだ訳、伐る方法、伐る木の選び方、それらにみんな意味があって、考えた上での行動だったことに驚いた。

私たちが今まで木を伐った時なんて、必要に合わせて適当に選んで、ただ伐っただけで、何も考えていなかった。

イクス様が成長するために、人間に色々と教わりなさいと言ったのは、こういう意味なのかと私は思った。 単純な知識だけではない、と。

ターリファがなおも訊ねた。

「でも、根本的な疑問なんだけど、どうしてこんなに沢山の木を伐っているの?」

「それはこの伐った木で、炭を作るためさ。」

炭というものを知らなかった私たちは、その疑問が解けたのは随分と後になってからだった。

そこまでには、伐った木を次は同じ長さに伐り揃えたり、太過ぎる幹を割ったり、それらを運んだりと大変な作業があった。


私たちがそうやって森で頑張っていると、もう一人人間がやって来た。 奥の建物の一切を任されたというバンジだ。

彼もまた、木を伐るのを手伝って欲しいとのことだったが、伐る木は全く別の種類の木だった。

今度の木こそ、食べられる実をつける訳でもなく、私たちにとっては興味のない木だった。

「本来は、前に伐って乾かしておいた木の中から選んで、家の柱や梁にするのだけど、今回はそれでは間に合わないから、生えてる木で適当なのを選んで伐ることにする。

 本来のやり方ではないことを承知しておいてね。」

こう言われて、私たちはバンジの選んだ木を伐った。

今度は今までと同じ様に、根っこのすぐ上から伐った。

それからその木の皮の剥き方なんかも教わった。

「ダメだ、我慢できない。 この木は今は使わないけど、他の木にとって有害だから切っちゃって。」

と使わない木を伐らされたり、家を作るのに使う木は、幹の途中の枝は落としておく方が良い、なんて事も教わった。

気がつくと、私たちはヤーレアたちがヤーレンにくっついて色々して農業に特化したグループと言われるのと同様に、ケンとバンジのお陰で森の木に特化したグループと呼ばれる様になった。

私たちにそんな気は無く、色々なことを教わってしてみたいと思うのだが、とにかく木材関係の仕事が沢山あり、働いても働いても終わらないのだ。

私たちは休みの日以外はせっせと森に通う生活をしている。


森に通う生活をしていると、大きな弊害があることに最近気がついた。

朝集落を出る時に最近は必ず昼用の食料も持って出るから、それから夕暮れまで森で過ごし、帰ってくると、汚れた体を洗って食事をすれば、疲れからすぐに寝てしまう。

そんな生活をしていたら、他の姉妹や、人とコミュニケーションをとる時間がほとんど無いのだ。

私たちは危なくワーリアとヤーレアたちも弓を作るというのを、知らないでいるところだった。

エーレアたちはナーリアたちと同時に上位になったし、今はナーリアたちと行動を共にしているから、ナーリアたちと同じ弓を作るのは理解できる。

でもワーリアたちとヤーレアたちも新しい弓をナーリアたちの所で作るというのに、私たちだけ置いてきぼりは酷いと思うのだ。

私たちだって新しい弓が欲しい。


とにかく今の私たちには時間が不足している。 というより任されている仕事に対して人手が圧倒的に不足しているのだ。

それに私たちが用意した木を使って行う作業に、奥へ入る許可が下りていないから、私たちは参加できずにいる。

炭を焼くのも、セカンは「大変だし、ラミアには向かない作業だったりするから、あまり勧められない。」というけど、ケンにしっかり教わりたいし、家や建具や様々な木工品を作るのもバンジに教わりたい。

私たちには、それを優先的に教わる権利があると思うのだ。


ちょっと久々になってしまいました。

ラミア本体と魔技師で、ちょっと無理が、それとも不調?

いえ、ただ単に以前に書いてあったストックが尽きてきただけです。

気長に、それでも定期的に付き合って下さい。

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