疑っていたけど
私たちは上位になったけど、上位の訓練に参加したら、その訓練内容について行けなかった。
情けないけど、上位の人たちに体力負けして、どうにも追いつかないし、訓練が続けられないのだ。
私たちはミーリア様に命令されて、ナーリアたちのところで、彼女たちが禁足地の奥に入る仕事ではない時はなるべく一緒に同じことをして、色々学ぶように命令された。
つまり、ナーリアたちの下に付けということで、リーダーはナーリアということになった。
正直に言えば、ゴブとの戦いでのナーリアたちの功績を考えれば、私たちがナーリアたちの下に付くのも、ナーリアがリーダーであることも、なんら文句はない。 当然のことだろうと思う。
だけど私にはどうしても、違和感がある。
私の知っているナーリアたちの姿と、今、功績を称賛されているナーリアたちが結びつかないのだ。
戦いの時に本陣に一緒に居たヤーレアたちは、ナーリアたちの働きをメンバー全員が自分のことのように話して、讃えている。 その上、アレクのことに関してはもうほとんど信奉者だ。
ターリア、ワーリアたちも戦いの時には私たちと同じようなもので、ナーリアたちの勇姿を見た訳じゃないのに、その後ナーリアたちと一緒に仕事をするようになったら、ヤーレアたちと態度が変わらなくなってしまった。
特にアレクに対する態度は顕著に変わり、ヤーレアたちと完全に変わらない。
みんなアレク信奉者になってしまっているようだ。
実際にナーリアたちと一緒に過ごしてみると、確かに驚きの連続だった。
火を使うことから始まり、ナーリアたちのしていることのほとんどが、それまでの私たちが知らないことばかりだった。
私たちは新しいことを覚えるのに必死で、他のことを考えている暇はなかった。
次々と新しいことを体験させられ、無理やりみたいに覚えさせられた。
そしてナーリアたちの家にいると、毎日のように上位の人が来ている。
特にミーリア様は毎日の様に来ているし、氷のミーリア様がナーリアたちに普通に冗談口を叩き、それにナーリアたちが普通に言い返しているのは、逆に衝撃的だった。
そのミーリア様が敬語で話す、ラーリア様やイクス様も頻繁に来るし、イクス様もここでは普通にレンスと親子ゲンカをしていて、それをナーリアたちは、またかという顔をして眺めているのだ。
なんというか私たちから見ると、もう現実感がない光景が毎日のように繰り広げられている。
「でもさ、なんか普通だよね。」
と私はエレドに声をかける。
「え、なに、エレオ、普通ってどういう意味?」
エレドは私に聞き返す。
「やっていることや、見ることは初めてのことばかりだけどさ、ナーリアは私たちの知っているナーリアでちっとも変わってないし、サーブも、セカンも、ディフィーも、レンスもそこは一緒だわ。」
「いや、違う。
みんな私たちより体格が良くて、体力もありそうよ。
きっとナーリアたちなら余裕で上位の訓練をこなせるよ。」
「ああ、そうか。 元々はそこからだったんだよね。
あまりに新しいことばかりしているから、それを忘れていたよ。」
「それに、あの弓を見ただろ。 私たちとは違いすぎるよ。」
エーレアが私とエレドの話に加わってきた。
「そうね、確かにあの弓矢は戦いの時の活躍を納得させるよね。」
私もナーリアたちの弓矢の練習を見た時には、背筋に鳥肌が立つのを覚えた。
なぜか彼女たちは嫌々という感じで、ごく軽くだけ練習を見せてくれたのだが、それでも衝撃的だった。
私はヤーレアたちの言葉が何の誇張も含んでいなかったことに、今更だが驚いた。
「気配を消したり、気配を探知するのも、ちょっと凄過ぎ。」
エーレルも加わってきた。
うーん、確かに。 アレア様が逆に教わりに来るくらいだものな、ちょっと桁が違う感じだ。
「でも、ナーリアたちは普通じゃない。 前とちっとも変わった気がしないよ。」
「ま、それはそうだな。 雰囲気とかは変わらないなぁ。」
「そうでしょ。」
私はそう言ってから、もう少し話を付け加えた。
「アレクだって、ヤーレアたちや私たち以外のみんなの話を聞いていると、なんか凄い人間っていう感じなのだけど、実際に接してみたら普通じゃん。
何でみんなが、何だか崇拝しているような感じになっちゃっているのか、私にはちっとも解らない。」
「確かに、それ言えてるかも。」
話に加わっていなかったエーレファも口を出してきた。
「私もどんな人なのだろうと思っていた。 でも、普通だった。」
「そうね、私たちが教わっていることの多くは、最初アレクがナーリアたちに教えたことだというけど、私たちはアレクに直接教わらずに、ナーリアたちに教わっているから、余計にそう思うのかもね。」
エレドが意外にアレクに好意的な分析をした。
そんな話をしてすぐに、エーレアの考えなしの行動で熊に襲われるという事件があった。
その事件の前に、一匹目のクマを獲った時にも実際の場のナーリアの指揮の時の厳しさにもびっくりしたのだ、全然別人だった。
でも、熊に襲われた時のアレクの私たちを庇っての行動と命令は、私に何故アレクが崇拝されているかのような感じになっているのかを一瞬で理解させた。
そしてその時のナーリアたちの動きは、私たちとは次元が違っていた。
アレクの言葉に即座に反応して、熊の突進を速射で止めたレンスとセカン。
アレクが槍とともに飛ばされた瞬間に矢を放った、ナーリアとディフィー。
二人とも速射はできないはずなのに、何なのその速さは。
そして咄嗟に弓を捨てて、剣を抜いてアレクと熊の間に入って身構えたサーブ。
きっとあの時まだ熊が死んでいなかったら、私たちが何もできないでいる間に、アレクを助ける為に、サーブだけでなく、ナーリアたちはみな弓を捨てて、熊に斬りかかっていっただろう。
そういう捨て身の必死さが、私にも、そしてエーレアのみんなにも、一瞬でわかってしまった。
その日の晩、私たちは自分たちの部屋で、エーレアに謝った。
「エーレア、ごめん。
私たち、あなたを責めて良いようなこと何もしていないのに、一方的にあなたを責めてしまった。」
「そんなことない。 私は責められて当然のことをしてしまった。
本当にごめんなさい。」
「両方で謝りあっていても仕方ないわ。
それにしても、アレクは凄かった。 みんながアレクの信奉者になっちゃう理由が良くわかったよ。」
エレドがそう言って話題を変えた。
「うん、本当にそれは良く分かった。
アレクって、ああいう男だったんだ。 惚れちゃうよね。」
エーレファが真顔で言った。 「普通だよね」から完全に評価がひっくり返ってる。
「それは無理よ。 ナーリアたちの必死さを見たでしょ。
あの時、一歩も動けなかった私たちに、アレクに惚れちゃった、なんて言う権利は微塵もないもの。」
「うん、私には崇拝するくらいしかできないよ。」
エーレル、エーレアの言葉にエーレファも確かにそうだという顔をしている。
私は思ったことを言う。
「ナーリアたち、ちっとも変わっていないと思っていたけど、本当は凄く変わっていた。
変わっていないと感じさせるのは表面だけで、中身は私たちの知っていた彼女たちとは別人よ。
今回のことで、それが良くわかったわ。
そして、ナーリアたちが変わったのはアレクのせいよ。」
みんなもそう思ったのだろう。何も言わないけど、ウンウンと頷いている。
そして私も言わないけど、
『別に誰にも言わなければアレクに惚れていたって良いよね。
この気持ちをナーリアたちみたいに育てられたら、きっと私も絶対に変わるわ。』