器用貧乏
私がアレクの炭焼きについて行くと言った時、誰もそれを咎めもしなかったし、なんでと疑問にも思わなかったようだ。
ちょっと拍子抜けした。
みんなは、私が何か新しいことに興味を示すことは当然というか、当たり前過ぎて何も感じなくなってしまっている気がする。 ただ、またか、と思われているのかとも思ったのだが、それさえ思われていない気がしないでもない。
私は自分で言うのも変だが、とても器用なのだと思う。
大体のことは、他人がしているのを一度見れば真似することが出来るし、その他人がしていることの欠点やら、改良・改善した方が良い点などもわかってしまう。
そして、それを意識すれば、その人がしているより上手に物事が出来てしまう。
私にとってそれは普通のことというか、当たり前のこと過ぎて、子供の頃は他の人が何故自分と同じに出来ないのかが全く理解できなかった。
そして、どうしたら私と同じように出来るのか教えて欲しいと言われた時、私は困惑した。 だって、ただ出来るだけで、そこに理由なんてないから。
私には何故出来ないかの方が余程分からないのだ。
私は、少し自信過剰になっていた時がある。
教われば私は姉妹の中で何でも一番最初にできるようになったし、一番上手に出来ると思っていた。
そもそも教わる気持ちがなかった。
一度見せて貰えば私には十分で、それ以上必要ないと思ってもいた。
穴を掘るのも、白く壁を塗るのも私が一番上手だった。
確かにサーブの姉妹は力があるから、私よりも穴を掘るのは速かったから何でも一番という訳ではないのだが、その出来は私の方が上だったから、まだ私はそこまでは自分が一番だと思っていた。
そんな独りよがりな自信を打ち砕いてくれたのはサーブだ。
剣を習い始めた時、もちろん私は一番に剣をまともに振ることが出来るようになった。
そしてまだその時はそれが当然のことだと自分でも思っていて、他の姉妹がなかなか剣を上手く振れないことに、いつもの事だと小さな満足感を味わっていた。
特にサーブは何をやっても下手くそで、剣を振っている様には見えない有様だった。
そんなサーブはそれから暇を見つけるとただ剣を振り下ろす練習をしていた。
私は正直、一つのことをひたすら続けているサーブを何をしているのかと思ったのだが、逆にそれが気になった。
自分には決してありえない同じことを愚直に繰り返している姿に興味を覚えたのだ。
そして私は誰よりも一番最初に気がついた。
いつの間にかサーブは剣を振り下ろすことに関してだけは、私よりも、いや他のどの姉妹よりも上手になり、スピードも力もこもっていることに。
サーブはそれを教えてくれて上の人に褒められると、次は斜めに振ることを練習して、それも覚えた。
そうして一つづつ覚えて行き、サーブは剣に関して私たち姉妹の中で誰よりも上手くなった、もちろん私よりも。
私はとても驚いたのだが、剣のために使っている時間が自分とは大きく差があるからだと、自分を納得させていた。
サーブと同じだけ練習すれば、自分が負ける訳はないと。
私たち姉妹は剣を一通り教わると次に弓を教わった。
弓も当然最初は私が一番すぐにまともに射ることが出来る様になった。
でも弓では私は剣の時の様に油断しなかった。
またサーブは1人単調な練習を繰り返している。
私は弓が気に入ったというか楽しいからという感じで、サーブの練習に一緒したり、自分でも自分なりに練習してみたりしていた。
これなら弓はサーブに負ける訳はないと思っていた。
しかし、実際に矢を射ってみる時が来ると、回数を重ねるごとに私はほとんど最初から進歩がないのに、サーブは目に見えて上達している。
そして遂には距離で抜かれ、命中精度でも負けてしまい、弓もサーブが1番で私は2番になってしまった。
私は自分の自信が木っ端微塵になったことを自覚した。
その後私は自分を客観的に考えてみた、もしかしたら同じ様に他の姉妹に色々なことで、今までは気づいていなかったけど、負けていることがたくさんあるのではないのかと。
そう思って、初めて私は他の姉妹を良く見る様になった。
それまでの私は自分が何でも一番だと、盲目的に思っていたので、周りの姉妹をほとんど見ていなかったのだ。
姉妹たちを観察する様になって、私は色々なことが見えてきた、というより自分が劣っている部分が沢山あることに気がついた。
まず体力的なことはサーブだけに負けている訳ではなく、サーブの姉妹たちには敵わないことが分かったし、その差はだんだんと大きくなっていることに気がついた。
自分の姉妹も、私は他人に教えることが出来ないが、姉妹たちは自分が出来ることを、きちんと教えることが出来る。
ナーリアの姉妹たちは、ひとりひとりは特出した能力がないが、何故か集団でことに当たると一番物事を上手に進める。
私はその中心にナーリアが居るのにも気がついた。
彼女は姉妹の中で一番おっとりとして物事が出来ない雰囲気なのだが、何か集団でする時になると、その役割の割り振りをし、姉妹たちはそれに何故か従っている。 そして一番上手くいく。
ディフィーたちはまた完全に個性が違う。
子供のラミアのすることは、やはり体力が物をいう部分が大きくて、遺伝的に体の小さいディフィーの姉妹には辛い。
だが、彼女たちはそのハンディをそれぞれのコミュニケーション能力で補って、他の姉妹より仕事が遅かったりして軋轢を生むのを上手く回避していくのだ。
そんな能力は私にはない。
ただその中でディフィーだけはその輪に上手く入っていないのだが、彼女は私が姉妹たちを観察している以上に、周りを良く観察していることに気がついた。
これは私が意識して姉妹を観察しているから、同じ様に観察しているディフィーに気がついたのだろう。
そして話してみたら、ディフィーは私より観察眼が鋭いことが分かった。
結局、冷静に客観的に自分を見てみたら、私は出来ないことの多い、そして出来ることも1番ではなく2番にしかなれていない、ただの小器用なラミアだった。
私は心の中で落ち込んだし、何か自分が1番になれるモノがないかと探し始めた。
グループが決められた時、私は即座に自分のグループがどの様な基準で選ばれたのか理解した。
私のグループはそれぞれの姉妹の中ではみ出した者ばかりが選ばれていたのだ。
私自身も自分で姉妹の中で浮いた存在であったのを自覚していたが、きっと他の3人も同じ様に感じていただろう。
そしてリーダーを選ぶ時、私は迷わずナーリアを推した。
私にとってナーリアの能力は明白だったから、何も迷いを感じなかったが、それはディフィーも同じ様だったのだが、サーブは何も分かっていないで、それで良いよという感じだった。
選ばれたナーリアは何で自分がと抵抗していたが。
レンスが後からグループに入ってきた時には驚いた。
私は他の人が出来ることは、1番上手とまではいかなくとも、そんなに変わらずにすぐに出来るつもりでいた。
だがレンスの身を隠す能力と音を立てないで素早く動く能力は、とてもではないが自分が出来るとは思えない物だった。
そんな風に思うことが初めてであったことなので、私はまた初めて真剣に人からモノを教わるという経験をした。
レンスに音を立てない様に素速く動くコツを教わったり、身を隠すコツを教わったりするのは楽しかった。
それにナーリアが一緒に教わってくれて、またディフィーが練習に付き合ってくれて批評してくれたのも、新鮮でこういう世界があったのかという感じだった。
でも私の心の中はやっぱり晴れないというか、1番になれることを求めていた。
そんな時にアレクが入ってきた。
アレクが教えてくれる色々なことは、アレクが人間だからか、私に少しも焦りの気持ちを抱かせない。
私にとってアレクはとても良い刺激になった。
知識もだが、発想も人間だからか、それとも男だからか自分たちとは違っている感じがして、とても面白い。
私はアレクのことは、知識も凄いし、色々なことが出来て凄いと思っていた。
もしアレクがラミアなら、私は同年代だからとても嫉妬してしまったのではないかと思うのだが、人間だからか異性だからか、そんな気持ちにならず、尊敬する気持ちになっていた。
そんなアレクが弓を引く時の手袋作りに困っていた。
私にとってはそんなことは簡単なことだったのだが、その手袋を縫った私をアレクはとても驚き褒めてくれた。
私はこんな小手先のことがそんなに評価するほどのことかと思ったのだが、初めて自分だけがアレクの役に立てることが出来て、今までにない満足感を味わった。
その後、胸当てを作る作業でアレクと2人だけで何かをする時間が、とても楽しく満足感を得られる時間だということにも気がついた。
いつの間にか、私は1番になりたいということで出来ることを探していなかった。
今の私は、何をすればアレクの役に立つだろうかとそればかり考えて、出来ることを探していた。
そうなった私は、今まで自分が全く出来なかった、他人にモノを教えるということを何の意識もせずにしていることに気がついた。
火の扱いを教えたり、胸当ての型の作り方を教えたり、気がつけば私は色々なことを姉妹たちを始め、上位の方たちから若い子たちまで教えていた。
それに気づいた時には自分の変化が嬉しかった。
私たちのアレクに対する依存度というか、執着というか、大事にしている気持ちはとても大きくなっている。
私には良く分からないが、もしかするとこういう気持ちを愛情というのかもしれない。
それと共にみんなアレクと2人だけになる時間を持ちたがっている。
それは私も同じだ。
炭焼きをアレクと一緒にすることにしたのは、炭焼きということに対する興味もあったし、アレクの役に立ちたい気持ちもあった。
そしてもう一つアレクと2人になれる時間が出来るという気持ちもあった。
もしかしたら、三日間アレクを独占できるかも、と淡い期待をした。
でも朝起きたら、レンスが来ていた。
レンスが私にこそっと言った。
「セカン、独占はダメ。 誰も許す気はない。」
うーん、そうだよね。 逆の立場だったら、私も同じことを言う。
ラリファ様に、残念な顔をしていて茶化された。
「はい、本当は凄く、すご〜く、羨ましいです。」
不定期投稿の「ラミアの独り言」も10話目となりました。
読んでいただき、ありがとうございます。
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またR18に引っかからない方は本編の
「気がついたらラミアに」 https://novel18.syosetu.com/n9426fb/
の方もよろしくお願いします。
まあ、こっちだけ読んでいる人はいないと思うのですが。