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かくれんぼ

私がまわりと違っているのは、子供心にもすぐに分かった。

父が亡くなり、他の同世代の者たちと一緒に過ごすようになっても、私はなかなか馴染めないでいた。

一つには私だけが一人っ子だということがある。

ナーリアとサーブは7人姉妹、セカンは6人姉妹、ディフィーも4人の姉妹がいる。

そんな中に1人だけで加わるのだ、簡単ではない。


とは言っても、私が虐められたり、邪険にされたりということはなかった。

どういう訳か知らないが、私が同世代の者たちとした時には、もうグループ分けが決まっており、私が加わった時には、ナーリアたちに歓迎された。

なぜなら今のこのグループは私が加わるまで、このグループだけが4人だったからだ。

やっとまわりと同じ5人になれたことを喜んだのだ。


そもそもにおいて、私が虐められる訳がなかった。

何故なら、このグループのメンバー自体が、どちらかというと同世代の仲間の中で浮いた存在だったのだ。

仲間の中で浮いた存在というか、姉妹の中で浮いた存在が集められたグループだった。


だからといって、私がそこにすんなりと馴染めるかは別問題である。

私がそれまで接していたのは、父母とたまに訪ねてくる母の友人だけ、そんな大人しか知らない私が同世代に急に接して、戸惑ったのは当然のことだ。

今から思えば、みんな親切に普通に接してくれたのだが、私にはその時には煩わしい、どうして良いか分からない存在だった。

ということで、私はとりあえず逃げた。


私は子供の頃から隠れることには自信があった。

それは父のせいである。

父は私が小さい頃に死んでしまったことでも分かる通り、体の弱い人だった。

家の中でほとんど横になって過ごし、外に出るのは気候の良い時に家の前に出る程度の人だった。

それだからか、父と私の定番の遊びはかくれんぼだった。

私が隠れ、父は見つける。

たったそれだけのことだけど、父の視界が届く範囲という制限の下でのこの遊びは、幼い私を熱中させるに足りるだけの楽しさがあった。

なかなか見つけられずに父が困る姿を見ると、とてもワクワクした。

だが、感覚の鋭い父から隠れるのは、とても難しかった。

本当に小さい頃は、父が見つからないフリをしてくれたのだが、少し経つと私はそれでは満足できなくなった。

母は面白がって、私に隠れるための技を教えてくれた。

どういう風に動けば、音を全く立てずに動くことが出来るのか、気配を断つにはどうすれば良いか。


少し大きくなり行動範囲が広がって、父が調子が良く、気候が良い時が一番楽しかった。

父も外に出ているので、隠れられる範囲が家の近くの森の縁にまで拡大されたのだ。

私は喜んで、すぐに森の中に隠れるのだが、父にはすぐに分かってしまう。

音も立てず、気配も消しているのに、何故すぐに見破られてしまうのかが、とても不思議だった。

父に何故見つけられるのか尋ねても、教えてくれなかった。

「教えちゃったら、マピを見つけられなくなっちゃうでしょ。」

そう言って笑う父を見ると、悔しくてしかたなかったけど、大好きだった。


そんな訳で、私はこのグループに入って最初の頃は、何かにつけては面倒になり、逃げることにした。

気配を消してみんなから離れ、隠れてしまえば、平安な自分だけの時間が持てると。

ところがそんな私に2人が興味を持った。

セカンは気配を消し、音もなく移動していくという技に興味を持ち、ディフィーは私を見つけ出すことに執念を燃やした。


私はまた見つけてもらえることが楽しくなったし、誰かに何かを教えるということが初めてだったので、気配の消し方や、音を立てない移動の仕方を教えて一緒に実践するのが楽しかった。

驚いたことにディフィーは私を見つけるのが、すぐに父と同じくらい上手になり、セカンも私の技を覚えた。

そしてしばらくすると、ディフィーは森の中でも、セカンだけでなく、私もすぐに見つけるようになった。

私は何故見つかるのかが分からずディフィーに尋ねてみると、父とは違い簡単に教えてくれた。

「だって隠れているところだけ、不自然に何の気配も無いのですもの、すぐに分かるわ。」

そうか、気配を消すことに一生懸命になり、消え過ぎていて不自然になるなんて考えてもみなかった。

理由が分かって、私もセカンも、もっとずっと上手く隠れられるようになった。

ディフィーだけはそれでも私たちに慣れているからか、私たちを時間をかければ見つけるが、その他には、例えばナーリアやサーブは、私たちを見つけることは出来なかった。

そんなことをしていたら、私はこのグループにいつの間にか馴染んでいた。


「ねえねえ、レンス、気づいたでしょ。」

「うん。」

「私も気になっていた。」

ディフィーの言葉に、セカンも反応した。

「あれって私たちの監視だよね。」

「完全にそうだと思う。」

アレクが加わって、初めて外に出た時、私たちはすぐに監視が付いていることに気がついた。

とても上手な監視なのだが、気付いてしまうとどうにも煩わしい。

「でも私たちが気づいていることに、向こうは気がついていない。」

セカンがそう言う。

「うん、私たちが気が付くなんて、絶対にないと思っている感じ。」

ディフィーもそれに同意する。

「あれだけ気配消していたら、普通は気付かない。」

「気付かないって、レンス、あなただって気が付いているじゃない。」

「私とセカンは自分でも気配を消すから、他人のそういう気配に敏感。

 だけど、ディフィーは見つけるだけ、珍しい存在。」

「それは良いけど、どうしたら良いと思う。」

セカンが話の軌道修正をした。

「無視するしかないんじゃない。

 わざわざこちらから『気づいているよ』と教える訳にも行かないでしょ。」

「私もそう思う。」

「変なことを言わないように気をつけないと。

 ナーリアやサーブにも伝える?」

「やめた方がいいんじゃない。

 ナーリアはともかく、サーブは絶対態度がおかしくなる。」

「ん、そう思う。」


ということで2人には言わないことにしたのだけど、すぐに水浴び場でナーリアがボロを出すようなことを言って、ディフィーに窘められていた。

けど、監視している人はボロを出したことに全く気付かなかったみたいだ。


でも監視されているのは、やっぱり良い気分ではない。

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