王妹殿下と伯爵
ソフィア目線ではありません。
不倫の描写がありますが、推奨しているわけではありません。
遡ること二十数年前。
アリシア・エクティーヌ公爵がまだ王女だったとき、彼女はユリウス・マクレル伯爵に出会った。
王宮で開催されたアリシアの16歳を祝う舞踏会。
才媛と呼ばれる彼女とお近づきになろうと多くの貴族や諸国の外交官などが集まっていた。
ある人は王女を妻にと甘い言葉で彼女を口説き。
ある人は王女の友人という立場を得ようと必死に彼女を褒め称えた。
ある人は王女の揚げ足をとるかのように彼女の発言・仕草に目を光らせる。
アリシアside
「誕生日なのに息がつまりそうだわ」
私はは誰にも聞こえないよう小声で言ったつもりだった。
しかし、伏せていた目をあげるとパチッと1人の男性と目が合う。
彼の周りには多くの令嬢や婦人がひしめき合っており、目が痛くなりそうなほど華やかだ。
彼はニコッと綺麗に微笑むと、令嬢たちに何やら断りを入れてこちらに近づいてきた。
「アリシア王女殿下、この度はお誕生日おめでとうございます」
そう言って頭を下げる彼は、桜色の美しい髪に晴天の空のような青い瞳を持つ麗人だった。
あまりの美しさに言葉を失う。
しかし、すぐに持ち直しお礼を彼に告げる。
「ありがとう」
そう言うと彼は私の左手の指先にキスをした。
真っ赤になりそうなのを必死に我慢する。
もう去るだろうと考えていると彼は
「殿下、よろしければ一曲踊っていただけませんか?」
片膝をつきながら手を出して言う。
王太子である兄がやったら引いてしまいそうな動作だが、彼がやるとすごく様になった。
断る理由もないので彼の手に自分の手を重ねる。
その時に見た彼の笑顔を忘れることはないだろう。
王女である私のためなのだろう、自然とホールの中央が空く。
私たちは周りにぶつからないように気をつけなが中央に躍り出る。
彼のリードは踊り易かった。
「フッフッ、ダンスお上手なのね」
会話をする余裕もある。
「お褒め頂き光栄です」
何度見てもやはり美しい人だと思う。
「そういえば、貴方の名前ユリウス・マクレルであってるわよね?」
「えぇ、あっています」
「よかった、桜色の美人って貴方のことだったのね。ユリウス様ってお呼びしてもいいかしら」
「殿下にそのようにお呼びいただけるなんて嬉しいしです。桜色の美人ですか、そのように呼ばれているなんて初めて知りましたがこの髪は私の自慢なので嬉しいですね」
「私のことはアリシアでいいわ。マクレル伯爵家の男性は桜色をその身に纏うと言うけど本当だったのね」
「流石に呼び捨ては無理なのでアリシア様で。私の父や祖父、叔父は瞳が桜色ので髪に現れたのは珍しがられました」
「機会があれば触ってみたいものね」
私がいい終わるの同時にちょうど良く音楽も終わる。
「ユリウス様、また機会ありましたら是非私と踊ってくださいね」
「こちらこそよろしくお願いします」
彼は去り際さえも美しかった。
それから何回か彼と談笑したり、踊る機会があった。
その頃には私はすっかりユリウス様に入れあげていた。
私だけに笑いかけてほしい。
隣に立ちたい。
結ばれたい。
王女という身分上国外に嫁ぐことになるだろうと思っていた私にとって、父から聞かされた国内の貴族との婚姻は運命さえも私とユリウス様が結ばれることを望んでいるのだろうと思っていた。
しかし、現実とは残酷で王家からの打診であるのにも関わらず、ユリウス様は私との結婚を断りスカーレット様と結婚してしまった。
こうなると運命だとさえ思っていた国内の貴族との婚姻は地獄へと姿を変えた。
愛した人が私以外の人に笑いかけ、隣に立ち、結ばれた。
それを見続けなくていけない。
初めての失恋はとても苦しかった。
王族という身分上社交界から逃げることもできないし、独身を貫く訳にもいかない。
結局、私は清廉潔白な騎士と言われるギルバートと結婚した。
結婚して数年後、私の驚く噂を耳にした。
その内容はスカーレット様がユリウス様との離縁を希望しているというものだった。
このとき私には2人の息子がいたが、私はそんなことも忘れてチャンスが来たと思ってしまっていた。
すぐに夫であるギルバートに離縁を願い出た。
ギルバートとは当たり障りもなく上手くやっていた。
いや、ギルバートはちゃんと私を愛してくれていた。
しかし、私がダメだった。
いつまでも初恋を忘れることができず、母親になっても初恋にしがみついていた。
ギルバートには当然のように離縁を断られた。
諦められなかった私は国王に即位したばかりの兄にも願い出た。
焦った兄はユリウス様とスカーレット様の離縁を中止さえようと奔走していた。
結局私とギルバートの離縁は叶わないまま、ユリウス様とスカーレット様は離縁して、ユリウス様は後妻を迎えていた。
二十数年後、王家もエクティーヌ公爵家も私とユリウス様が個人的会うことがないように立ち回り続けていた。
しかし、二十年という歳月は油断を誘ったのだろう。
たまたまだが、屋敷を抜け出し城下を散策している最中にユリウス様と遭遇した。
舞踏会などで遠くから見ることはあったが、こんな近くで見るのは久しぶりだった。
彼の美しさは変わらない。
もうこの機会を逃したら次はないと思った私はユリウス様を全力で言いくるめて彼と関係を持った。
運がいいのか悪いのかはまだ分からないが私はこの機会を逃すつもりはない。
父→先代国王陛下
兄→国王陛下
スカーレット様→グレイの母親
ユリウスとスカーレットの離婚がスムーズにいかなかった理由はアリシア王妹殿下
アリシアは初恋を終わらせられない才媛