色男の誕生日
毎年のことだが、父の誕生日にはとてつもない量のプレゼントが届く。
「なんだコレ」
初めて見るルカが言う。
「父様のどこにそんな魅力があるのかしら」
年々辛辣になって行くサラ。
「あの人今日帰ってくるのか?」
父の予定を家令に確認するお兄様。
「危ないものが入ってないか確認しないとね」
マクレル家の警備隊を呼び、箱の中身を確認するよう指示する私。
毎年のことだ。
「食べ物は毒味してもらわないと食べれないわよ」
食べ物に手を伸ばしているルカに向かってサラが言う。
「あぁ?なんでだ?」
ルカは不思議そうにサラに問う。
「麻痺薬に、媚薬、瀉下薬とかこれまで色々入ってから」
サラがそう言うとルカは慌てて手を引っ込める。
「どんだけだよ」
食べ物たちをじっと見つめて言うルカ。
「ルカ兄さんも気をつけてね。マクレル伯爵は女の味方は多いけど、男の敵が大勢いるのよ」
その通りだ。
女性に好かれやすい父だが、男性からはかなり嫌われやすい。
父の友人といえば父と同じで社交界で浮名を流している人たちばかりでろくな人がいない。
「ハハッ!ねぇ、みんな見て見て」
お兄様が笑いながら手袋をした手で2枚の紙を持ってくる。
「どうしました?お兄様」
私が尋ねるとお兄様は私たちに紙を見せる。
「呪いの手紙と恋文」
どちらも人に見せるものではない。
「両方とも父様宛なの?」
「あぁ、そうだよ」
「誕生日に呪いの手紙と恋文もらう父親って」
サラは手紙を凝視して、ルカは宙を見る。
「グレイもソフィアもサラも、よくこんな父親のもとでまともに育ってるな」
「母親もまともではないけどね」
とサラが言う。
サラ、それは言わない約束だ。
母親に関しては気にしたら負けだ。
プレゼントの山に視線を戻し、話題を変えるための材料を探す。
一枚の肖像画が目に入る。
「すごいわね」
私が絵を見ながら言うと、他の兄妹たちも絵を覗き込む。
「何がすごいんだ?」
「私もわからないわ」
ルカとサラは絵を見ながら首をかしげる。
「本当だね、なんであの人のためにわざわざこんなすごいもの用意したんだろうね」
私がすごいといった理由を理解したのかお兄様は頷きながら言う。
「フィ姉様、どこがすごいの?」
サラが聞いてくる。
「この父の肖像画、描いてる人は国王陛下や王妃殿下をはじめとした王族の方々にも肖像画を依頼されている人なのよ」
「「エッ!」」
ルカとサラは揃って声を上げて絵を凝視する。
「さらに付け加えれば、この額縁を作った人も王宮や神殿の彫刻の修復を担当してる人だよ」
お兄様が言う。
「「ハァ?」」
また声が揃った。
「これ誰から?」
サラは肖像画と一緒に贈られてきたバースデーカードを見る。
「王妹殿下からだって。すごいね」
贈り主を聞いた途端、私とお兄様の顔は真っ青になった。
「お兄様、なぜ今になって?」
「僕に分かる訳がないだろう」
アリシア・エクティーヌ公爵。
先代国王陛下の娘で現国王陛下の妹。
一代限りではあるが、能力の高さから他の王女殿下とは違い国内の貴族をあてがわれた才媛。
「アリシア様からなら納得のいくプレゼントだな」
「そんなこと言っている場合ではありません。父は何かやらかしたの?」
慌てる私とは対照的に諦めモードのお兄様。
サラとルカはポカーンとしている。
「いや、昨日の仕事の時は何も言われなかったけど」
お兄様は騎士団の医師だ。
なんでも、貴族やめても食べていける職業を選んだらしい。
「フィ姉様、どうして王妹殿下からプレゼントが届いただけでそんなに慌てているの?マクレル伯爵家はエクティーヌ公爵家とも交流があるし普通でしょう?」
サラが理解できないと言いたげな表情で私を見る。
「えぇ、普通よ。アリシア様からプレゼントが届くなんてむしろ誇らしいことよ。父が絡んでいなければね」
私はお母様とスカーレット様から聞いた話をルカとサラにする。
「父は断っているのよ」
「何を?」
「アリシア様からの求婚」
「「…………」」
「あらら、サラもルカも黙っちゃったな」
お兄様はこんな時でも笑みを浮かべている。
「ちょっと待て、アリシア様ってアレだろう?国一番の美女と言われていて、国王様の政務補佐も務めてるあのアリシア様だろう?」
ルカが確認してくる。
「そのアリシア様よ」
「平民でも知ってるスゲー人だぞ」
ルカは頭を抱えた。
「どうして父様?」
サラの疑問はもっともだ。
私だって思った、なぜ父?と。
「それ は分からないけど、アリシア様は父上に求婚を断られてから父上と個人的なやりとりはしていないと聞いている」
「アリシア様の旦那様って清廉潔白で有名な騎士様よ」
「そうだね、僕の上司だ」
私は頭を抱えた。
なぜ今になってアリシア様と父の交流が復活したのか。
「父上が帰って来たら聞かなくてはいけないね」
しかし、父は誕生日には帰ってこなかった。
王妹殿下→アリシア・エクティーヌ公爵