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父は本当の愛を見つけたらしい  作者: 雷ライ
〜ソフィア〜
4/33

浮気した時点で貴方の価値はゴミ以下です

週に一度の休日、私は婚約者であるノルデ子爵に会いに来ていた。


「メル様、お久しぶりです」


彼の研究室の扉を開いてもらい、部屋の中には入らず挨拶だけする。


「フィ?」


メルデル様はなんか知らないが汚れている。


何をしたらそんなに真っ白になるのだろう。


「はい、ソフィアです。真っ白ですねメル様」


私はそう言いながら彼の顔についてる真っ白いなにかを払う。


「あぁ、少し失敗してしまってな。シャワー浴びてくるから応接室で待っててくれ」


タオルで拭いた手で私の頭にポンと手を置いて出て行った。






「遅くなった」


真っ白だった髪や頭は綺麗に洗われており、紫紺の髪と瞳が見える。


「美味しい紅茶とお菓子をいただいていたので大丈夫ですよ」


メルデル様は自然に私の隣に座ると、タオルを渡してくる。


そして、頭をこちらに突き出す。


「ん」


「ふふっ」


彼の頭を拭きながら思わず笑ってしまう。


この仕草で信頼されていることを実感できるし、年上なのに可愛い彼をとても愛おしく思う。


「フィは俺の頭拭くと機嫌良くなるな」


されるがままだったメルデル様が私の左手を掴み、顔を上げる。


視線があい、ドキッとする。


「メル様がとっても可愛くて」


「フィの方が可愛い。髪拭いてくれてありがとう」


そう言いながら、私の手にキスをする。


「どういたしまして」


タオルを家令に渡す。


平静を頑張って装うがかなり心臓がばくばくしている。


そのままメルデル様を膝枕する。


彼と2人っきりの時は恒例になりつつある。


「フィ、右手貸して」


メルデル様にそう言われて右手を差し出すと彼の左手が私の手を包む。


「フィの手はあったかいな」


幸せそうに言われる。


「メル様、今日の予定忘れてないですよね?」


照れ隠しのために話題を変える。


「忘れてない。半年後に控えた結婚式の話だろう?」


「はい」


「やっとあと半年だ」


「そうですね」


「フィに惚れてから何年経ってると思ってる、四年だぞ。本当は学園なんて行かせないで結婚したかったんだ」


メルデル様と婚約して四年。


メルデル様が公爵を継がないと宣言して四年。


長いがあっという間だった。


「学園は今年一年だけですよ」


学園に行かせたくなかった発言には苦笑いが出てしまう。


学園に通うのは貴族の義務だが、四年制であっても四年間しっかり学業に専念しなくていけないのは男性だけだ。


女性は最初の1年通えば、結婚が理由であれば退学できる。


学園自体がそもそも大規模な見合い会場のようなものなので、結婚に関しては寛容だ。


「そういえばニコラスに絡まれたんだって?」


手を握ったままこちらを見上げながらメルデル様が聞いてくる。


「まぁ、そうですね。絡まれたと言われたら絡まれましたね」


苦笑い。


「しかもあいつフィが自分の婚約者だと思ってたんだってな」


メルデル様は呆れたような表現を浮かべる。


「私がよくスヘレット公爵邸にお邪魔させていただいておりましたから、誤解なさったのでしょうね」


「でも、フィはニコラスに会ったことなかっただろう?」


「そうですね。あの場で初めてお会いしました」


「女性貴族は基本的に学園に通うようになるまで家が主催のパーティー以外には参加しない。会えるのも女性の婚約者だけだ。あいつ1回も会ってないのによく勘違いできたな」


「公爵邸で何度か遠目で見えていたのかもしれませんね」


「紹介されてない女性を婚約者ってどちらにしろバカだな。ニコラスはしばらく自宅で再教育だから当分合わないと思うぞ」


メルデル様はため息をつく。


「ラブレット子爵令嬢は?」


「あー、母上が嫌っているから結婚は難しいだろうな」


「そうですか」


「母上がラブレット子爵令嬢に何人か地方の貴族で顔のいいやつ見繕ってたな」


「王都から追い出すおつもりですね」


「そうだろうな。次期公爵になるニコラスの汚点でしかないだろうからな」


「怖いですね」「怖いな」


同じことを思ったようで目が合うと2人で少し声に出して笑ってしまった。




「なあなあ、俺がもしニコラスみたいなことしたらフィはどうする?」


私の様子を伺っているメルデル様。


「そうですね、喜んで婚約破棄を受け入れますね」


私は満面の笑みで言う。


「エッ」


メルデル様は思わずといった感じで声が漏れる。


「浮気した時点で例えメル様であろうと価値はゴミ以下ですので」


満面の笑みを保ったまま言う。


「いやしないけどさ、ゴミ以下なのか?」


メルデル様の顔が引きつっている。


「ゴミ以下です」


「そうか」


「「…………」」


お互い無言になる。


「家の都合で愛した人と結ばれないという事で愛人になってしまうのもなんか無理なんです。仕方のないことだと頭のどこかでは理解していますが、父を見ていると愛人になった時点で愛してるのは人ではなくその人の地位の気がしてならないのです。それに結婚した相手だって結ばれたくて結ばれた訳ではない方が大勢でしょうに、まるで2人を切り裂く悪者のようにされるのも嫌です」


エマ様や他のかつての父の愛人たちを思い出しながら言う。


「それなら全てを捨てて逃げて仕舞えばいいのにって。そんなことする人たちのことをわざわざ追いかけてあげるほど困ってる家なんてそうそうないでしょうに、自分が必要とされていると言う勘違いが嫌なんですかね」


父は【本当の愛】を見つけたとよく言うがお兄様が成人なさっているのだから、いつでも伯爵という地位を捨て愛人と一緒になられても構わない。


なのにそれをしないということが愛人に対する愛の答えな気がする。


「俺はフィ一筋だけどな」


「ごめんなさい、訳のわからないことを言いましたね。自分の価値観をメル様に押し付けるつもりはないので気になさらないでください」


自分勝手な考えを長々と述べてしまいとても恥ずかしい。


「俺はフィ一筋だけどな」


メルデル様がなぜかさっきと同じ言葉をもう一回言う。


「?」


意味が分からず私は首をかしげる。


「フィは?」


その問いかけでそうかと思う。


「私もメル様一筋です」


彼の頭を撫でながら少し照れくさいがはっきりと言う。


「ありがとう」


メルデル様は心底幸せそうな笑みを浮かべた。




この後、無事に結婚式の相談を終えこの日は過ぎていった。






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