異母妹がカワイイ
愛人とその娘がマクレル伯爵家にやって来たのは、お母様が出て行った次の日だった。
「エマ様、サラ様ようこそマクレル伯爵へ」
父が連れてきた2人をお兄様と一緒に迎える。
「はっめまっちぇー」
異母妹・サラは舌ったらずな言葉で話す。
2歳になったばかりのサラはまだ、あんまり上手に話せない。
私とお兄様は、はしたないことだとは認識しながらもエマ様の隣に立つサラに視線を合わせるためにしゃがむ。
「はじめましてサラ。兄のグレイだよ」
お兄様は人好きする笑みをサラに向ける。
「はじめましてサラ。姉のソフィアです」
私もサラを怖がらせないように笑顔を意識して頑張る。
「はっめまっちぇー」
サラはニコニコしながら私たちにまた挨拶してくれる。
サラは私の服装を見て
「キャー」
と抱きついてくる。
カワイイ。
私はサラを抱き上げる。
あんまり力はないがサラを抱き上げることはできる。
私とサラが戯れてる間に父はエマ様をお兄様に紹介する。
「ソフィア、サラ家にに入るぞ」
父に促され私たちは家に入る。
父とエマ様とお兄様はお話の続きがあるようなので私は専属メイドにサラを抱っこしてもらって、一階の奥にある子供部屋へと向かった。
サラを床に座れるようにしたフワフワの絨毯の上に下ろしてもらう。
サラは絨毯が気になるのか床をペシペシ叩く。
「サラ、私のことはフィ姉様と呼んでね」
私もサラの正面に座りサラに話しかける。
お兄様しか居なかった私は妹に『姉様』と呼んでもらうことに憧れていた。
「フィ姉様」
「フィー?」
「フィ姉様」
「フィーしゃー」
「フィ姉様」
「フィーしゃーみゃー」
「フィ姉様」
「フィーぇーしゃみゃ」
「!そうよサラいい子!」
私はサラの頭をゆっくり力を抜いて撫でる。
サラはキョトンとこちらを見るが、褒められていることを理解したのかキャキャとはしゃぎだした。
しばらくサラと遊んでいたが、眠くなったのか目をこすりはじめる。
「サラ?眠い?」
私が聞くとサラはうつらうつらしながら
「ねーにゃい」
首を振り眠くないと言う。
その仕草さえ可愛い。
「サラ、フィ姉様と一緒にお昼寝しようか?」
私が提案すると
「フィーぇーしゃみゃー、バイバイしない?」
と聞いてくる。
その言葉に私は思わず目を見開く。
エマ様は平民だった。
いくら父からお金をもらっていたとしてもある程度仕事はしていたのだろう。
きっとサラの寝ている間に預けて働いていたのだろう。
「バイバイしないわよ、サラ」
そう言ってサラと一緒にゴロンと絨毯の上に横になる。
気が抜けたのかサラはすぐに眠ってしまった。
しっかりと私のブラウスの襟を掴んだままで。
メイドにブランケットを持ってきてもらい、しばらくはサラの寝顔を見ていたが私もいつのまにか意識を手放してしまった。
「ソフィ、起きて」
心地よく眠っているのに覚醒を促される。
「うーー?」
「ソフィ」
ゆっくりと目を開ける。
瞬きを繰り返す。
「起きた?」
視界に映るのはお兄様だ。
「おはよ〜ございます〜」
起きて伸びをしながら言う。
「おはよう」
お兄様はにこやかに返してくれる。
「サラは?話し合いは終わった?」
「サラはベッドに移したよ。話し合いも終わったよ」
お兄様は私の寝癖を直すように頭を撫でる。
「話し合いどうだった?」
「うん、別れるのも時間の問題かな?」
「?」
「お金目当てみたいだよ」
苦笑いしながらお兄様は言う。
「でも、お金の管理は義母上のおかげで全権が僕にあるから、例え父でも自由には使えない」
あの時のお母様が父にサインさせてた紙に書いてあった項目の1つだ。
父の正式なサインと印が押されているので、国王陛下でもない限り覆すことはできない。
「なんか哀れねお父様」
私が言うとお兄様も頷く。
「色男が聞いて呆れるよね」
「そうだお兄様、サラの左腕の肘の内側に桜の模様があったわよ」
私がそう言うとお兄様は
「ありがとう。サラがマクレル伯爵家の直系の娘だったわかれば十分だ」
「そう、よかった」
こうして愛人とその娘が我が家にやってきた日は過ぎていった。
愛人→エマ
愛人との娘→サラ