紅の瞳の第3王子と出会う
入学してから1ヶ月が経過した。
友人ができない。
いや、それ以上にかなり嫌われている。
「ねぇ、あの子だよー。マクレル伯爵と愛人の娘って」
「あぁ、あの好みの男とはすぐに関係を持つっていう」
「確かに美人だけどさぁ、愛人との子どもが調子乗るなよって感じだよね」
「分かる。成績も上位らしいけど所詮体使ってるだけでしょう?ってね」
斜め前方にいる女たちは私に聞こえるであろう大きさの声を出して悪口を言う。
確かに私は元愛人との間に生まれているが、母親は一時期ではあるがマクレル伯爵家に嫁いでいた。
正式な伯爵夫人だった。
だから、こんな風に出生と容姿について言われるのは別に問題ない。
それより問題なのは
「キャッ!」
目の前で1人の女子生徒が転ぶ。
「大丈夫かい?」
なんか無駄にキラキラした容姿の優れた男が彼女をたすけおこす。
「はいっ」
彼女は男の手を取り無駄に痛そうに立ち上がる。
「保健室に行こう」
男がそう提案するが彼女は首を振る。
そして私をまっすぐに見て
「どうしていつも私に足をかけて転ばさせるんですか!?」
と詰め寄ってくるのは。入学式に出会った体当たり女だ。
「私はただ歩いていただけよ。あなたが勝手に転んだのでしょう」
廊下の真ん中を歩いている私にまた例のごとく体当たりするかのような勢いで近づき、私が避けたと同時に転んだのだ。
「そうやってまた逃げるんですか!」
体当たり女は今日も元気だ。
「どういうことだ?」
今日は他人を巻き込むことに成功している。
しかも巻き込んだ相手は
「アルフレッド殿下、聞いてください。サラ様ったら私の何が気に入らないのか頻繁に嫌がらせしてくるのです」
私たちより2歳上のアルフレッド第3王子殿下だ。
体当たり女は顔を手で覆って泣き真似を始める。
「それは本当なのか?」
殿下は私の方を向き聞いてくる。
体当たり女を慰めるつもりはないらしい。
「いえ、彼女の名前も知らないのです。気にいるいらない以前の問題です。それに私は廊下を歩いていただけで近寄ってきたのは彼女の方です」
「そうか。ではこれで解散だ」
殿下がそう言うと周りにいた野次馬たちがいなくなる。
殿下はその中にいた体当たり女の友人だという女に彼女を預けると私の方を見る。
「災難だったな」
紅の瞳を細めて言う。
「いえ、あれぐらいはなんともありません」
頭を下げて言う。
「ハハっ、本当にルカが言っていた通りの性格のようだな」
殿下は楽しそうだ。
「ルカ?」
思いがけない名前が出てきた。
「ああ、君の兄とは友人なんだ」
「えっ!」
驚いて大きな声を出してしまいそうになる。
ルカからそんな話聞いたことは一度もない。
グレイ兄様は知っていたのだろうか?
それなら私にも教えてほしいものだ。
「あの〜、ルカ兄様からはどんな話を聞いていたのですか?」
ろくなことを言っていないと思う。
「そんなに畏まらなくてもいい。ルカのことも普段は呼び捨てなんだろう」
「えっ、いやっ、あっ」
その通りだ。
ルカを兄様と呼んだことは一度もない。
「ルカはサラ嬢のことがとても大切みたいだったよ。
いや、君をというか君達兄妹をかなり大切にしていたよ」
キラキラとした笑顔で話すアルフレッド殿下。
「グレイ殿は頭も良く、医術も優れており剣術の稽古で怪我をしたらよく治療をしてもらったとか。ノルデ子爵夫人は弟妹に甘くもあるが、優しさの中に厳しさもしっかりと持っているため、サラ嬢とイタズラをしたときはかなり本気で逃げたとか」
「イタズラの話までしたのですか!?ルカは!?」
殿下に何を話しているのだアイツは。
「ああ、サラ嬢とは年も近いためケンカも多かったが2人で遊ぶ機会も多かったと言っていたよ」
本当にどこまで話したのだ。
恥ずかしくなり顔を手で覆う。
本当は扇とか隠さなくてはいけないのだが、それどころではない。
何が悲しくて、殿下の口から自分の過去の所業を聞かなくてはいけないのだ。
「ルカがいない学園生活は寂しいかもしれないが、長くて四年の学園生活だ。楽しんでくれ」
1人で恥ずかしさに悶えていると話終わった殿下に肩を軽くポンとされる。
それに慌てて意識を戻し、頭を下げる。
「ありがとうございます」
私がそう言うと殿下は軽く手を振り去っていった。
この会話により私には新たな噂が追加される。
アルフレッド殿下を籠絡しようと詰め寄っているらしいと。
そして、友人ゼロの学園生活はまだまだ続く。
紅の瞳の第3王子→アルフレッド
アルフレッドは王家の末っ子王子です。
王太子殿下はグレイより2歳くらい上。
ルカ、王子様と友人になっていたようです。