麻痺している気がしなくもない
色男で女遊びが激しく浮気性な父が、唯一気をつけていることがある。
それは結婚する女性以外は家に連れてこないということだ。
お兄様曰く、今のところ正式にこの家に招かれた女性は私の母・エリーシャとサラの母・エマだけらしい。
まあ、その分乗り込んでくる女性は多く、父が家に帰ってくることもあまりない。
いつもより早く起きてしまったある日。
飲み物をもらいにキッチンに向かうために階段を降りると帰って来てばかりであろう父がいた。
「おかえりなさい、お父様。今日も朝帰りですか?」
父は目が合った瞬間ビクッと肩を震わせた。
「ソフィア、おはよう。こんなに朝早く起きてどうした?」
朝帰りの理由を言うつもりはないらしい。
どうせ遊び相手のところにいたのだろう。
追求するほどのものでもない。
追求すべきなのは父の持っている籠だ。
「お父様、それ何が入っているのですか?」
私は父の持ってる籠を指差しながら出来る限り笑みを浮かべて言う。
「いやッ、ソフィアこれはね、あのね大したものではないんだよ」
どうにか私の意識を籠から晒そうとする父。
「お父様」
ため息をつき、見せなさいという意味を込めて父を呼ぶ。
「はい…」
父は渋々ながらこちらに籠を差し出した。
私は籠の中を覗くと、そこには生後1ヶ月も経っていないであろう赤ちゃんがいた。
「……母親は誰ですか?」
赤ちゃんは心地好さそうに眠っている。
父は少し冷や汗が出ている。
「……シア様です」
小声すぎて聞こえない。
「誰ですか?」
「アリシア・エクティーヌ公爵です」
私は額に手をあて天井を仰ぐ。
「王妹殿下ですか……。先日のアリシア様からの父への誕生日プレゼントはそういうことでしたのね」
予想していた中でかなり悪い方の結果だったが、最悪ではなかったのでよしとする。
お兄様にも知らせないと思い、誰かを呼ぼうかと周りを見渡すといいタイミングで家令のジックが現れた。
「旦那様、ソフィアお嬢様おはようございます」
礼儀正しくお辞儀をしてくるジック。
「おはよう、ジック」
父は助けが来たとばかりに満面の笑みを浮かべ挨拶する。
「ジック、おはよう。急で悪いのだけどお兄様とルカ、サラも起こしてきてくれる?」
「承知しました」
ジックは私の持つ籠を一目見ると何も聞かずにお兄様たちの部屋の方へ歩いて行った。
私は逃げようとする父の腕を掴み食事室へと連れて行った。
10分後には全員が食事室に揃う。
赤ちゃんも目を覚ましており、さっきまでは大泣きしていたが、侍女に作ってもらったミルクを飲ませたことでまた眠りについた。
ルカもサラも赤ちゃんに興味津々でさっきから私の方にある赤ちゃんが入っているの籠をチラチラ見ている。
そんな中一切こちらを向かないのが1番最後に食事室へとやって来たお兄様だ。
「父上、やってくれましたね」
「いや〜、モテる男は辛いね〜」
完璧な笑みを浮かべるお兄様に目が泳ぎまくっている父。
「エクティーヌ公爵とはいつから関係を持っていたのですか?」
お兄様による尋問が始まった。
「一年ぐらい前に1回だけ」
「1回だけ?ではその1回でエクティーヌ公爵は父上との子を授かったというわけですね」
「ああ。2ヶ月前にアリシア様からの急に連絡が来た」
「それはどういったご用件で」
「貴方との子を身ごもっておりますと」
「それで?」
「最初は信じなかった。1回で身ごもった女性なんて過去にいなかったし、俺を貶めるための罠かもしれないし」
「そうですね。父上には山のように大勢の敵がありますからね」
「しかし、一回でいいから子供に会ってくれと言われた。それで貴方との子だと証明できると」
「で、行ってみたと」
「はい。そうしたらこの子がいました」
「左頬に桜の模様を持つ赤ちゃんですね」
「はい」
「マクレル伯爵家の直系にしか現れない模様ですね」
「そうですね」
「しかも生えそろわないとわかりませんが、髪は父上と同じ桜色になる可能性のある色ですね」
「そうですね」
「はぁ〜〜〜〜〜」
お兄様の大きなため息でこの話は終わる
「男の子であったことが幸いですね」
私は赤ちゃんの頭を撫でながら言う。
「どうして?」
サラが聞いてくる。
「もし女の子に生まれていたら、きっとアリシア様と同じ王家の紅色が入っていたでしょうからね」
「王家の紅って直系以外にも現れるのか?」
今度はルカが聞いてくる。
「王族の血を受け継ぐ子には現れやすいんだよ。王位継承権を持つための条件でもあるしね」
お兄様が説明する。
「でも、こいつにはないよ?」
「優先順位があるんだよ。この子の場合は母親のアリシア様は王妹で父親はマクレル伯爵家の当主だ。血の近さでマクレル伯爵家が優先されたんだろう」
「男でよかったってどう言う意味なの?男の子じゃ普通やばいんじゃないの?」
「マクレル伯爵家をはじめ、初代国王陛下に仕えた6つの家が花の模様を持つ。その血は王族の血より強い。だが、髪や瞳にその6つの家の特徴を継ぐのは男性だけだ。女性は母親の色を継ぐ」
「ってことは、アリシア様は王家の紅色の髪を持つから……」
「この赤ちゃんは女の子だったら紅髪だったてことだね」
一発で王族の関係者だとバレてしまうと言うことだ。
父はなぜいつも厄介ごとを持ってくるのだろう。
「まぁ、どうでもいいわよ。この子は私たちの弟になるのでしょう?」
私はお兄様をみて言う。
「そうだな、今更だ。まずみんなで名前から考えるか」
お兄様はここでようやく赤ちゃんの入った籠を覗き込んだ。
「ジック、父上を執務室へお連れしろ。帰ってこなかった間の仕事が溜まっている」
お兄様は父を許すつもりはないらしい。
ジックによって父は執務室へと連れていかれた。
5人兄弟になりました。
赤ちゃんの名前決まったら一回登場人物整理したいと思います。
兄弟の数だけ母親もいるので名前がゴチャゴチャになってきました。