お兄様笑い過ぎです。
誤字脱字に注意して下さい。
読みにくいところもあると思われます。
設定や時系列がおかしいかもしれませんが、それでもいいとなんでも許せる方のみお読み下さい。
「エリーシャ!今まで黙っていたが、
私には君とは別に愛する人がいる!
彼女と結婚したい!離縁してくれ!」
昼下がりのある日、仕事に行っているはずの父が、
食後のデザートを庭で食べていた私たちの前に現れ、
大声で叫んだ。
「…………」
無言のお母様。
「ふっ……っ……」
笑いを必死に堪えるお兄様。
「「「「…………」」」」
無言で目をそらす使用人一同。
そんな中、私は父を見る。
額に汗を浮かべながら、俺はついにやったぞ感がハンパない顔をしている。
「どういうことでしょうか?旦那様」
息を整え終わった父にお母様は問いかける。
「10年前、君と私は親の言われるがままに結婚した。貴族ならそれが当たり前だし構わないと思っていたんだ、5年前のあの日彼女に出逢うまでは」
熱く語り出す父。
「はぁ、それで」
大して興味もなさそうに先を促すお母様。
「彼女に出逢い過ごす中で私は【本当の愛】というものが何なのかを知った。しかし、彼女は平民で元侯爵令嬢だった君とは比べてかなり身分が低い。私だって貴族だ。家にとっての最善ためにこの愛を何度も諦めようとした。たが、無理だった。そして3年前彼女が私との子供を身ごもった。生まれた子は可愛らしい女の子だったよ。毎日仕事帰りに彼女とその娘に会っていた。しかし、段々と愛する人がいる家に寄ることはできても帰ることができない自分に嫌気がさした。だから、彼女たちをこの伯爵家に迎えたいと思う!しかし、君と結婚していると彼女たちの肩身がせまいだろうからエリーシャ離縁してくれ!」
長い。
そんなんだから脳筋バカと呼ばれるのだ父は。
私がそんなことを考えているとお母様はそばにいる専属メイドに何やら指示をする。
指示を受けてやってきたメイドが持ってきたものは1枚の紙だった。
その紙を父に見せながらお母様は
「これにサインしていただけるなら、喜んで離縁致しますわ」
と言う。
用意周到なように見えるが父が外に愛人を作ったのが5年前。
脳筋バカと言われる父が隠せるはずもなく、お母様もお兄様も私も使用人一同も気づいていた。
「本当か?!エリーシャ!」
思いの外スムーズに進む話が余程嬉しかったのだろう。
父は満面の笑みを浮かべながら紙にサインをする。
「はい、確かに受けたわまりましたわ。旦那様、出て行く準備に3日ほどかかりますので、その【本当の愛】を教えてくれた彼女を呼ぶのは少し待っていてくださいね」
お母様が笑みを顔に貼り付けて言う。
「あぁ、わかった。では私は彼女たちのもとに報告してくる!」
父はお母様の言葉に頷き満面の笑みで去って行った。
「はっ!はっ、ヤバイ!笑いが止まらないっ!」
父が去ったと同時にお兄様が大声で笑い始める。
とても貴族の令息には見えない笑い方だ。
「グレイ、笑いすぎよ」
そう言うお母様も我慢できていないのか口がピクピクしている。
「…………よかったですね、お母様」
お兄様の笑いが収まったところを見計らい声をかける。
「えぇ、やっとよ。やっと私の夢が叶うのね」
お母様は今後のことを考えて頬を染める。
「義母上あとのことは僕に任せといて」
お兄様はお母様と目をしっかりと合わせて言う。
「グレイ、ソフィア迷惑をかけるわね。ごめんなさい」
お母様は申し訳なさそうに私たちに謝る。
「いえ、お母様は安心して離縁なさって下さい。…………すべてお母様の計画通りですからね」
私がそう言うとお母様は苦笑いをなさった。
事の発端は12年前まで遡る。
私の父であるユリウス・マクレル伯爵は結婚してからも色男として名を馳せていた。
当時の妻であり、お兄様の母君であるスカーレット様は結婚してからも落ち着かないどころか、遊びが激しくなる父に我慢の限界を迎えようとしていた。
結婚して嫡男を授かったのにもかかわらず、外で遊び呆けて金を使いまくる父にスカーレット様が離縁状を叩きつけたのが12年前になる。
この時はかなり揉めたらしいが無事に離縁した。
スカーレット様は少し気の強そうな外見をしてらっしゃるが、美人として有名で離縁した後にも多くの求婚があったと言うが、結婚はもうしたくないと隠居された。
お兄様はたまにスカーレット様に会いに行っているし、私も何回かお会いしたことがある。
このことからもわかるように、お母様はマクレル伯爵の後妻で、私とお兄様は片親しか血が繋がっていない。
スカーレット様との離縁から一年半後に父と結婚したのがお母様だ。
私を生んだのが9年前ぐらいなので、父は私が4歳の頃にはもう外に愛人を作っていた。
そして、3年前のある日に私とお兄様はお母様からある計画の全容を聞かされていた。
簡単に言うとお母様には結婚する前から想い人がいた。
しかし、その想い人とお母様は15歳も歳が離れており、しかも従兄弟だった。
周囲には悟られていなかったそうだが、お母様はその想い人に求婚なさったことがあるそうだ。
そこでフラれたそうなのだが、諦められなかったお母様はこのまま家にいても誰かと結婚させられてしまうと考えて、それなら離縁しやすいように問題のある男の元に嫁ごうと当時スカーレット様と離縁なされたばかりで、色男として名を馳せる父に目をつけた。
当時、お母様はその身は想い人に捧げると決めていたため、ある男性嫌いの女性がしていたある研究に参加した。
そこで上手いことやって父に抱かれることなく、私を授かった。
父も最初は私との血の繋がり疑ったらしいが、首に浮かぶ桜の模様はマクレル伯爵家の者にしか現れないものだ。
それを見て父は納得したらしい。
この時からお母様の計画通りに夫婦関係は冷めていった。
もともと熱くもないのだが。
そしてお母様は私が4歳になってしばらくたって、ようやく父に愛人ができたそうだ。
ここからの計画には私たちの協力も必要だと判断したため、私とお兄様にすべて話すことを決めたらしい。
ちなみにスカーレット様はずっとお母様の味方だ。
お母様は用意周到に父から離縁を求めるように働きかけ、想い人に縁談が来ないように潰していた。
私とお兄様の役割はお母様の想い人と侯爵家のお爺様にお母様の境遇を話すだけだった。
お母様のことを妹分として大切にしていた想い人は、お母様の現状に心を痛めた。
想い人は、従兄弟という立場を利用して私たちをよく外へ連れ出してくれた。
ちなみに想い人は、清廉潔白な騎士様で国王陛下からの信頼も厚いレイメル子爵だ。
見た目はかなり厳つく怖い。
もともと結婚相手が見つかりにくいのにお母様が潰していたため未だに独り身だ。
交流を持つようになってわかったことは、レイメル子爵は本当にいい人だということだ。
お兄様も私も懐いた。
そして、1年前にはレイメル子爵はお母様に落ちていた。
まあ、自分を慕ってくれる年下の可愛い子がいたら落ちない方が難しい気がしなくもない。
レイメル子爵はお母様にすぐに離縁を進めた。
侯爵家に戻りづらいなら、自分のところに来ればいいと私やお兄様のことが心配なら一緒に来てくれても構わないと。
しかし、お母様はレイメル子爵に不利益が被るのは嫌だと断った。
レイメル子爵はお母様にまだ時間はあるからゆっくりと考えようと言ってくれた。
その間にもお母様は父を愛人へと向かわせる努力を怠らなかった。
そのかいあっての今回の【本当の愛】だ。
お兄様はお母様の思惑通りに動く父に笑っていたが、私から見たらお母様怖すぎる。
「ふふっ、頑張った甲斐があったわ。さっき兄様にも連絡を入れたから、もうすぐ返答がくると思うわ」
本当に嬉しそうな笑みを浮かべてお母様は言う。
「侯爵家には?」
お兄様が聞く。
「完璧に離縁してから連絡するわ。まだ、兄様のもとに嫁いでいないから気は抜けないわ」
お母様は今度は気を引き締める。
「頑張ってお母様」
応援しとく、子どもにはわからない。
3日後、レイメル子爵が迎えに来てお母様は出ていった。
父が離縁を宣言する前にしていた話し合いの結果、お兄様と私はマクレル伯爵家に残ることにした。
「グレイ、ソフィア本当に一緒に来なくていいの?」
お母様はまだ納得した内容だった。
レイメル子爵アージェス様も
「グレイとソフィアと一緒に暮らせるのを楽しみにしていたんだが」
残念そうに言っていた。
「アージェス伯父様、ありがとうございます。これからも剣術の稽古をお願いしたいので、レイメル子爵家にいってもよろしいでしょうか?」
お兄様は本当にレイメル子爵に懐いている。
「ああ!ぜひ来てくれグレイ。ソフィアもエリーシャでも俺でもいいからぜひ会いに来てくれ」
本当にレイメル子爵はいい人だ。
お母様はお兄様と私を抱きしめて言う。
「グレイもソフィアまスカーレット様も離れていても家族よ。会いに来てね」
お母様もレイメル子爵に関することは怖いが、普段はいいお母様だった。
「はい、お母様。伯父様との間に子どもができても愛してくれる?」
お母様は一瞬顔を真っ赤に染まるが、すぐに真剣な表情になり、
「愛するに決まっているでしょう。ソフィアもグレイも私の子どもです」
お母様をぎゅっと抱きしめかえす。
「またね、お母様」「またね、義母上」
「またねグレイ、ソフィア」
登場人物
父→ユリウス・マクレル
お母様→エリーシャ・マクレル
お兄様→グレイ・マクレル
私→ソフィア・マクレル
レイメル子爵→アージェス・レイメル
マクレル伯爵家前妻→スカーレット
愛人
愛人の娘