一度くらいは経験したい、天使仕込みの臨死体験。
また続きを書けたなんて、夢のようです。
基本、4000文字書いたらテキトーにアップしますので、わりと変なところで切れます。
すいませんね。素人だから、許してお兄さん。
どこまでも続く、鮮やかな色とりどりの花で飾られた野原。
見上げると、空は雲一つなく、青く澄みわたっている。
そのどこにも太陽が見当たらないのだが、息をのむような絶景の前には、些細なことだ。
その青い空に、光り輝く何かがある。それは、ゆっくりとカルカの目の前に降りてきた。
白くまばゆい光に目を細めていると、その輝きはだんだんと弱まっていく。
「ああ、ああ……」
カルカには、予感があった。きっとこれは、この上なく神聖なものだと。
しかしてそこには、かつて見たこともないような……いや、他と比較することなどまるで意味を成さぬほどの、人智を超えた美が顕現していた。
頭上に浮かぶ光の輪。背には、輝く大きな翼。
漆黒の艶めく長い髪。宝石のごとく煌く黒い瞳。そして、慈愛に満ちた表情。
黒を貴重としたお召物は、半透明のキラキラと輝く白い布と、黄金の鎖で飾られている。
そして、そのすべてが調和して生まれる、言葉にすることのできない圧倒的な美。
神々しいとはこのためにある言葉だったのか! そう、まさに! ああ! ああ!
……。
話の流れから、当然おわかりのこととは思うが、そこにいるのは、ジオトヒクルである。
その吊り上がったキツい目つきを、怖いもの知らずのバックスをして「怖い」と評価せしめた、あの、黒の天使である。
それが、カルカの目を通すと、こんなにも尊く、ありがたく見えるのはなぜなのか。
バックスは、絶世の美しさを持つ多くの天使に見慣れていて、今さら驚いたりしない?
それとも、ジオトヒクルの見た目が、カルカの嗜好にドンピシャで合致したとか?
実はこれには、仕掛けがある。
楽園のごとき非現実的な背景を用意し、眩しい光の中から現れるという演出。それもあるが、人間の心を完全に掌握するために、天使はもっと直接的で、わかりやすい奇跡を使用する。
それが、感情操作だ。
魅了、畏怖、興奮、感動。
そういった感情を、神の力をもってして、無理やりにでも抱かせるのである。
どんな不信心者だって、これを食らえばイチコロで、神秘体験をしたものが、人が変わったように信仰心に目覚めるのも、だいたいこのせいだったりする。
もとより信心深い神官など、この効果はもう覿面である。
カルカは、涙を堪えられなかった。それはもう、とめどなく溢れるようにも感じられた。
「どうして」「なぜ」などという疑問を挟む余地はない。ただひたすらに、その御姿は尊い。
黒き衣の天使は、カルカの瞳を見つめ、ニコリと微笑む。
カルカの心は、完全に支配されていた。今すぐ死ねと命ぜられたら、歓喜のままに命を捧げるだろう。
実際のところ、その肉体は、だいぶ前に死を迎えているわけだが。
さぁて、と。
ジオトヒクルは、少しばかり思案する。
死んだ人間、つまり、いつものお客さんなら扱いは慣れたものだが、例外措置で生き返らせるなんてのは初めてのことである。やり方はわかっているが、問題は、この蘇生対象に、どこまで事情を説明していいのかってことだ。
カルカの記憶を覗いてみると、バックスはなんでもかんでも自由気ままに話していて、今さら天使の何を秘密にするかってなものである。ジオトヒクルは、すっかり悩むのがアホらしくなってしまった。
ありのままの顛末を、コイツの記憶に叩き込んどきゃいいか。めんどくせぇし。
バックスに影響されてか、仕事が雑になってきはいないだろうか。
ジオトヒクルはゆっくりと右腕を上げると、カルカの頭の上に手のひらをかざす。
ぼうと柔らかな光に包まれる手。
これ、別に光ることにはなんの意味もないのだが、神の奇跡の発現をわかりやすくするための演出だったりする。天使ってヤツは、なんだかんだで、人間に対しては色々とサービス満点なのである。
それは、ちょっとよそ見してたら終わってる、くらいの時間だ。
そのわずかな間に、脳内の損傷、及び生命活動停止後の時間経過により傷んだ肉体の修復、余計な記憶の消去、そして蘇生後に無駄に説明をしなくてもいいように、新たな記憶の付与まで完了させた。
「さ、これでよし。ほれ、バックスが腹すかせて待っとるけぇ、ちゃっちゃと生き返れ、カルカ。」
ジオトヒクルは、実際そんな感じだったのだが、すっかり眼前の天使に心酔していたカルカには、まったく違った風に聞きとっている。
「そう、すべては神の思し召し。あなたには、まだやるべきことが残っています。さあ、蘇るのです、神の子、カルカよ!」
いやもうまったく。感情操作のえげつない効果、お分かり頂けたことと思う。
「は、はい! ありがとうございます! ありがとうございます!」
涙を流しながら、ひたすら意味不明に感謝の言葉を叫び続けるカルカ。
黒き衣の天使は、また強く輝き出す。その光は、やがてカルカの視界を真っ白に覆い尽くし――
カルカは目を覚ました。
最初はぼやけていて、しばらくして焦点が合う。見えるのは、見慣れた寝室の天井だ。
夢……か?
あれ? そもそも、夢なんて見ていたっけか?
何かとてもいいことがあったような、別に何もなかったような。
なんだか、妙に体が重い……ああ、そうだ! さっきまで、魂が体から抜け出ていたのだった!
それが今、こうして戻っていて。なるほど、体って、こんなに重いものだったか。
でも、悪い感じはしないな。それに、なぜだろう、頭の中がすごくすっきりしている。
あっ! そうだ! バックスがお腹をすかせているって。寝てる場合じゃないぞ!
なぜか、バックスのために食事を作らねばならないという使命感が湧き起こっていた。それは、神より与えられた天命のごとく、カルカの心を支配した。それは、実際に天使から下された「天命」に間違いないのだが、カルカにはそれがわからない。
ベッドの上でガバッと起き上がり、体を回して、床に足を下ろす。
かたわらに、くずおれて床に座り込んでいるバックスがいる。
「バックスさん、大丈夫ですか!? 私、いますぐ食事を準備しますから!」
「おう、頼む。いつもの倍くらい作ってくれ。腹減って死にそうなんだ。」
しっかりと注文を伝えたいところだが、どうにも腹部に力が入らず、気の抜けた声になってしまう。
手足がブルブルと震えはじめ、周囲は暗くなり、ぐるぐる回るような奇妙な感覚に襲われる。
厄介だな。これが「飢える」ということか。思った以上に、これはキツい。
だが、もう少しの辛抱だ。カルカがとびっきりのご馳走を用意してくれるんだから。
「うわ、わあっ!」
カルカの叫び声。ドアの横に、身の毛もよだつ、恐ろしい姿の怪物がいることに気付いたのだ。
そうだよ、これだ。これが正しい人間の反応だよ。我、魔王ぞ!
……でもなぁ、この人に手を出すと、あちらの姉さんが黙っちゃいないからなぁ。
恐怖におののく姿を見て少しだけ自信を回復した魔王ゼクトだったが「ここでは、迂闊に動くとろくでもないことになる」ということを、重い屋根石板の下敷きになったことで学んでいる。もっとも、さっきのはただ単にタイミングが悪かっただけで、魔王に落ち度はないのだが。
現在、魔王は何もしていない。ただつっ立っているだけだ。驚かしてやろうなんて気持ちは微塵もない。そもそも、人を驚かせて喜ぶなんてのは低級悪魔のやることだ。
しかし、そんな魔王の思いをよそに、恐怖感極まったカルカは、意識を失いかけていた。
もはや目の焦点は合っていない。震えている足から徐々に力が抜け、ガクリとひざを突く。
バックスやジオトヒクルにはなんの効果もなかった「幻覚」と「恐慌」の魔法も、ただの人間であるカルカには、がっつり効いてしまっているのだ。
カルカの悲鳴を聞き、床に座り込んでいるバックスの視線が、ゼクトを射抜く。
最初に屈服させられたときの目力は失われているが、あのとき、完全に格付けは終わっていたのだ。
そこに怒りの感情がのっっているのは明らかで、もうそれだけで、ゼクトの心は震え上がった。
え、ええ!? なに? この我が悪いとでも? 我はなにもしておらぬのに!
膝立ちになったカルカはついに気を失う。
うなじの辺りから、立ったまま眠っているような、半透明のカルカの上半身が生えていた。
うわー! 待て待て待て、なにもしとらんというに、汝の魂、勝手に抜けるでない!
慌てるゼクトの内心を知ってか知らずか、ふうぅと大きく息を吐いて、バックスが左膝を立てた。立ち上がろうとしているのだ。
いや待てって。我がホントになにもしておらぬのは、わかっておるはずだろう!
いやいやいや……待てよ? ひょっとして、ひょっとしてだけど、急に弱体化したように見える、今のあの女戦士になら、勝てるんじゃない?
だいたい、窮しているときの判断は間違うものだが、この魔王ゼクトは、とても賢明なのである。
「き、君ぃ! そんな簡単に死ぬのはよくないぞ! は、早く、早く体に戻りたまえよ!」
ゼクトは、膝立ちとなったカルカの肉体のほうの両肩をガシリと掴み、その上にある魂のカルカに重ねるように持ち上げて、小刻みに前後に揺さぶる。
魂と肉体がピタッと重なり、白目をむいていたカルカの肉体が意識を取り戻す。
よかった、こんなんで死なれたら、俺が殺されてしまう。まったくの冤罪なのに。
ほっと一安心のゼクト。
しかし、目覚めたカルカにすれば、太い両腕に肩をがっしりと掴まれ、怪物が必死の形相で睨みつけているのだ。気を失う前より、状況はずっとひどい。
光を取り戻したカルカの瞳は、またすぐに、半開きの上まぶたに隠れてしまう。首の力が抜け、カルカの頭は、だらんと後に落ちる。今度は、声もなく失神していた。
こら、ばか! 簡単に何度も失神するな! 魂も、あっさりどっか行こうとするでない!
カルカの頭上から、また半透明のカルカの頭がはみ出したので、ゼクトは慌てて、右手でそれを押さえこみ、体に戻そうと試みる。人の魂を抜くのには慣れているが、戻すのはあまりやったことがない。
ちらと横を見ると、そこには完全に立ち上がった女戦士がいた。イラついているのが丸わかりである。
「ちちち、違うんですよ、姉さん! ワタクシ、別になにもしとらんのです! ホントですって!」
魔王は、このとき初めて、呪った。人間がこんなにも弱い存在であることを。
艦これの秋イベントが順調なら、また続きを書きますね。
確約は出来ませんが。




