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天使のお仕事。  作者: レイブン
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神も天使もあったもんだが、女戦士は目覚めない。

続きを書きました。いきあたりばったりです。

 とりあえず、この場所がレグナ神王国の辺境も辺境の町、南ナインシュ地方のごくごく小さな町だってことは、どうでもいいからおいておこう。


 たぶん気になってることがあるとすれば、その一つは、「天使宮」とはなんぞや、ってことだろう。違う?


 この大地のはるか上、鳥や竜が飛んでいける空よりも、さらにずっと高い場所――だと、多くの人々が根拠もなくそう信じているようだが――とにかく、人の手の届かぬ場所に、神様は、いる。

 神様というのは、ものすごい力を持ち、かつ慈悲深いという、実に稀有な存在である。

 しかも、地上に住む人間とその近しい種族を、なぜか特別に贔屓して、大事にしてくれている。

 これは、人間だけが神に感謝するからだという人もいるが、実際のところはわからない。感謝されたくて親切にしてるんだとしたら、それはあまりに俗物に過ぎるので、さすがに違うだろう。

 神の御心は、神のみぞ知るところである。邪推はよくない。

 とにかく、神はその溢るる力を、惜しみなく民草に注いでくれているのである。


 ところが、そのあらゆる事象の源となる神の力は、この世界のどこかしらにあるのはあるんだが、誰でも気軽に取り出して活用する、ってワケにはいかない。

 そりゃあそうだ、無制限に使えるものなら、途方もない馬鹿が、途方もない馬鹿をやるかもしれない。そんなことになったら、神様も、天地創造を何度もやりなおすハメになるだろう。


 そこで、神官の登場だ。

 神の教えに従い、学び、研鑽を積んだものだけが、この神の力を取り出すことができる。

 といっても、実はこれ、そんなに難しいことではない。

 適正検査をパスすれば――神様はなぜか不平等で、半数以上の人間にはこの才能を与えてくれないとはいえ――誰でも神官学校に入ることができるのである。ここで真面目に卒業まで学べば、晴れて神官の仲間入りだ。


 では、神官たちは、どのようにして奇跡を起こすのか。

 祈るのである。


「この人、ケガしてかわいそうなので、治してあげて!」


「この世にあってはならない悪いものがいるんで、消しちゃって!」


 みたいなことを、強く強く祈るのである。

 すると、その祈りは、目に見えない何かとなって飛んでいき、神様のところに――届いたりはしない。

 神様は、世界にどれだけいるかもわからない人々の祈りに、逐一応じるほど暇ではないのだ。たぶん。


 ここでようやっとで出てくるのが「天使」である。

 実は、神の力は天使によって管理されている。奇跡を授けてほしいと神官が祈った場合、その祈りは天使によって聞き届けられるのだ。

 ところが、この天使というのがけっこう雑というか、神様ほどしっかりしていない。

 テキトーな場所から祈りを捧げても、ぜんぜん気づかなかったりする、らしいのだ。

 そのため、お祈りしたときに、安定的に奇跡を頂こうと建てられたのが「天使宮」。

 この場所から祈りを捧げますよ、と、前もって天使に認知させておくことで、スルーされることを防ごうというわけだ。実際、これはびっくりするくらい効果的で「神よ、我を見捨てたもうたか!」と嘆き悲しむ神官はそうとう減ったという。


 そう、一番大事なのは、ここが「天使宮」ですよ、と決まった場所であり、屋根に穴が開いたとか、祭壇が砕け散ったとか、それは些細なことだ。神官の祈祷に、それほど影響はない。

 ただ、神の奇跡を演出する雰囲気というのは大事だし、何より、神のご加護のもとにあるはずの天使宮が、「天からの一撃」を食らったという話は、イメージがまったくもってよくない。

 幸い、この辺境の町では、住人自体の少なさから、天使宮を利用する客もかなり少ない。しばらくは、祭壇の作りに不具合が見つかった、とかで建物は閉めておくとして、だ。


 ……上に、どう報告したものか。


 窓の外からチチチと鳥のさえずる声。

 天使宮、祭室に隣接する事務室で、ペンを片手にカルカは思案に暮れる。


     *


 あのあと、呼吸もままならぬような圧力でのしかかる女戦士の下で、けなげにも、女性的な体の部位にはなるべく触れないよう気を使いながら、うんうんと唸り声をあげ、やれ、やっと右手が抜けた、よし左足も抜けたと、脱出までにけっこうな時間を費やしてしまった。

 体が自由になり、次は、なぜか急に倒れてしまった女戦士の状態を確認する。

 堅いタイル貼りの床に横たわる女戦士。ありえない速度の治癒の奇跡を披露しただけのことはあって、見た目はきれいなものだ。体の外だけ治って中は治っていない、なんてことはまずないだろう。

 念のため、精査の奇跡で調べてみると、意識を失った理由が判明した。


 魔力枯渇。


 生命力と魔力。この二つが本質的にはおなじものであることは、昔からよく知られた事実である。

 魔力枯渇は、例えば魔導士が、自分の能力を超えるような魔法を使ったときに起こる現象だ。

 通常、そういう魔法は不発に終わるのだが、術者の命を懸ける意志だとか、術式の暴走とかで、本人の命を支えている分の魔力まで吐き出してしまうことがある。

 最悪死んでしまう危険なものだが、生命維持のためのリミッターが働くのか、ほとんどの場合、気を失うなどして魔力の流出は強制的にシャットダウンされる。

 どうやら、それが彼女に起こったらしい。

 そのまぶたはいつの間にやら閉じていて、わずかに聞こえる呼吸音にあわせて胸が上下するのがわかる。

 

 寝てるな。命に別状はなさそうだ。


     *


 窓の外で、小鳥たちがじゃれあうように飛び交っている。

 ぼんやりとそれを眺めているカルカの頬を、春の風がくすぐる。

 ペンを持つ手は、動かない。


     *


 「すっげー田舎だけど、最近建て替えされた新築だってよ。ラッキーだな!」


 神官学校の友達は軽口を叩いていたが、都会育ちのカルカは不安だった。

 名前も聞いたことのない小さな町での、はじめての一人暮らし。うまくやれるだろうか。

 田舎の人間は、信仰心は高いが、排他的だという話も聞く。正直、人付き合いが得意ではない自分が、溶け込めるだろうか。

 そしてなにより、普段の生活はともかく、フォロー役もいないワンオペの職場で、なにか取り返しのつかないミスを起こしてしまわないだろうか。

 はじめて親元を離れる寂しさも加勢したのかもしれない。いやな想像ばかりが頭に浮かんでは、重くのしかかってくる。いっそ全てを投げ出して逃げてしまおうか、とさえ考えたりもした。


 ところが、そんなカルカの思いは、よい方向に裏切られた。

 いざ、新天地の天使宮に到着してみると、こんな田舎町に、こんなに大きな天使宮が必要だろうかと、かえって心配になるくらい立派な建物があった。

 その隣には、これまた立派な神官宿舎が建っている。一人で生活するには大きすぎるが、家族持ちが派遣されることもあるので、それを想定したものだろう。

 備え付けの寝具も家具も新品、井戸も室内にある自動汲み上げ式だし、その他の生活魔道品も最新のものを完備している。カルカは貧乏なほうではなかったが、実家よりも快適に暮らせそうな気すらした。


「なんか、やれるような気がしてきた。よおし、いっちょがんばりますか!」


     *


 小鳥たちはどこかへ飛んでいき、かわりに、近くの池から、ばしゃっと勢いよく蛙が飛び出した。

 田舎の蛙は図体も鳴き声もでかい。げここと鳴く声を聞いて、上の空のカルカの意識が戻る。


 そう、何がつらいかって、ここ、ピッカピカの新築なのである。

 ほんの1週間前に神聖庁のちょっとお偉い立場の人がきて、厳かに開宮式が行われたばかりなのである。

 それなのに、本日未明のあれである。報告したら、上の人からなんて言われるだろう。

 もちろん、カルカにはなんの落ち度もない。ないのだが、やはり、気が重い。


 正体不明の女性が飛んできて、天使宮の屋根を突き破り、祭壇を壊してしまいました。

 執務に差し障りがありますので、どうか至急の修理をお願いします。

 なお、正体不明の女性は、衝突に際して負った傷を自らの力で瞬く間に治癒し、現在は眠っています。


 ……馬鹿か。こんなの、信じてもらえるか。


 魔法も、神の奇跡もあるこの世界だが、さすがに、人が空から降ってくるのは珍しい。

 何年か前に、ドラゴンバスの尻尾にしがみついて不正搭乗した男が航行中に力尽きて落下した、という事件があったらしいが、その男は当然のように即死だったという。


 幸い、今回の事件は当事者が健在だ。魔力枯渇によるダメージも深刻なものではなかった。彼女が目を覚ますのを待って、話を聞けばいいだけのこと。なぁに、簡単さ。


 カルカは羽根ペンを机の上に放り投げ、椅子から立ち上がる。振り向いて三歩、祭室に接続されている扉を開くと、左手にひどい有様の元祭壇があり、その前には眠り続けている赤ずくめの女戦士がいる。

 確か、祭壇と平行になる形で寝かせていたはずだが、今は祭壇に頭を向けた垂直方向になっている。

 どうやら、寝相はあまりよろしくないようだが、元気なことはよくわかった。

 脚も口もだらしなく開いていて、薄く色気には欠ける唇の端からは、よだれまで垂らしている。

 薄く微笑んだ寝顔は、その図体に似合わぬ、あどけなさすら感じさせた。


 こんなに気持ちよさそうに寝てるのに、無理に起こすのも、なんか悪いなぁ。


 カルカは、床で寝そべる女戦士の横にしゃがみ込み、しばしその顔に見入る。

 そのとき、う、うん、と漏れる吐息。自然と誘導される視線の先には、濡れて光る唇がある。

 その無防備で危うい姿に、カルカの心は乱され、すぐに立ち上がり、後ろを向いた。


 もともと、やや社交性に難ありのカルカは、異性に対してはなおさら耐性がなかった。

 ついの今まで、異常事態ですっかり思考が麻痺していたし、その大柄な身体が女を意識させない部分もあったのかもしれないが、ここにいるのは、まぎれもなく妙齢の美女なのだ。

 相手に知られたわけでもない、誰かに見られたわけでもないが、カルカは、急激に顔が熱くなっていくのを感じた。


「べべべ、別に急ぐわけじゃない、お、起きるまで様子を見ようじゃないか」


    *


 まさか、それから丸二日間も目覚めないなんて。

また、ヒマだったら書きます(゜-゜)ノ

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