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天使のお仕事。  作者: レイブン
14/36

天使に頼めば何とかなるって、そんなに世の中甘くない。

はいはいはい、第14回目のお話。

細かいことを考えずに書いてるので、後にどうつなげるのか悩むものですね。

でも、がんばっていきますよー。

「ふうん、テメェの言ってること、一応、筋は通ってるじゃねぇか。天使じゃなきゃ知らねぇはずのことも知ってるしよぉ。」


 黒の天使、ジオトヒクルの表情は、いくらか緊張が解けた感じがしないでもない。その変化は、眉間によっていた皺がなくなった、くらいのものだったが。

 別に怒っていたわけではなくて、元の顔がこうなんだな、と納得するバックス。口に出してはいない。なんでも思ったことをそのまま喋ってしまいがちなバックスなので、これは褒めてあげてほしい。


「しかし、だ。テメェが本当に天使だとして、ワシになにができる? ワシに出来ることゆぅたら、あの男の魂を、天界に連れて行くことくらいじゃて。テメェの力になれるとも思えんが?」


 あれ? あれれ?


 正直なところ、「自分と同じ天使と話ができれば、なんとかなるだろう」くらいに考えていたバックスである。


 いやいや。この方法で天使を呼ぶことには、レイテストも乗り気だったんだ。何かあるはず。


「おい、レイテスト。この後、どうするつもりだったんだ?」


 バックスの隣で地面に刺さっている大剣は、黙して語らない。大剣の、本来あるべき姿である。


「おい、レイテスト、どうした。なにかいい方法があるから、案内人(ガイド)を呼び寄せたんだろ?」


 大剣の柄の部分を、軽く握った拳の背で、ノックするようにコツコツと叩くバックス。

 なんの反応もない。大剣は、それが当たり前であるかのように、一言も声を発しない。


「な、オマエ、もしかして、先のこと考えてなかったのか? おい! 答えろ! こら!」


 自分のことは棚に上げ、大剣を責めるバックス。大剣は相変わらず黙ったままだ。


「……じゃ、ワシはそろそろ帰ってもええかの?」


 ジオトヒクルは、右手でその柄を掴み、右肩に担いだ大鎌を、トンと肩を叩くように少しだけ動かすと、バックスの脇に寝かされているカルカのほうを見る。


「いやあー、待て待て待て! ここで会ったのもなにかの縁だろ? 頼むから、ジオっちも一緒に考えてくれよー。」


 ジ、ジオっち……。

 勝手にあだ名作って呼ぶとか、馴れ馴れしいにもほどがあるぞテメェ。

 だいたい、端末(リング)を失くしたからどうにかしてくれって、どうしようもねぇっての。


「なにかあるだろ、ほら、例えば……」


 ジオトヒクルの顔に向けられていたバックスの視線が、ゆっくりとその上のほうに移動していく。

 そこにあるのは、ジオトヒクルの頭上に浮かぶ、淡く光る輪っかである。


「なにを考えとるんか知らんが、これはワシのじゃ。やらんぞ。」


「別に、くれとは言ってないじゃーん。ちょっとだけ、ちょこーっとだけでいいからさー、貸してくんないかなーって。」


「テメェみてぇなわけわからんヤツに貸すわけないじゃろ、このダアホが。」


 ジオトヒクルにとって、いや、すべての天使にとって、端末(リング)は命みたいなものである。もし、それを失ってしまえば、今度は自分が、この目の前の女(バックス)のようになってしまうのだと想像したら、わずかの間でも手放すなんてイヤだろう。

 それに、一応話は聞いて納得はしたものの、それが事実であるという保証はどこにもない。端末(リング)なんて、天使以外に使いこなせるものではないはずだが、万が一天使でないものがそれを利用できた場合、使い放題の神の奇跡で何をしでかすかわかったものではない。素性の知れぬものに渡すなんてことはあり得ないのだ。


「じゃあ、俺がなくしたヤツを、探して持ってきてくれるとかさー。」


「どこにあるのかもわからんのじゃろ。失せ物探し(ファインドロスト)でも見つからんもんを、ワシが探せると思うか?」


 未熟な神官のやった奇跡は信用ならんと、ジオトヒクルは改めて失せ物探し(ファインドロスト)の奇跡を使ってみたのだが、やはり「探索対象は所有者のもとにあり、失われてはいない」という、バックスにとっては非常に好ましくない結果が出てしまっている。


「それに、さっき調べたとおり、テメェの端末(リング)は失くなってねぇ。ホントは、もとからそんなもんないんじゃろ。テメェが天使じゃねぇって証拠じゃ。」


「いやいや、それなら『所有者のもとにある』ってのもおかしいことになるだろ。もとからないものを『所有者のもとにある』なんて言うか、普通?」


「ほんなら、なんで持ち主のテメェが持っとらんのじゃい! まずそこがおかしいじゃろうが!」


 いかん、ジオっちがヒートアップしてきた。これはよくない。


 バックスは、これ以上ジオトヒクルが熱くならないよう、話を変えることにする。


「そ、そうだ! 管理局に、端末(リング)が破損したって言って、新しいのを出してもらうってのは?」


 ジオトヒクルは、瞼を閉じる。頭上のリングの輝きが少しだけ強くなった。

 しばらくして目をあけると、首を振りながら言った。


「調べてみたが、破損した端末(リング)の提出と、本人による受領が条件となっとる。モノはねぇし、天界にも戻れんテメェじゃ、どうしようもねぇ。」


「うーん、そっかー。ホント、天界は融通が利かないよなー。このままだと、マジで世界終わっちゃうぜ? 緊急時の特例とかで、なんとかならないもんかねー?」


 能天気なバックスが、珍しく眉をノの字にして、ため息をつく。


「おい、世界が終わるってどういうことだ?」


 それはちょっと聞き捨てならんと、ジオトヒクルが、怪訝そうに目を細めた。


「今朝から、もう三回くらい、大規模な世界修復(ワールドレストア)やってんだろ。あれな、たぶん、いや、間違いなく新型の脅威(エネミー)が襲ってきてるんだぜ。」


「ああ、そういやぁ、防衛局のほうがバタバタしてやがったな。ひょっとして、テメェも防衛局のもんなんけ?」


「そ! 俺こそが防衛局のエース、バックスさんその人ってワケよ!」


 ちょっと鼻高々、自慢げに胸を叩くバックス。しかし、ジオトヒクルの視線は冷たい。


「だから、テメェのことなんざ知らねぇっつーの。それに、あそこも天使はいっぱいいるだろ、テメェが抜けたくらいでどうこうなるもんじゃねーだろうが。」


「それが、そうもいかないんだよね。新型の脅威(エネミー)に対抗するためには、専用の剣がいる。」


 バックスは、軽く握った拳で、こつんと大剣を小突く。


「ほう。それが、その剣か。けったいな形しとるとは思うとったが。で、それは一本しかないんか?」


「ない。神より与えられた対脅威(アンチエネミー)の武器は、世界広しと言えど、これだけだ。」


「そんなたいそうなもんを、端末(リング)を失くすテメェみたいなもんに持たせとるんか。まっこと、神の御心はわからんもんじゃの。」


 はんと鼻で笑うジオトヒクル。しかし、ここで一つ思い付く。


「まあ、でも、そんなたいそうな剣なら、ワシが防衛局まで運んでやってもええ。防衛局のヤツに見せれば、テメェの話の真偽もわかるし、そこのお仲間なら、テメェを助けてくれるかもな。」


「うむ、それがよい。時間はあまりないのである。防衛局の天使の中に、うまい具合に吾輩を使いこなせるものがおるかはわからんが、それでも吾輩がいないよりはマシなのである。」


 長く沈黙していた大剣が、久方ぶりにその低くて渋い声を出した。


「うわ、コイツ、自分が天界に戻れるとなった途端にこれかよ。サイテーだぞ、レイテスト。」


 呆れ気味のバックス。レイテストは、おそらくは素知らぬ顔をしたまま、続ける。


「うるさいのである。吾輩の力で新型の脅威(エネミー)を止めることが最優先なのである。世界がダメになったら、ヌシの未来もなにも、あったものではないのだぞ。」


 バックスは、はあ、と強めのため息をついた。


「ま、そりゃそうだな。じゃあ、それでお願いできるか、ジオっち?」


「馴れ馴れしく呼ぶな、ジオトヒクルじゃ。その剣、レイテストとか言ったな、ソイツは預かろう。」


 見えない力に引かれ、地面に刺さっていた大剣が宙に浮く。そのままぐるっと一回転して、ジオトヒクルの横でピタリと静止する。これは見えざる手(インビジブルハンド)という奇跡であり、ジオトヒクルが神の力を行使したものだ。


 なるほどのぅ、こいつぁ、えれぇ代物(しろもん)じゃ。見た目のわりに、重すぎる。こりゃあ相当の魔力が込められとるな。こいつぁ、ひょっとして、マジの話かもしらん。

 ……いや、そうでないといかん。ワシャあ、人生計画(ライフプラン)に干渉したこの女の正体を調査せんといかんのじゃった。それも、天使がやったってんなら話は(はえ)ぇ。未確認存在(アンノウン)じゃったら、調査も一苦労じゃけん。


「ほんじゃ、ちょっくら防衛局まで行ってくるわ。一応言っとくが、テメェの話がウソじゃったら、そんときゃあただじゃおかんからの。」


「大丈夫、このバックス、ウソはいわん。あ、ついでにもう一つ頼みたいことがあるんだけど。」


 バックスは脇に横たわるカルカを、立てた親指で指し示す。


「オマエが迎えに来たアイツ、まだ死ぬ予定じゃなかっただろ? もとに戻してくれないか?」


「ううむ、それなぁ……ワシもなかったことにするほうが楽なんじゃが……」


 ジオトヒクルは、少しだけ顔をしかめた。


「まずは、テメェの言ってることが本当かどうかを確認するのが先じゃ。それに、一度死んだもんを、簡単になかったことにできると思うな。色々手続きがめんどくせぇんじゃ。」


「そっか、そりゃ、面倒かけてすまんね。じゃあ、ここで待ってるから、頼むよ。」


「吾輩からも、よろしくお願いするのである。」


 ジオトヒクルの横に浮いている大剣レイテストが、バックスに続けて言った。


「ほんじゃあ、今度こそ行くぞ。」


 ジオトヒクルは、一旦空を仰ぎ、言い忘れたことがあることに気付く。


「そうじゃ、その男、カルカとか言ったか。魂はまだその身体に入れたままじゃけぇ、妙なヤツに悪戯されんよう、しっかり見張っとけよ。」


「ん、わかった。怖い顔してるけど、ホントは優しいんだな、ジオっち。」


 バックスは、ニカっと笑った。ジオトヒクルは、その笑顔には付き合わない。


「怖い顔、は余計じゃ。あと、優しくない天使などおるか、ダアホが。」


 ジオトヒクルは、今一度、空を見据え、次の瞬間、地上から姿を消した。


 はるか天空の果てまで飛んでいくのを、バックスだけが見送っていた。

まあ、だいたい1週間をめどにかいております。

うまくいけば、また来週くらいまでに続き出します。

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