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天使のお仕事。  作者: レイブン
13/36

命刈り取る大鎌持った、それはいわゆる死神でして。

13個目のお話、でーす。

以前に書いたことを、書いた端から忘れています。

長い文章を書くことの難しさは、記憶力の問題かもしれません。

 女性としては、身長体重と突出したところのない、平均的なサイズ。背丈をカルカと比べたなら、少し低いくらいか。

 頭上に、手のひらを広げたくらいの大きさの、穴の開いた円盤が浮かんでいて、淡い光を放っている。その光を、漆黒の髪が反射し、美しく艶めいている。前髪は目にかかるぎりぎりのあたり、後ろは肩甲骨より少し下のあたりで、見事なくらい水平に切り揃えてあった。

 背後に見える大きな翼は、上部は真っ白だが、中間部から下部にかけては、灰色、黒とグラデーションに染まっている。

 どこかいいとこのご婦人が舞踏会で着るような、裾の膨らんだドレス。黒を基調としていて、光沢のある薄い白布のフリルが、黒の繊細なレース編みを目立たせている。主に二色の地味な色合いだが、あちこちに金色の鋲と細い鎖が飾り付けられていて、ゴージャス感もそれなりにある。

 そして、特に目を引くのが、その肩に担がれた、巨大な鎌である。持ち主の身の丈と同じくらいありそうな細長い黒檀の柄に、刃渡りがその半分近くありそうな三日月形の薄い刃が取り付けられている。絵本に登場する死神のような、極めて使い勝手が悪そうなアレである。この大鎌の茶黒い柄も、一部には金色の鎖が巻かれ、一部はたるませて、きらびやかに彩られている。


 天使にもいろんなヤツがいる。どんな格好をするかは、個人の裁量だ。つまり、好きな格好でよい。

 だから、その身なりについて、バックスは驚いたりはしないし、特に良いとか悪いとかも感じない。

 それよりバックスが気になったのは、切り揃えた前髪の下にかろうじて見える目だった。目尻の上がった、キツい目である。「怖い顔の天使コンテスト」があったら、結構いいとこいくんじゃないだろうか。

 そんな目をさらに細め、おそらく眉間にはしわも寄っている。不機嫌を戯画化したような表情であった。


 死んだ後にこんなのが迎えに来たら、びっくりして生き返っちゃうんじゃないの。


 完全に余計なお世話だし、それを口に出さないくらいの分別は、バックスにもあった。


 黒髪の天使は、傍らに自分を観察しているものがいるとは露ほども考えず、地面に横たえられたカルカの死体を一瞥する。


 こいつか。カルカ・マルージュ。出生から18年と2か月。人生計画(ライフプラン)外の死亡事案のため要調査、と。こりゃまた、珍らしいのに当たりやがったな。チクショウめんどくせぇ。

 死因は、精神的苦痛に耐えかねた末の、無意識の生存権放棄。人生計画(ライフプラン)を再確認してみたが、死ぬにはぜんぜん早い。

 肉体には、まだ死にたてピチピチの魂が眠っているし、犯人はまだそばにいるはず……だが、運命管理局の定めた摂理に介入できるヤツなんて、そうそういるわけねーんだよなー。

 普通に考えて、一番怪しいのはこの現場にいる赤髪のデカ女だが……


 難しい表情でうつむいて、しばし思案に暮れていた黒髪の天使が、顔をあげる。

 チラリとバックスのほうに視線を向けると、待ってましたとばかりにバックスが右手を挙げた。


「よっ、お仕事ごくろうさん。忙しいところ、すまんね。」


 黒髪の天使は、首をひねって背後を見た。別の人間の気配を感じてはいないが、念のための確認である。

 なぜなら、天使である自分の姿がそこいらの人間に見えるはずはなく、こちらに向かってなされたように見える挨拶は、自分の背後にいる誰かに対してか、もしくはちょっと危ない人が見えない誰かに挨拶しているかの、どちらかだろうと考えたからだ。

 しかし、背後には誰もいない。当然だ。天使の不意を突いて背後をとれる人間などいない。


「おい、黒いの、ちゃんと見えてるから。オマエ、案内人(ガイド)なんだろ?」


 こちらは怪しいものじゃないよと、ニカッと笑ってアピールするバックス。

 バックスには、その相手が何者なのかだいたいわかっているからいいが、話しかけられた方にしてみれば、それはありえないことなのだ。そりゃあ警戒もするし、それに、ちょっとフランクすぎる。


 あのデカ女、笑っちゃいるが、コッチの姿が見えるなんて、ただの人間じゃあねぇな。大神官、という感じでもねぇし、いったい何者だァ? ま、あのデケェのが誰だろうと、天使に対してナメた態度なのはいただけねぇ。ここはビシッとキメとくかぁ。


「おーう! ワレェ! 何者(なにもん)じゃあ! 人の世界でどんだけエライんかは知らんが、ちぃとばかし、天使に対する礼儀ってもんが、足らんのと違うか? ああん!?」


 黒髪の天使は、ずっと渋かった表情をさらにしかめて、下からえぐるようにバックスを睨む。

 見た目は人間で言えば十六、七という感じだが、その声は、さらに三、四つは幼い少女のような、甲高く可愛らしいものだった。凄みを利かせたつもりなのだろうが、これっぽっちも迫力を感じさせない。


 なんだか、すごいのが降りてきちゃったなぁ。


 バックスは、ほんの少しだけ躊躇したが、ほかの子と代わってくれ、と頼むわけにもいかない。


「まあまあ。まあ落ち着けって。まず、言っておくと、俺は人間じゃないぞ。オマエと同じ、天使だ。」


「ハァ!?」


 黒髪の天使は、めいっぱい眉間にしわを寄せてバックスの顔を睨み続ける。


 端末(リング)のない天使なんざ、いるわけねぇだろ、バカかコイツは。いや、でも、待てよ。そんなバカに私の姿が見える? いや、ありえん。そういやコイツ、さっき私のことを『案内人(ガイド)』だと言いやがった。人間が、そんなこと知ってるわきゃあないんだが……


「そーんな怖い顔するなってー。ほーら、笑って、笑って。」


 バックスは、黒髪天使の頬に両手を当てて、ぐりぐりとこね回す。黒髪天使は驚いて、その吊り上がった目を大きく見開いた。ニコニコ笑っているバックスの顔には、いっさいの悪意を感じられない。だからこそ、性質(たち)が悪いとも言える。


「バッ! コラァ! ワレなにしてくれとるんじゃあ!」


 大鎌を掴んでないほうの手、左手で、黒髪の天使がバックスの両手を払いのけ、地に足がついていれば二歩ほどの距離、浮いている体を後方に下げてバックスから離れた。


 ありえん。絶対にありえん。並の人間なら、例え姿が見えても、天使の威光にあてられて直視すらできないはず。なんなんだ! なんなんだコイツは!


「だから、そんなに怒るなってー。検索(サーチ)すりゃ、俺が人間じゃないことくらいすぐわかるだろー?」


 たった今、それをやったっつーの。しかし、確かにこのデカ女のいうとおりだ。人間情報がまったく見えん。かといって、魔界のモンが化けてるわけでもねぇ。そんなマヤカシに騙されるほど、天使は無能じゃねぇからな……まあ、このデカ女のいうことが本当だとしたら、端末(リング)を失くすなんていうド無能天使がここにいることになるけどな。ハッ、そんな馬鹿な話、聞いたことねぇよ。


「……なるほどなぁ、確かにテメェ、人間じゃねぇな。だからってなぁ……天使だって言い分が通ると思ってんのか、このボケがぁ!」


 そう言われたバックスは、ほんのちょっとだけ眉をひそめ、しかし、口元はにへらと緩みかけていた。


 うーん、困ったな、どうすれば、信じてもらえるんだ。

 あと、顔も怖いし言葉も荒いくせに、すげーかわいい声なのが、ちょっと面白いじゃないか。


 バックスは、手を胸の前に、手のひらを黒髪天使に見せるように広げて、なんとかなだめようと試みる。


「まあまあまあ、そーんなに怒らなくたっていいじゃん。もっとさ、気楽にやったほうがいいんじゃないかなー。オマエのところの局長、なんて言ったっけ、ほら、アレも、そんな態度はよくないって言うよ、たぶんね。いや、よくは知らないけどさー。」


 このデカ女、『局長』だとぉ? うちらが運命管理局の管轄だってことをわかってんのか? だとしたら、なんで天使の内情まで知ってやがるんだ……もしかして、コイツ、本当に……!?


「いやはや、初対面であるにも関わらず無礼を働いたことについては、吾輩が代わって謝罪するのである。コヤツは、昔からこういう粗忽なヤツなのだ。かたじけない。」


 突然、ナイスミドルな男性のものと思われる、低くてよく通る声が、黒髪天使の耳に入る。


 ん、デカ女の横か、なんかおかしな形のでっけぇ剣が刺さっとるな。このデカ女が使うにしても、デカすぎるだろ。しかも付喪霊(スピリット)入りって、超レアもんじゃねぇか。


「えー。俺は、仲良くしようとしただけじゃんかよー。」


 バックスは、横にある大剣に向かって不満げな言葉を漏らした後、再び黒髪天使のほうに視線を戻す。


「ねぇ? ……えーっと、名前なんだっけ?」


 「ねぇ?」じゃねぇよ! コイツ、初対面の名前も知らない相手と仲良くなるために、なんの予告もなく人の顔をこね回すのかよ。無茶苦茶じゃねぇか。いったい誰がこんなモンスターを育てやがった。もしコイツが本当に天使なら、神か? あのクソッタレの神がコイツを作ったのか?


「あ、スマンスマン、こちらから名乗るのが礼儀ってもんだな。俺はバックスってんだけど。知らない?」


 知るかっつーの! この世界に天使が何人いるかわかってんのか。そもそも初対面だろうが。テメェ、こっちの名前も知らないくせに、なんで都合よくこちらがテメェを知ってるんだよ、んなわけあるかバカ!


 ……ああ。なんかもう、疲れた。もういい。コイツには細かいこと言ってもしゃーない。とりあえず、話だけは聞いてやるか。


「……ふぅ……わかった、わかった、ワシの負けじゃ。まず、ワシの名前は、ジオトヒクル・オルアイタ。テメェの言うとおり、案内役ガイドだ。あと、テメェのことなんか知るか。」


 依然として憮然とした顔のままだが、さっきまでよりはだいぶ落ち着いた口調である。普通に喋れば、かわいい声も普通にかわいい。


 ああ、よかったー。何に負けたのかわからんけど、やっと話ができそうだな。えと、なんてったっけ名前、ジオト……なんとかって言ってたような。まあいい。


「ジオ」


 バックスが何かを言おうとしたとき、ジオトヒクルがその言葉をさえぎった。


「黙れ。まずはいくつか質問する、正直に答えろ。ウソをつくことは無意味だ、天使にはすべてわかる。」


 ジオトヒクルはそう言ったが、これが実はウソである。相手が人間なら、奇跡の力でその心中を覗くことも容易なのだが、目の前にいるデカ女、バックスについては何も見通すことができないのだ。そもそも「すべてわかる」なら質問する必要もないはずだろう。

 しかし、バックスはそんなことなど、気にも留めない。というか、そこまで考えない。相手の言葉の矛盾点を突っつくなんて、そういう小賢しいことは好きではないのだ。思考力がちょっとだけ残念、なんてことではない。決して。たぶん。おそらくは。


「はいはい、わかったよ。それで、何を聞きたいの?」


「ワシが迎えに来たのは、そこに倒れてる男じゃが、テメェが殺したんか?」


 歯に衣着せるって何? とでもいわんばかりの直球の問いから、尋問は始まるのだった。

そろそろ生活の一部となっていいくらい、文章を書いています。

生活のリズムが乱されなかったら、続きを書くでしょう。

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