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 教室は三階。大股にならないように、早足にならないように、気をつけて歩く。


 教室が見えてきた。入学式だけあって、騒がしい。廊下まで人が溢れている。


「ここね。私の席は……」


入り口に貼り付けられている紙で席を確認する。真ん中の一番前の席。うわぁ。嫌だなぁ。寝れないじゃないって、私、お姫様になるんだった。お姫様は授業中に寝たりしないの。私は軽く頭を振って、教室に入った。肩で切りそろえた髪が、サラサラ揺れるのが気持ち悪い。




 席に着くと、私は鞄から本を取りだした。芥川賞を受賞した小説だけど、難しいばかりで面白くもない。でも、私はお姫様。しっかり読まなくちゃ。


「ねぇ、何読んでるの?」


声をかけられ、私は顔を上げた。色素の薄いサラサラの髪。誰が見てもナイスボディーとしか言えないスタイル。そして、秀麗としか形容できない容姿の女の子が、私の顔を見ている。


「えっ?これですか?雪の華ですけど……」

「私も、読んだ。いい話だよね。私、神谷葉那。よろしくね」

「私は那須悠です。よろしくお願いします、神谷さん」


ニコリと笑った顔もかわいい。私の理想とするお姫様が、そこにはいた。


「葉那でいいよ。はるちゃんって呼んでもいいかな?」

「ええ。葉那さん」

「はるちゃんって、きれいな言葉を使うね」

「そうですか?」


感心したように呟く葉那さんに私は苦笑する。本当は堅苦しくて嫌だ。肩が凝りそう。でも、私はお姫様になるんだ。この言葉使いも我慢しなくちゃ、ね。


「葉那、誰こいつ」

「涼君、皐月君、唯君。はるちゃんだよ。今、友達になったの」


葉那さんの隣に格好いい男の子たちが並ぶ。絵になるわぁ。私は微笑んだ。


「初めまして。那須悠です」

「俺、岩城唯。俺たち、葉那の幼なじみなんだ」


三人の中で一番優しい顔立ちの男の子が言った。短い髪は後ろに撫で付けられていて、さわやかなスポーツマンみたいな子。


「椎名涼。はるは葉那を裏切るなよ」

「涼君!!はるちゃん、気にしないでね」


怖い顔で私を睨むのは、戦国時代の武将さんみたいな雰囲気の子。切れ長の目に少し長い黒髪にはその硬い雰囲気が似合っている。


「俺は阿南皐月。お前……なんでもない」

「どうしました?」


言葉を濁した目つきのきつい子。不良とか番長って言葉がよく似合う。でも、格好悪いことはなくて、何をしても許せてしまう。


「みなさん、よろしくお願いしますね」


私はフワリと笑った。ああ、理想の王子様たち。一番は、そうね。岩城君かしら。椎名君はちょっと取っつきにくそうだし、阿南君はちょっと怖いから。


「みんな、席に着きなさい」


タイトなスーツに身を包んだ女性が教室に入ってくる。この人が、私たちの担任ね。美人じゃないけど、仕事のできる女って感じだわ。ザワザワとした教室がシンとなる。思い思いに過ごしていた生徒たちが席について、担任の言葉を待った。


「私がこのクラスを担任します、江藤亜由美です。自己紹介は後でゆっくりします。では、先に入学式の説明をします」


プリントが配られ、退屈な説明が始まった。



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