最後まで手を差し伸べ続けろ!
家に帰って来ると改めて自分が今日したことの凄さに驚く。
学園の教師ほぼ全員いる前であんなことしてしまうなんて。
自分が信じられない。
「それにしても言葉って凄いな。あんなちょっとの一言で人が変わってしまうなんて。言葉って自分の思いが強ければ届くのかな。」
なんて真面目なことを独りでボヤいてみる。
完全に自分をヒーロー化している。
だけど、すごく気分がいい。
今日は良く寝れそうだ。
自意識過剰ヒーローはそのまま夢の中へと入っていった。
朝。
学校では噂が広がりまくっていた。
水原音琴というやからが3階まで聞こえる大声で叫んでいたとか。
職員室にいる教師全員を凍りつかせたとか。
どれも過剰なものだけどあっているようで間違っているものばかりだ。
だから容易に否定はできない。
「お前、すごい噂になってるぞ。」
右斜め前の席に座る翔太が馬鹿にしたような口調で話しかけてきた。
「うるさい、あんただって一緒にティーチしてたでしょうが。」
「ティーチしたのは音琴だけどな。」
私は頬を膨らませる。
でも仕方がない。
どれも自分がしたことだ。
「あ、翔太。」
「ん?」
「アイス奢ってよ。」
「なんでだよ。」
「ティーチの打ち上げってことで。」
「はぁ?なんで俺がお前なんかに。」
「おねが~い。」
若干上目遣いで。
「しゃーねーな。」
「やったー!」
こういう時、女に生まれて良かったと思う。
そして待ちに待った放課後。
「トリプルストロベリー一つ。」
「俺は抹茶チョコ一つ。」
「はい。かしこまりました。」
駅前の私行きつけのアイスクリーム屋さん。
「ほんとに音琴はアイス好きだな。」
「へへ、何度食べても飽きないからね。」
「すっげー、季節外れだけどな。」
二人でアイスを持ちながら歩く。
次の日の朝。
いつも通り翔太と登校する。
すると廊下で教頭先生に話しかけられた。
「あ、ちょうどいいところにいた。」
私たちは首を傾げる。
「話がある。先、校長室入っててくれ。」
私たちはわけも分からず校長室へ入る。
「あぁ、音琴くんたち。」
「どうしたんですか。そんなに慌てて。」
「大変だ。2年6組でいじめが起きてる。」
「え?」
私はある昔の記憶を思い出す。
「それも教師を交えたな。」
「え?教師が生徒にいじめられてるってことですか?」
わけも分からず質問する。
「お前は馬鹿か。」
なぜか翔太に怒られる。
「クラスの奴らと教師がある生徒をいじめてるんだよ。ですよね、先生?」
「あぁ、その通りだ。」
「それでいじめられている生徒というのは?」
「間宮千夏だ。間宮グループの娘さんだ。」
「えぇ!?」
「だから、くれぐれも慎重に頼むよ。」
「分かりました。」
私たちは校長室を出る。
「また来たな。」
「だね、とりあえず突撃しないと。」
「え?ちょ、音琴!」
翔太が肩を掴む。
「慌てるな、落ち着け。」
「でも、、今もその子はいじめに苦しんでいるのかもしれないと思うと、、。」
「急いでも無駄だ。作戦を立て慎重に行こう。」
「うん、、。」
「音琴だって、前みたいにはなりたくないだろ。」
1時間目は矢木の日本史。
なんだか間宮さんのことで頭がいっぱいでぼーっとしてしまう。
「それでは教科書を読んでもらおうかな。」
矢木が私を見る。
「水原ー!水原音琴ー!!!」
「あ!はいー!!!」
「教科書96ページ読め。」
「あ、はい。」
私は教科書を読み始める。
こんなことしている場合じゃないのに。
放課後。
翔太の部屋にて。
「で、どうすればいい?」
「まずは、、証言だな。」
「え?証言?」
「いじめというものがあったという証言が欲しい。」
「でも、いじめというのは事実で。」
「それがたとえ事実だとしても、被害者の証言がない限りどうすることも出来ない。」
「そんな、、。」
「とりあえず、間宮千夏の証言をもらいに行くぞ。浜島先生がなぜいじめに加わっているかは後で調べよう。」
「分かった。」
次の日の放課後。
最近の放課後はなんだか慌ただしい。
1年間の最後の行事、模擬店が行われるからだ。
文化祭とはまた別に各クラスが焼きそばを作ったり、カフェを経営したりとそれぞれお店を出す。
私のクラスはメイド喫茶。
クラス全員がメイドの格好をする。
私にとっては一番やりたくない格好だ。
制服のスカートでさえ着るの嫌なのに。
なんて思いながら、クラスみんなで黙々と準備をする。
「あぁ、ボンドきれちゃった。」
「あ、じゃあ私隣のクラスから借りてこようか?」
「音琴助かる。」
私は隣のクラスの2年6組へと向かう。
2年6組はお化け屋敷をやるのか窓には既に真っ黒のビニール袋が貼られていた。
私はそのビニール袋をそっと開ける。
「すみませーん、あのボンド借りに来たんですけど、、。」
私は恐る恐るビニール袋を潜る。
「間宮さん、お化け役独りでやってくれるよね?」
「間宮さんこのクラスで一番地味だし、お化け役ぴったりじゃない?」
え、、?間宮さん?
「ちょ、なにやって、、。」
「そうだぞ間宮、みんながお前のことを推薦してるんだぞ。」
え?浜島先生?
「ほら、先生も言ってるじゃん。」
気の強そうな女の子たちと2年6組の担任浜島先生が間宮さんにお化け役の衣装を押し付けている。
間宮さんは黙ったまま。
やっぱりいじめは本当だ。
これはティーチの一員としてどうにかしないと。
「あの!その子嫌がってますよ!」
私は勇気を持って声を出す。
「はぁ?誰あんた?部外者は黙っててくれる?」
「間宮さん、ほんとは嫌なんでしょ?」
「でたらめなこと言わないで。別にいいよね、間宮さん。」
間宮さんはいずれも黙ったまま。
すると、
「別にいいよ、お化け役。」
下を向いたままそう答えた。
「ほらね、やってもいいってお化け役。」
間宮さん、、。
「間宮さん!ほんとはやりたくないんでしょ?」
「あんたもしつこいな、やるって言ってんじゃん!」
「間宮さん!ほんとのこと言って!」
「いちいちぐちぐちうるさいな!」
すると、間宮さんがこちらにゆっくり近づいてくる。
よかった、やっぱりほんとは嫌なんだよね。
「もう関わらないで。ほんと迷惑。」
そう言い残して教室を出ていってしまった。
あの時の記憶が蘇る。
私は呆然としてその場から動けない。
「ははは、なにあの子ウケるんだけど。」
「まあまあ、そんな事言わないの。さぁ、作業始めるよ。」
「はーい。」
浜島先生の合図に皆が再び作業に取りかかる。
私はいたたまれなくなって、すぐさま教室を飛び出した。
私は2年6組の教室を飛び出し、まっすぐな廊下を全力で走る。
2年7組の前を通り過ぎた時。
「音琴、、?」
と翔太と夏美に声をかけられたが無視して走り続ける。
悔しかった。
あの子を救えなかったことが悔しかった。
あの時の記憶が再び私の脳内を横切る。
体育館裏についた。
そこで私は泣いた。
きっと、相当悔しかったのだろう。
すると私のいる場所へだんだん大きくなる足音が近づいてきた。
「水原、、?」
矢木だ。
私は慌てて涙を拭う。
「なんでこんなところで泣いてんだよ。」
矢木は軽く笑いながら私にそう声をかける。
「別に、、。」
私はそっぽを向く。
「模擬店の準備さぼる気かよ。前田頑張ってたぞ。」
私は黙りこくる。
「まぁ、気が済んだら作業に戻れよ。」
そう言い残して矢木は来た道を戻っていった。
きっとあいつは優しいのだろう。
でも私はそれを絶対認めなくない。
心の奥にその感情をぎゅっとしまい込んだ。
私はトイレで目が赤くないか、泣いたということがバレないか、しっかり確認して教室へ戻った。
そしたら、
「おかえりー、音琴。どこ行ってたの?」
「内緒。」
「えー、サボらないでちゃんと作業してよー?」
「はーい。」
さっき泣いていたとは思えないほど笑顔で対応する。
ちらっと翔太の方を見る。
だが、翔太はなんだか浮かない顔だ。
きっと慎重にって言われていたにも関わらず、いきなり突撃ティーチしたことに怒っているのだろう。
「あの、、、翔太。」
「音琴大丈夫だったか?」
え?怒ってない?
「う、うん。大丈夫だよ。」
「そうか、よかった。」
なんでだろう。
気になるけど、全く理由が分からない。
私は疑問を抱えたまま、模擬店のため、準備を進めた。
模擬店の準備の帰り。
いつものように翔太と並んで帰る。
だが、私たち2人の間に流れる空気はすごく重たい。
確実に私のせい。
なんでティーチしちゃったんだろ。
「お前は、ほんと行き先考えずに突っ走るよな。」
「ごめんなさい、、。」
「全くもって関わりのない間宮さんに助け舟いきなり渡すなの。いつもと状況違うんだから。」
え?
私は首を傾げる。
「今までお前が助けてきたのはあの子を抜いて全員音琴と仲良かったやつだろ。だけど、間宮さんは違う、あの子全く同じでお前とはそこまで関わりはない。」
「だから、私の助け舟に乗らなかった?」
「そういうことだ。」
帰ってくると、どっと疲れが出た。
あの突撃ティーチのおかげで、次の一手が全く思い浮かばない。
どうしてダメだったのだろう。
どうして気持ちが伝わらなかったのだろう。
どうして間宮さんは差し伸べた手に縋らなかったのだろう。
どうして、、。
そんな疑問ばかりが頭の中をぐるぐる駆け回る。
どうしたら、、。
低才能の頭の私にはとっておきの策略なんぞ思いつかん。
一体、どうしたら、、。
はぁ、、。
ため息しか出てこない。
もう、こうなったら寝よう。
明日のことは明日考える。
そう割り切って、私は眠りに落ちた。
次の日の昼休み。
いつもは夏美たちと教室でわいわいお弁当を食べているけれど、今日は違う。
独り、中庭でおてんとさまと共に弁当をつまむ。
ちょっと考え事をしたかったからだ。
考え事とはもちろん。
昨日のことだ。
のんびり独りでもぐもぐと口を動かしていると、矢木が現れた。
「なんだ、今日はいつもみたいにバカ騒ぎしてないのか。」
「私だってね、いろいろ考えたいことがあるんですよーだ。」
ほんと、失礼しちゃう。
「考えるより行動するべきなんじゃないのか。」
「そうしたらね、昨日、見事失敗に終わりましたよ。」
「だったら、もう1度チャレンジしろ。」
「無理だよ、まだなんの作戦もないのに。」
「もしかして、あのこと気にしているのか。」
私はビクリと体が震えた。
「あのことって?」
「前田から聞いた。」
そう、あのこととは、
確か、4年前、私がまだ中学2年生だった頃。
私のクラスでいじめが起こった。
ターゲットはクラスで一番大人しい女の子。
最初はなぜかクラスの上位層グループにいた。
いたといっても、ただのパシリ。
私はそんな彼女を見て、すごく助けてあげたいと思った。
でも、自分で選んで入ったグループだし、私が口出しするようなことじゃないって思って何も言わなかった。
それがいけなかったのか。
彼女はいつしか、そのグループから追い出され、クラス皆から嫌われていった。
その時に私は彼女に何度も何度も声をかけた。
「大丈夫?なにか困ったことがあったら私に言って。友達なんだから。」
そう言って励ました。
その途端、
「もう私に関わらないで。ほんと迷惑。」
と言われてしまった。
私はいじめが大嫌いで、いじめられている人を見かけたら、すぐさま助けに向かった。
そして優しく話しかけると、嬉しそうに笑顔を向けてくれた。
だが、彼女だけは違った。
結局彼女は学校を転校した。
見送りの日も私以外来なかった。
「怖がっているんだろ、また同じことになるのを。」
「別に怖がってなんて。」
「水原、よく聞け。1度差し伸べた手は相手が掴むまでずっと差し伸べ続けろ。」
「え?どういう意味?」
「お前は間宮に手を差し伸べた。」
え?もしかして?突撃ティーチ見てたの!?
「だが、間宮はその手を振り払った。ってことは、まだ間宮は水原の手を掴んでいないということになる。だったら、もう一度差し伸べ続けろ。何度断り続けられても差し伸べ続けろ。お前が1度差し伸べた以上、水原はどんな事があろうとも、その手を引っ込めるなんてことはしてはいけない。分かったか。」
私はもう一度間宮さんに手を差し伸べなくちゃいけないんだ。
「それと、お前は自分の思いさえ強ければ相手に届くと思っているだろ。」
「うん。」
「でも、それは違う。一番大切なのは相手の心に響く言葉で訴えることだ。間違って自分の自意識過剰な言葉で相手の心なんて変わらない。相手の心の空いたスペースに踏み込むんだよ。」
なるほど。
矢木もなかなか良いこと言う。
私は気づいたら目から大量の涙を流していた。
「泣く暇があったら、さっさっと助ける。いいな。」
「はい。」
もう一度挑戦しよう。
その日の放課後。
私は2年6組の教室へと向かった。
扉の前にはこないだと同じ気の強そうな女の子たちと浜島先生、そして間宮さん。
ドア越しに聞こえる話し声。
「間宮さん、こないだお化け役やってもいいって言ってたよね?どうしてこれ着ないの?」
女の子がひらひらとお化け役の衣装を見せる。
「そうだぞ、間宮。どうして着ない?間宮にお似合いだぞ。」
私はぎゅっとスカートを掴む。
「私、、やっぱり、、」
「はぁ?着ないとでも言うつもり?」
「でも、私、、」
その時、女の子が手を振り上げた。
だめ!!!!!
私が勢いよくドアを開ける。
驚いた拍子に女の子が手を下げる。
よかった。
「なに~?またあんた?今日は何の用?」
「もう一度手を差し伸べに来ました。」
「はぁ?どういうつもりか知らないけど、今は模擬店の準備中。部外者は入らないでくれる?」
女の子たちが私を追い出そうとする。
「間宮さん!ほんとにそれでいいの?後悔しない?」
私は間宮さんに精一杯声をかける。
すると間宮さんが、
「もういいよ!私に構うな!ほんと迷惑!!!」
と言って教室を飛び出した。
「あぁ、また怒らせちゃった。ほんと、部外者さん迷惑。」
女の子たちと浜島先生が笑いあって私をバカにする。
私は心が折れそうだった。
だけど、ふと矢木の言葉を思い出す。
「差し伸べた手は絶対に引っ込めるな。もう一度手を差し伸べ続けろ。」
私はハッとする。
そうだ、相手が掴むまで差し伸べ続けなくちゃ。
私は間宮さんの後を追いかける。
もう一度差し伸べよう。
間宮さんが掴むまで。
私は走り続けた。
ただ、ひたすら。
間宮さんを見つけたところでかける言葉も分からない。
だけど、手を差し伸べなければいけないことは分かる。
私は必死になって間宮さんを追いかけた。
すると、私の目線の先に下を向きながら背中からでも分かる悲しみを抱きながら歩く一人の女の子がいた。
きっと、間宮さんだ。
私はその女の子の肩を叩く。
「また、あなたなの、、。もうほっといてって言ったでしょ。」
「でも、、。」
「ほっといてって言ったでしょ!!!」
間宮さんが泣きながら激しく怒る。
こんな間宮さん初めて見た。
「自分でもどうしたらいいのか分からないの。だって、私は、間宮グループの娘よ。クラスの中でいじめられてるなんて世間にバレてごらん。間宮グループの落ち度になるわ。これでも必死にやってるの。だから、関わらないでくれる。誰に頼ればいいのかも分からなくなってるのに。」
「頼ってよ!」
「え?」
上手い言葉は言えない。
間宮さんの気持ちは分からない。
でも、
「頼って、私を頼って!私の差し伸べた手に必死に縋ってよ!私の助け舟に飛び込んでよ!」
私は大声で間宮さんにそう叫ぶ。
「私には間宮さんの気持ちが分からない。私はどっかのお偉いさんの娘じゃないし。世間とかよく分からない。でも、一つだけ分かることがあるよ。」
私はつばを飲む。
「私があなたを追いかけた時、あなたの背中からは後ろ姿でも分かる悲しみがにじみ出ていた。助けを求めた。そんな姿に見えたの。違う?」
そう聞くと、間宮さんはゆっくりと頷いた。
すると、間宮さんが私に飛び込んで来る。
「酷いこと言ってごめんなさい。助けてください!!!」
「はい、もちろん!」
私は彼女が本当の姿を見せてくれたことに嬉しくなった。
私は彼女を抱きながら、背中を擦りながら励ます。
彼女は私に身を寄せ、縋っていた。
「間宮さん、今度は自分の本当の気持ち言ってくれる?」
「分かった。」
「よかったな。」
影で見ていたのか翔太がそう声をかける。
「見てたんだ。」
「当たり前だろ。あんな大きな足音たてて廊下走られたらさ。」
私はほっとして笑う。
「あと、矢木先生に浜島先生について聞いといたぞ。」
「え?矢木もいたの?」
「あぁ、さっきまで。」
私は急いで職員室へ向かう。
すると、職員室に行く途中に矢木に会った。
「やるじゃん、水原。」
「まぁ、一応あんたのおかげありがとうございました。」
「はいはい、そりゃどうも。」
私は明日のティーチのことについて考える。
今度こそ、上手くいくように。
そう星に祈る。
とうとう決戦日。
7時間の長い授業の末、始まった。
いつものように2年6組では、間宮さんに対して皆がお化け役を押し付ける。
「間宮、早く着ろよー。」
「間宮にはお化け役が一番ぴったりだよ。」
私はぎゅっとスカートを掴む。
そして勢いよくドアを開けた。
「なに?またあんた?ほんと懲りないね。」
「もう辞めてあげて。その子にお化け役を押し付けるのは。」
「はぁ?間宮さんはやってもいいって言ってるんだよ。勝手に気持ち弁解しないでくれる?」
「じゃあ、間宮さんがその衣装着たことある?」
「それは、、でも間宮さんはやりたいんだよね、お化け役。」
「間宮さんどうなの?」
私は間宮さんを見つめる。
お願い。
本当のことを言って。
自分の本当の気持ちを言って。
「私は、、、」
皆が間宮さんに注目する。
私、翔太、矢木、教頭先生、浜島先生、気の強そうな女の子たち、2年6組のクラス全員。
がんばれ。
私の手を掴んで。
私の舟に乗って。
私はそう心の中で祈る。
「やりたくないです、お化け役やりたくないです!!!」
言った!
「どうしてこんなことしたの?」
「何言っての、間宮さん!」
そう言って、女の子が手を振りあげる。
だめーーーーー!!!!!
私は咄嗟にその子の手を掴む。
「ふざけたまねしないで!」
私は息を吐く。
「浜島先生、どうしてこんなことしたんですか?先生なら止めるべきじゃないんですか?」
「そ、それは、、。私はやってない、今回の事件とは全く関係ない。」
はぁ?
自分だって恐喝してたくせに。
そういう前に、気の強そうな女の子たちが口々に文句を言い出した。
「なに?うちらのせいにするの?先生信じられない。」
「どうゆうこと?先生だって間宮に強制させてたじゃん。」
すると、先生が叫ぶ。
「俺は、俺はやってない!!!」
なんで?
私は腹が立った。
「浜島先生、あなたもこのいじめに加わっていましたよね?」
「じゃあ、皆に聞く俺がやったっていう証拠は?」
「あります!!!」
翔太がそう言い出す。
え?翔太?
「あなた1度、あるトラブルで出世コースから外れていますよね?」
え?
何の話?
「その原因が保護者からのクレーム。その保護者というのが間宮さんの御両親。」
え?ということは?
「浜島先生、あなたはその時の復讐のために間宮千夏をいじめのターゲットした?違いますか?」
そんな、、。
「あぁ、そうだ。だが、それの何が悪い?俺はお前の両親のせいで人生を狂わされたんだ。」
浜島先生が間宮さんに指を指す。
「お前の両親のせいで俺は出世コースから外れた。同期の中でも特に優秀だったのにも関わらず、、、俺は!俺は!」
「そんな理由?」
私が口を挟む。
「そんな理由でですか?」
「そんな理由とはなんだ!」
「あなたのお気持ちはよく分かりました。でも、あなたも誰かの人生を棒に振るうところだったんですよ。自分が何をしたのか分かってらっしゃいますか?あなた教師として最低な行為をしたんですよ。いじめを止めるんではなく、自分もそのいじめに加わる。そんなことが許される行為だと思いますか?」
私は浜島先生に指を指す。
「私はあなたのことをティーチします!!!」
「いくら自分の人生が棒に振るわれたからって他人の人生まで棒に振るうようなことはしてはいけない。」
「すみませんでした。本当にごめんなさい、、。」
浜島先生が泣きながら頭を下げる。
これで一件落着。
「水原さん!」
間宮さんに呼ばれる。
「今日は本当にありがとう。」
「何言ってるの、間宮さんが自分の本当の気持ち口に出来たからでしょ。」
そう言うと間宮さんは恥ずかしそうに下を向いた。
「私、水原さんの手、握っててよかった。」
私はとても幸せな気分になった。
模擬店当日。
「音琴なら似合うって。」
夏美が私にメイドの衣装を渡してくる。
「えー、絶対似合わないんだけど。」
「ほら、早く着替えて着替えて。」
渋々、更衣室の中で着替え始める。
あぁ、ほんと最悪。
更衣室のカーテンを開けると、
「わー!音琴似合ってる。」
「嘘だー、そんなお世辞いらないよ。」
「いやいや、まじで似合ってるから。ねぇ、翔太くん?」
夏美が翔太に声をかける。
翔太がこちらに近づいてくる。
「な、なに?」
思わず顔が引き攣る。
「いや、お世辞でも似合ってるとは言えないな。」
「はぁぁぁぁぁ!?」
ほんとムカつく。
「あ、音琴。」
「今度はなに?」
「これ。」
翔太が何やら私にファイルを渡す。
「これ、矢木先生に借りてたやつ。後で返しといてくんね?」
「やだよ、なんで私が?」
「頼んだ、よろしく。」
翔太が走っていってしまう。
「え?ちょ、ちょっと。」
はぁ、なんでこんなことに。
私は渋々職員室へ行く。
もちろん、メイドの衣装のままで。
「矢木、これ。」
私は矢木にファイルを差し出す。
「翔太から。」
すると、矢木はファイルを受け取るとこちらも向いて、
「ははは」
「なんで笑うのよ!」
「いや、だって、そんな格好だから。ごめんごめん、つい。」
ほんと最悪。
「いや、とっても似合ってるよ。」
あ〜、も~。
「はいはい、どうも。」
自由時間になり私は隣のクラスへと向かう。
2年6組の教室の中では、楽しそうに笑い合う間宮さんの姿あった。
私はほっとした。
すると、間宮さんがこちらに気づいて教室から出ていく。
「水原さん、その格好すごく似合ってる!」
「そ、そぉかな?」
「ぜひ、入ってて。」
「うん。お邪魔します。」
今年の模擬店は笑顔で溢れていた。
でも、まだまだ私たちのティーチは続くのであった。