メンコファイター開発事業部
某オモチャ会社が子供向けの商品である『メンコファイター』を発売してから半年がたち、メンコファイターは日本のみならず全世界で流行した。メンコファイターとは、現代風にアレンジしたメンコのことである。イラストを有名なデザイナーが描いており、大きなオトモダチにも人気がでたことが、ブームのきっかけにつながった。
四月八日、都内の某オモチャ会社メンコファイター開発事業部にて
「部長、メンコファイターの売り上げが好調なので、十二月頃に世界大会を開くことに決まりました」
「おおっ。やったなぁ鈴木君」
そう言うと、部長と呼ばれている男は腰をあげ、机の前に立っている、達成感による興奮で息を荒くしている若者の肩を、ポンッと叩き、
「まさか、君が立案したこの企画がここまで大きくなるとはなぁ。良くやった。今日は私のおごりで飲みにいこうではないか」
とその気がない男でも、惚れしてしまいそうな笑顔で言った。
「はいっ。今日はガンガン飲みますよ」
「おいおい、妻の尻にしかれて、昼は毎日、420円以内ですます、この私の財布を考えて飲めよ」
「わかってますよ。でも当分、120円のおにぎり一個と、120円のお茶で過ごすことになると思いますから、覚悟しててくださいね」
「それは困るなぁ」
その後、笑い声が部屋中に響いた。
七月一日、都内の某喫茶店にて
「今日で日本全国の地区大会も終わり、次は全国大会ですね部長」
そう部長に言い、鈴木君はオレンジジュースを半分ほど飲んだ。
「そうだなぁ鈴木君。北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州の地方から、それぞれ一人だけが選ばれ、さらにその中の一名だけが世界大会に進出できるわけか。これは厳しい闘いになるな」
クーラーで汗がひき、すこし冷えた部長は追加でホットコーヒーを頼んだ。
「最近少し贅沢してますよね部長。近頃は昼に600円くらい使ってるようですし」
鈴木君はそう言うとチーズケーキを頼んだ。
「君も人のこと言えないじゃないか。まぁお互い、前より財布がホクホクしてるのは確かだね。メンコファイターのおかげで、我が社の株価もどんどん上がり、今年はボーナスも良くて、夏に、妻と娘夫婦と孫の五人で沖縄に行くことが決まったよ」
「それは良いですね部長」
鈴木君はあること言わないといけないのだが、はたして今このことを部長に告げるべきかどうか、わからないでいた。だが時折、悩んでいるのが顔にでるため、部長はすぐに何かあったと察した。
「鈴木君。私に何か言いたいことがあるのではな……」
「コーヒーのお客様は?」
タイミング悪くコーヒーが運ばれてくる。ムッとした顔で部長はコーヒーを受け取り、すすりながら鈴木君を見つめた。しばらくしてから、鈴木君の口が動き始めた。
「実は、お客様相談室に寄せられたクレームのことなんですが……」
「クレーム? メンコファイターにかい?」
「はい。このたびの地区予選大会にでた、参加者の保護者からなのですが……」
「保護者かぁ、どうせ、『ウチの子がどうして一回選で負けるの』とか『メンコファイターで指を切って血が出た』とかそんなのだろう?」
だがその時、鈴木君の顔に笑みがないのを見て、ただ事ではないことを悟った。
「実はそのクレームの内容というのが……」
「チーズケーキのお客様は?」
この時二人は、このウェイターに怒りを覚えたが、抑えた。
「それでクレームはなんだね?」
コーヒーを飲み終えた部長は、今度は火照った体を冷ますためと、長話になるかもしれないことを考慮し、アイスコーヒーを頼むかどうか考えながらつぶやいた。
「実名はだせないのでD君とO君にしますが、関東大会の準決勝でO君と闘ったDくんが全治三か月のケガをおったと、D君の保護者からクレームがあったそうなんです」
「いつ?」
……というか、対象が特定されたんだが……というツッコミを部長はあえてしない。
「試合中です」
「んっ? 会場の機材か何かが原因かね?」
「いえ、詳しく言うと、対戦者のO君の必殺技『グランドクラッシャー』の威力により、自身のメンコと共に、空中に投げ飛ばされたD君は着地に失敗し、体を強くうったそうで、なんでこんな危険なモノを売るんだとのクレームだそうです」
この時の唖然とした部長の顔を鈴木君は生涯忘れることがなかった。そしてはっとした部長は、大切なことを忘れていたことに気付いた。
「そういえば商品に、『間違った使用をせず、正しい使用法で遊んでください』って書いてなかったね」
「O君は別に間違った使用法をしていた訳ではないのですが、謎の力によって……」
「……」
とりあえず部長はアイスコーヒーを頼むことを決めた。飲みすぎだろ……というツッコミを鈴木君はあえてしなかった。
「じゃあ全国大会には、そのO君がでるのかい?」
「いえ、全国大会にはK君、まぁ地区大会優勝者なんで名前出しても大丈夫ですよね。関東大会はカガヤキ・ツヅク君が優勝しました」
「へぇー。じゃあその子も必殺技とかあるの?」
鈴木君がすごくビクッとしたのを部長は気づかなかった。
「きっ、聞きたいですか?」
「ん? うん」
「一つだけでいいですか?」
「いっぱいあるの? どうせなら全部教えてよ」
しばらく迷ったが鈴木君はため息をついた後、観念した。
「『天空の神ウラノスストーム』・『大地の神ガイアインパクト』……」
なるほど中二っぽくギリシア神話の神々の名前を使っているのか、痛いな。でもまあ、まだ子供だしな…… と部長は思った。
「『美と愛のアフロディテアロー』・『知恵のアテナヘッド』・『芸術のアポロンナックル』・『狩りのアルテミスハンティング』・『冥界のハデ……」
「っっっっ!」
なっ中二どころか、神話の神々と、知ってる英単語を使っただけではないか……と部長は思った。
「……のゼウスライトニングアタック』」
痛い痛い心が大やけどを負ったみたいだ。こんなのよく言えるなぁ、ツヅク君とやらは…… と部長は思った。
「『サタンアングリ―』・『ヘルファイアー』・『デビルキック』・『オーガ……」
なん……だと……? まだ続くのか……? と部長は思った。
言い始めて三分がたった頃、部長は後悔した。自分から言い出したので、止めろとも言いづらい。
だが、二人には希望があった。
そう、ウェイターである。ウェイターの登場で、『仕方なく』話を止められるからだ。
五分経過 喫茶店から二人以外の客が消える。 ウェイター来ず。
七分経過 二人から羞恥心が消える。 ウェイター来ず。
十分経過 二人から希望が消える。 ウェイター来ず。
一三分経過 ついに鈴木君が言い終えることに成功した。
「……クーゲル・シュライバァァーーーーーーー』……ぜえぜえ……です……」
パチパチとどこかで拍手がきこえる。部長ではない。
ウェイターのだ。
「お疲れ様です。今回はちゃんと言い終えるまで待ってましたよ。はい、注文のコーヒーです」
あまりにも眩しいウェイターの笑顔に、二人の怒りはいつしか治まっていた……ホットコーヒーが鈴木君の前に置かれるまでは……。
九月三十日、都内の某有名レストランにて
「ついに全国大会も終わりましたね部長」
一本二万円のワインを飲み、ほろ酔い気分に浸っている鈴木君が、向かいのイスに座る部長を見て言った。
「ああ、だが無事には終わらなかったなぁ鈴木君……」
「ナニワ君のことですね……」
二人はしばらく無言のまま、ワインを味わった。イマイチ良さがわからない、と叫びたくなる衝動を抑えながら。
近畿代表のナニワ・カイ。彼は、関東代表のカガヤキ・ツヅクに勝つために生み出した秘儀『スクリュードライバー』の多用により右腕を痛め、決勝でのカガヤキ選手との闘いで、とうとう右腕に限界がきてしまい、二度とメンコファイト(メンコファイターで闘うこと)が出来ない体になってしまっていた。
「こう言ってはなんだが、今の子は限度というものを、知らなさすぎやしないかい」
「そうですよね。遊びなのに……」
この時、鈴木君は部長に伝えなくてはならないことを思い出した。
「鈴木君。顔でわかるよ。どうせまた、面倒くさいクレームでもあったのだろう?」
「バレましたか……。今回はクレームというよりは要望なんですが……」
鈴木君は仕事用のカバンから一枚の写真を取り出し、部長の前に置いた。
「これは決勝でのカガヤキ君の姿かい? 彼の仲間達と、そのうしろにはカガヤキ君のメンコに宿る、スピリットの『聖戦士ジハード』……」
写真から目を離し、鈴木君の顔を見つめる。鈴木君はただコクンと頷いた。
「今回、お客様相談室に送られてきた手紙に、『どうして、ぼくのめんこには、つづくくんのじはーどみたいな、すぴりっとがいないの? ぼくもほしいです。』と書かれてまして……」
「なんでだろうね……。大量生産品なのに、どうして彼のメンコにはスピリットが宿るんだろうね?」
「とりあえず、『買い続ければいつかは出会えるかもしれないよ』と返しておきましたが……」
「君も商売がうまくなったね。社長も君に期待してるみたいだよ」
「それはとてもありがたいです」
部長はワイングラスを持つように促した。
「君の将来と」
「カガヤキ君の世界大会優勝を願って」
「「乾杯」」
チーンと耳に心地よい音がさった後、ワインを飲み干す。そして二人はこう思った。
(やっぱ居酒屋行けばよかった……)
一二月二三日、都内の某高級料亭にて
「ついに世界大会もおわりましたね」
鈴木君が部長の杯に酒を注ぐ。部長は達成感で震える若者の姿を見て、胸が熱くなっていた。
「やったなぁ鈴木君。ホントよくやった。社長も今度の人事で、君を係長にしようと考えてくれているそうだ。さあ、返杯だ。今日は社長のおごりだそうだ。思う存分飲もうではないか」
部長が注いだ酒を飲み、うまい、この世に、こんなにもうまい酒があるのか、と鈴木君は美酒を心行くまで堪能した。
「しかし、世界大会もすごいことになってたなぁ」
「ええ。ドイツ代表のハルト選手が、カガヤキ君の必殺技『クーゲル・シュライバー』をくらって負けた時、すごい顔して叫んでましたもんね」
「そうだね。あの時インターネットでドイツ語、ボールペンって調べた人多かったらしいね」
「ええ、カガヤキ君も意味を知らずに使ってたみたいですし。つい、アメリカ人が漢字で『鬼畜米英』ってタトゥーを彫って、笑顔でいる写真思い出しちゃいましたよ。意味を知らずに使うと恐ろしいですね部長」
鈴木君は、つくえの上に置かれた、一般人ではお目にかかれない、ご馳走に目を向けながら、淡々と返答する。鈴木君は、初めて見るモノばかりなので、胸を躍らせていた。
「いただきます」
突然怪しいメロディが部屋中に鳴り響く。
「あっごめん電話だ、箸つけるの待っててくれる? 一緒に味について話したいから。ほら、最初に、うまい、まずいって言われると、先入観もってしまうことあるでしょ」
「はいはい、ちゃんと部長が戻ってくるまで、待ちますよ。子供じゃないですし」
「はは、そうだよね。じゃあちょっとごめん」
この時、鈴木君はかつて無いほど部長を憎んでいた。刺身の鮮度が落ちる、と。
「しかし、カガヤキ君が優勝するとは思わなかったな。アメリカのNAS○が開発したメンコファイター専用ロボット『メンコマスター』が勝つと思ってたのにな」
NAS○は540億円を費やし、最強のメンコファイターである『メンコマスター』を作りだすことに成功したのだが、決勝戦にて、ついに、カガヤキ君の持つメンコ『聖戦闘士ジハード スカイ』に黒星をつけられてしまった。そして次回大会からは、出場資格に『人間』という項目が追加されることになりそうだ。
「そういえば、カガヤキ君がチベットで修行して、メンコ仙人から伝授した『聖戦闘士ジハード スカイ』のメンコって、我が社では作ってないんだよね……」
鈴木君がそうつぶやいた時、部長がドタドタと部屋に戻ってきた。
「鈴木くあwせdrftgyふじこlp;@っ!」
「っっっ? 部長どうしたんですかっ?」
とりあえず水を部長に渡す。
「ふう。君のおかげで、私も昇進が決まったよ」
「やりましたね。おめでとうございます部長」
今度は杯を渡す。
「ありがとう。もう矢でも鉄砲でも、なんでもこいって気分だよ」
「ははっ恐いものなしですね」
そして二人はようやくご馳走を堪能した。
三月一七日、都内の某地下核シェルターにて
「部長ひもじいですね」
乾パンをモソモソと食べながら鈴木君が嘆くようにつぶやく。部長はペットボトルに入った水を大事そうに飲む。あたりを見回すと、同じような行動をとっている人々が、所狭しと核シェルター内部にいた。
「そうだな、鈴木君。まさか、宇宙人がいて、しかもコスモジャスティス連合とか名乗って、地球に攻めてくるとは思わなかったよなぁ」
「ええ……(まさか矢や鉄砲よりも危険なモノがくるとは……)」
鈴木君は暇になると、乾パンの穴があいている部分を表裏とした場合、その横側にあたる部分に歯をあて、表部分と裏部分の二つに分ける動作をしてから味わっていた。彼にとっては、歯をいれて、乾パンが二つに分かれる時の、ぺきっとなる感覚が面白いのだ。正直惨めである……。
「そういえば君のとこの家族は大丈夫かい鈴木君?」
「連絡がとれないからわかりませんけど、日本で一番人口が少ない県ですし、どうせ砂しかないと思われてる所にいますから、九割がた狙われないと思います。部長の所は大丈夫ですか?」
「一応家族は、君がさっき言った県の、右だか、左だかわからないと思われている県に避難させているから、九割がた大丈夫だろうね」
(……狙われる気がしねえ)
二人はそう思い、安堵と同時に切なさがこみあげてきた。
「メンコファイトッ!」
どこからかメンコファイターで遊ぶ子供たちの声が聞こえる。子供たちが無邪気に遊んでいるようだ。いま世界が危機に瀕している理由がそれのせいだとも知らず……。
「こらっそんな物騒なものは捨てなさいと言ったでしょ」
おそらく、その子たちの保護者と思われる大人が、子供たちからメンコを没収し、それらをリサイクル出来ないほどに粉砕した。子供が泣いた。鈴木君も泣いた。部長までもが泣いた。
「そういえばコスモジャスティス連合の総司令官が『メンコファイターには、我々が、古代マヤ文明に与えた知識が詰め込まれており、世界を変える大きな力があるのだ。その力を悪く使う人間どもを駆逐せねばならん』って言ってましたけど、自分そんな知識使った覚えないですよ」
「そうだよなぁ……。そういうの無関係だったよな。それにしてもどうして、軍隊の戦車や戦闘機でなく、一枚30円以下の紙に世界の命運がかかってるんだろうなぁ?」
そう今人類に残された希望は、カガヤキ・ツヅクをリーダーとした少年たちが、コスモジャスティス連合の総司令&四天王をメンコファイターで打ち破ることである。
「四天王は全員倒したみたいですよ」
「本当かい鈴木君? なら後は総司令だけか」
「でもこちら側も負傷者が出て、あとカガヤキ君しか残っていませんよ」
一瞬暗いムードが漂うが、なんだかもうどうでもよくなってしまっていた。ただ、今言えるのは、周りの大人たちのこちらを見る目には、明らかに殺意がこもっていて、怖いということだけだ。
(やべぇ……開発者ってバレた……)
と思った二人は数分後、ボロボロの体をひきずって別のシェルターを探した。
三月二四日、都内の某瓦礫の上にて
『ふはは、これが私の真の姿だ』
そこにいる男は、全長が三〇メートルはあり、角が生えて全体が緑色に発光していた。これこそが、コスモジャスティス連合総司令の真の姿である。その大男の手には、その大きさに比例したサイズのメンコファイターのメンコがあった。
『恐くない、お前なんて恐くないぜっ! 宿題忘れた時の先生の顔のほうが、よっぽど恐いぜっ!』
『ふはは、強がりを言うな、カガヤキ・ツヅク。足が震えておるのが、よくわかるぞ』
『へっ! これは武者震いって言うんだよ。御託はいいから、さっさと始めようぜ!』
『望むところだ。こいっカガヤキ・ツヅクゥッ!』
『メンコファイトッ!』
「部長、適当に最強のメンコでも作って、カガヤキ君に渡したらよかったんじゃないですか?」
少し離れた所で観戦する鈴木君と部長。部長は鈴木君の提案を右手を左右に振って否定する。
「いいよ、いいよ、そんなの。どうせ、ピンチになったら新しいメンコがなぜか、彼の手にあったり、『地球のみんな、オレにみんなの勇気を、希望をわけてくれっ!』とか叫んだら、なんらかの力が発動したりするからさ」
「部長、最近さめてますね」
「まあね。今、別の企画を考えてるんだ。今度は世界征服とかに使われない遊び。カルタとかどう? 『マグナ・カルタ』っていう商品名で、どう? どう?」
「部長っ! 落ち着いてくださいっ!」
『ぐああ。こっ、この私が負けた。負けただとォォォッ!?』
全長三〇メートルはある、コス(以下略)は地面に崩れ落ちた。
『あんたは仲間との絆を大切にしなかった。それがあんたの敗因だ』
カガヤキ・ツヅクがコス(以下略)の顔の前に立ち、ボロボロの姿でコス(以下略)に説教を始めた。
「はいはい、きました、絆発言。俺達『メンコファイター開発事業部』の絆が生み出した結晶を、ボロクソにしておいてよく言えるな」
「おうおう、いいぞ、言ってやれ、S、U、Z、U、K、I、K、U、N、鈴木君ッ!」
二人とも完全に自棄になっている。残念なことに、彼らを止められる者は地上にはいない。
『どうやら、地球人はこの力を正しく使えるようだな。私たちが間違っていたようだ』
『わかれば良いって。今度は地球の命運とかなしで、メンコファイトろうぜ』
『ふっ、望むところだ』
「はいはい、きました、勝手に無罪判決宣言。人口どれだけ減ったと思ってんだよYO。奴等の目標ォ、人類皆殺しィ、俺達半殺しィ」
「ええ、ええ、言ってやっちゃってください、部長ォ、ブゥチィユォーッ!」
もはや何がなんだか……。ちなみに、彼らが理性を取り戻したのは数時間後である。
二〇年後 四月六日、都内の某おもちゃ会社メンコファイター開発事業部にて
「部長、メンコファイターの太陽系大会の開催が決まりました」
「そうか、やったなぁ斉藤君」
そう言うと、部長と呼ばれている男は、窓の外を見る。空には大量のUFOが飛んでおり、オフィス街には、人間にまじって、かつて宇宙人と呼ばれていたモノが、平然と歩いていた。
「思えば、このおもちゃには振り回されたな……」
デスクの上に置かれた、試作品のメンコを手に取り、部長…… 鈴木君は、当時の自分のことを思い返していた。
当時の部長は定年退職を前に、独立し、子供向け商品の製作に尽力している。地球を救ったカガヤキ君は、その時の仲間と結婚し、彼の息子もメンコファイターとして活躍している。そして、鈴木君は、メンコファイターを間違ったことに使われないよう、生涯メンコファイターの仕事から、決して離れないことを誓った。
まあ、ぶっちゃけその後、そのカガヤキ君の息子とかが、外宇宙からの生命体や、別世界からの敵や、メンコファイターの悪用で滅んだ未来人とかと、メンコファイターで闘って、世界救ったりとかあるけど、どうせ、こういうおもちゃって数年すりゃ、正月の福袋とかに入れられて、開けてみて『うわぁ……』ってなるやつだから、鈴木君のその決意も数年で無駄になっちゃいました。
おしまい。