来たれ!オカ研!
それはクラスに漂う余所余所しい空気もなくなり、まとまりが出てきたころの放課後に起きた。
HRが終わり少し教室で駄弁った後、部活組と別れ1人昇降口へと歩いていた。
「そこの君良い目をしてるね!是非我が部活に入らないか?」
突然爽やかな胡散臭い男が現れたのである。
勧誘の時期はとっくに過ぎて、夏は近づいてきていた。
上履きの色から判断するに先輩のようだ。
「おっと自己紹介がまだだったな。3年の岡宮だ。よろしく高岡くん」
こっちの事を知ってるようだが心当たりがない。
只の新入生の勧誘ではないかもしれない。
「こんな時期に勧誘なんて、新入生に逃げられたんですか?」
警戒心からか少し喧嘩腰になってしまったが、そんなことは気にもせずに先輩は応えた。
「いやそうではない、君があちらこちらの部活を覗いてたのを知っていたからね。無理強いはしたくなかったのさ」
手振りが大きく、まるで海外ドラマの登場人物の様だ。
満を持しての登場らしいが、やってることは無理強いではないだろうか。
「君の御眼鏡に適う部活が無いようだから声をかけたのさ」
これはもうストーカーだろ。
易々と逃がしてくれそうにはないが、黙って従う理由はない。
しかし、隙を見せると丸め込まれてしまいそうな勢いがある。
「一応、一応聞きますけど何部ですか?」
「オカルト研究会だ」
この学校を一言で表すと普通である。
都会でもない田舎でもなく、バカでもなければ言うほど賢くもない
それに生徒会が強い権限を持っていたりもしない。
何かの強豪校でもなく、よくある部活によくある同好会、唯一実在したのかと驚いた事がそのオカルト研究会の存在であった。
言いたい事は色々あるが、この状況と先輩なので気を使うのか、なかなか言葉が出てこない。
「我が'部'にと言ったが、あくまでもうちは同好会だ。いきなり我が会になんて言ったら怪しすぎるから便宜上そう言わせてもらったのさ」
超怪しいがスッゲェ怪しいに変わる程度の違いだ。
「ちなみに君でメンバーは5人目だ。よくある5人集まれば部に昇格だとか、少ないと部室をとられるとかそう言った話はないから安心したまえ」
安心していいと言ったが断って良いとは言ってない。
この押しの強さエンカウントした時点で負けなのかもしれない。
「すいません興味ないです。帰っていいですか?」
「そうはいかないよ。今日は折角のデモンストレーションのチャンスだからね」
スッゲェ怖い。
幽霊だとか宇宙人だとかが苦手な訳ではない。
純粋に目の前の男に恐怖を感じている。
今日振り切って逃げたとしても付きまとわれて、恐怖に怯えた高校生活を送る事になるかもしれない。
「そう言う事だから付いて来てくれないか?」
幸いにも体格差はないので最悪の場合はぶん殴って逃げればいい。きっとこの男は問題児であろうから、そこまで咎められることはないだろう。
「わかりました」
全力で警戒しながら付いていく事にした。
「部室に行くんですか?」
「いや、別棟の美術室前のトイレだ」
やっぱり怖い。
美術室前だから大声を出せば美術部に聞こえるかもしれない。
美術部には女子か線の細い男子しかいないイメージがあるので助けになるかは不安でだが、誰もいないよりはましである。
「学校のトイレとオカルトと聞いて君は何を想像するかい?」
「入れた方が停学で入れられた方が退学って話ですかね」
「それは都市伝説だろ。」
実はオレも真偽は知らない。
「花子さんですか?」
「正解。君は花子さんはいると思うかい?」
別に信じてはいなかったが、この状況この流れでいないとなると逆に意味がわらからない。
「その美術室前のトイレにいるんですね。花子さんは」
「いや、花子さんはいないよ」
ファック!!
先輩の派手な手振りに思考がつられてしまった。
「さぁ許可はとってあるから、心配せずに入りな」
恐る恐る女子トイレを入口から覗いていたが、どうやら誰もいないようだ。
「それでオレは何を見せられんですか?」
「ちょっと待って今呼び出すから」
そう言って彼は深呼吸をした。
今のところ変質者である。
「迷子の迷子の花子さん、貴女のお家は何処ですか?」
「トイレでしょ!」
心で思った言葉と同じ言葉が耳に入ってきた。
「ほら、来たよ」
彼が指を差した方を見ると小学生位の女の子が立っていた。
「ファック!!」
心の底から出た声に彼と女の子が少しビクついた。
「その反応やっぱり僕の見込み通りだ」
「いるじゃないですか」
「それは今から説明するよ。お嬢さんもしっかり聞いてよ」
「花子さんは全国に学校に出没している。実在する幽霊だとしても元の人間だった花子さんは1人のはずなのにおかしいと思わないかい?」
「それを根拠にいないと言う人もいましたね」
「実は皆、勘違いをしているんだ」
「なるほど、トイレにいる幽霊を全て花子さんと勘違いしてたって事ですか」
「いや違う。勘違いをしているのは彼女達の方さ」
「幽霊の方がですか?」
「その通り。まず彼女達は死んだショックで自分の記憶を忘れてしまっている。そして彼女みたいな幼い幽霊は学校の様な明るい気に溢れた場所に引き寄せられてしまうんだ。楽しそうだからね」
「それが学校の怪談の原因ですか」
「そういことさ。そしてトイレの前を通る時、ふと自分の現状と記憶のどこかにある花子さんの話がリンクして自分は花子さんだって勘違いをしてトイレに留まる事になるのさ」
思わずオレと花子さん(仮)は顔を見合わせた。
「それで、彼女はどうするんです?」
「自分を思い出せばいいのさ。僕の予想が正しければ彼女は 坂元香 」
「坂元香・・・・・・」
「思い出した。私、車にひかれちゃったの」
彼女は小さく呟くとポロポロと涙をこぼした。
オレは隣にいてあげる事しか出来ない自分に歯痒さを感じていた。
「そう君は花子さんじゃないんだ。だからこんな所にいてはいけないよ。」
そう優しく語りかける彼は最初の印象とは別人であった。
「お兄さんたちありがとう。私行くね」
彼女は涙は止まったが、まだ泣きそうな顔をしていた。
「危うくトイレの香りさんになるところでしたね。小林製薬の芳香剤みたいな」
「最っ低!バカ!死んじゃえ!」
幽霊に死ねと言われると結構不安になるな。
「それじゃあ、バイバイ」
彼女は少し拗ねたような顔で何処かへ走って行った。
「一件落着ですかね」
「いや、まだ大事なことが残っている。改めましてオカルト研究会会長、岡宮謙介だ。これからもよろしく!」
「なんで?オレなんですか?」
「君が高岡健太くんだからさ!」
女子トイレの中、満面の笑みで握手を求める彼は変態にしか見えなかった。