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歌姫と豊穣の詩  作者: クマと苺
第一章 歌姫の種
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1話 記憶 

1話 記憶


 歌う事は生きること、呼吸をするように詩を紡ぎ歌にする。


 村の特設野外舞台では、太陽でキラキラと輝く銀髪の温和そうな銀の瞳の美しい歌姫が、澄んだ歌声で神話を基にした幻想的な唄を歌っている。


 歌姫の歌声は、寒い野外に居る人々の心と体を暖かく包む様な旋律だ。パメラは、歌声を聴き静かに涙を流した。パメラの瞳からは涙か止まらず次から次へと流れる。


 周りにいる人々は歌姫の歌声に聞き惚れてパメラの涙には気が付かない。


「ああ、私は生まれ変わったのか……」


 ここは異世界だと、パメラは不思議な感覚で思った。


 歌姫の唄が聴いている人々の耳に心地よく響き渡る。その時突然の頭痛で、パメラの意識は遠のいて気を失った。


 隣にいたパメラの母親のカミラが気付き、とっさに支えたので頭を打つ様な倒れた方はしなくてすんだ。 


 突然倒れたパメラにカミラは驚く。そして急いで抱きかかえて家に帰る。六歳のパメラはカミラにとっては少し重い、だか重さなど今は気にならなかった。それ程までに急いでいたのだ。


 パメラが気付いた時には自分の部屋にいた。そして暖かくてちょっと硬いベッドの中でパメラは、ため息をつく。


 歌姫の唄を聴いて、前世の記憶が蘇ったのだ。そんな不思議な体験をしたパメラは、前世の記憶に思い巡らす。


 そうそれは……。


「美優ちゃん歌上手よね?」

 

 美優みゆうの母の友達の亀井かめい小枝子さえこが、柚木ゆずき家に、昼過ぎに訪ねて来る。


 小枝子は老舗の和菓子屋『カメイ』の女将さんで、気さくな人柄だ。


 小枝子は持って来た箱に詰められた最中を、柚木家の次女の美優に進めながら、そんな事を聞いてきた。


「音痴ではないですけど……」


 美優は愛想笑いをして、一言答える。そして進められた箱の中には、栗入り最中と餅入り最中が入っている。この最中は和菓子屋『カメイ』の人気商品だ。


 美優はどちらを選ぼうか迷い、栗入り最中を選ぶ。後程、餅入り最中も食べてしまう美優であった。

 

 そんな美優が小枝子から相談をされ、困ってしまうのがこの話だ。


「カラオケ大会に参加してみない? 参加人数が足らないらしいのよ」


 たぶんそんな事を聞くのは、小枝子の旦那さんが町内会長をしている関係だろう。会長夫人を、やるのも大変だなと美優は思った。


 カラオケ大会は、町内の公民館で毎年開催されている。この町の名物だ。参加者は幅広く、よちよち歩きの幼児から杖をついている老人までいる。下手でも上手でも関係なしで、大変盛り上がるのだ。歌を愛する心があれば良しなのである。


 美優は人前に出ることが苦手で参加したことはない。だけど毎年、見に行くのは楽しみにしている。


 美優がカラオケ大会に思いを巡らせていると、隣に座っていた美優の母が話に入って来た。


「あんた、歌だけは上手いのだから出てみれば?」


 そんな事を言ってきたものだから、美優は断れずにカラオケ大会に急遽参加することになる。


 柚木家は、カフェを経営している。その名も『カフェ・クローバー』だ。カフェ・クローバーは、モダンレトロ調の落ち着いた雰囲気のカフェである。


 美優は厨房を手伝っている。美優は美味しい珈琲と紅茶の入れ方もマスター済みであった。だか、今は安くて美味しいランチ作りに挑戦中である。そんな美優の考えたカフェのランチは学生から近所の奥様がたにも大人気である。


 可愛くて美味しいランチも、お客さんを呼び込むのには大切なアイテムなのである。


 美優はカフェのカウンターでお昼を食べていた。美優は母の「もう、公民館に行く時間じゃないの?」と言われて、カラオケ大会の会場になる公民館に向かう。


 そして、残念ながら美優の家族はカフェが忙しくて見に行けない。カラオケ大会と言うイベントのおかげで、いつもよりカフェは忙しいのだ。


 さてそんな美優は今、スポットライトがガンガンに照らされているステージにいる。そうカラオケ大会のステージに立って、乗りの良い流行りの歌を歌っているのだ。


 美優は客席のお客さんをジャガイモだと思い込みながら……。


 歌い終わるとジャガイモ達から歓声と拍手が贈られた。


「ありがとうございました」


 ちょっと慌てながら、美優がぎごちないお辞儀をした。その瞬間に悲鳴が聞こえる。

落ちた照明が下にいる美優に直撃したのだ。そして見ていた主催者や観客がパニックに陥る。美優は周りの悲鳴を聞きながら目の前が真っ暗になっていった。


 そして、美優はステージで死んだ。


 何故か、パメラは自分の事であり、自分の事では無い様に思われる記憶の蘇りに戸惑う。だけど確実に、パメラは自分の前世の記憶だと確信している自分がいる。不思議だ。


 パメラはベッドの中から、何気なく壁に掛かっている鏡を見る。そこには、髪は若草を思わせる黄緑色で瞳は蜂蜜の様に甘そうな薄い黄色の、妖精の様に可愛らしい女の子がいた。


 髪も瞳も黒かった前世の美優から考えると、有り得ない色彩で少し複雑な心境のパメラだ。だけど、パメラは似合っているのでいいと思うことにする。今世の自分は、なかなか可愛いとパメラは思った。


 今のパメラは、前世と今世の記憶が入り混じった様な状況である。


「起きたのね。突然、泣きながら倒れたから心配したのよ。どこか痛い所はない?」


 今、話しかけてくれているのがカミラだ。エメラルド色の美しい髪を結い上げて、パメラと同じ蜂蜜色の瞳が、心配そうな眼差しでパメラを見ている。


 カミラは、この村の薬師だ。


 腕の良い薬師で村の人達から頼りにされている。だが、村の人達は丈夫で大した病気にはかからない。それでも風邪の薬や擦り傷の薬は常に備えてある。


「頭が痛かったけど、今は大丈夫かな……」


 パメラは米神に手を添えて、カミラに答える。


「じゃあ、もう少し寝てなさい。お母さんはお父さんの手伝いに行くからね。無理しないで、ちゃんと寝てなさいよ」


「はーい。ちゃんと、寝ているよ」


 カミラはパメラに掛け布団を掛けると、部屋から出て行った。


 パメラは今一度自分の事を思う。パメラの父親は名前をエドガーと言う。寡黙な性格だけど優しい父親である。


 農民なので、いつも畑を耕している。副業として風邪や擦り傷に効く薬草を栽培し、パメラの母親のカミラが調合して薬にしているのだ。普段は二人で畑を耕している。


 パメラは農民の子だ。だからパメラも五歳から、畑の仕事を手伝っている。水撒きしたり、雑草を抜いたりと忙しい。そして小さな樽をパメラは頭に載せて、近くの井戸から水を汲んでくるのだ。


 水汲みは子供の仕事なのである。井戸にはパメラのように樽を頭に載せて、水汲みの順番待ちをする光景がよく見られるのだ。


 井戸では水汲みの順番でよく喧嘩が起きる。そして、パメラはよく仲裁をしていた。


 どんなに仲の良い友達だったとしても、割り込みには厳しい態度を取っていたからである。割り込み騒動が長引くと皆の水汲みの仕事が終わらなくなるからだ。


 だいたい割り込みをするのは男の子である。女の子の方が口達者なのでどうにかなるのだ。


 そうそう、忘れてはいけないのはパメラには七歳年上の兄が一人いる。今は、騎士学校に行っていていない。騎士学校は寮付きなのである。


 この世界は農民の子でも頑張れば、騎士にはなれるのだ。騎士と聞いて戦争と思うかも知れないが、この世界では国同士の戦争はない。悲しいことに内乱はたまにあるが、パメラが生まれてからはなかった。


 騎士は軍というよりは警察と自衛隊の要素がある。騎士学校は優秀な者は学費が無料になる。そうパメラの兄はとても優秀で、無料で騎士学校に行っているのだ。


 因みにパメラの兄の名はシャルロである。そして、剣術が得意だ。



 ところでパメラは明日、7歳の誕生日である。特にお祝いの品を贈る習慣とかはないが、夕食はちょっと豪華になるのが誕生日だ。


 だけど12歳の誕生日は盛大にお祝いする。男の子は武器を親から貰うし、女の子は裁縫道具を貰う。貴族なんかは、社交界のデビューの年齢だ。社交界デビューは農村の子供達には関係ないことである。


 



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