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言い出したらキリがない

作者: 山名シン

  まただ、またあの目だ________。




  食堂に並んでいる食べ物を見ている。お盆を持って、一皿、一皿盆に乗せて進む。ご飯に味噌汁、豚カツ。しめて320円。

  ガヤガヤうるさい奴等を無視して、空いている席を探すが、結局端っこの窓側に座る。女がキャーキャー騒ぎ立てながら飯を貪る。汚い。男がワイワイ喋りながら飯に食らい付く。汚い。

  さっさと飯を食って図書館に籠ろう、そう思って俺は味も気にせず、一人で豚カツを食べた。一気に食い過ぎたかな。腹が痛い。

  はぁ、と一つ溜め息をついてから、イスから立ち上がり、お盆を持って流しに行く。

  走り回るんじゃねえよ。危ないだろうが。


  ガラス戸をひねり、うざったい太陽の明かりに照らされながら、階段を登り、速すぎず遅すぎず、かといって人を抜かす事もなく、ごくごく普通に、いや、普通を装って、誰も見えていないフリをしながらさっさと歩いた。

  誰かが俺を見た気がする。ダサい。髪ながっ。気持ち悪い。顔死んでんじゃん。なんかコッチ見てない。うわぁ近寄らんとこ。

  全部無かった事だ。そうだ。勘違いに決まってる。


  図書館に入り、隅っこの机に座り、愛読本を開いて読んだ。一時間ぐらい経ったかな。だいぶ声が遠くなった。午後の授業が始まったんだ。やっと静かになった。図書館なのに、やけにうるさかったから。

  チャイムが鳴った。あぁ、またアレがあるんだろうな。本を閉じて鞄にしまう。イスから立ち上がり、トイレに入る。さっきから腹が痛くてしかたなかった。五分後に出ると、さっき座ってた席が取られていた。俺はまた、溜め息をついた。


  あ、今日は俺の誕生日だったっけ。5月5日。確かこどもの日だった気がする。違うかったらゴメンよ。せっかく良い日に産まれたのに誰も祝ってくれないんだもんな。俺は学校を出て、大型スーパーに寄った。


  いらっしゃいませ。ようこそお越しいただきました。お客さま、素敵ですわね。これなんてお客さまにピッタリですよ。嘘くさい。婦人コーナーをちょっと見ていると色々発見があって面白い。あんな子供騙しに引っ掛かってホイホイ買うんだもんな。女はきっと頭のネジが何本か緩いんだろう。


  そんな事より、誕生日プレゼントを買おう。自分で。何がいいかな。少しワクワクしながら、俺は書店に入る。隅から隅まで見て回った後、好きな作家の新作が出ていたのでそれを買った。よし、これを誕生日プレゼントにしよう。あぁ、よく考えたらいつもと一緒だな。そうか、俺はいつも誕生日プレゼントを買ってたのか。自分で考えて馬鹿らしくなってきた。


  電車の中で、早速買った本を読んでみる。隣に女が座ってきた。くさい。香水だろうな。うざい。俺は本を閉じた。窓の外を見ながら、妄想の世界に入る。この時は自分では気付かないんだが、微妙に笑っているらしい。駅についた途端、現実に戻されて、振り向くと女がいないことに気付く。なんだ、もう出てったのか。


  眠くなってきたから、寝る。夢の中でもまた、アレがやってきた。ひそひそ話してるらしいけど、そんなものはこっちからしたら丸聞こえだっての。俺は寝たフリをして、前に座っている女子高生の話を聞いていた。肌が綺麗だの汚いだの、彼氏が欲しいだのなんだの、誰か分からないけど誰かの悪口が聞こえてくる。どうして女ってのは一日一回は悪口言わないと気が済まないのだろう。


  最寄り駅に着いたから降りた。ちょっと電車が揺れたので吊革を思わず掴み、コケないようにした。忘れ物がないか確かめてから、ホームに降りる。階段を降りるのは疲れるので、エレベーターを使う。お婆さんと被った。最悪だ。嫌だね、最近の若いもんは。階段使えばいいのに。年寄りに譲るって知らんのかね。だから、ひそひそ話してるらしいけど丸聞こえだっての。


  また溜め息をついた。駅を出た後、自転車に乗って帰る。お昼の三時。そろそろ学生も学校が終わるから、この時間帯にいてもおかしくないだろう。案の定学生なんて一人もいなかった。道行く人みんな女だ。なんなんだよ。女ばっかし。自転車でさっさと帰りたいのに、女の視線が痛い。何あの子、こんな時間に。働いてないんだろうね。ゆとりかしらね。駄目よ、あんたそんな事言ったら。これが一番傷付く。


  全部気のせい。そう言ったらそうかもしれない。でも多分そう思ってる。言わないだけで、皆そう思ってる。また、溜め息をついた。

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