初めての任務
初めての任務のことは今でも覚えている。
政府との『雇用契約』を結んでから1週間後、男性からもらった『交通費』がそろそろ底をつくころだった。
1通のメールが入った。
ターゲットは自宅から10キロほど離れた新興住宅街に住む38歳の男性だった。1歳年下の奥さんと、12歳の娘と9歳の息子とがいるごく普通の父親だ。
指定日の朝の出勤時に路上で任務を遂行せよとのことだった。
彼は毎朝決まった道を通り、バス停に向かう。
その途中に人気が全くない道があり、そこで背後から近づき刃物で刺すというものだった。
指定された時間の15分前に現地に着いた僕は、人気が全くないにもかかわらず出来るだけ身を潜めていた。
そして、ガタガタ震えていた。
だってそうだ。いくら政府からの依頼とはいえ、見ず知らずの人、しかも働き盛りで妻子がいる人の人生を突然終わらせるのだ。
彼の奥さんはどんな女性だろう。子供はかわいらしいだろうか。
仕事は何をしてるだろう。勤務先ではどんな立場だろう。
彼の両親やきょうだいはどんな人だろうか。
そして、彼を突然失ったらみんなはどうなるだろうか…。
そんなことがグルグル脳内を巡った。
そして…、
本当にこの任務は必要だろうか…。
そう考えている内に足音が聞こえてきた。
ターゲットが近づいてきた。




