殺し屋のシステムとは…
タブレットの画面には《人口調整執行職員ガイダンス》とあり、
僕がページを進めるたびに男性からの説明が入る。
人口調整執行職員と難しい言い回しをしているが、要は殺し屋のことである。
ガイダンスの内容と男性からの説明で、この職業のシステムを理解することが出来た。
僕はこの雇用契約を結ぶことで、日本国政府から雇用されている職員になる。
ただ、公務員のように事務所に出勤する必要はない。
政府から 届く人口調整依頼という名の殺人依頼を遂行することで報酬が支払われる形の契約職員ということになる。
大まかなシステムはこうだ。
まず、登録しておいたアドレスに政府からのメールが届く。
送信元のアドレスは毎回違っており、いわば、迷惑メールを送ってくる業者が使う『捨てアドレス』を用いる。
もちろん、タイトルも『今から会わない?』などの迷惑メール業者がよく使うもので、開くとリンク先のアドレスが表示してあるだけである。理由としては、万一他の者に見られたりした場合に、一見しただけではわからないようにするために偽装しているのだという。但し、職員にだけは政府からのメールであることがわかるように目印がしてある。
ちなみにそのメールは放置すると5分で消滅する。アクセス出来なかった場合は依頼を受けることが出来ない。
そのアドレスにアクセスすることで、依頼内容を知ることができるのである。
男性が言うには、僕のような定職を持たない人間の方が確実に依頼メールを見ることができるらしい。要は暇な人間だということだろう。だから、僕のような人間にこの仕事を紹介しているのだ。
依頼内容には、ターゲットになる人物の氏名住所職業家族構成はおろか、その人物の生活パターンまで事細かに記載されている。
そして、具体的な殺害方法まで指示してある。
男性が言うには、指示された日時と方法で行うとほぼ100%成功するというものである。
殺害方法については様々で、自宅内という場合や勤務中、移動中やショッピング中など正に様々なシチュエーションで行うことが要求される。
殺害に使う道具などは購入することが必要なものもある。
但し、ほとんどの道具は、近隣のショップやインターネットで手に入るものばかりだ。
道具の購入費用は自腹を切る必要があるが、1回の職務に対する成功報酬に比べると微々たるものである。
気になる報酬だが、具体的な金額は言えないが、1回あたり2・3ヵ月何もしなくても楽に過ごせる額であるとだけ言っておく。
任務執行に成功すると、あらかじめ教えられたアドレスにメールをする。すると、政府を通じて警察の手が入り、現場検証という名の確認で、確実に任務を遂行出来たと政府が認めた後に報酬が振り込まれるという流れである。
もちろん、依頼を断ることもできるが、一旦引き受けた依頼は必ず遂行しないといけないという規則がある…と男性は捕捉した。
殺人を執行した職員が逮捕される可能性については0%である。
警察には政府の息がかかっているため、捜査はするものの、職員に捜査の手が及ぶことは絶対にしない。
そればかりか、別の犯人をでっち上げることまでするのだ。
だから、政府の職員である殺し屋は、国家ぐるみで守られるのである。




