表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

事情報告

困ったことになってしまったかもしれない。


サファイアは切れてしまった回線コードを見て顔をしかめた。

サファイアはいくつものVRRMMORPGを企画サポートする仕事をリアルでしており、今現在ログオン接続している「流浪する民」にもGMに近いプレイヤーとして参加している。

ゲーム「流浪する民」はメインストーリー、サブストーリーとしてのクエストがあるが、基本的にプレイヤーの自由を満たそう、というコンセプトのもと開発されたRPGだ。

舞台となるのは架空の世界・イシュファルド。

かつて世界は神によって創造され、神によって寵愛された種族によって世界が支配されていた。だが、7つあった大陸をそれぞれ統べていたハイエルフ、天翼人、天竜人、聖狼族、吸血族、ハイドワーフ、ハイヒューマンの7種族が神の悪戯といわれる魔族の出現によって争うようになり、その数を減らしていった。代わりに増えたのが人間、獣人、ドワーフ、エルフ、モンスターと呼ばれる異業種。

かつての栄光の都は崩れ落ち、神の祝福を受けた7種族は歴史に沈み、7種族によって支配されていた者たちが世界に台頭する時代が来た。プレイヤーは人間、獣人、ドワーフ、エルフ、ランダム種族のどれかを選び、かつての栄光の7種族の残した神器や知識を探し求めることで世界の謎にせまっていく、というのがメインストーリー。サブストーリーは職業クエスト、人助けクエスト、特殊クエスト、限定クエスト、シークレットクエスト、エクストラクエストとなんでもありで世界を深く感じてもらおうという意図のもと幅広く作られている。

プレイヤーは冒険者という国の枠に入らない自由な存在として世界各国を旅して回るのだ。もちろん、気に入った国や町があれば土地を買って家を建てて商売したり農業したりできるし、不毛な土地を自分で開墾して自分の国を作るということをしてもいい。建国するとなると近隣諸国に対する対応とか内政とか外交とか領土範囲とかいろいろ面倒だが、王様になるというプレイも可能だ。

冒険につきもののモンスターや獣、犯罪者などを相手に戦い、稀少な薬草や鉱石を採取し、糸を紡ぎ皮をなめし剣を打ち薬を作り本を執筆したりして富と名声を求めたり、仲間と出会い絆を深めて凶悪なモンスター退治をしたりと楽しみ方はプレイヤーにまかせている。


サファイアはプレイヤーに混じり情報を集めながら悪質なプレイヤーがいないかゲーム規定違反者がいないかを監視している。違反者を見つけたら運営に連絡報告し、掲示板などを見て回り、一部イベントの告知のようなことを口コミで広めたりなどをしている。

こういうゲームにはサファイアのようなプレイヤーは少なからずいる。もし、何らかの故障などによって予測不明な状態等に陥った場合にそなえての緊急ボタンを彼らは有しているのだが。

サファイアの持つ緊急ボタンがステータス画面から綺麗に消えていた。


サファイアはゲーム内においてそれなりに名前の通ったキャラクターだった。青い髪と金の目をしたイケメン人間で、職業は二刀流剣士。種族レベル職業レベル共にカンストさせており、装備だって一流品やレアドロップで固めている。俗に攻略組と呼ばれるトッププレイヤーの一人として、それなりの数のイベントやストーリーをクリアしてきている。大手有名ギルド「お茶の子さいさい」に属してのんびりソロプレイしたりギルドメンバー育成したり野良でパーティ組んでみたりと好きに行動している。

今回はメインストーリーの追加とカンスト制限解除、結婚システム、奴隷システム解禁という大型バージョンアップの解禁日ということで特設サーバーでお祝いセレモニーが予定されていた。

開発プログラマーの一人が「数値に誤差が見られるんだけど原因が見つからないんだよな…」とつぶやいていたのは聞いていたが。他のプログラマーが「これ位の誤差、前のときもあったろ。パッチ修正プログラム準備はしてるし平気平気」「そうそう。前んときなんかマジ事故起きるんじゃないかってくらい誤差あったじゃん。これくらいなら許容範囲だって!」と話していたから、まあ大丈夫だろうと思ったのだ。

なのに。

セレモニー予定時間ちょうどに走ったノイズのような地震。地震だとサファイアは感じたが他の人には違う違和感としてとらえられたかもしれない。とにかくその違和感のあと、起きるはずのセレモニーイベント開始合図の花火が一向に打ちあがらない。

プログラムがバグったか?

まあ修正がすぐかかるだろう、と思ったのだが、聞こえてきた悲鳴のような声に目を大きく開いてしまった。


「お、おい、ログアウトできない」

「は? 画面一番下までスクロールすればできる…ってあれ? 灰色表示?」

「時間差バグじゃね? え? ボタンがねえ?」

「あー…画面固まったのか? 運営にメールしてやるよ…ってあれ? アイコン消えてる」


どこか焦ったように周囲に声をかける緑色のローブを着た魔法使いとそれに対応する戦士らしき友人のやりとり。確かにたまにステータス画面が固まったりするバグが起きたりするが、その時は周囲に頼んで運営にSOSメールを出せばいい。相互扶助はゲームの基本マナーだしMMORPGは協力プレイすることが売りだ。自分勝手な行動は結局自分にダメージとして返ってくるというのはプレイヤーの常識だ。だから誰かが困っている人を助ければそれでいいのだが――――――。

最初に周囲に助けを求めた魔法使いはかなり混乱しているようだ。おそらく初心者。今回のバージョンアップを機会に新しく始めた新規かもしれない。新規初心者は先輩プレイヤーが本人の邪魔にならない程度に手助けするのが望ましい。オンラインゲームは結局、新規をいかに増やすか、既得ユーザーを飽きさせないかが存続のキーとなるからだ。

マナーのないプレイヤーも確かに存在するが、良心的なプレイヤーはその倍以上いるのが普通。だから誰かが世話を焼いてくれるはずなのだが。


サファイアは聞こえてきた言葉に顔をしかめた。

VRにおける事故の可能性を瞬間的に考えてしまったのだ。

実際、VRについてログアウト不可となったケースは過去に何回かある。無事にログアウト完了したケースもあるが、不可状態となったまま終わってしまったものも…あるのだ。

特にゲームとして遊戯用に作られたVRにこの手の事故が発生しやすいというシークレットデータもあるので開発や運営はプログラム管理に繊細な注意を払っている。

ロマンチストな奴の中には電子データが異次元ポケットにつながり平行パラレル世界にデータが流出することでゲームが管理から「消える」現象がおきるのだ、という夢小説読みすぎだろという理論を熱く語ってたりするドリーマーがいるが、実際、そうだと認めたほうがいいのではというケースも…ないわけではない。

嫌な予感がしたサファイアは自身のステータス画面を右手指を振ることで呼び出し、運営側プレイヤーとして緊急回線へ繋がるボタンをクリックした。

緊急ボタンはきちんと赤く表示されたままだったし、クリックも正常に出来たからこれで大丈夫だと安心した。のだが。

回線をコールする電子音がしばらく響いたあと、ぶつんと切れてしまった。


「………やばい、かも」


緊急回線はかなり特別に作られており、想定される大抵のアクシデント、想定外の出来事にもできるだけ対応できるようにと電波も特殊仕様となっているのだが、それが通じなくなっている。

それは、つまり。

考えたくもないことだが。

最悪の「事故」が発生したということに他ならない。


ログアウト不可となったゲーム世界に閉じ込められる、というのはよくある小説のネタとして扱われるし、書籍やドラマなどで見ることもあるから、よくあることだと思えないこともない、が―――――

フィクションがノンフィクションになった時、大多数の人間はパニックになるのが普通だ。

更に悪いことにこのゲームはバージョンアップを結構重ねていて、年齢レート設定によってはかなり残酷なプレイが可能状態となっている。

NPCノンプレイヤーキャラが沢山いるししっかりした法治国家も存在はしているが、戦争をしているという設定の国もあれば人権問題ありまくりな国もあるのだ。更にゲーム設定された隠し玉的イベントなどを考えると、プレイヤー達の行動次第でこの世界が更に混乱する可能性があるということだ。

この状況を楽しめるようなトップレベルプレイヤーはともかく、初心者や…VR不適合者にとってどういう結果が出るのかと思うと冷や汗しか浮かんでこない。


「と、とにかく情報収集が先、か。ギルドシステムは…稼働中、ギルドホームへの移動許可アイテムの使用…できるっぽい、今連絡可能なメンバー全員にギルドチャット機能つないで…ギルド集合呼びかけて…悪いけど初心者救済より状況把握を優先しないと…詰むな」


冷静に行動しなければ、と思うのだがやはりどこか焦ってしまう。

サファイアはアイテムボックスからギルドホームへ直接行けるアイテムを取り出し、発動させた。

多分大手ギルドの幹部連中は全員、自分と似たような行動を起こすだろう、と思いながら。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ