元気ですか?
影の無いところ
「やぁ、元気ですか?まぁ元気でしかなさそうですけど」
山下と刻まれているネームプレートを左胸につけている女に話しかけられた。勿論誰だか知らない。
「……元気ですよ。それより、何故私は元気なのでしょうか?」
その問に答えず、女は空を指差して、
「ほら、見てください。あれ、何だか解りますか?」
「太陽じゃないんですか」
青い空と思えるところに光を放つ物があった。私には太陽にしか思えなかった。
「違います。ただの光です。太陽なんてありません」
「光……」
太陽だろうがなんだろうが、私には関係なかった。周りを照らしてくれるなら、何だってかまわない。
「今度は地面を見てください。……影なんてないでしょう。だから太陽じゃあ、ないんですよ。だから元気なんですよ……」
影の有るところ
父が死んでしまった。もう歳だったのでしょうがないことだった。しょうがないことだったが、やはり悲しかった。
母は父より数年前に死んだ。これもしかたないことだった。だけれど、やはり悲しかった。
私は思った。私が死んだら、私の子もこんな思いをしなければならないのかと。そう思うと人間の寿命の短さを感じずにはいられなかった。初めて長生きしたいと思った。
影の無いところ
「私はこれからどうすればいいのでしょうか?」
「……成さなくてはいけないことなんて、ありません。どうすればいいかなんて聞かれても困ります」
そう言うと女は、歩き出した。
「何処に行くんですか?」
「あっちです」
女は地平線を指差した。
「何かあるんですか?」
「ありますよ」
「ならば、私も行きます」
女は振り返り、
「駄目です。自分で決めてください。他人まかせなんてそんなの絶対に駄目です。私の向かう先は果てしない地平線に見えますが、行けば必ず何かあります」
「何かとは?」
「自分で見てください」
「はぁ……じゃあ、そうすることにします。私はあっちに行くことにします」
「それでは、さようなら。またどこかで会うことがあるかもしれません。そのときにはまた、よろしくお願いします」
手を差し伸べてきたのでそれを握って、握手をしながら、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って分かれた。
「最後に言いますが、私たちは解放された身です。物質ではないんですよ。だから何処までもいけますよ。それを望むならね…」