Nostalgia of recollection・・・
“「このらんちゅうカワイイ!!」”
いつも天真爛漫なあのあの娘が、少し大きめの金魚鉢を指差してそう言った。
その金魚鉢には、まるで金魚鉢の底から生えているかのように植えられた、綺麗な緑色の水草。
底にはやや半透明の青、水色、黄緑などのビー玉の他に、さらに小さくて丸い小石。
そしてその飾り付けられた金魚鉢の中を、赤や白やオレンジなどの色とりどりのらんちゅうが4匹。
自慢の真っ赤な尾をドレスのようにヒラヒラさせながら、優雅に水の中を泳いでいる。
今日は楽曲のプロモーションビデオの撮影日。
この金魚鉢の中を泳いでいるらんちゅう達も、今日の撮影のためにスタッフが借りてきた、大事なエキストラ。
なんか妙に高級感があり過ぎるような気もしなくないけど・・・。
「でもこの金魚達・・・、寒くないのかなぁ~・・・。今ちょっと吹いてる風冷たいし、外も寒いのに・・・」
「大丈夫っしょ? 冷たい水の中で生きてる生き物なんすから・・・。人間とはだいぶ身体が違いますよ」
そう年下の色白ギター男子が言う。
でもそんなことサラッて言うたら、絶対にこの娘怒るよ~?
「何言ってるのよ! 金魚はヒーターがないと寒くて弱っちゃうの!! 下手したら死んじゃうことだってあるんだからね!?」
ほ~ら・・・。
「えっ? そうなん??」
「そうよ。私小さい時に金魚飼ってたけど、最初の金魚、ヒーターがなかったから冬に死んじゃって・・・。だから寒いのにはすっごく弱いんだよ?」
「へぇー・・・」
「なのにこんなヒーターのないところにいて、この金魚達大丈夫なのかなぁ~。まだこの後も撮影あるのに・・・」
そうあの娘は自分よりもらんちゅう達の方を心配して、金魚鉢の中を頻りに覗き込む。
本当は今日の自分の衣装も寒いはずなのに・・・。
「ほなスタッフさんに、休憩の時だけ暖かいところに移してもらうように頼んだら?」
この私の提案に、あの娘は心配そうにしていた表情をわぁ~っと明るくして、私に向かってニコッと微笑んだ。
「うん♪ じゃあそうしてもらおっ♪ 大事な出演者さんなんだし」
「せやね」
「お~い! そろそろ皆で昼食食べに行こう~。時間なくなるぞ~?」
ふっと少し離れたところから、バンドリーダーでもある男の人の呼び声が聞こえてきた。
その声にハッとするように、例のギター男子がその場から立ち上がる。
「あっ、はーい! 今そっちに行きまーす!」
「ウチらも早よ行こう?」
「あっ、うん♪ じゃあこのらんちゅうさん達、お願いね?」
あの娘はそう自分のマネージャーに言うと、ふっとその場から勢いよく立ち上がった。
その瞬間、あの娘のトレードマークでもある茶色いポニーテールが、ふわりっと柔らかそうに宙を舞う。
「行こう。二人とももう行っちゃってるし」
「せやね。置いていかれないうちに早よ行こう」
その後、私達二人はどうにか先に歩き出してしまっていた男子二人とも合流。
撮影場所の近くにある飲食店を目指すことに・・・。
そしてその移動の道中、ふっとあの娘が私の頭の上の方を見て、再びニコッと微笑みながら言った。
「今日のその帽子カワイイ♪」
「えっ? 帽子って・・・、もしかしてコレ??」
それは今日の撮影のためだけに用意されていた、撮影用小道具の茶色いツバ付き帽子。
確かにその帽子には、赤い花飾りやベージュのリボンなどの飾りが付いていて、見た目的にもデザイン的にも、あの娘が好きそうな感じのものだった。
「なんかこれぞ『秋』って感じ♪ すごく似合ってるよ?」
「そう? でもコレ撮影用の小道具なんやけど・・・。そんなに似合うてる?」
「うん。それに、ほら・・・。あんまり帽子被ってるトコ見ないから、なんかすごく新鮮な感じがする・・・。何なら撮影終わった後にもらっちゃえば?」
「え゛っ?」
「ハハ♪ 冗談だよ、冗談♪」
「も~う・・・」
そんなあの娘のからかい冗談がおかしくて、私はお互いに笑い合った。
たのしくて・・・。
おかしくて・・・。
おもしろくて・・・。
二人顔を見合わせて・・・、笑った・・・。
これだけでいい・・・。
あの頃の記憶は・・・。
これだけがいい・・・・・・。
だからお願い・・・。
それ以上思い出させないで・・・。
もうそれ以上・・・。
“私に見せないで・・・。”
「あっ! 帽子が・・・!!」
『ヒュウッ』という一瞬の強い風に、今さっきまで被っていた帽子が飛ばされる。
お願い・・・。
もう見せないで・・・・・・。
見たくない・・・。
見たくない・・・!
ミタクナイ・・・・!!
「ま、まずい!」
「あっちの方に飛んで行ったで!」
風でさらに高く、そして遠くへ舞い上がる帽子を指差しながら、リーダーとギター男子の二人は叫ぶ。
だからお願い・・・!
もう止めて・・・!!
「ちょっと待ってて」
いやっ・・・!
お願い!
行かないで・・・!!
「“私、取ってくるよ”」
あの娘がそう言って走り出す。
飛ばされていった帽子の方へ・・・・・・。
ダメ・・・!
行かないで!!
そっちに行っちゃダメ・・・!!
過ぎた記憶の中ではそう叫ぶのに・・・。
あの時の私は何も分からなかった。
何も気付なかった。
ただ・・・。
ただ・・・・・・。
「あ、ありがとう」
あの娘を・・・。
行かせてしまった・・・・・・。
お願い・・・。
この先のことなんて見させないで・・・。
もう思い出させないで・・・!!
これが悪い夢であるのなら・・・。
今すぐ覚めてほしい・・・・・・。
これが叶わぬ願いであるのなら・・・。
記憶の中から消してほしい・・・・・・。
これが・・・、一生背負い続ける罪であるのなら・・・・・・。
いっそ私を・・・。
私のことを・・・・・・。
「・・・さ・・・・・・・・・ん? ・・・・・・さん?」
「んっ・・・」
ふっと聞こえてくる、懐かしいあの娘の声・・・。
そして目を開けてみれば、あの娘とよく似た顔立ちの少女が、私の顔を心配そうに覗き込んでいる。
この娘はとある事情で知り合った、今の私の大切な友達・・・。
今私が眠っていた建物の中で、この娘は孤独に暮らしていた。
ずっと・・・。
ずっと・・・・・・。
でもそんな時に、私達はこの建物の中へ迷い込んで、この娘と出会った。
最初はかなり向こうは警戒していたし、私達のことを信じてはくれなかったけど・・・。
私達のことを信用・信頼してからは、まるで幼い子供のように甘えてきて・・・。
いつもニコニコと幸せそうに笑うの。
それこそまるで・・・。
“あの娘のように・・・・・・。”
でも・・・。
“この娘”は私の知る“あの娘”じゃない・・・。
何故ならこの娘には・・・。
鳥のような紅い翼があったから・・・・・・。
「大丈夫?」
「えっ・・・、何が? ウチ寝とっただけやよ?」
「そ、そう・・・? でもなんか魘されてたみたいだったから・・・」
「・・・えっ・・・・・・・・・」
「『思い出させないで』とか『行かないで』とかって言ってたし・・・。何か『悪い夢でも見てたのかな~』って・・・」
そう聞き返してくるこの娘の顔が、私のよく知るあの娘と重なる。
歌声も・・・。
仕草も・・・。
表情も・・・。
だからそんなあなたを見ると・・・、いつも・・・・・・。
“失った昔の仲間を思い出す・・・。”
「・・・大丈夫。何でもないから・・・。ちょっとだけ嫌な夢見てただけやよ?」
「そう・・・。よかった♪」
私がそう言ってみれば、彼女はホッとしたように微笑んだ。
その顔もまた・・・。
あの娘とよく似てる。
「・・・・・・あれ? コレ・・・」
ふっと起き上がった拍子に、私の肩から何かが落ちた。
拾い上げてみれば、それは今目の前にいるこの娘の黒い上着・・・。
「あっ、それ・・・。『寒いかな~』と思って掛けてたの。風邪なんてこんな場所じゃ引くことないけど、寒いとマズイだろうから・・・」
“寒くないのかなぁ~・・・”
“今ちょっと吹いてる風冷たいし、外も寒いのに・・・”
「・・・掛けて・・・、くれたん?」
「う、うん・・・。どうしたの~? なんか泣きそうになってるよ?」
その瞬間。
私は何も返事を返さずに、あの娘に抱き着いた。
抱き着いてそのまま、声も上げずにただ泣いた・・・。
静かに・・・、静かに・・・・・・。
ただ泣いた・・・・・・・・・。
抱き着かれた相手が戸惑っていたのは分かっていたけれど・・・。
今はそれよりも・・・・・・・・・。
ねぇ・・・。
どうしてあなたは、ここまであの娘と重なるの・・・?
どうしてあなたは、こんなにあの娘と似ているの・・・?
ドウシテ・・・・・・?
ねぇ・・・。
もしかしてあなたは・・・・・・。
あなたは・・・・・・・・・。
“ゆりっぺ”なの・・・?
ど~も★
歌音黒です♪
前回に引き続き、またしても内容は切な~い感じで・・・(苦笑)
ちなみにこちらの短編は、前回投稿した短編小説
『wish my song・・・?』
の前に、ストーリー自体は完成していたものです。
制作途中で、こちらを後回しにしてしまったんですけどね?(^^;)
(ついでにあんまりストーリー自体も知られたくなかった部分もあったので・・・(汗))
また『あらすじ』にも書かれていますが、現在こちらの物語の本編でもあるストーリー漫画を制作しております!
(まだラフ画のみですが(^^;))
なので投稿にはまだだいぶ掛かるかとは思いますが、気長にブログサイトの方でお待ちいただければと思います。
なお万が一挫折した場合は、自身のブログサイトにて小説にします(苦笑)
それでは、これからも作家歌音黒と、連載小説『180回目の朝明けに・・・』を、どうぞよろしくお願いします<m(__)m>
では・・・。
I’ll be back!!