8、深き傷を
毎度毎度遅くてすいません
「きいた?」
「きいたよ
陸くんがフラれたって話だよね。」
どこからかすぐに噂はまわっていく。
私の気持ちなんてまるで気にされない。
もちろん、陸の気持ちも
「陸、噂はマジなのか?」
普段から仲の良いダチに嘘はつけない。
「あぁ…マジだよ。」
「お前…いいのか?」
「俺が何を言っても変わらなねぇんだよ!
あそこまで拒絶されたらな…」
「陸…
お、女は他にもやまほどいるぞ!」
「いねぇよ
あんなにいい女」
そこまで、マジだったのかよ。
陸は俺が花恋にフラれた時、花恋に怒りに行ってくれた大事なダチだ。
今度は俺が助ける番だよな。
「花恋、ちょっといいか?」
教室に呼びに言ったが花恋は以外な人の訪問に少し嫌な顔をしている。
「なに?」
「ちょっと
話しようぜ」
まわりの視線を気にしてか花恋はあっさりとついてきてくれる。
「話って何?」
たしか…
陸に初めて出会ったあの日のきっかけになった亜弓をフッた男。
「陸の事だよ。
俺からみたら、お前ら仲良さそうに見えたのに何でフッたんだよ?
しかも、割りと傷つける言い方したらしいし」
「あんたの目が悪いだけで、初めから陸なんて眼中にないの」
これでいいんだ…
これできっと全て終わる。
「そっか…
俺さ、初めてみた気がしたんだけどなぁ
あんな楽しそうな花恋」
「だからあんたの目が悪いの。
私、もう行くから」
さっさと去って行こうとした花恋のポケットから何かがヒラヒラと落ちる。
花恋は気がついてないみたいだ。
親切に拾ってあげる。
「おい、なんか落ちたぞ」
そう言って拾った紙に描かれていたのは…
「男?」
「あ、別に何もないから。
拾ってくれてありがとう。
じゃあね」
少し焦った様子は見せたが、落ち着いた様子がまだあった。
あれは…誰なんだ
「陸、花恋が男の写真もってた…」
これは、陸のためでもあると自分に言い聞かせ全てを話す。
「男〜?
誰だよ?」
「わかんねぇ。
でも、花恋っぽい笑顔の女の子と写ってる写真だった。」
「ぽいって何だよ?」
「今とは全くちがうって事だよ。」
陸は全てをきき、少しピンときた。
その男が花恋の過去に関係があるんじゃないかと
「亜弓ちゃん、花恋いる?」
放課後すぐに向かったのに教室ないに花恋の姿はないみたいだ。
「花恋は…
早退したよ
用事で。」
たしか、昼休みにダチが話しに行ったからそれから帰ったのか…
「花恋に用事があるならまた明日にでも…」
少し戸惑いがちに告げる亜弓にこれまでかというぐらい近づく。
「ちょっ…」
「今、ききたい事があるんだ。
写真の事…」
たいした事は話していないつもりだったが、意外にも亜弓の眉がピクンとあがる。
「しゃしん?」
「あぁ
ダチがみたんだ。
花恋が大切にしてた写真。
そこには、笑顔の花恋と男の子が写ってたって。」
今まで普通に話してた亜弓がいきなり陸の手に触れる。
何を?
なんて考える暇もなく、人気のない場所につれていかれる。
「花恋について貴方は何を知ってるの?」
亜弓からの質問は1つで、その質問は軽そうにみえて、何よりも重い質問だった。
「何も知らないさ。
でも、花恋が俺の事を特別に思ってる事ぐらいは知ってる。」
「ハァ…
負けるわ。
そんな自信どこから出てくるのか。」
亜弓はポケットからメモとペンを取り出す。
そして、さらさらっと何かを書き出した。
書いたメモを無言のまま差し出す亜弓に陸は首を傾げる。
「何だ、これ?」
「花恋が今居る場所。」
「でも、これ墓地って…」
「花恋は毎年この日にこの場所へ行くの。
花恋にとって最も神聖な場所だって言ってた。
自分が穢れてるからこの日1日しか行かないんだって…
きっとここに花恋が心を閉ざす意味がある。」
花恋が心を閉ざす意味…
それを俺が知って何をしてあげれるんだろう…
でも、行くんだ!
たどり着いた場所は寺みたいな墓地ではなく、美しい野原だった。
少し、斜面になった部分に石が埋め込まれ英語で名前が彫られている。
この場所を神聖だと言った花恋
俺もまさにそのとうりだと思った。
そんな、緑が茂った美しい野原にずっとしゃがみこんでいる、女の子が目にはいる。
1つだけ山ほど花が飾られたお墓の前で、強気な花恋がひたすら涙を流している。
穢れている?
誰がそんな事言ったんだ?
こんなにこの場に似合う女はいないほどに美しい
「純也…
こんなとこで何してるの?」
さっきまで墓に刻まれた名前の男のために涙を流していたはずなのに、花恋はいつの間にかこっちをみている。
「迎えに来たんだ」
少しも考える気がないように返事が返ってくる。
「帰って」
きっと今のままじゃ花恋は話をきかない
「花供えていいか?」
花恋は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに戻る。
「ありがとう
いくら、供えても足りないって思ってたとこなの。
好きな所に供えてあげて」
陸が迷わず供えて場所は1番の正面
「なぁ花恋、最後に1度だけ言う。
俺と付き合ってくれないか?
もし、ノーなら俺は今度こそ諦める。
けどな、俺はお前に絶対後悔させない。」
陸の悔しいくらい暑い目
案外真面目な奴だからきっと今断ったらもう2度とチャンスは来ない。
「でも…」
「いいよ。
ゆっくり考えて
でも、俺があえてこの場所まで来たのには理由がある。
聞いてもらいたかった
ここに眠る純也さんに
誰よりも幸せにするって誓いを」
ここまで、私を愛してくれてる陸の疑うとこなんて、きっとない。
「陸、私間違ってた。
愛することで悲しみもあるけど、それ以上に純也と過ごした日々は楽しくて幸せだった。
ねぇ陸、信じていいんだよね?」
陸は今までの中で1番の笑顔で微笑み、花恋に疑いようのない確実な思いを与えた。
「絶対幸せにする。」
その後しばらく、お墓の前で話をして、二人仲良く電車に乗り家を目指して歩き始めた。
「私でいいのかなぁ…」
「お前以外、ありえねぇよ」
繋いだ手から感じる暖かさは久しぶりに感じる暖かさだった。
うれしい…
こうやってもう1度暖かさを感じられる事が何よりも
「明日から朝いっしょに行こうぜ」
家の前で告げられたたった一言の言葉だけで胸が暖かくなる日が再びやってくるとは。
「うん、待ってるね」
花恋はベッドでゴロゴロしながら、ずっと陸の事を考えていた。
彼氏が出来たのは何年ぶりかな?
きっと純也が亡くなって、あいつと付き合って、それからだから…
2、3年ってとこかな
正直な話、さっき手を離すのが寂しかった
陸、会いたいよ
こんな風に陸も私の事考えてる?
もし、そうだったら嬉しいな
「おはよっ」
「おす、ほら」
さりげなく差し出してくれた手をとる。
これが普通なんだよね
なんか、恥ずかしいな
「ねぇ陸、私写真とりたい!」
「いきなりだな」
花恋は鞄からパスケースを取り出す。
片面は空いていて、もう片面には花恋と純也の写真がはいっている。
「ここに、いれたいの。
ダメ?」
「いいに決まってるだろ。
彼氏になった実感がやっとわく。」
「えーまだなかったの?」
ホントは私にもないんだよね
彼女って実感が
あっ
いい事思い付いた
「陸、ちょっと屈んで
頭に葉っぱがついてるよ」
「マジで!」
少し屈んでくれた陸にいきなり抱きつく
チュッ
軽く終わった出来事
でも、二人の中には大切な思い出として刻まれる。
「やーい
ひっかかった
写真今度撮ろうね」
子供みたいな無邪気な笑顔
初めてみたな、花恋のこんな顔
キスもそうだけど、俺にとっては花恋の以外な一面こそが1番実感する瞬間だよ。
「お、おぅ
また今度撮ろうぜ」
イチャイチャしているといつの間にか、視線が集まってる事に気がつく。
「もう、ちょっとで学校だね」
「あぁ
今までの中で1番はやく感じた。」
「私も」
二人から出てる雰囲気はすでにカップルで、みんながザワザワしだす。
「お、陸!
花恋と付き合う事になったのか?」
「将、色々ありがとな」
将は今までに何度も登場したあの男の子
そう、花恋がフッた1話から出てきた男の子
「お似合いだぜ!」
「サンキュ」
辺りから掛けてくるお祝いの言葉
そして、
「陸くんが」
「花恋ちゃんが」
悲しみ、怒りの声
「花恋!」
「亜弓!」
人混みを掻き分けて亜弓が抱きついてくる。
「おめでとう
それと、色々とホントにごめん…」
「もう、いいんだってば」
これでやっと元の関係に戻れる。
もちろん
貴方のおかげ
花恋は感謝の意味をこめて、精一杯陸を抱き締めた。
この時の私は自惚れてたんだよね
もっと色んな事を考えなきゃならなかった
ちがうかな?
考えても無意味なのかな…
きっと、これから先の事を止めるなんて無理だったんだ。
「なぁ、花恋
セフレ全部解消した?」
「へ?
あっ忘れてた…
メール送っとくよ。」
簡単に言った花恋とはちがい、陸は心配そうな顔をしている。
「それで全部片付くのか?」
「え?
大丈夫だよ。
聖と篤哉以外に私を好きだった人はいないから
後の三人はみーんな身体だけ」
「そっか…
ならいいけど…」
心配なんだよね?
私の事を簡単に信用なんて出来ないよね
でも、大丈夫だよ
私の事を幸せにするって言ってくれた貴方を私も幸せにするから。
学校の女王と王子がくっついて、何も起きないはずがない。
喜んでくれる人が居れば、妬んでいる人もいる。
しかし、二人は幸せに浸りそんな事を考える事すら出来ない。
影から見詰める諦めきれない視線
やがて二人は付き合う事の難しさを知る事になる。
他の人とそれぞれが付き合っていたら何も起きなかったかもしれない。
けど、そんな話になる事はない。
女王と王子という立場で互いを愛してしまったから
何かごちゃごちゃしてきちゃった…
もうちょっとお付き合いを~><