15、悲しみと喜びを
「私ね来週の日曜日にデートに誘われたんだ。
だから、その時にきちんと話をつけてくる。」
朝学校で亜弓に意思を伝える。
何故か亜弓はいつも以上に気合いが入ってるみたいだ。
「日曜日か…
うん、がんばってね。
絶対説得しなきゃダメだよ。」
まるで最後のチャンスみたいな言い方
そう聞こえたのは私だけだろうか?
昼休み
亜弓が一度生徒会室に行くらしいので、屋上で待っていた。
屋上に居ると嫌でも思い出す陸との思い出
そう言えば2人で寝転がったなぁ
なんて事を思い出し寝転んでみる
綺麗な空が目にはいり、気分が明るくなる。
するといきなり人影が覗きこんで来る
「ギャッ」
花恋の視界いっぱいを塞いだ人影は思い出したくない相手だった。
「また叫んで…
俺は天然記念物じゃねぇよ。」
陸…
会いたくて会いたくなかった人
「何のよう?」
最悪なほどキツイ言い方
私、可愛いげがないな
何て事を陸の前で考えたのは何回目だろうか?
「写真撮りたくてさ。
付き合ってる時に約束しただろ?
写真とろうって」
は?
そんな顔をする花恋を無視して陸はデジカメをセットする。
「ほら、早く来いよ。」
意味がわからない顔をしている花恋を無理矢理抱きしめる。
「3・2・1」
カシャッ
条件反射で笑顔を向けてしまった。
「何で今更写真なんて撮るの?」
「何も聞いてないのか…」
ボソボソッと小さな声で呟かれ全く聞こえなかった。
「えっ何て?」
「何も無いよ。
ただ撮りたかっただけ。」
誤魔化してる事は見たらわかる。
でも聞いちゃいけない気がした。
「陸…
痩せた?」
何だか寂しげに感じる。
ひどい事を言ったら壊れてしまいそうなか弱さ
彼女が居る事もわかってるけど、私が慰めなきゃいけない気がした。
ギュッ
驚いた表情をしながらも身体を預けてくる。
少し警戒しながら頭を撫でる。
すると今にも泣きそうな顔をした。
こんなに弱そうな陸見た事がない。
するといきなり
ガチャ
足音聞こえなかったけど
誰?
亜弓?
「俺の彼女から離れろ!」
久しぶりの暖かい温もりを無理矢理離される。
何で篤哉が居るの?
篤哉の後ろからは亜弓が登ってくる。
「ごめんね。
止めきれなかった。」
陸は立ち上がり篤哉の耳元で何かを囁き去っていった。
「セコいんだよ!」
その囁きが聞こえたのは篤哉だけだった。
聞いた篤哉は花恋に何も言わずに去っていった。
「陸くんが屋上に上がっていったの知ってたから、出来るだけ会長を止めてたんだけど…」
亜弓は好きな人の幸せより私の幸せを取ってくれてるんだ…
だったら絶対叶えなきゃ
「ありがとう。」
仲の良さが戻った2人には一言で十分だった。
デートまでの1週間は、あっという間で特に何事もなく過ぎていった。
あれ以来陸と話す事も無かった…
デートは篤哉の希望で水族館に行く事になった。
駅から近く行きやすい場所にある。
雨だったから篤哉の配慮だろう…
「おはよ。
今日は楽しもうね。」
デートは楽しむつもりだが別れを告げる事を止めるつもりは無い。
「あぁ…行くか」
何だか何かを気にしている感じがする。
水族館が始まっても篤哉は時計をチラチラ見ている。
「何か用事でもあるの?」
何度聞いても
「いや…ない」
と答えるだけだった…
水族館を一通りみて出てから、2人はゆっくり歩いていた。
そして、どちらともなく橋の上で足を止める。
「篤哉…あのね」
言いたい
けど…言えない
感謝という思いが
花恋の胸に重くのし掛かる…
そんな花恋を見て、篤哉は抱きしめる
「何も言わなくていい。
全部わかってるから。
お前が俺を愛してない事も
それでも今だけは、このままで」
やっぱり全てをお見通しなんだね
篤哉の言葉に従い花恋は前と違う暖かさに包まれていた。
すると篤哉は納得したように身体を離す
「もういい。
花恋
この場所へ行け!
早く行かなきゃ間に合わない
陸に会って来いよ!」
手渡されたメモに書かれた電車の時間や行き先
「これは?」
「陸は学校も転校して九州にいく。
今日が旅立つ日だ
早く行け!」
何を言われても、いきなりすぎて身体が動かない
陸が居なくなる
会えなくなる
篤哉はもう一度叫ぼうとしたが、花恋の身体が本能的に動き出す
今行かなきゃ後悔する
そう言わんばかりに
雨の中、傘なんてささずに花恋は走り出す
びしょ濡れなんて関係ない
ただ会いたくて会いたくて
駅についた花恋は急いで階段を降りる。
「陸!」
間違いようの無い後ろ姿に叫ぶ
すると陸は振り替える
一瞬時が止まった様に見惚れあう
「花恋…何でここに?」
ハーハー息を切らしながら一生懸命話し出す。
「篤哉が教えてくれた…
何で何も言わずに…」
雨か涙か判らないぐちゃぐちゃな顔で花恋は陸を見つめる。
そんな花恋が陸は愛しくて仕方がなかった。
篤哉が許したなら我慢は必要ない
花恋を抱きしめ、軽く唇を合わす。
チュッ
「花恋、来てくれてありがとう。
すげぇ嬉しい
向こう行ってもメールするから。
じゃあな。」
篤哉から貰ったメモによると、もう出発する時間だ
私達、子供がどうにか出来る問題じゃない
けど…
けど…
離れたくないよ
「陸…
行かないでよ…
そばに居てよ。」
涙を流しながら、去ろうとした陸の腕を掴む。
すると陸はもう一度抱きしめてくれた。
「ありがとう。
俺も離れたくないよ。
でも無理だ。
だから…泣くなよ
笑顔を見せてくれよ…」
貴方の瞳に写るのは笑顔の私で、ありますように
なんて私は言えない
悲しくて悲しくて笑う事なんて出来ない
「いや…」
いや
その一点張りの花恋を腕から離す。
そして、軽くおでこにキスをする。
「またな…」
止めたい
なのに身体が動かない
身体が動いたのは電車が走り始めてからだった。
走り出した電車を懸命に追いかけながら叫ぶ。
「陸、大好きだよー」
窓から手を降る陸からは感情はあまり読み取れなかった…
行ってしまったホームを見つめながら花恋は崩れていった…
翌日から、また花恋は脱け殻になる。
篤哉と亜弓はそう予想した。
けど花恋は、きちんと登校しクラスメイトとも話している。
陸の話題が始まると何処かに消える事以外は至って普通だった。
「花恋…大丈夫??」
きいちゃいけない
そうも思ったけど、きかずに、いられない…
「大丈夫って言えば嘘になる。
けどね私は陸が誇れる友達で在りたいから。」
サラッと言った言葉こそが花恋の成長の証だった
篤哉も気づかれないように教室を覗いては、花恋の事を見ていた。
フラれても心配だった
壊れないか…
でも花恋はやっぱり俺が認めた女だ
俺の唯一だ
〜昼休み〜
屋上に行こうとした花恋をクラスメイトが止める。
「今日ヒマ??
実はさ合コンに空きが出来ちゃって
来れる人を探してるんだけど…」
忘れたくない
けど陸は向こうで新しい彼女をつくる
だったら私も忘れなきゃ…
新しい恋で
「わかった。
あんまり得意じゃないけど
それでも良ければ。」
そう言うとクラスメイトは花恋の手を握る。
「ありがとー
あ、でも花恋ちゃん可愛いから男の子全員とらないでよ。」
他愛ない会話をしてから別れ、屋上へ向かう。
すると屋上には既に亜弓がいた。
「遅かったね。
何かあった??」
亜弓は応援してくれるかな?
私の決意を
「クラスの子に合コンに誘わたんだ。
今日行こうと思ってる。」
亜弓は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの花が綻ぶような笑顔に戻った。
「そっか…
良い出会いがあると いいね。」
花恋と昼ごはんを食べ終わると亜弓は生徒会室に戻った。
生徒会室には会長が居るハズだから
「会長
花恋が今日合コンに行くらしいですよ。」
黙々と机に向かい仕事をこなす会長に、亜弓は近づいて言ってみた。
けど会長は顔すら上げなかった
「あっそ」
まるで他人事
素っ気なすぎる言い方
「それで良いんですか?」
すると会長はやっと顔を上げた。
鋭い視線を向けられる。
全部奪われそうな視線
「俺は何度もフラれてる。
もう忘れなきゃならないんだ。」
だったら…
「忘れるって言うなら私を抱いて下さい。」
さすがに驚いたのか仕事中のペンを落としている。
そして立ち上がり亜弓の顔を見つめながらメガネの位置を直す。
「何言ってるんだ?」
「好きじゃないなら抱いて下さいよ。
私は初めてだから花恋みたいに、うまくないと思うけど…」
恥を捨て言いきったのに会長にため息を吐かれた。
「俺は女嫌いで花恋以外抱けない。
忘れたか?」
ダメ…
ここで引いちゃダメ
私、頑張れ!
「わかってます。
けど…」
そう言うと会長は亜弓の顎に手をかけ上を向かせる。
会長の顔が段々近づいてくる
あと1センチ…
そう思い目を閉じたが温もりはいっこうに訪れない。
何でと思い目を開けると会長は机で黙々と仕事を再開していた。
「近づいただけで震えてる奴にセックスは出来ねぇよ。
さすがに彼氏になる気も無いのに処女は抱けねぇよ。
それに処女を性欲の捌け口には出来ないし。」
初めて触れた
ありのままの男
花恋はこんな会長を常に見てたんだ…
私に叶う訳がないよね。
〜放課後〜
「メイクとか直した方が良いかな?」
花恋は合コンに前向きに向き合いクラスメイトと話していた。
「え〜いらないと思うよ。
花恋ちゃんのメイクって、すごいナチュラルだし。」
クラスメイトの言う通りにメイクを濃くするのは止めて、最低限のメイクだけ直しておいた。
「じゃあ行こっか。」
女の子のメンツは全員同クラだったから、すごく話しやすかった。
「相手共学らしいから気をつけてね。
二股とか掛けられないように。」
嫌な思い出が蘇る。
大丈夫…
あんなの過去にすぎないんだから
合コンはまず自己紹介から始まった。
あからさまに、こっちを見てくる男
「花恋ちゃんめっちゃ美人だね。
ねぇよかったら2人で出ない??」
ちょっとチャラめな男
見た目だけで決めるのは良くないけどタイプじゃないし
「遠慮しとく。」
何て断れば良いかわからなかった花恋の答えは、ひどく素っ気なかった。
少し相手の怒りを買ってしまったみたいだ…
けど男はすぐに開き直り静かそうなクラスメイトに声を掛ける。
「じゃあ君はどう??」
いきなりでオドオドし始め返答出来ないみたいだ。
それを良いことに男は彼女の手を掴む。
「顔色悪いし出よっか??」
外そうとしても彼女に、それほどの力は無かった。
「や…やめ…」
そんな彼女をみて花恋は動き出す。
「この子に触れないで。」
すると男たちは見るからに怒りを露にした。
「何言ってんだよ。
共学のくせに他校と合コンとかしといてさ。
結局タマってんだろ?」
私はともかく皆をバカにするなんて許せない!!
「なわけないじゃん。
調子乗ってんじゃねぇよ。」
男たちは花恋の迫力に圧倒され舌打ちをしながら出ていった。
女の子ばかりが残りクラスメイトの視線が花恋に集まる。
ヤバイ…
余計な事しちゃった?
そんな花恋の不安は的はずれで静かそうな女の子が花恋に近づいてくる。
そして花恋の手をとりギュッと握りしめる。
「ありがとう。
怖かったから嬉しかった。」
他の女の子も同じ意見みたいで次々とお礼を言われる。
「花恋ちゃんの事一気に好きになっちゃった。
これから仲良くしてね。」
恋愛と違い友情は絶好調みたいだ。
今日花恋は一気にクラスメイトとの距離が縮まり、楽しい学校生活をおくれる第一歩だった。
次はいよいよ最終話です。
ハッピーエンドを望んじゃえwww