13、悔やみきれない後悔を
「陸、早く行かなきゃ遅刻しちゃうよ。」
「わかってるって」
昨夜は陸の家に泊まったので、朝の会話が妙に新婚夫婦っぽい。
照れくさいけど…嬉しい
「よし、行くぞ。」
2人手を繋いで歩き出す。
人目なんて気にならない
私達だけの世界
学校が近づくにつれ、皆がはやしたててくる。
そんなギャラリーに
「羨ましいだろ」って陸が言った時には流石に少し恥ずかしかった。
そんな花恋の反応を陸は何よりも楽しんでるみたいだった。
〜昼休み〜
最近、亜弓は生徒会の仕事が忙しいらしく、昼ごはんは陸と食べている。
他クラスに誘いに行くのは恥ずかしいから屋上に集合するって感じだ。
「陸、私さ篤哉や聖とちゃんと話したいんだ。」
ホントは言うか言わないか迷ってた
けど、言っていた方がいい気がして…
篤哉も聖も花恋にとって大事な人だから。
陸は考え込んだ顔をしている。
けど、すぐに了解してくれた。
「話してこいよ。
でも気をつけろよ。」
陸はいきよいよく花恋に抱きつく。
痛いほどではないけど、ちょっと驚いた。
「何かされたら絶対言えよ。
ぶっころすから。」
顔は笑ってるけど、言い方は冷たい。
どっちがホントの気持ちなんだろう?
そんなのわかるけどね。
自然と顔がほころぶ。
2人に連絡をして、会う日を決める。
今日の放課後は聖と会い明日は篤哉と会う約束をした。
放課後になるとすぐに聖と学校を出てカフェへ入る。
あえて個室になったカフェを選んだ。
話を聞かれたくないからね。
「聖…あの」
呼び出したものの何を話したらいいか全くわかんない。
話し出そうとしても口から言葉が出ない。
「花恋、落ち着いて。
花恋が嫌なら、もう関わらないし。」
あっさり言われた言葉に少し凹む自分がいた。
でも、これでいいんだよね。
お互いの為に頷こうとした花恋に陸が口を挟む。
「でも出来るなら友達のままでいたい。」
言いにくそうに言葉を濁しながら言う陸。
でも友達のままで居る事は花恋も望んだ事だった。
花恋に友達はそんなに居ない。
だから1人1人が大切だ。
そう思い頷くと聖はいきなり抱きついてくる。
「キャッ」
陸と同じ抱きつきかた。
でも心の暖まり方が違った。
聖に抱きつかれても触れあった所しか熱くならない。
花恋は抱きつく聖を無理矢理剥がす。
「離れて!」
花恋の言葉に反応して意外にも聖はあっさり離れる。
離れても嬉しそうな笑顔を聖はやめない。
この後、2人は友達に戻り仲良く話をしていた。
深そうにみえた聖と花恋の絆は愛よりも憧れだった
「おっはよ〜
昨日ね、聖と話したんだ。
これからも友達でいようねって話したの。」
すると、陸は複雑な顔をしているように見えた。
「おす
そっか…
よかったな。」
そう言ってるのに顔は笑っていない。
今日はわかるよ。
陸の気持ち
きっと嫉妬だよね?
私と聖の仲の良さに
「花恋、おはよ。」
皆空気を読み話しかけない2人に誰かが声をかける。
2人が振り向いた先にいたのは…
「聖、おはよ。」
笑顔で言うと、また聖はハグをする。
ギュッ
その瞬間、陸が慌てて聖を剥がし出す。
「人の彼女に何してんだよ!」
久しぶりに見る陸の慌てた顔
そんな顔をみて花恋と聖は笑いを堪える。
「プッ
アハハ、アハハハハ。」
そんな我慢も虚しく2人は噴き出す。
普通に笑うよりもかえって目立つ事になってしまった。
「お前らはめたな!」
今度は怒りだし聖に軽く殴りかかろうとした陸
そんな陸から逃げながらも聖は笑い続けている。
「挨拶だって。」
「欧米かって!
だったら花恋だけじゃなく全員にして来いよ。」
すると聖は陸を抱きしめ逃走していった。
「何がしたいんだよ!」
そんな2人の意味不明(?)な光景をみて花恋は朝からニコニコしていた。
「ねぇ花恋ちゃん。
最近、楽しそうだね。」
クラスの子に話しかけらた一言に花恋は驚いた。
楽しそう?
私が?
「そうかなぁ?」
曖昧な返事をする花恋にクラスメイトはキッパリ言い切る。
「うん。
陸くんや聖くん
そして会長と居る花恋ちゃんは楽しそう。
生き生きしてる。」
意外な言葉だったけど正直嬉しかった。
皆のお陰で学校に来るのが楽しくなったのは事実だしね。
放課後になると花恋はすぐに篤哉の教室に向かった。
でもそこに篤哉の姿は無かった。
今度は生徒会室に向かう。
生徒会室の中を覗くと篤哉と亜弓が2人で仕事をしていた。
顔を真っ赤にしながらも楽しそうな亜弓
篤哉も私と居る時のような悲しそうな顔をしていない。
もう話しかけない方が2人の為になるのかな?
だったら…
そう思い離れようとした時
ガチャ
「さっきから何してんだ?」
2人にバレて篤哉が出てきた。
いきなりで驚いて後ろに転けそうになった花恋を篤哉が片手で軽く支える。
「大丈夫か?」
コクコク頷きながら生徒会室内に居る亜弓をみる。
嫌そうな顔をしてると思ったが亜弓はニコニコいつもどうりの笑顔だった。
亜弓なりに篤哉を応援してるのが痛いほどわかる。
でも応えられない気持ちを考えると心が痛い…
篤哉はまだ花恋を支えながら亜弓に
「お先に
お疲れ。
仕事熱心も大概にしろよ。」
と、告げた。
亜弓は予想通り、リンゴみたいに真っ赤だった。
しばらく、見つめていると篤哉に無理矢理引きずられ校舎から出た。
「そんな顔するな。
仕方ない事なんだし。」
篤哉は何でもお見通しな様だ。
花恋の痛みも亜弓の痛みも
「わかってても見てて辛いじゃん。」
すると篤哉はため息をつき花恋の制服のネクタイを引っ張る。
「応えられない気持ちはお前が1番わかるだろ…」
辛そうな顔をする篤哉をみて花恋はまた傷つけてしまった事を悟った。
誰かが傷つき誰かが幸福を得る
篤哉が言った事が頭にフラッシュバックした。
「行くぞ!」
篤哉は花恋を近くの図書館へ連れていく。
「何で図書館?」
真面目な表情で尋ねるとさらに真面目な顔をされた。
「試験1週間前だからだ。」
答えてすぐに篤哉は勉強を始める。
花恋は冷静になる為に一度外に出て、飲み物を飲んでから中に戻ると篤哉は女の子に囲まれていた。
どうしよ…
また会い直すのも嫌だし
でも、彼女じゃないのに篤哉から女の子を引き剥がす権利はないよね。
何て悩んでいると、いつの間にか篤哉が横に来ていた。
「ごめん。
彼女居るから。」
花恋の肩に手を置き告げると女の子達は花恋の顔をみる。
そして諦めて去っていった。
「私…彼女じゃないし。」
不服そうに呟くと篤哉は驚いた。
うん?
何で驚いてるんだろ?
「彼女のふりだって事ぐらい分かるだろ。」
そこまでバカじゃないだろと続きそうな言い方がちょっと気にかかる。
でもあえて無視しておく。
「わかるけど。
陸に悪いし。」
すると篤哉は迷惑にならない程度に笑い出す。
笑いが止まったと思うと真剣な顔をして近づいてくる。
本能的な勘で危険を察した花恋は逃げようとした。
でも、そんな抵抗も虚しくいきなり篤哉はキスしてくる。
まるで全てを持っていかれそうな激しいキス
息が出来ない
「……ふ…ぁ…んぁ」
あまりの激しさに花恋はぐったりして篤哉に身体を預ける。
すると篤哉は花恋と口を離す。
いきなり空気が肺に入り込み変な感じがする。
「な…何で……こんな」
口づけは止めても篤哉は花恋をだきしめ続けていた。
「なぁ…俺じゃダメか?
諦める
そう思っても消えないんだよ。
お前への思いが。」
花恋は余りにも篤哉の思いが強くて何も言えなかった。
目を見ることも出来ず下を向き続ける。
すると何故か床に雫がおち、絨毯の色を濃くする。
何でと思い、顔を上げると
やっと自分が泣いてる事に気がつく
「お前を泣かしてるのは俺か…」
すると篤哉はまた花恋の頭を撫でて勉強をしだした。
抱きしめられていた手がとけ花恋はその場に座り込む。
私は篤哉とキスしちゃったんだ…
そう思うと1人になりたくて花恋は鞄を持ち図書館を出た。
図書館を出て家まで走り続ける間も涙は止まらない。
家で花恋は1つの答えを出した。
陸には言わないでおこう。
もう篤哉には会わない
これでこの話は終わり
前みたいに陸を傷つけたくないし
きっとこれが1番良い
その決断に後悔するのはすぐ後の話だった。
翌朝、陸といつも通り学校へ行っていると陸が奇妙な事を言い出した。
「俺に言う事はないか?」
花恋には何の事を言っているか全くわからなかった。
花恋の頭の中には、あの事が陸にバレるなんて考えは1ミリもなかった。
しかし花恋は意外に有名人だ。
誰かが見ていたっておかしくない。
「別にないよ。
どうかした?」
そう言うと陸は急に冷たくなり1人で先に学校へ行ってしまった。
一言悲しい言葉を残して…
「ちょっと距離をおきたい。」
花恋はバレた事を疑うしかなかった。
そして、話さなかった事を何度も悔やんだ。
学校が始まっても下を向き続け、クラスメイトが話しかけにくい空気を出している花恋に亜弓が話しかけてくる。
「花恋
陸くんと何かあったの?」
誰もがわかっていながら聞かなかった質問を亜弓が真っ直ぐ聞いてくる。
花恋はやっと顔をあげる。
「うん…距離をおきたいって言われちゃった。」
すると亜弓は珍しく花恋の机に乗り出しす。
声は小さめだが迫力は中々だ。
「何があったか知らないけど、ちゃんと誤解ときなよ!」
亜弓が言ってる事は 正しい。
けどちゃんとした理由がわからない限り何も出来ない。
まずは理由を聞きに行かなきゃ…
会ってくれるかな…
昼休みになった花恋はすぐに教室を飛び出す。
真っ直ぐに陸の教室に向かいドアを開ける。
しかし、そこに陸の姿は無かった…
ワザとなのか偶然なのかは花恋にはわからなかった。
放課後も結果は同じで陸は居なかった。
それでも花恋は諦めず電話をかけてみる。
出ないと思ってたが意外にも陸は電話に出てくれた。
〜も、もしもし。
あ、あのね聞きたい事があって…〜
緊張して片言な話し方になり自分でも恥ずかしくなる。
いつもの陸なら笑いとばしてくれるのに今日は触れてさえくれない。
〜何だよ?〜
たった四文字で片付けられ花恋は悲しくて仕方なかった。
でも今泣いてる暇はない。
その心構えが花恋を片言から救う。
〜何で距離をおきたいの?〜
軽くため息が聞こえた気がした。
また涙が出そうになったが必死に堪える。
〜わかんねぇのかよ…
お前が会長とキスしてるからだろ。〜
不意打ちでうっかり声が出る。
〜あっ〜
そんな声に陸が反応し声がさらに冷たくなる。
〜自分でわかってるなら良いだろ。
お前は結局1人の事を愛す事なんて出来ないんだよ。〜
冷たい言葉に花恋は耐えられず涙が出る。
泣いてるとわかってるくせに陸は電話を切った。
そんな花恋にとどめを刺すメールが届く。
〜別れよう〜
「電話で言えばいいじゃん
何で一々メールするのよ。
変なとこで優しくしないでよ。」
花恋は歩道なんて気にせずにその場に座りこんだ。
通る人々は花恋なんて目にとめずに歩いていく。
しかし1人の人に腕を捕まれ立たされる。
立った瞬間胸の中にしまわれる。
「俺が居る。」
今までずっと断ってきたけど
今日は心の傷が余りにも深く暖かい胸に包まれているのが心地よかった。
私は愛されなきゃ生きていけない
花恋はその事を悟った
寂しかった
誰と居ても満たされなかった
だから私はセフレを作ってたんだ
愛される事が普通な花恋と陸が付き合うには少し苦労がいる。
けど彼は愛す事が普通
きっと幸せになれる
「篤哉…」