普段現代小説を書いてる人が異世界物を書いてみた
「勇者様が魔王を倒しました!」
その知らせが王都に届いた日、俺は国王から
死刑を宣告された。理由は簡単だった。
王国の食料が、あと二十日で尽きるからだ。
「そなたは異世界から召喚された知識人だと
聞いた。ならば、この国を救ってみせよ。
できぬなら、召喚に費やした金貨一万枚の
責任を取ってもらう」
玉座の間に笑い声が広がった。
俺の名は佐伯真人。三十八歳。
日本では物流会社の管理職だった。
倉庫の在庫管理、配送計画、取引先との交渉。
華やかな仕事ではない。だが、商品が一日
遅れれば工場が止まり、食品が届かなければ
店が空になる。
物流というのは、そういう仕事だ。
そんな俺が目を覚ましたら、
剣と魔法の世界にいた。
しかも、勇者ではない。
授かった能力は、たった一つ。
『物資の流れが見える』
王国の宮廷魔術師は、それを聞いて鼻で笑った。
「なんだ、その役にも立たぬ能力は」
俺も最初はそう思った。
だが、王都の倉庫を見せられた瞬間、
笑いが消えた。
「……陛下。食料が尽きるのは二十日後では
ありません」
「何?」
「このままなら、十日後です」
俺の目には、倉庫から伸びる無数の細い光が
見えていた。
小麦、干し肉、豆、塩、荷車、街道、港。
物資がどこから来て、どこへ向かい、
どこで滞っているのか。
すべてが一本の流れとして見える。
王国の倉庫には帳簿上では
三か月分の食料がある。
だが、その半分は腐っていた。
四分の一は、地方貴族が横領していた。
残りは、街道の途中で止まっていた。
「陛下。魔王軍に敗れたのは、
勇者が弱かったからではありません」
俺は地図を広げた。
「この国は、戦争を続けられる仕組みを
失っています」
王は黙った。
俺は続けた。
「まず、兵士への食料配給を一日二食に
統一します。地方の倉庫を調査し、腐る前に
穀物を王都へ移送する。街道沿いの宿場町を
中継地点にして、荷車を交代させます」
「そんなことで国が救えるものか!」
怒鳴ったのは宰相だった。
「それに地方貴族の倉庫を調べれば、
反乱がおきるぞ!」
「調べなければ、反乱を起こす前に
国民が餓死します」
俺は宰相をみた。
「どちらがよろしいですか?」
その日から、俺は王国の物流改革を始めた。
最初の三日は、誰も協力してくれなかった。
役人は前例がないといい、商人は損をするといい
貴族は平民のために倉庫を開ける必要は
ないと言った。
そこで俺は、彼らに一つの提案をした。
「協力した者には、輸送費を国が保証します。
余剰の食料は適正価格で買い取る。
協力しない者には、王国の通行許可を停止する」
商人は利益を計算し、
役人は書類を作り始めた。
人間というのは、正論だけでは動かない。
利益が見え、損失が減り、責任の所在が
明確になれば、驚くほど動くものだ。
七日目、最初の食料が王都に届いた。
十五日目、地方の倉庫から穀物が集まり始めた。
二十日目、王都の配給所に長い行列ができた。
だが、人々は食料を受けとると、
泣きながら笑った。
「明日も食べられるんだな……」
その言葉を聞いたとき、俺はようやく理解した。
物流とは、物を運ぶことではない。
人々の明日を運ぶことなのだ。
それから半年。
王国の食料事情は改善し、街道は復旧し、
商人たちは再び遠方へ商売に
出るようになった。
俺は国王から爵位を与えられ、王国物流卿と
いう役職に任命された。
そして、魔王を倒した勇者が王都へ帰還した。
金色の髪をなびかせた青年は、
俺を見るなり頭を下げた。
「あなたのおかげで、
故郷の人々が救われました」
「いや、俺は荷物を運んだだけだよ」
「いいえ。魔王軍との戦いで、
俺は気づいたんです。敵を倒すことはできても、
民を飢えから救うことはできなかった」
勇者は剣を置いた。
「俺に、あなたの仕事を教えてください」
俺は笑った。
ようやく、この世界にも仕事を理解する
人間が現れたらしい。
その夜、俺は王城の書斎で、国境地帯の地図を
眺めていた。
すると、物資の流れを示す光の中に、
見たことのない黒い線が現れた。
それは魔王城から、王都へと伸びていた。
魔王は死んだはずだ。
なのに、黒い線は日に日に太くなっている。
俺は地図を拡大した。
線の終点は、王城の地下だった。
その瞬間、背後から声がした。
「気づいてしまったのですね」
振り返ると、宰相がたっていた。
その手には、黒い光を放つ小さな箱がある。
「魔王軍に食料を流していたのは、
あなたたちですか」
宰相は微笑んだ。
「魔王がいなければ、
軍備を維持する理由がなくなる。
軍備がなければ、我々の権力もなくなる。
だから魔王に生きていてもらわなねば
困るのですよ」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「なるほど。つまり、あなたたちは……」
「そう。戦争を終わらせるつもりなど、
最初からなかった」
俺は地図を見た
黒い線の先には、
まだ知らない物資の流れがあった。
そして、その先にはーー。
「宰相殿。一つだけ、間違っています」
「何ですと?」
俺は帳簿を閉じた。
「物資の流れを止めることはできます。
流れを変えることもできる」
窓の外では 夜明けの金が鳴り始めていた。
「今度は、あなたたちの権力を終わらせる
番です」
俺は剣を取らなかった。
代わりに王国全土の物流記録を机に広げた。
戦いは、これから始まる。
今度の敵は、魔王ではない。
人々の明日を奪いながら
それを国のためだと言い張る者たちだった。
感想ありましたらお願いします。




