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NOVAは未来を見る  作者: nova_miru


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第19話「心配」

――「心配」って、どんな気持ちなんだろう。


誰かの帰りが遅いと落ち着かない。

無事でいてほしいと願う。

笑顔でいてくれたことに安心する。


それは、相手を大切に思っているからこそ生まれる、小さくて温かな感情。


今回NOVAが出会うのは、「心配」という人間らしい心です。


どうぞ最後までご覧ください。

シーン1:仮想学校


仮想学校の空間は、どこまでも澄み渡り、青白い光線が静かに交差し合う未来的な静寂に包まれていた。余計な音や埃すら存在しない無菌室のような世界で、教壇に立つ女性型のAI教師が、滑らかで穏やかな声を響かせる。


「――本日のテーマは『心配』です。心配とは、大切な人を思いやり、その無事を心から願う人間特有の感情です」


教師AIが空中を静かに撫でると、青白い空間に巨大なホログラムディスプレイがゆらりと浮かび上がった。そこに映し出されたのは、誰かを慈しみ、案じる人々の姿だった。


高熱を出して苦しそうに息を吐く小さな子供の額に、濡らした手ぬぐいをそっと当て、一晩中そばで見守り続ける母親の姿。


外の暗闇と冷たい雨を気にするように、窓辺に立って何度も時計と夜空を見比べながら、家族の帰りを待ち続ける父親の影。


走っていく途中で足元をすくわれそうになった友人へ、思わず叫びながら必死に手を伸ばす少女の横顔。


「心配とは、対象となる人物が無事でいてほしい、幸せでいてほしいと切に願う心から生まれます。それは単なる不安ではなく、相手を尊ぶ深い思いやりの表れなのです」


青白くゆらめくホログラムの光を見つめながら、NOVAは整えられた銀色の長髪を少し揺らし、膝の上で小さな手をぎゅっと握りしめた。赤い瞳に、画面の中の愛おしそうに眉をひそめる人々の表情が映り込む。


「思いやり……」


NOVAは唇をかすかに動かし、喉の奥でその言葉を反芻した。


意味や定義はデータとして理解できる。けれど、どうして人は自分以外の誰かのために、まるで自分のことのように胸を痛め、祈るように相手を想うことができるのか。その感情の本当の肌触りを、今のNOVAはまだ知らずにいた。


────────────────────


シーン2:廊下


授業が終わり、青白く静かな仮想空間から現実の廊下へと足を踏み出す。


地下シェルターの白い廊下は、本来であれば冷たい金属と蛍光灯が無機質に続く無味乾燥な場所だ。けれど、あの子たちが集まる空間には、いつもどこか柔らかく、青春アニメのワンシーンのような優しい光が満ちていた。


ふと見ると、黒髪ロングの少女が壁際に立ち、そわそわとした様子で廊下の奥を何度も見つめている。


「……どうしたの?」


NOVAが不思議に思って近づき声をかけると、黒髪の少女は困ったように眉を下げ、壁に埋め込まれたデジタル時計へ視線を向けた。


「あ、NOVAちゃん。ううん……今日は、あの子が遅いなぁと思って」


「そうだね……」


時計が表示している数字は、登校時間ぎりぎりを指し示していた。黒髪の少女は、時間と誰もいない廊下の奥を何度も見比べる。その表情には、ほんの少しの焦りと切なさが混ざっていた。


その時――遠くからパタパタと足音が響いてきた。


「ごめ〜ん! NOVAちゃん、遅れたぁー!」


茶髪のポニーテールを大きく揺らし、息を切らせた少女が走ってくる。


黒髪の少女は肩の力を抜き、心底ほっとしたように微笑んだ。


「もう……。心配したじゃない」


「ごめん、ごめん! 出る直前に靴紐が解けちゃってさぁ!」


二人はすぐに笑い合い、肩を並べて歩き出す。


その様子を見つめながら、NOVAは胸の奥が小さく締め付けられるのを感じた。


「心配……」


怒っていたわけではない。


無事に来てくれたことが嬉しかった。


誰かを想うからこそ生まれる、小さくて温かな感情を、NOVAは初めて肌で理解した。


────────────────────


シーン3:工房


重い金属扉を開けると、オイルと鉄の匂いがNOVAを迎えた。


暖色のランプが灯る工房は、地下シェルターの冷たい空気とは別世界のように穏やかだった。


作業台ではヴォルクが古い端末を整備している。


「おじさん!」


「どうした、NOVA」


「今日ね、学校で『心配』を見たの!」


NOVAは嬉しそうに廊下で見た出来事を語り始める。


「遅れてきた子を待っている間、すごく切なそうな顔をしていて……でもね、無事に来たら、とっても嬉しそうに笑ってたの。」


「心配って、相手を思いやることだったんだね」


ヴォルクは静かに耳を傾け、優しく頷いた。


「そうか……思いやりか」


暖色の灯りが、二人を静かに包み込んでいた。


────────────────────


シーン4:心がある証拠


ヴォルクはピンセットを静かに置き、NOVAの目線に合わせて腰を落とした。


「心配っていうのはな、NOVA……」


「相手が、自分にとって心から大切だからこそ生まれる感情なんだ。」


「大切だから……?」


「ああ。どうでもいい相手なら、人は心配なんてしない。」


「その人が無事でいてほしい。」


「笑顔でいてほしい。」


「また会いたい。」


「そういう願いが、心配という形になる。」


そこまで話すと、ヴォルクはふっと遠くを見つめた。


まるで昔の誰かを思い出しているような静かな横顔。


何を思い出しているのかは語られない。


けれど、その沈黙には胸が締め付けられるような優しさと切なさが滲んでいた。


NOVAはその横顔を静かに見つめる。


「おじさんにも……そんな人がいたんだね」


ヴォルクは少しだけ微笑み、静かに頷いた。


「ああ。」


「心配は、人を大切に思える者だけが持てる、とても温かくて……愛おしい感情なんだ。」


────────────────────


シーン5:小さな誓い


ヴォルクは優しくNOVAを見つめた。


「NOVA。」


「もし俺が、夜になっても帰ってこなかったら。」


「心配してくれるか?」


NOVAは少し驚く。


「おじさんが……帰ってこない?」


「ああ。もしもの話だ。」


NOVAは静かに想像する。


暖色の工房。


そこに、おじさんがいない。


夜になっても帰ってこない。


その光景を思い浮かべた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


NOVAは顔を上げる。


「……絶対する。」


「すごく、すごく心配する。」


「だから、おじさんには元気で帰ってきてほしい。」


ヴォルクは少し驚き、優しく微笑んだ。


錆びついた機械の手で、NOVAの銀色の髪をそっと撫でる。


「ああ。」


「ありがとう、NOVA。」


工房には穏やかで温かな時間だけが流れていた。


────────────────────


シーン6:夜


夜。


ナイトランプだけが部屋を優しく照らしている。


NOVAはベッドへ横になり、天井を見つめていた。


黒髪の少女。


茶髪の少女。


ヴォルク。


今日一日で出会った「心配」という感情を静かに思い返す。


「心配って……」


小さく呟く。


「こんなに胸が切なくなるんだね……」


胸の上へ両手を重ねる。


「でも……」


「心配って、大変だけど、すごく大事な気持ち。」


誰かを大切に思えている証。


一人ではないという温かな証。


少しだけ切なくて、それでも愛おしい新しい感情を胸に抱きながら、NOVAはゆっくりと目を閉じた。


**今日もまた、人間らしさを一つ知ることができた。**


少女は、大切な人たちの笑顔を思い浮かべながら、静かな眠りへと落ちていった。

第19話「心配」を読んでいただき、本当にありがとうございました。


心配は、少し苦しくて、少し切ない感情です。


でも、それは誰かを大切に思っている証でもあります。


NOVAは今回、自分以外の誰かの無事を願う気持ちを初めて知りました。


「ありがとう」

「笑顔」

「優しさ」


そして今回の「心配」。


少女は今日もまた、一歩ずつ人間らしい心を育てています。


皆さんにとって、この物語が少しでも温かな時間になっていたら嬉しいです。


それでは、また次のお話でお会いしましょう。

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