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「白の間」

 コンコンコン。

「失礼します。サブロウさん…いやサブロウ大佐、少し落ち着きました。」


 ロバーツはサブロウとその部下が居る執務室にやってきた。

 宿舎での別れ際に言われた落ち着いた時に来なさいという言葉に、何かが起こる一縷の望みをかけて。


「…お早いですね。」

「”同期のあいつ”ならそうするだろうな、と思いまして。もうごちゃごちゃ考えるのはやめました。」


 ロバーツは腕に巻いた黄色いスカーフ――先に逝ったバロンの形見――に触れながら、戦いに身を投じていく覚悟を滲ませた。


「やはり王宮兵に選ばれる者は、覚悟が違いますね。せっかくここまで来てもらって申し訳ないですが、少し場所を変えましょうか。」


 そう言うとサブロウは、部下を元の配置に戻させたのち席を立つ。

 その後ロバーツと二人で、広い王宮内を歩き始める。

 極力普段通り接したいサブロウは、あの時の事には触れないように、他愛の無い話をロバーツとしながら目的地へ向かう。

 すると数分経った頃、2人は立派な彫刻があしらわれた大扉の前に立っていた。

 ――不思議なことに、ロバーツはどういう道順で辿り着いたのか覚えていなかった。


「さて、色々とお話している間に着きましたよ。」

「この扉って…この先には何があるんですか?」


 ロバーツの問いにサブロウは答えない。


「そうですね…その質問にはまだ答えられません。貴方のその目で、まずは見ていただきたいです。」


 むしろサブロウはロバーツに、とある質問を投げかける。


「反対に私から1つ、お尋ねします。貴方は”魔力”を持っている…そうですよね?」


 ロバーツの背筋がゾッとした。

 あの白い光の事か?

 なぜあの人はそれを知っている?

 そしてここでそれを持っていると答えたら?

 そう答えた事によって自らの身に何か危険があったら?

 ロバーツはサブロウからの質問に答えることなく、ただ目を伏せる。

 しかしそれは沈黙という名の”同意”とも言えた。

 サブロウはそのロバーツの様子を見て、優しい笑顔を浮かべながら口を開く。


「大丈夫ですよ。私は貴方を取って食べたりしたい訳じゃありませんし、捕らえて隔離したいわけでもありません。」


 そういうとサブロウは、扉に彫られた手のひらの形に自らの手を置く。

 すると白い光が手のひらから放たれて、扉がゆっくりと開いた。


「…この場所の存在は公にはされていませんし、国王陛下でさえもこんな場所があるとは知りません。この扉の向こう側、この扉を1歩跨いだ先で起きた事は、しっかりと”ここ”だけに留めておいてくださいね。」


 サブロウはロバーツに向けて、微笑みながら自らの胸の辺りをトントンと叩いた後、扉の向こう側へと歩き始める。

 ロバーツはそれに遅れまいと、扉の向こう側へ足を踏み入れる。

 そこに広がっていたのは、荘厳な造りの大講堂のような、天井の高い部屋だった。


「な…なんですかこの部屋…!?」


 ロバーツが驚いたのと同時に、今通ってきた扉が閉まった音がする。

 するとサブロウはロバーツの方を向くと、大きな笑顔を向けて話し始めた。

 その表情から読み取る限り、サブロウはずっとこの時を待っていたようだった。


「ロバーツくん、ようこそ!ここが私たち、王宮兵の中でも稀有な存在である”魔力を持った者”にしか立ち入ることの出来ない秘密の部屋、”白の間”です!」


 サブロウがその部屋の説明をし始めた瞬間、ロバーツは全てを察した。

 サブロウも魔力を持っているし、むしろそれを誇りに思っているのだと。

 ――フジが言っていた、”魔力を持つ者は特別な存在”というのは、どうやら本当のようだった。

 サブロウはロバーツに向かって、少し興奮したような様子で話を始める。


「ロバーツくん、貴方が王宮兵への昇格試験を受けていた時、私は貴方の姿をたまたま見かけました。そして私の視界にロバーツくんが見えた時、私は気がついたのです。貴方は我々と同じ、魔力を持つ者なのだと。」


 実はサブロウは王宮の中で誰よりも先に、ロバーツの内に秘めていた魔力の存在を感知していた。

 しかしこの国において、魔力という存在は忌避されてきた代物であり、それを持つ者は表向き別な罪を着せられた上で逮捕され隔離される。

 その為サブロウはずっと、ロバーツに魔力がある事を言い出せないでいた。


「それに、貴方が持っている魔力の強さは普通ではなさそうです。だからこそ貴方に眠る、その魔力をコントロール出来るようにしないといけません。魔力という存在を上層部に認知されてしまった場合、どうなるか私にも…皆目見当もつかないのです。」

 

 ロバーツから溢れ出る魔力は、相当強大だった。

 彼の魔力が公になって逮捕されそうになったならば、”王宮兵の大佐”という力を駆使してどうにかしようと思っていたほどの力。

 ――少しでも扱い方を間違えれば、自らの身を滅ぼすだけでは足らないほど強大な力。

 

「これから貴方には、魔力をしっかりと操る術を習って頂きます。ある程度荒療治になるかもしれませんが、その覚悟はおありですか?」


 ロバーツはしばしの沈黙の末、真っすぐな目でサブロウを見つめながら首を縦に振る。

 自らに眠る力を、魔力という存在を、これから起こる運命を、ロバーツが受け入れた瞬間だった。



 とある開けた森の中で合流した、魔王軍の面々。

 異風の森からやってきた四天王シルフィアと、十二聖団の総長スピカ。

 湖からやってきた四天王フジと、十二聖団のポルックスとカストル、医療班リーダーのラサルハ。

 それに、王宮兵に紛れていた内偵者のユウダイとその”協力者”であるサエ。


「あんたら2人で元々作戦を考えていたんだし、私とスピカはそれに相乗りさせてもらうだけの事。遠慮なく私たちの事を使ってもらって構わない。」

 

 作戦を立てていたのはフジとラサルハだったので、そこに口出しするのもおかしいと思ったシルフィアなりの譲歩だった。


「そんな使うだなんて…頼もしい限りですよ。四天王が2人、十二聖団が3人、多少無茶をしてもラサルハさんが居る。王宮に乗り込む時はユウダイくんとその協力者も居る、さすがにこれは万全ですね。」


 フジが自信満々と言った具合に、笑顔を浮かべて今の強さを再認識する。

 全員も一様に笑みを浮かべたりして、このチームでの魔王軍再興を信じて疑わない。

 その雰囲気の中で1人だけ、笑みも浮かべなければ何も感情が去来していないような人物がいた。

 それこそが、ユウダイが連れてきた”協力者”であるサエである。

 そもそも今の彼女には、感情や自らの意思というのは備わっていないも同然。

 しかし、それはあくまでも表向きの話。

 彼女の内側では、静かに、そして着実に、サエという人格そのものが蝕まれていく。


 ――…私は今、なんでここに居るんだっけ。

 ――ユウダイの姿が見える…という事は、周りの人も王宮兵って事かしら。

 ――みんな準備出来たから動くみたい、でも今からどこに行くの?

 ――あ、ユウダイの声が…それと知らない人の声が…

 ――…王宮って言った?ということは、そうか。

 ――私たちはみんなで、王宮に”帰るんだ”。


「…うっ。」

「ユウダイ、あなたさっきから少しおかしいわよ?」


 歩き始めて数十分、ユウダイは徐々に足元がふらつくようになっていた。

 サエを協力者とするため、ずっと精神操作の魔術をかけ続けていた事が原因で、魔力がそろそろ尽きかけそうになっていたのである。


「やっぱラサルハさんの目は誤魔化せないっすね…でも今魔術解除しちゃったら、サエさん元に戻っちゃいますよ?」

「うーん…それなら…!」


 ラサルハは自らの人差し指で、サエの首元を一突きする。

 するとサエの身体は一瞬にして、力が抜けたようにその場に倒れ込む。


「ちょっと、ラサルハ…!?」

「あ…安心してスピカちゃん、麻酔をかけて眠らせただけよ。この状態で王宮の手前まで、みんなで連れていけばいいんじゃないかなーって!…そう思ったから。」

「…驚かせないでよ。」


 スピカはラサルハの事をじっと見た後、また王宮に向かって歩き始める。

 ――スピカの視線には、ラサルハに対する怒りが滲んでいるように見えた。


「ねぇねぇ〜、スピカさん顔怖いよ〜?」


 無邪気な表情で、カストルがスピカに話しかける。

 

「…そうかしら、私は普段通りにしてるつもりよ?」


 スピカの表情は少し柔らかくなっていたが、それでも気まずい空気が広がっていることには変わりなかった。


「ラサルハさん…スピカさんが来てから、少し表情が暗いですよ?」


 一方のポルックスは、少し暗い表情を浮かべるラサルハに話しかけていた。

 ラサルハは一瞬ビクッと身を震わせるも、ポルックスに今の気持ちを吐露する。


「…アークトゥルスが死んだ時、私は助けてあげられなかった。最善は尽くした、出来る手立ては全て打った、それでも彼が、目覚める事は無かった。」


 ラサルハはあの日の事を、少しずつ思い出しながら語る。

 彼女の口から出た言葉を、スピカが聴いていたとは知る由もなく。


「私だってすぐにスピカちゃん達のところに行きたかった。でも彼を助けようと向かう道中に、私たちは妨害に遭った。あれが王国兵なのか、勇者の一派なのか、そこまでは正直分からない。けどあの妨害さえなければ、あの時もっといろんな手を打てていれば…。」


 そこから先の言葉を言い終わる前に、ラサルハの前にスピカが立った。

 彼女の表情は、怒りに満ちていた。


「ラサルハ…いい加減にして。」

「で、でもスピカちゃん…私はあの日全力で助けようと思ってて…」

「そんな事、言われなくたって分かってる!!」


 スピカは絶叫しながら、ラサルハの肩をがっしりと掴む。


「そのあなたが必死に助けようとした結果、アーくんが死んじゃったなら仕方ない事!私が気に入らないのはね、あなたがずっとそうやって落ち込んでいる事!」


 スピカの目からは、いつの間にか涙が流れていた。

 あの日の苦しみを知る2人、前を向いて未来へ進もうとするスピカと、過去の出来事を後悔し続けるラサルハ。

 その涙の一筋は、2人の仲を再び繋ぐ架け橋のようだった。


「確かにあの時、あなたが早く来ていればって言っちゃった、それは謝る!でもね、あなたがあの時手を抜いただなんて一切思ってない!あなたは医療班なんでしょ?リーダーなんでしょ?出来る限りの事を尽くしたんでしょ?だったら、あなたはそれを誇りに思いなさいよ!!」


 ラサルハはスピカの話を聞き終えると、涙がとめどなく流れ始める。

 そして声をあげて、ただひたすらに泣きじゃくった。

 今まで流せなかった分、溜まっていた分、彼女の中にあった全てを吐き出すように。

 空が赤みがかった頃、ラサルハの涙は落ち着いてきた。

 ひとしきり泣き終えたラサルハは、スピカの顔を見て笑顔を浮かべる。


「…よし、これで元気出た!」

「それなら良かったわ。私はあなたの事、とびっきり信頼してるんだから。それだけは忘れないでよ、ラサルハ?」


 スピカはラサルハの隣でまた歩き始める。

 もう二人の間には、気持ちの壁も境目も無くなっていた。



 その日の夜、散り散りになっていた魔王軍の再会を祝って、全員で焚き火を囲みながら軽くご飯を食べることになった。

 普段以上に賑やかな夜を過ごしている面々は、この中でも1番賑やかになってたラサルハのお守りに四苦八苦させられていた…。


「えへへ〜〜〜♡みんないる〜〜〜♡♡」

「ラサルハさんって…あんな感じだったっけ?」

「そうよ、お姉ちゃんいつもああなったラサルハさんのお守りしてたのよ…。」


 ラサルハの”酒乱”を見たカストルは困惑し、ポルックスは嫌な思い出が蘇ったのか、呆れたような顔をしていた。

 スピカとシルフィア、そしてフジは、あの状態のラサルハに絡まれるのではないかとビクビクしながら、端っこの方に固まってご飯を食べていた。

 しかしそんな3人を、ラサルハが見逃すはずがなかった。


「ちょっと〜?少しは構ってくれてもいいんじゃな〜い??お姉さん寂しいなぁ〜♡♡♡」

「げ、逃げるぞフジ!」

「いや待てよ、てか逃げるって言ってやるなよ…」

「ちょっと!私を置いていかないでよ!」


 …結局ラサルハは、スピカと止めに入ったポルックスに対して、一晩中だる絡みを続けたらしい。


「ねえねえスピカちゃん〜♡久々に会えたし仲直りしたんだし、一緒に仲良ししようよ〜♡」

「暑苦しい、うっとおしい、お酒臭い!」

「これで3コンボね…」


 その頃、ラサルハの大酒乱大会状態と化していた喧騒を避けて、輪の中に混ざらなかったユウダイ。

 まだ麻酔が効いて眠っているサエの横で、ずっと見守り続けていた。


「……ん」

「お、起きましたか…サエさん。」


 ようやく目を覚ましたサエ、その瞳にはしっかりと光が浮かんでいた。

 ユウダイは王宮兵の時と同じ、オドオドしたような振る舞いを見せる。

 幸いにもサエにはまだ、ラサルハと話していたときのような口調はバレていなかった。


「ユウダイ…他のみんなは?」

「それが…みんなどこにいるか分からなくて…バロンさんとハインツさんはご存知だと思いますが、ロバーツさんとミルズさんが…“どこにいるか分からない”んです。」

「そ、そんな…」


 サエの表情に、絶望が滲み出てくる。

 それを感じ取ったユウダイは、とっさにフォローという名の嘘を並べる。


「なので一旦王宮に戻ろうと思ったら、行商人の皆さんも王宮に向かうって話してたので、一緒について行くことにしたんです。」

「行商人…ふーん…?」


 ――この反応…まずいか?


「良かったじゃない、たまたまそういう人たちと出会えるなんて、ユウダイは“持ってる”って事よ。」


 ――…よかった。


 ユウダイの嘘で、なんとかサエを誤魔化す事には成功したユウダイ。

 しかしこの調子では、いつ自らの素性がバレてしまってもおかしくない。

 ユウダイの額には、嫌な汗が流れ始めていた。

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