表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

カストルの急襲

 ロバーツ達の前に立ちはだかったのは、予想外の人物だった。

 彼女は十二聖団の一員であるカストル。

 

「カストルだって…!?いつの間にこっちに来ていたのか!?」


 ミルズが驚いた様子でカストルに話しかける。

 彼女は――ポルックスとの双子の片割れ――は、”戦闘”の才覚に長けた人物として、魔王軍の中でもその名が知れていた。

 その実力は、彼女を一介の雑兵から、部隊長にまで導いた。

 そして、たまたま戦場で出会ったスピカによって、その才覚と伸び代を見出され、五芒星の一員として重用されるようになった。


 時を同じくして、ポルックスも実力を認められる。

 似た顔、似た背丈、似た声色、違いを挙げるとするならば、ポルックスの持つ才覚は”頭脳”だった。

 その結果、珍しく双子で五芒星の名をいただくことになる。

 静のポルックスと、動のカストル。

 彼女たちこそ、戦場で恐れられる“最強のツインズ”だった。


「まあ私たち魔王軍の人間だし?これくらいの移動なんて造作もないっていうか…。」

「クソっ…なんで湖畔からこっちに来やがるんだよ…!」


 本来ロバーツたちC班の目的地は「異風の森」だった。

 その彼らの前に現れたのは、そこから遠く離れたところに位置するはずである、「鏡の湖」に居るはずの彼女。

 ミルズはその移動速度や計算が崩れてしまったが為に、ひどく取り乱していた。


「そりゃ決まってるでしょ?貴方たちを足止めする為よ。」

「てめぇ…あの爆発もお前らの仕業か!」


 困惑する兵たちを尻目に、カストルが列車に降り立つ。

 フリフリのフリルスカートに身を包んだ、明らかに戦闘をしに来たとは考えにくいような格好が、その場全員の目を引いた。

 嘲笑うかのような表情で、カストルが口を開く。


「え、違うわよ?貴方達の中にいる、裏切り者が起爆させたのよ?」

「そ、そんな…!?」

「やっぱ誰も見破れてなかったんだ〜。あなた達それでも王宮兵?え〜?やっぱ弱くな〜い?」

「あんた…調子に乗らないでよ!」


 裏切り者が居る?この王宮兵に?

 カストルが列車内の王宮兵を煽り倒す。

 ユウダイも、サエも、ロバーツも、全員がその事実を受け止められなかった。

 カストルの煽りで怒りが限界に達したバロンが、無策のまま槍で突撃してしまう。


「ふざけんなよ…!シルフィア達の前にお前から倒してやるよ!」

「やめとけバロン!相手は十二聖団だぞ!」

「それがどうした!おらあああああ!」


 ロバーツの静止を無視して、バロンは持っていた槍を振り回す。

 一撃、また一撃。

 何度も彼女へ攻撃を試みる。

 しかしカストルは、素早い身のこなしでその全てを平然と交し切る。


「あはっ♡弱いくせにそんなの振り回して、危ないでしょ?」


 渾身の一撃だと思いながらバロンが突いた槍の柄を、彼女はあっさりと手で掴む。


「私、今は戦う気は無かったんだけどな〜。ま、邪魔くさいしどっか行っててよね、あの世とか!」


 カストルは槍の柄ごと、バロンの身体を宙に投げ飛ばす。

 そのまま彼女が遥か高く跳躍したその瞬間、バロンの身体には、彼が手にしていたはずの槍が突き刺さっていた。

 それも、急所を的確に貫いて。


「バロン!」

「な、なんだよあいつ…!」


 彼の飛び散った血の雨が、屋根の無くなった列車に降り注ぐ。

 そして再び、カストルが列車に降り立つと、その表情には再び、笑顔が浮かんできていた。

 その笑顔は、あまりにも憎たらしく、あまりにも美しかった。


「これで分かったでしょ?私達に歯向かうと、どうなるか。」

「カストル…お前…!」


 ミルズがカストルを睨みつける。拳は握り込みすぎて血が出そうになるほどだった。

 仲間をやられた激しい憎悪が、それほど彼を支配していたのだ。


「ミルズ!向かっていきたい気持ちは分かるけど、このままじゃ全員やられちゃうわよ!」

「分かってるよ!でもよ…あんなに容易く1人やられちまったら、こっちだって引き下がる訳には…」

「そうだよ!あんたが止まってるなら、俺が代わりに行く!」


サエの静止によって、なんとか踏みとどまったミルズとは対照的に、今度はハインツがカストルへ突撃してしまう。


「…っ!止まりなさいハインツ!」

「うるせぇ!あいつがやられてんのに黙っていられるかよ!」

「何っ!?まだ来るの!?あんたらうっとおしいんですけど!」


 ハインツは距離を詰めながら、ガントレットでカストルのボディに一撃を食らわす。

 そのままガードが緩くなった隙に、上半身に攻撃を叩き込んでくる。

 思わぬ連続攻撃に、カストルは少し怯んでしまう。


「ちっ…!あんたやるじゃない。でも、そう来るなら…!」


 ハインツの攻撃にも、だんだん熱が帯びていく。

 それを逆手に取りながら、カストルは殴りかかってくるハインツの腕を掴んだ。


「っ!しまっ…」

「あーあ♡もう離さないからね?」


 カストルが腕を引く。

 このまま行けば彼女がトドメを刺せたのだが、とっさの判断でハインツも腕を引いた為、袖がちぎれるだけでなんとか済んだ。


「…あら、結構やるじゃない。」

「そりゃどうもレディ?一応俺だって、王宮兵の端くれですから。」


 互いを睨みつけながら、2人が対峙する。

 その後ろで、ロバーツは恐怖に震えていた。

 こんな簡単に人は死んでしまうのか、こんな容易く王宮兵は敵にやられてしまうのか。

 戦場が持つ訓練とは全く違う空気が、彼に重くのしかかってくる。

 決して戦火を見てこなかったではない。

 しかし彼の人生において、ここまでの惨状は、全て通り過ぎた後に見てきたもの。

 今いるこの場所この瞬間に、人が死に、人が戦い、互いの命を奪い合う。

 そんな場面には、1度たりとも遭遇したことはなかったのだ。


「これで終わりよ。」

「ふん…言ってろ!」


 カストルとハインツが、互いに間合いを詰める。

 今度はハインツの攻撃を、カストルがしっかりと腕で受け止める。

 そして、ハインツの空いた身体を目掛けて、綺麗な脚から、手本のようなキックをお見舞いする。


「…そこっ!」

「はぐぁ…!?」


 強烈な一撃をお見舞いされたハインツは、その場に倒れ込む。

 ニヤついた表情のカストルが、1歩、また1歩、ヒールを鳴らして近づいてくる。

 ───死のカウントダウンが、彼に迫っていた。


「さあ、もうおしまい。」


 カストルが上に視線を送る。

 すると宙から、何かが襲いかかってくるのが見えた。

 カストルは状況を全てを理解し、後ろに下がりながら小さく手を振った。

 ハインツも、その意味にようやく気がつく。

 しかしその気づきは、あまりにも遅すぎた。


「っ!マズい、避けきれな───」


 ハインツの頭に、槍が突き刺さる。

 その槍は、些細な願いを共有した、かつて仲間だったもの。

 そしてその骸が、彼の身体に覆い被さる。


「そんなっ…。」

「うそだろ…。」

「ハインツさん…!」


 サエも、ミルズも、ロバーツも、目の前の惨状にただ絶句するのみだった。

 

「これで2人…あとはあんた達4人ね。大丈夫よ、すぐに楽にしてあげるから♡」



「屋敷をデネボラ達に任せる…?」

「あぁ。彼らなら立派に作戦を遂行してくれるだろうよ。」


 屋敷の作戦室になっていた応接間で、シルフィアと十二聖団の3人が作戦会議をしていた。

 アルデバランはそこで、自らの耳を疑うような提案をするシルフィアに対して、怪訝そうな表情を浮かべる。


「私は賛成。おおかたその続きは、前に言ってた魔王様たちの救出か、屋敷までの道中に現れる王国兵を、薙ぎ倒しに行くってところでしょうね。」

「わ、私は…この屋敷に残っていたいです…。デネボラさん達と一緒に、この屋敷を守りたいです…。」


 ただ、スピカとハマルの意見は行くか残るかで分かれた。

 問題はアルデバランだったのだが…。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!デネボラも一緒に王宮に向かうんじゃなかったのか!」


 アルデバランはシルフィアが言い出したら予想外の提案に、しどろもどろするばかりだった。


「最初はそう思ってたんだがな、この屋敷に捕らえておいた王国兵達に逃げられても困る。だったら誰かを置いていく方がいいと思ってな。」

「ちっ…そういうことなら分かった、じゃあ俺もハマルと一緒にここに残る。」

「さて…そろそろ決まった頃かな?」


 別室に居た銀髪のデネボラが、静かに部屋へ入ってくる。

 その表情は立ちくたびれた人のそれだった。


「あぁ、決まったよ。私とスピカが王宮に行く、貴方はアルデバランとハマルの2人と行動してもらう。」

「ありがたいね、十二聖団のお2人が一緒に行動してくれるなんて。」


 デネボラは嬉しそうな、ただどこか少しだけ残念そうな表情を浮かべながら、シルフィアの言う分け方を聞き入れる。

 おそらくデネボラは、昔馴染みであるスピカと共に行動したかったのだろうが、当人はあくまでも任務の方に思考のリソースを割いているからか、デネボラと一緒に任務に臨むことすら考えていなかった。

 ――それか、デネボラのくすんだ灰色の瞳に対する忌避感からか。


「それじゃ決まりだな。スピカ、あまり時間がない。とりあえず作戦はここを出てから話す。」

「分かりました。3人とも、どうかご無事で。」


 スピカは丁寧に頭を下げて、シルフィアの後ろにくっつくように部屋を去る。

 部屋に残されたのは、デネボラとハマル、そしてアルデバラン。


「さて…これで我々の仕事は、ただひたすら王宮兵たちを待つ事になった訳ですが…。」


 デネボラが一息つこうと席についたとき、ハマルはすぐに部屋を出ようとする。


「おや…どうかしましたか、ハマルさん。」

「す、少し捕らえた王国兵の様子を見に行ってきます…。」


 ハマルは慌てて部屋を飛び出してしまう。

 ハマルは走りながら地下牢へ向かううちに、自らの表情がだんだん強張っていくのが分かった。

 彼に何かをされたわけじゃない、そもそも初めて会った人間だ。

 ただ、彼の話を聞いているうちに、彼のくすんだ灰色の瞳を見ているうちに、内なる自分が彼に対して警鐘を鳴らす。

――あの人、怖い。あの人、何か嫌。

 そんな彼女の背後から、足音が、男の声が聞こえる。

 地下牢に向かった時点で、ハマルの運命は決まっていたも同然だった。


「…またおもちゃ遊びですか?」



「あの子を先鋒として行かせてよかったのかしら…。」

「大丈夫です、私の弾き出した計算と作戦に間違いはありませんから。」


 カストルの姉であるポルックスは、フジの導き出した”カストルを先に行かせる”という選択に対して不安を抱いていた。

 だがその隣で、ラサルハはフジと同様その作戦に対して自信を持っていた。


「平気よポルちゃん!心配しなくても、カストルちゃんなら上手くやってくれるはずよ!」


 カストルは武術で、己の強さで”十二聖団”というポジションを勝ち取った、いわば歴戦の戦士である。

 そんな彼女ならば、こんな所で容易く負けるわけが無いというのが、フジとラサルハの共通認識だった。

 それに、ラサルハはその認識とは別の情報も持っていた。

 ――いくらエリート揃いの”王宮兵”だからとは言え、所詮は勇者パーティが居たせいで出番のなかった連中。そんな人達に、”あの子”が導く十二聖団の一員が、そう簡単に負けるもんですか。

 ポルックスは2人の意見を聴くと、まあそれなら…と渋々納得しようとする表情を浮かべた。


「改めて整理ですけど…ズベンとアルゲディが湖に残りましたよね。そしてカストルが列車を襲って撹乱している間に、私達は例の”内偵者”と合流する算段、って事ですよね?」

「えぇ、その予定よ。ただ私も気になってる事があって。その人と前に話した時の事なんだけどね、合流する時に誰かしらの”協力者”を連れて行くって言ってたのよ…。」


 ラサルハは自分の知らないうちに、”協力者”を作っているという事実に驚かされた。

 王宮兵というエリート達の集団に紛れ込めるだけに、そのスキルは確かに本物だったのだろうが、よもやそこまでだったとは。

 ラサルハにとって、いい意味での誤算であった。


「まあ、味方が1人でも2人でも多い方が良いに決まってるからね。どんな人を引き込んだのか楽しみね。」


 ラサルハたち一行は、ようやくカストルが先に向かっていた列車にたどり着く。

 そこには、目を疑うような光景が広がっていた。


「クソっ…王宮兵がこんなに強いなんて…聞いてないんですけど…!?」


 そこに居たのは、ボロボロになったカストルと、なんとか肩で息をしているロバーツとミルズの2人だった。

 サエやユウダイはカストルにやられたのだろうか、座席部分にもたれかかるようにして倒れていた。


「はん…エリート様舐めんな…!」

「我々は…厳しい訓練も難しい試験も乗り越えたんです…貴方のその攻撃程度、防げなかったら怒られちゃいますよ…!」


 こうして強がりを言っている2人も、決して無事ではない。

 しかし彼らをこの戦いの場に立たせているのは、自らが王宮兵であるという”プライド”だった。


「ふざけんな…このまま舐められてたまるか…!」


 カストルが結っていた髪の毛を解く。

 そして、彼女が身体に力を少し加えたその瞬間、空気が逆立ったように感じた。

 足元から全身を照らす白い光は、神秘的な何かを帯びていた。


「こうなったら仕方ないわね…あんたら2人を、私が全身全霊で叩きのめしてやる!」

「カストル!その力使っちゃダメって言ったでしょ!」

「全く…あのおバカ!」


 ポルックスとラサルハが必死になって、カストルを止めようとする。

 しかし彼女から放たれる”力”が、味方であるはずの2人さえも寄せつけなかった。


「いいわ…あんたらに見せてあげる。これが、あなた達の忌み嫌う、”魔力”って奴よ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ