表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

目指す世界は、望む世界は

 それはさながら、地獄のような光景だった。

 魔王が、四天王が、十二聖団が、王国兵や王宮兵をなぎ倒していく。

 そこら中に倒れていった者たちが重なっていき、通りは骸の山と化していた。


「なんという…」


 サブロウはただ、嘆きの言葉しか出てこない。

 戦闘をしている方向に目線を向けると、なんとか指揮を執っていたタリスカー大将がそこにいた。

 彼が前進の為に出す合図の手が震えているのが、何よりも恐怖を物語ってた。


「サブロウさん…これは…」

「ロバーツくん…もはや、隠す必要も無い。ここを勝てなければ、我々に未来は無い!」


 サブロウの足元から、白い光が放たれる。

 そしてちょうど合流したロバーツの足元からも、白い光が現れる。

 この王宮で、皆が居る場面で、とうとう”魔力を使う”時が来たのだ。


「行くぞ…ロバーツ!」

「はい、サブロウさん!」


 サブロウ達は魔力を使いながら、魔王軍一行が居る方向に進み始める。

 そして角を曲がった先で出くわしたのは、かの十二聖団の総長スピカと、王宮に反旗を翻したサエだった。


「…サエさん!」

「ロバーツ…」


 ロバーツはサエと念願の再会を果たす。

 しかし一方のサエは、その再会を決して望んでいなかった。


「サエさん、何をしているんですか?」

「何って…私は忠誠を誓った方(魔王様)の為に戦っているの、あなたは邪魔をしないで。」


 サエの目つきは、あまりにも冷酷そのものだった。

 もはやあの頃と同じような、部下を想い、共に戦った少佐であるサエは、もうそこには居なかった。

 それを悟ったサブロウが、ロバーツの前に出る。


「サエくん…さては君の信念を魔王に捧ぐ事にした、そうだね?」

「はい。私が忠誠を誓うのは、ブラニカ様ただおひとりです。」

「…そんな。」


 サブロウは険しい表情を崩さず、ロバーツは絶望に打ちひしがれる。

 あの日、サエを手伝うと手を取り合ったあの日は?

 あの時見せた、あの笑顔は?

 ロバーツの目から、涙が滲んでいた。


「立派な信念を掲げ、そしてその方へ忠誠を誓う事、それ自体はいい事でしょう。ですが、貴方がそれを魔王に捧ぐと言うならば、私は今ここで、貴方を打ち倒さなければならない。」


 サブロウが剣をサエに向ける。

 そこに居たのは、サブロウという一軍人でもあり、人生における大きな先輩でもあった。


「御託はいいわ、サブロウ・ヤマザキ大佐。貴方を私が、この手で葬ってみせる。」


 サエも腰の剣を抜き、サブロウに対峙する。

 かつて王宮兵として、共に戦った仲間が、今は剣を交えて戦っている。

 そう、それこそが戦争なのだ。


「…あんたを、殺す。」

「かかってきなさい、返り討ちにしてあげましょう。」


 2人は間合いを詰めて、とうとう剣が交わる。

 かつて同じ志を持っていた2人は、言葉の代わりに剣で語り合うのだった。

 ロバーツはその光景を、ただひたすら見つめることしか出来なかった。


「サエさん…どうして…」


 そのどうしてに答えてくれる者は、この空間にはいない。

 居るのはただ1人、自らの命を狙ってくる“総長”だけだった。


「よそ見をしている、場合かしら!」

「うおっ…何だこの攻撃…!」


 その一太刀は、あまりにも洗練されていた。

 ロバーツが今まで相手にしてきた王宮兵の先輩達なんて、比にならないレベルの強さを感じ取れた。


「私は魔王軍十二聖団、スピカ。あなたは?」

「…王宮兵少尉、ロバーツ・ハワード。」


 その名前を聴いた時、スピカは何かを噛み締めるような表情を浮かべる。


「ロバーツ…ね。あなたの事は覚えたわ。私と戦った貴方の事、忘れないであげる。」

「ど、どういうことなんだ…」


 ロバーツが困惑しながらスピカの表情を見つめる。

 その顔には、自らが総長であるという覚悟が滲み出ていた。


「簡単な話よ。私は今この手で、この剣で、貴方を倒す。だからせめて、これから死にゆく貴方の名前だけは、忘れないでおきたいのよ。それが、魔王軍の一員として命を刈り取って行く者の、せめてもの礼儀。」


 スピカのその表情は、決して相手を下に見るわけでもなく、嘲笑うような表情でもない。

 敵に対する敬意と礼節を持って、確実に相手を打ちとらんとする、まさしく戦士の顔つきそのものだった。

 そのスピカの話を聴いたロバーツは、すぐに腰の剣を抜いた。

 そして、自らの内に秘めていた魔力を解き放つように、足元から強い光を放つ。


「…そうかい、覚えてくれるなんて光栄だな。でもな、俺はここでは決して倒れるわけにはいかないんだよ。ここは王宮、我が本丸、最後に立っているのは、この俺だ!」

「剣を持つと人格が変わるタイプか…。ふっ…その気概、受けて立とう!」


 スピカが手元の剣を握り直す。

 その剣は、遠い黄金の国で使われているとされる名剣、“日ノ本剣”と呼ばれる物だった。

 陽の光が反射して、彼女の刀身が妖しく光る。

 その光こそが、彼女が魅せられたこの剣の、内に秘められた力だった。


「はあああああ!!!」


 スピカが気迫を込めて突進していく。

 それに対してロバーツは、剣を構えて守ろうとする。


「一撃で決める…【ナデシコノ一閃】!」


 スピカはロバーツの胸元めがけて、剣を下から上に振り上げる。

 ロバーツはその一太刀を防ぎきれずにその身で受けると、静かにその場に膝をつく。


「うぐっ…!」

「どうかしら、これが私の実力よ。」


 スピカは誇らしげに、自らの力を見せつけてくる。

 これが十二聖団、これが魔王軍。

 しかし、ロバーツはここで負ける訳には行かなかった。

 彼の目から闘志の炎は消えること無く、むしろ燃え滾っていた。


「さすがは…十二聖団だな…でも、俺だって負けちゃいないんだよ…!」

「へぇ、言うじゃない?」


 ロバーツはスピカを真っ直ぐに見つめる。

 スピカにも、彼の瞳の炎が伝わったようだった。

 そしてロバーツは、ふと頭に浮かんだ技を繰り出そうと構える。


「ロバーツくん…君いつの間にかそんな力を…!?」

「戦ってるのによそ見だなんて…そんな余裕あるのかしら!」


 サブロウが少しロバーツの戦いに目を向けた瞬間、サエが彼に向かって斬りかかってくる。

 向こうの2人も、油断の出来ない戦いが続いていた。


「サブロウさん…俺、魔力を得られたあの時に、頭に技が浮かんだんです。だからその技、試しにここで使ってみます!」


 ロバーツは剣を大きく振りかぶると、スピカの居る方向に斬りかかる。

 しかしそれは、彼女の身体を斬るのではなかった。


「これが俺の技…【純剣・疾風斬り】!」


 ロバーツの一太刀は、空気を斬ったのだ。

 そしてその衝撃波が、スピカの身体に襲いかかる。

 魔力によって一太刀の速度が早くなったからこそ出来た技、ロバーツはすでに”魔力”を自らの物にしていると言っても、過言ではなかった。

 スピカはその衝撃波を、受け止めるので精一杯だった。


「ちっ…!何よこの攻撃、どこからそんな衝撃を出せるのよ…!」


 スピカは内心、ロバーツの一撃を受け止めた事によって、その強さをまざまざと思い知らされていた。

 

 ――カストルから少し聴いたけれど、ついこの間魔力を手に入れたような者が一振りしただけで、こんな勢いの衝撃波を起こせるわけが無い。

 ――いくら彼が相当な魔力を持っているとしたって、ここまで一太刀の速度を早めて衝撃波を出せるだなんて…聴いたこともない!


「お互い…一撃ずつしっかりと食らって…結構ヤバそうって所だよな?」

「そんなわけない…私は魔王軍十二聖団の総長、付け焼き刃な貴方の攻撃程度で、そう簡単に降参するわけにはいかないのよ!」


 スピカは決して引かない、そして屈しない。

 彼女が仮に限界に近づいていたとしても、そう容易く引いては十二聖団の名折れというもの。

 今の彼女を立たせていたのは、十二聖団の総長であるというプライドだった。


 

 一方その頃、王宮を裏切ったサエと、王宮に仕え続けてきたサブロウの戦いも大詰めを迎えていた。


「どうしても貴女は、魔王軍に行くというのですか!あの頃貴女が持っていた誇りは、一体どこに消えたのですか!」

「そんなもの…遠い昔に置いてきた。私にとって今の誇りは、魔王様と共に歩んでいく事よ!」


 サエの一撃が、サブロウの体勢を崩す。

 そうして出来たほんの僅かな隙に、サエは最後の一撃を食らわせようとする。

 ――裏切りによって手に入れた白い光が、彼女の足元を照らしていく。


「これで終わりよ…サブロウ!」


 サエが思いっきり地面を蹴り上げて、サブロウに向かって突進していく。

 それはかつて訓練で見た時のような、動きのそれではなかった。


「なんだ…この動き方…!」

「技とかはよく分からない。だけど、貴方を倒すための動きだというのは分かる!」


 サエはサブロウの上半身目掛けて、渾身の一撃を叩き込む。

 サブロウはその一撃を、避けきれずに右肩を切りつけられてしまう。


「しまっ…!」

「これで…あんたも終わりよ!」


 サエは突進した勢いを殺さないように、片足を軸にしてターンを決める。

 そしてもう一度地面を蹴りあげると、サブロウの胴当てに強烈な一撃を食らわせた。

 サエの一撃は、サブロウへ確実に大ダメージを与えた。


「がはぁ…!」

「ふん…大佐も所詮はこんなもんか。」


 サブロウは攻撃を受けた衝撃で瓦礫に叩きつけられる。

 その口元からは、赤い血がとめどなく垂れていた。



「スピカ…お前が十二聖団の総長だかなんだか知らねぇが…俺はお前を、倒さなきゃいけねぇんだよ…!」

「奇遇ね…それは私も同じなの…私たちのために、ここでやられてちょうだい…!」


 2人は肩で息をしながら、互いに視線を交わし合う。

 今にも膝から崩れ落ちそうなほど、ダメージの蓄積は限界に達している。

 スピカもロバーツも、次の一撃が勝負だった。

 互いをよく見て、些細な仕草に注目しつつ、互いに間合いを取る。

 勝負は、その一瞬で決した。


「たああああ!!!」

「おらああああ!!!」


 ガキィィィィィン!!!


 互いの剣がぶつかり合って、大きな金属音が響く。


「負けるか…!」

「やるわね…でもっ…!」


 スピカはロバーツの剣を押し返す。

 その時だった、ロバーツの剣は真ん中から真っ二つに折れてしまう。


「何っ…!?」

「勝負あった、わね?」


 スピカがロバーツの喉元に、日ノ本剣の先を突きつける。

 それは誰の目から見ても、”ロバーツの敗北”を意味していた。

 スピカはそのまま剣先を近づけながら、ロバーツに問う。


「ロバーツ…あなたの負けよ。それじゃ、あなたが死ぬ前に教えてちょうだい。あなたが目指した、世界は?」

「…目指した世界?みんなが分け隔てなく、生きていけるような世界…ってところか…?」


 その時、スピカの手から剣が滑り落ちる。

 同じようなセリフを、かつて愛する者から聴いたことがあったからだ。


『貴方の望む世界は?』

『…みんなが仲良く、平和に暮らす世界。』


 スピカは溢れ出そうになる感情を押さえつけながら、ロバーツを精一杯の言葉でなじる。

 ――あの日々を、あの日の事を、あの人の事を、かき消そうとする為に。


「バカね…そんな世界…作れるわけがない。」

「じゃあスピカ。あんたは1度でも、そんな世界が作れるかどうか、試したことあるのかよ?」

「…へ?」


 ロバーツの唐突な返しに、スピカは戸惑うことしか出来なかった。


「試したことないんだろ?そんな奴が、人様の夢に口出しする権利はねぇんだよ。やってみなきゃ、叶うか叶わないかなんて、分からない。だからとにかく、その夢に向き合う必要があるんだよ。」


 スピカの瞳に映っていたのは、紛れもなくロバーツのはずだった。

 しかしその姿に重なり合うかのように、もう1人の存在が顔を覗かせる。

 それは、かつて愛した男(アークトゥルス)だった。


「…うるさい、うるさいうるさいうるさい!あんたなんか…あんたなんか…!」


 スピカがロバーツに殴りかかろうとしたその時、後ろから両肩を抑えるようにして止める男がいた。


「落ち着けよスピカ!今魔王様の命令があった、もうここから撤収するぞ!」

「離せ!こいつは…こいつは!アーくんと同じことを!お前ごときが、そんなことを口にするな!!」


 無理やり割って入ってきたのは、捕まっていた十二聖団の1人であり、初めて十二聖団の一員になってくれたレグルスだった。

 レグルスは無理やりスピカの事を押さえつけると、魔王軍全員が待つ城門へと向かっていく。

 その間もずっと、スピカはロバーツに対する怒りを口にし続けていた。

 スピカにとって、アークトゥルスこそ特別な存在であり、決して彼と同じ思想があってならなかった。

 ――彼と同じその思想は、強く叶うことを望んだ彼がこの世に居ないのに、叶えられてはならないから。


 押さえつけられながら去っていくスピカたちと同じ方向に、サエも立ち去ろうとする。

 ロバーツは満身創痍の身体をなんとか動かしながら、その前に立ち塞がる。


「待ってくださいサエさん…!あなたは…あなたはこの王宮兵の一員じゃなかったんですか…!?」

「…そうね。私も貴方たちと同じ、王宮兵の一員だったわね。」


 その言葉にロバーツが安堵したのもつかの間、サエの表情は、狂気そのものに満ち溢れていった。


「あぁ…なんて忌々しい…今すぐにでもそんな過去、永遠に消してしまいたい…私はブラニカ様に、この身を捧げる為に産まれてきたはずなのに…あぁ…この制服も…なんと穢らわしい…」


 サエの足元から、白く強い光が全身を包み込む。

 そしてその光が落ち着いた時、サエは王宮兵の制服ではなくなっていた。

 代わりに身にまとっていたのは、漆黒のドレスと、黒いハイヒール。

 あしらわれた装飾の随所には、黒い薔薇が咲き誇っていた。


「うふふふ…これよ、この姿よ!これこそ、真の私の姿よ!国の為に戦う?魔王様を倒す?そんなのはもうごめんよ!私はサエ、ブラニカ様に全てを捧ぐ女!私こそ、ブラニカ様のお隣に相応しい存在になるのよ!!あっはははは!!!」


 魔王に対する永遠の愛を、自らの強さに対する誇りを、変わり身を遂げた自らの運命を、その新しい衣装は示していた。

 ――それと同時に示していたのは、王宮に対する、激しい憎悪でもあった。

 サエは高笑いを続けながら王宮を去った。

 ロバーツに残されていたのは、虚しさただ1つ。

 いくら彼女に問いかけようとも、彼女は戻ってこないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ